<概論−1.日本語史>

(1)時代区分と概要

 

区分

トピック

音韻、文法

文字

600

奈良

上代

 

和語中心、呉音流入

母音数8、上代特殊仮名遣い

母音調和、頭音法則

ク語法、ミ語法

漢語、和語、古代サンスクリット

漢文、万葉仮名、宣命体(変体漢文)

794

平安

中古

音韻に劇的な変化

母音数5

ハ行転呼音、係り結び

音便、外来語(中国)

()漢文、変体漢文

()ひらがな ()カタカナ

和漢混種語、漢文訓読文(訓点)資料

1192

鎌倉

(南北朝)

室町

中世

文法に劇的な変化

近代語の始まり

唐音、ポルトガル語流入

連濁、連声の増加

四つ仮名の混同

開合の別あり

接続詞、格助詞増加

終止連体形合一化

漢字一般化(辞書の普及)

和漢混淆文、和成漢語の増加

女房詞、定家仮名遣い

1603

江戸

近世

対立の時代

呉音→漢音

オランダ語流入

四つ仮名の統合

開合の別なくなる

合拗音の直音化

動詞一・四段化、五段化

国字、俗字の多用

当て字の増加

国学の発展(契沖:国学の祖)

1867

明治

近代

 

新造(和製)漢語、英語流入

 

1939

昭和

現代

2次大戦

 

外来(カタカナ)語の増えすぎ規制

(2)重要語説明、関連

上代

上代特殊仮名遣い

[i][e][o]に甲と乙の2種類あった(石塚竜磨「仮名遣い奥山路」橋本進吉)

 

母音調和

オ段乙類音は同一結合単位内でオ段甲類音・ア・ウ段音と共存しない

 

頭音法則

ラ行音、濁音、母音だけの音節は語頭に立たない

(回避策:母音脱落、母音融合)

 

万葉仮名

漢字の音だけを借用して日本語の音節表記に用いた、基本的に一字一音節

記紀歌謡などに使用「万葉集」

 

宣命体(変体漢文)

漢字文に助詞・助動詞・活用語尾などを小さく万葉仮名で書き記したもの

宣命や祝詞などに使用

 

変体漢文

漢文体に非漢文体的要素の混ざった文体(「和化漢文」「記録体」「東鑑体」)

 

唇音退化

現在の「ハ」が上代には「パ」だっただろうと考える

上田万年「P音考」、柳田国男「方言周圏論「蝸牛考」」

 

ク語法

動詞を体言として扱う方法(散らく(散ること)を見る)

 

ミ語法

形容詞の語幹にミが接続して理由や根拠を表す(瀬をはやみ(早いので))

 

 

 

中古

ハ行転呼音

語中語尾のハ行がすべてワ行に変わった

 

漢文訓読文資料

(訓点資料)

「白氏文集」「法華経」「今昔物語」

※資料価値高い:原本が残っている、声点(アクセント)、濁点が付いている

 

「あめつちの詞」

(上代?)48文字:「え」(e,je,we)3種類の区別あり

 

「口遊」

(970)47文字:「え」(je,we)2種類

 

「いろはうた」

(1100) 47文字:「え」の区別2種類

 

音便

ウ音便(早く→早う)、イ音便(泣きて→泣いて、月立→一日)

促音便(持ちて→持って、男人(ohito)→夫)、撥音便(読みて→読んで)

 

係り結び

助動詞「ぞ・なむ・や・か」→連体形終止、「こそ」→已然形終止

 

 

 

中世

和漢混淆文

和文体と漢文訓読体の語彙や特徴を混淆させた文章「平家物語」「太平記」

 

和成漢語

和語を漢語にする作業

 

四つ仮名

[zi][dzi][zu][dzu]の違い

 

連濁

複合語の後部要素一拍目の清音が濁音に変化する同化現象

 

連声

撥音、促音に続くア・ヤ・ワ行音がマ・ナ・タ行音に変化する

(三位さんみ、陰陽師おんみょうじ、観音かんのん)

 

開合の別

オ段長音に開音[au]と合音[ou]の違いがあった(キリシタン資料から)

