独断場

 

        

 

 

現在建築進行中。竣工したら改めて観て考えたい、と思うが北海道は遠い。外観はほぼ仕上がっているようだから、取り上げても良いな、と思った次第である。

両翼を従えた巨大なヴォリュームを持つ建物、高い塔、大時計。これらは特に19世紀から20世紀初頭にヨーロッパで見られた「ターミナル」の“必須アイテム”である。その意味できわめて「古典的な」プランといえるだろう。

第一印象。見上げるほど大きい駅舎であるのに、存在感が伝わらない。舞台セットの書き割り、背景画のようである。何故だろう、と疑問を抱きつつ見直すと、大丸工区・センター工区・東工区、それぞれ少しずつデザインが異なっている。

大丸工区は現在地平階からその数階上は見ることが出来ないが上方を見る限り、基壇部・中間部・頭頂部が明確にデザインが分かれている。古典主義に端を発する伝統的な「三層様式」を敷衍している。と見てよい。一方で角が丸みを帯びた「デパート」といえば ルイス=サリバン(*1)の「カーソン・ビリー・スコット百貨店」(1903年完成)を想い起こす。

センター工区はファサードがより平滑で、大きさの異なるいくつかの格子の組み合わせから装飾が成立している。その並び方が「三層様式」とは違った階層によるデザインの変化を生んでいる。具体的には上に向かうほど格子はが小さくなっていく。これはゴシック建築に由来していないか。公式ホームページにあるように「3代目札幌駅=ネオ・ルネッサンス様式」をイメージしたとは、私は見えない。正面を飾るひと際目立つガラス面は形こそ違え19世紀に建設された「ターミナル」建造物に良く見られた。

そして東工区であるが、これも三層に分かれた構造になっている。頭頂部へ向かうほど塊が小さくなっていく形態は高層建築黎明期に見られたものである。ここは壁面に付柱が走り、ネオ・ゴシック様式の趣きが感じられる。公式ホームページにある「斬新なデザイン」とは思えないが。

さらに、駅前広場を眺めると、ガラス・ドームは位置関係にズレはあるもののルーブル美術館のガラスのピラミッド(「グラン・プロジェ(*2)」の一環として1989年完成、因みにこのピラミッドも美術館の地下入口)を連想してしまう。ついでに言えばセンター工区の両端にありその高さの半分を占めるガラス部分はその周縁がトラスで囲まれている。その形はまさに「アーチ」である。「アーチ」といえば凱旋門、それも「新凱旋門=グラン・アルシュ(*3)」とよく似ている。

ここまでくれば見方がこじつけになっていると指摘されるとそれまでだが、この新駅舎は新古典主義やゴシック様式を基調にした19世紀から20世紀初期の建築をモチーフを主としながら、20世紀末のデザインまで取り込んだ近・現代建築スタイルの「ごった煮」に見えるのだ。

「ごった煮」は良いとして、わからないのは、何故、今、札幌でこの「ごった煮」を表現せねばならなかったのか。

19世紀「ターミナル」やサリバンのデパートはその当時にもっとも輝いていた産業であり、ルーブル美術館はまさに世界の「美の殿堂」という華麗と権威をもっている。

経済が低迷を極める今、札幌駅は発展のため、外観=外部に対してこれらのイメージが必要だったと考えられるかもしれない。

ここで私は冒頭の疑問に立ち返る。なぜ札幌駅は存在感が伝わらないのか。

理由が見えた、気がする。

様々な建築様式の引用は札幌駅に「イメージの集合体」を形成する。本来ならばこれが札幌駅の実体を補強するはずが、結果的にその実体を見えづらくしているのではないだろうか。

 

[札幌駅]     [Station List]


(*1)ルイス・サリバン:1856―1924 アメリカの建築家。「形態は機能に従う」という彼の言葉は近代建築の価値観を端的の表したものとして有名。

(*2)グラン・プロジェ:ミッテラン大統領(当時)が推進したパリ再開発計画       

(*3)グラン・アルシュ:グラン・プロジュによって生まれた新都心「ラ・デファンス」地区に建設されたビル。凱旋門正面から道路延長上に正対し立方体を中抜きしたような形状が「門」のようなので「新凱旋門」と呼ばれる