夜明けの洲崎灯台

宿にて

引き戸を開けると、いきなり冷えた空気が体に纏わりついてきた。
そそくさと体を流すと、身を強張らせながら湯の中にそっと身を沈める。冷えた体が、じわじわと温もってきた。
見上げる厳冬の空には、三日月と星がこうこうとしている。東雲の空は、白み始めようとしているところだ。
夜半から吹き始めた強風は、まだ収まらない。立ち込める湯気は、岩組みの間に流されていく。飛んできた木の葉が、そこここに浮いている。ほの暗い前方に見える、植え込みのフェニックス。その葉は大きくなびき、騒めいている。一瞬風が止むと、岩間から流れ落ちる湯のリズミカルな音が、響き渡ってくる。
岩風呂にいるのは、わたし独りだ。身も心も引き締まる。暁闇明けやらぬ露天風呂に浸かるのが、わたしは好きだ。
部屋に戻っての楽しみは、湯上りの「霜消し一杯」である。朝湯には、なくてはならぬ相棒だ。極楽、極楽ーーである。
冷えたビールのグラスを傾けつつ、大海原を眺める。手前が小さな入江になっており、左側には白亜の洲崎灯台が見える。はるか彼方の右側に霞んでいるのが、房総半島で、左側が三浦半島だ。大型船が、東京湾に吸い込まれるように、しだいに小さくなっていく。
強風に向かって十数羽のトンビが、翼を広げている。羽ばたくことなく上昇気流に乗って、風と戯れるかのように、楽しげに旋回している。