 

キリシタン資料

(ロドリゲス)

室町時代、音声的に資料価値が高い「日葡辞書」「天草版平家物語」「日本大文典」

(ポルトガル式)ローマ字で書かれている、方言差について表記がある

 

定家仮名遣い

藤原定家「下官集」歌を正しく詠むために、表記と音声のズレによる仮名遣いの間違いを正す規則を記す

 

終止連体形合一化

連体形の用法が拡大して終止形を侵食した現象

<係り結び>による<連体止め>が現れ、終止形は消滅

 

辞書の普及

「倭名類聚鈔」(中古)「色葉字類抄」「節用集」「下学集」

「新撰字鏡」(平安)「類聚名義抄」「聚分韻略」

 

 

 

近世

四つ仮名統合

「硯縮涼鼓集」

 

合拗音の直音化

観音:クヮンノン→カンノン

 

 

 

(3)動詞の活用

中古(Max9)

四段、ラ変、ナ変、カ変、サ変、上一、上ニ、下一、下ニ

現在(4)

一段、五段、カ変、サ変

 

読む

見る

落つ

蹴る

告ぐ

死ぬ

あり

奈良

四段

上一

上ニ

 

下ニ

カ変

サ変

ナ変

ラ変

平安

下一

鎌倉

室町

江戸

上一

四段

下一

四段

四段

明治

五段

五段

五段

五段

(4)国学者

↓近世

江戸

著書

 

 

契沖

和字正濫鈔

(真言宗の僧侶、妙法寺住職)

<万葉集を研究、国学の祖>

定家仮名遣いは恣意的→歴史的仮名遣い

1771ゴロ

本居宣長

古事記伝、源氏物語玉小櫛、玉勝間、てにをは紐鏡、詞の玉緒

(文法研究家・思想家)

<係り結びの研究、活用という概念を始める>

ただし止まりの研究に限られ、春庭に続く

1778ゴロ

冨士谷成章

脚結抄挿頭抄

(上方の文法家・漢学者)

<漢語学の品詞分類を下敷きに品詞を分類>

(名詞)

装−事(動詞)−事(「あり」以外)、孔(ありな)(ラ変「あり」)

−状(さま)(形容詞)

 −在状(ありさま)(形容動詞)

 −芝状(しざま)(形容詞ク活用)

 −舗状(しきざま)(形容詞シク活用)

言葉を助く−挿頭(副詞)、脚結(助詞・助動詞)

※「事」(動詞)に欠けている:下一段活用(ける)とナ行変格活用(死ぬ)

1803ゴロ

鈴木あきら

言語四種論、活語断続譜

 (儒教者・文法家、春庭の弟子)

<音韻的観点から語を分類>

言葉−テニヲハ

−詞−体

−用−作用(しわざ :uで終わる)

−形状(ありかた:iで終わる)

1808ゴロ

本居春庭

詞通路、詞やちまた

(文法家、宣長の息子)

<活用理論を完成、動詞の活用表作成(五十音図)、自動詞/他動詞の区別発見、やちまた学派の形成→東大>

1829ゴロ

富樫広陰

辞玉襷(テニヲハたまだすき)、詞玉橋

(春庭の弟子・文法家)

<活用研究を完成、助動詞活用表作成、ラ行変格活用>

1843ゴロ

東条義門

山口栞、活語指南

男信(なましな)

(僧・文法家・音韻論研究家)

<活用の研究、名称命名(未然、連用、終止、連体)、音韻の研究>

1798ゴロ

石塚竜磨

仮名遣い奥山路

<上代特殊仮名遣い文献学により検証>

1829ゴロ

奥村栄実

古言衣延弁(えーべん)

<ア行の「え」とヤ行の「え」の違い>

↓近代

明治

 

 

 

山田孝雄

日本文法学概論

統覚作用、陳述、述体句/喚体句、文章論

<形態より意味を重視、「は」「が」区別分析、係り結び、文法論に対して文章論、談話文法>

 

松下大三郎

改選標準日本文法

<題目語、受身を二種類に分類、修飾と補充>

利害の波動:補充成分

単純の波動:修飾語

 

