独断場

 

タイルの剥落や汚れに時代が感じられるものの、デザインそのものは現代も違和感は無い。この駅が開設された当時はアール・デコ様式が流行の最先端の一つであり、これをデザインに取り入れた建築が巷に数多く登場したという。「地下鉄」という誰も見たことの無い最新の都市交通システムの存在を世間にアピールするためには駅(といっても出入口ではあるが)のデザインにアール・デコを採用したことはむしろ当然とさえいえる、と思う。

ところで、東京都内において第2本目の地下鉄が登場するのは第二次大戦後の営団・丸ノ内線(1954、昭和29年 池袋―御茶ノ水間開業)であり、以後網の目を張るようにして路線が開業していく。そしてそれら路線の駅を私なりに見ると、大部分がビルの一角を出入口として間借りしているか、または稲荷町駅の姿を鉄筋コンクリートに置き換えたような角柱と平屋根で組んだ出入口、そのいずれかである。

稲荷町駅のデザインが持つ影響力をそこに見ることが出来る。しかしどれも画一的で個性など微塵も無い。その理由がコストや建設期間を抑えるための駅の「標準化」の故であろうコトは容易に想像できるが、一方で地下鉄が人々の生活の一部に組み込まれもはやその存在を主張することが無意味になったから、とも解釈できそうである。

(私の知る限り)地下鉄の駅が再び主張をはじめるのは、都営地下鉄・大江戸線(例:飯田橋駅)の開業からである。それは高度成長期を経てバブル経済、更にその後の平成不況を通して人々が「生活」を問い直し始めた時期に符合すると思うのだが、偶然だろうか。

[稲荷町駅]    [Station List]