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良いにつけ、 悪いにつけ、アメリカという国は想像もつかぬ劇的アクシデントが次々と起る国です。17年前の青空にスウーと飛び出したらドカンと爆発して跡形もなく消えて行ったスペースシャトル・チャレンジャー、昨年の巨大なワ−ルド・トレード・センターの双子ビルが一瞬にして崩れ落ちグラウンド0と化したテロに続いて、この度は16日間の旅を終えて着陸16分前に数個の火の玉となって落下した同じくコロンビアなど、すべてこれらはドラマ中の一齣かと思わせる現実離れの映像が放映されています。
この度のコロンビアの惨事については、打ち上1週間前にケネディ宇宙センターをカリブ海クルーズ乗船前に慌しく立ち寄って、すでに発射台に屹立していたコロンビアをこの目で見てきただけに「ああ、あのシャトルが」と一際強烈ない印象を受けたものです。
最近、「脱北者」という言葉が流行っていますが、「脱英者」とでも言うべきピリグリムファザー達が信仰の自由を求めて苦難の末新大陸にプリムスに上陸したのが1620年、インデァンの食糧援助を得てようやく最初の一冬を越した後、その恩も忘れ、例の西部劇でお馴染みの開拓者魂とやらで片手にガン、片手にバンジョー、どんどんインデァンとバッファローを殺戮しつつ西海岸まで到達し、さらに駒を進めて海外に進出、ハワイやフイリッピンを占領したりしたものの、最早帝国主義、植民地主義は時代遅れとなり、行きつく先を探した結果が、2次元世界から3次元世界への進出です。それには幌馬車では流石に無理、金にあかせ科学の粋を集めて宇宙開発に乗り出したものの、相手はインディアンとは異なり、40ドルでマンハッタンを買うような騙しの効かない宇宙ですから、挙句の果てがこのような事故に辿り着いたと考えて良いでしょう。何処からきた哲学かは知りませんがまさにアメリカ人が使命と考える「膨張への天命」(manifest
destiny)の実行でしょう。
話が一寸横道に逸れますが、その昔、ガキの無知ゆえとはいえ、西部劇映画を観て、アメリカの騎兵隊がインデアンの大群に囲まれ、もはやこれまでという手に汗を握る場面で、援軍が到着、形勢逆転、馬に乗ったインデアンが情け容赦もなくばたばたと打ち倒される場面に拍手を送ったのは大間違い、兇悪無残な押し込み強盗の活躍に拍手を送っていたようなもので、それよりも馬がいなかった新大陸で、短期間の間にあれだけ立派に馬を乗りこなし、祖先伝来の土地を侵略者から守ろうと必死の努力をしたインデアンの勇気に、「滅び行く者の美しさ」にこそ一掬の涙を流すべきだったと今になって思い当たるのです。
また、アラブと西欧、と言うよりはイスラム教とキリスト教との世界最終戦争が今や勃発しようと言う時、キリスト教徒ではないものの新約、旧約の違いがあっても、同根のバイブルを持ち、いつもイスラエルに肩入れするアメリカがイスラエル人をコロンビアの乗組員に加えた神経は一体どのような了見なのか不思議なことです。前回のイラクとの戦争の時、アメリカを中心イラクの猛爆撃を加えた時、その報復にイラクがイスラエルにミサイルを飛ばせた事実を忘れたのでしょうか。まさに大国の驕りとしか言い様がありません。
しかし、散々アメリカの悪口を書いたものの、宇宙センター見学ツアーの組織だった要領の良さは流石にアメリカです。宇宙航空士の模型が屋根から斜めに体を前倒して下界を覗き込んでいる入口を入ると案内所からみやげ物屋、食堂までなんでも揃っているビジタース・コンプレックスが待受け、ここから見学バスが15分毎に発車する仕掛です。下車する見学ポイントではゆっくりと時間を取って過ごしたい人は次々と到着するどの後続バスを利用しても良いのです。基地の広大さとクリークや池に鰐が沢山見受けられたには驚きでした。最先端のシャトル産業と動物の中でも原始的な鰐の同居を許すこの国スケールの大きさを見ると、よくこんな国相手に戦争をおっぱじめたものだと、日本軍部の愚かさ加減に今更ながら驚くのです。
シャトルを組立てるための世界一大きな容積を持つビル、組立てられたシャトルを発射台に運ぶこれも世界一大きなキャタピラつきのクローラーなどを横目で見て、またあるブスストップでは発射時の映画や、コントロールセンター内部の状況を再現して現場の臨場感を味合わせる仕掛となっています。
ついで打ち上げ台39号発射展望台に昇り、既にコロンビア号が一週間後の出発に向けて着々と準備が整えられているであろうLC-39発射台を見学します。LC39発射台はAとBと2台あり交互に使用しているのだそうです。シャトルの機種によって発射台が異なるので、この基地内には使用済みの発射台がそのまま残されているそうです。展望台の階下にはコントロールセンターの模型が置かれ、最後にアポロ・サターンVセンターで月に到着したサターン号や、月面の石その他を見学して終わりという訳です。
現在までに月には既に4回も着陸していることや、今回事故のコロンビア号は1981年の製作でシャトル4機のうち一番旧く27回宇宙を飛んでいることをガイドの説明により初めて知りました。NASAの予算は次第に削られつつあり、新しくシャトルを造るには莫大な費用が掛かるので、外部燃料タンクは使い捨てですがシャトル自体は補強しては再利用しているとの話でした。今回のコロンビア号は1881年の製造ですでに27回使用されており、4機の同型シャトルの中で一番の大年増にあたります。大層圏に再突入する時には1600度以上、宇宙では-マイナス60度という極端な温度差を経験することに加え、発射時の衝撃などを加味するとアルミで出来た船体にかなりの負担がかかる筈で金属疲労などが起りはしないかと他人事ながら心配したことでしたが、今度の事故に影響があっのか否かは知りません。
この度に事故については現在のところ外部燃料タンクの断熱材が剥離して、左翼前縁の耐熱タイルを破損したための火災説が最も有力ですが、その他隕石もしくは宇宙に浮いて軌道を回っているこれまでの人工衛星その他が放置した宇宙ゴミとの衝突説などがあるようです。そのような物と大気圏突入以前に衝突したとすれば何らかの連絡がある筈で、NASAの責任逃れの口上くさい気もします。
このような事件が起ると「何様用あって月世界へ」「月は眺めるもの」という山本夏彦の考えもまた正論であると言わざるを得ません。人類が月に到着した瞬間、月の兎や豊穣の海は荒涼たる無機質と化したのです。しかし、動物界のなかで同種相食む残忍無残なホモサピエンスとしては珍らしく、アメリカのみならず天文学的数字の各国、各分野の科学者が宇宙船製造には知恵を結集して宇宙に挑んだことは、たとえ事故があろうとも新しいホモサピエンスの方向を示すものとして素晴らしいことには違いありません。
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