橋本進吉

 

<意味より形重視の文法研究「文節文法」、上代特殊仮名遣い再発見・甲乙命名>

 

時枝誠記

 

<言語過程説、入れ子構造(詞と辞、陳述)で文法体型を構築>

 

 

 

 

 

大槻文彦

言海,大言海,広日本文典

 

 

有坂秀世

 

母音調和

 

上田万年

国語のため、P音考

ハ行子音「パ→ファ→ハ」唇音退化

 

柳田国男

蝸牛考

方言周圏論

 

三上章

象は鼻が長い

 

(5)言語変化の要因

労力の軽減

書記労力:漢字→ひらがな・カタカナ、旧字体→新字体

発音労力:唇音退化、同化(ハ行転呼音、連濁、有声化、無声化)→体系調整

機能効率の低下

ある音節が担う、意味を区別する重要さの度合い

(上代特殊仮名遣い、四つ仮名)

類推

優勢(使用頻度が高い・種類が多い)語形にそうでない語形を似せて変化させる

(動詞の一・四段化、外来語の丁寧語化、ら抜き言葉)

明晰化

(係助詞→格助詞、助動詞の複合表現化「〜らむ」→「〜ているだろうか」)

再命名

語彙の体系調整、すでに存在するものに対する新しいものが登場したとき、それらを区別するために新しい名前を付ける(和式・洋式、普通・急行・特急)

表現効果の低下

使用頻度が高くなると、別の新鮮な表現を求めるようになる

(人称代名詞の変化(貴様、御前)、はばかりの効果(便所→お手洗い→化粧室))

(6)語彙の意味変化(関連:言語学:比喩)

拡大

形が類似している物への使用拡大(徳利→徳利のセーター)

一般化

限定がなくなり意味する範囲が広くなる

(瀬戸物:×瀬戸で作った焼き物、奥様:×武家の嫁、挨拶:×禅問答)

抽象化

具体的な意味からその特徴に焦点化したり、派生する意味として用いる

(花→職場の花、山→今夜が山だ)

縮小

表す意味が減少する(小僧:少年僧、使い走りのでっち、ひざこぞう→小さい男の子)

  特殊化

広い意味だったものが、ある一つのことだけを指すようになる

(太閤:関白の位を子に譲った人のこと→豊臣秀吉、黄門→水戸光圀)

※外来語は基本的に特殊化する傾向にある

(アベック:〜とともに、〜に対して→若い男女の二人連れ)

(7)造語法(言語学P.12)

複合語

内容形態素が二つ以上組み合わさった構造

異形態(音韻変化)多し、アクセント変化、後部要素の品詞になる

派生語

内容形態素に接辞が付いた構造

ゼロ派生

接辞が付かないのに転生(品詞が変わる)するもの

複合語の短縮

A+B=Cがあってそれを短縮したもの(パソコン)

混交(コンタミネーション)

二つの語のすりあわせ(ゴジラ、ダスキン)

頭文字語

NHK、安保理

逆形成

誤った語の形に解釈した後、発展したもの(トラブる)

異分析

(民間語源)

誤った語源を作り、そこから発展したもの(チーズバーガー)

逆さ言葉

(業界用語に多い)ポシャる、ダフ屋、すか、しょば代、デカ、ズージャ語

過少弁別

元は別の二語が外来語として入った後、同音語となる(race-lacebus-bath)

翻訳借用

福沢諭吉や西周らの漢語を用いた新語造語法「科学、哲学、主観」など

(8)語形変化

脱落

音節、子音、母音が脱落する現象

イ音便・ウ音便(平安時代)

ひんがし→ひがし()、拝むる→拝む

同化

隣接する音に引かれて変化する現象

母音の変化

連濁(室町時代)

連声

よもやも→よもやま(四方八方)

雨雲、酒屋

雨雲、平等、草花

反応

交替

互いに似た音の間で他方の音に変わる現象

けぶり→けむり()

転倒

音節等の位置が入れ替わる現象

あらたし→あたらし()

添加

新たな音節、子音等が添加される現象

きりさめ(霧雨)