独断場

片瀬江ノ島駅は実現を見なかった「江之島電気鉄道」が開通するまで、とりあえず(という言葉が適当か否かはともかく)開業した仮駅舎だった、との話だが私は疑問を抱いている。
というのも、この駅は「仮駅舎」にしては相当チカラが入っているように思えるからだ。特に屋根の形はかなりのものだ。鴟尾はもちろん、破風の懸魚や屋根の躯体を垂木で構成するところなど「とりあえず」の仕事とは思えない。開業当時からこの姿だったとしたら実は「仮駅舎」のつもりは一切無かったか、当時の大工など職人さんは「仮駅舎」と言えど間に合わせのいい加減な仕事が大嫌い(今でもそうだと思うけど)か、どちらかだと思うのだ。

私は江ノ島と竜宮城の関係など聴いた事もないが、もし現代にこの駅が造られたなら「ディズニランダゼイション」([独断場・市川大門駅]参照)の一つに数えられたに違いない。それが建造後70年以上経ると見事に地域の顔になる。「時代」がつくことは骨董品にとっても駅にとっても大切なことである。もちろんそのためには駅舎自体の魅力が不可欠であるのは言うまでも無い。片瀬江ノ島駅の良いところは、横に長いプロポーションによって特徴ある屋根が必要以上に強調されずイヤミが無い点にあるように思う。


私個人として、一番気に入ったのは、ホーム通路のトラス梁の組みと柱である。私の故郷には三角形を冠に戴く独特な鳥居を構える神社があって、通路の屋根の下で佇むと初詣でその鳥居をくぐったことを思い出した。かと思えば4本の斜材を支える円柱の姿がレンゾ・ピアノ設計の関西新空港の柱とダブって見えた。このギャップが楽しい。