独断場

出雲横田駅へ向かった頃はもう晩秋と呼び得る時候だった。
宍道駅から木次線はひたすらに上り坂を登り、あるときは木々をかき分けあるときは川に寄り添い進んでいく。紅葉は例える言葉もなく、壮観の一語のみ。長々と続いた登り坂が尽きたとき、列車は出雲横田駅に到着する。
駅舎としてはとてもよく出来た社寺建築だと思う(入り母屋屋根が立派過ぎて全体のプロポーションが若干崩れている気もするが)。しかし、何故この横田の町にこれほど立派な駅舎が出現したのか。
車寄に懸かる巨大な注連縄を見て出雲大社がモチーフなのかとも思ったが、よくよく考えれば地理的にも離れているし、出雲大社はこのような形はしていない。駅前を歩くと「たたらの郷」という看板が目に入った。宮崎駿アニメ「もののけ姫」に登場したあの「たたら」、即ち日本伝統的な製鉄技術とそれを維持・伝承する人々である。この地が直截的なモデルになったのではないようだが、かのアニメを観てこの横田を訪れた観光客もいた、と立ち寄った写真店のご主人から聞いた。 この横田町はヤマタノオロチ退治伝説の舞台であったといわれるところで、大変に古い歴史を持った町であった(ヤマタノオロチ退治伝説に於けるヤマタノオロチは、当時この地に根をおろしていた製鉄技術を持つ民族―まさに『たたら』であろう―の隠喩だとも言う)。また中世以降は荘園・戦国大名などを通して京の都との関わりが深く、従って由緒ある神社も多い。
『あるいはこの「たたら」と駅舎のデザインに関連性はあるのだろうか。』などと、当初アップロードしたときに記したが、「たたら」との関連はともかく、此れだけの社寺建築を模した風格ある駅舎が存在しても何ら不思議ではない町なのである。
木次線を走るキハ120系は装飾を簡略化した形状にアイボリー・イエロー・グリーンの“トリコロール”(?)をまとい、出雲横田駅とは全く対照的であるが、この駅にこのクルマが並ぶとミスマッチ的な面白さがあって、違和感を感じないのが不思議。


