東北新幹線の新白河駅から宿のマイクロバスで1時間ほど走ると、秘湯・二岐温泉に着く。
5月に入ったとはいえ、山道脇のあちこちに雪の残骸が見られる。遠方には、雪を頂いた二岐山(1544m)が、どっしりと構えていた。
茅葺屋根で長い暖簾のかかった山門をくぐると、落ち着いた佇まいの玄関に出た。入り口脇には、苔むしたつくばいを覆うようにして、吾妻シャクナゲが植えてあった。大きな蕾は、ちょうど開こうとしているところだ。
部屋に通されると落ち着く間もなく、お目当ての露天風呂へ行く。キャッチフレーズ通り、渓流沿いには2つの露天風呂があった。
そそくさと体を洗い流してから、湯に浸かる。木立の間に、満開の山桜がちらほらと見える。リズミカルなせせらぎの音が快い。石組みのすぐ下の渓流に片足を入れると、身を切るような雪解け水が爪先から伝わってきた。
楽しみな夕食。イワナの串刺しを肴に、地酒「廣戸川」が喉を鳴らして通り抜けていく。イワナの骨酒が、これまた旨い。
東の空が白み始めるころ、独り露天風呂に浸かる。傍の外灯がぼんやりと、湯煙に見え隠れしている。
目覚めたばかりの鳥が、囀り始めた。せせらぎと合唱するかのような、律動的な響きだ。体は暖かいが、頭はひんやりとした冷気に包まれている。
辺りの木立が、影絵のように立ちはだかっている。その間に、ぼんやりとした白い影が点在しているのは、桜花である。
立ち昇る湯気にかすれながらも、付近の風景がしだいに形を表し始めた。
渓谷の白い岩肌。青々とした杉の木々。ミズナラやブナの枯木のような姿。芽吹き始めたばかりの木々の若葉は瑞々しい。
わたしはコンサート・ホールにいるかのように、鳥たちの囀りと渓流のせせらぎの合唱を聴きつつ、湯浴みを繰り返していた。