独断場

東京下町の代名詞・浅草にそびえるビルである。周囲には背の高い建造物が少ないので一際目立つ。正面から眺めるとヒョロ長い、つまりプロポーションが良くないように見える。が、決して広くない敷地にある7階建てのビルであるから、やむを得ない。

仕方が無いのかなあ、と思いながらやはり残念なことは、外壁を現在の建材でコーティングしたことである。事情はよく判らない。自動車の排気ガス等々でひどく汚れたからか、百貨店のイメージチェンジという目的があったかもしれない。ただ、同時期に久野 節が設計した宇治山田駅や難波駅が竣工当時の姿を留めている事を思うと、オリジナルの姿を残すことで浅草のランドマークの一つにすることは出来なかっただろうか?と考えてしまう。だから、スパンが連続するアーチをホームから見たときは無性に嬉しかった。

せっかくだから、既に訪問した宇治山田駅とこの浅草駅を、駅舎として比較しようと思う。

構造上、両者に共通する点は、滑らかで単純化された動線にある。宇治山田駅はきっぷ売場のある天井の吹き抜けた広い1階コンコースから2階改札口を経て3階のホームまでほぼ一直線になっている。浅草駅とは改札口とホームが同じレベル―2階―にある点が異なるが、きっぷ売場からホームまで一直線に進める点は同じである。しかも注意すべきはその直線の動線が出発点から見通せることだ。これは特に慣れない利用者にとっては道に迷うことがなく動きやすい。沿線や駅の周囲に有名観光地を控えている宇治山田駅や浅草駅にはとても大切な要素だろう。おそらく久野 節はそれを計算して設計したに違いない、と思う。

一方、内部デザインは実用性に徹した浅草駅に対して、宇治山田駅のコンコースは重厚な列柱や開口部ドア、天井の灯りなどホスピタリティが感じられる。それぞれ地理的特性や役割が異なるので優劣をつけられないが。

外部デザインの相違点にも触れたいけれど、浅草駅に残るオリジナル部分はわずかで比較の材料にはならない。ただ、そのオリジナル部分に見られる窓の並べ方や設置の仕方は宇治山田駅のそれに良く似ているようだ。そんな部分に設計者のクセが出るのだろう。それにしれも・・・返す返す改装は残念!

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