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22八丈富士鉢巻道路と牛
3日目。さすがに雨も昨日で降り飽きたのか、それともアメオトコの神通力が天まで届かなくなったのか、見事な快晴であった。レンタカーは今日も一日借りられる。帰りに乗るヒコーキはANK最終便17時30分八丈島空港発であるので、16時30分位までにはホテルに戻ってきて車を返却しなくてはならないが、それはまだまだ8時間後の話である。
狭い八丈島、地図を改めて見てみても昨日の一日ドライビングで大抵の場所には行ったように思われるが、いやいや、例の初日に空港を降り立った時に出迎えてくれた、あの八丈富士に登っていないではないか。さすがに頂上に行くには自分の足で行くしかないようだが、途中までは車でぐわっと行けてしまうらしい。非力な我が軽自動車にはちょっとキツいかもしれないが何とかその身体にむち打っていただき、車で行けるところまで登ってみる事に。
八丈富士は島内最高峰の標高854メートル。江戸時代に噴火したという記録が残っているが現在は活動していない。なだらかな裾野を描いて、富士の名に恥じない美しい景観を誇っている、八丈島を代表する立派な山である。
真に八丈島を知るなら、山頂まで登るべきである!…のだろうが、地図に書かれていた「山頂まで45分」という文字に思いっきり尻込みし、登頂準備度89%、といった感じであったの友人Kには悪いのだが、ここは車で活動できる範囲に限定して活動することに勝手に決めてしまった。すまぬ、友人K。
山の中腹部に、鉢巻道路と称されている、その名の通りの周回道路がある。ここをぐるっと回ってみる。新しめの綺麗な道路に、右には壮大な海原、左に優雅なる八丈富士。天候は快晴、風は軟風、窓を全開にして走っていると、非常に気持ちがよい。
そんな感じで走り続けていると、突然、牛が現れた。牧場があってその広大な敷地の中で牛が悠然と草を食(は)み、そしてその背景には美しく日光を反射する大海原を一隻の舟が通り過ぎていった昼過ぎの正しい牧歌的風景…、というのでは全くなく、道路に突然牛がいたのだ!道路の真ん中にどどーんといたわけではなくて車の通行には問題のない道端にたたずんでいたのではあるが、別に柵の向こう側とかでなくその間にあるのは牛にとっては認識しがたいであろう白線だけである。これにはさすがにびっくり。だってそのまま道路に出てきたら轢かれちゃうのだ。しばし車を停めて観察してみたが、その牛は何事もなかったかのように、かえってその場に止まって自分を見ている妖しい人間達をいかがわしげに観察しているかのようでもあった。

あの山頂に登るには片道45分の足腰が必要だった。

牛は一応白線の外側にいた。
23手書きで書かれていた展望台
牛と別れてからしばらく、今度は展望台に続く道を探して走ってみた。この道、車を借りる時にもらった地図に手書きで書かれていて、それからしても穴場っぽい雰囲気がある。これは是非行くべし、と思っていたのである。
そして一方通行の細い道を発見。どうやらそれがその「手書き道」のようだ。その登り道を我らが軽自動車が登っていくと果たして展望台があった。穴場、だと勝手に思っていたが既に先客が2組ほどいた。そしてここにも道に牛がいたのである。しかも今度は団体様。しかしその先客が車で先に進もうとしたところ、牛たちは素早く的確に道を明けていた。どうやら八丈富士では道路全体が牧場のようである。
展望台から見える風景は、これまた素晴らしい物であった。また八丈小島が見えるのだが、高いところから見てる分海がしっかりと目に入って、いかにも私は小島である!、という孤立感を主張しているのがよろしい。

道路にいた、3頭の牛と1人の人間の図。

八丈小島はその名前を体で示していた。

牛たちは一方通行の道路を逆に歩いていった。
24自家発電牧場に独り暮らしの極意を見た
展望台を離れ、また元の道路をしばらく走っていると小道からいきなり、にゅっ、といった感じでバスが出てきた。ややびっくり。どうやらその道の方へ行くと何かがあるらしい、ということを察知し、行ってみる事に。
果たしてその先には牧場があった。牛は何頭も道路上に放し飼いされていたのにご対面していたが、ここではきっちりと柵の中で草を食べている、正しい牛と牧場だった。その牧場の真ん中を引き裂くように歩道があって、その先には展望台らしきスペースがあるのが目に入る。左右の牛に挨拶しながら、その展望台まで行ってみた。死んだ後にここに埋葬されたらさぞ気分も良かろう、と思われるような山の淵である。眼下には八丈島の街と海が見え、そこからの風が思い切りよく吹き付けてくる。
ここには、昨日発電所で見た扇風機型風力発電機が4つ備え付けられていた。ここで使うものはここで作る、そんな晴耕雨読にもう一つ、風が吹いたら電気を作る、すなわち風電的世界がここ八丈富士では繰り広げられていたのであった。

風葬、ってことにはならないか。

確かに発電できそうな程の風が吹いていた。

眼下の眺めは良好である。

牛に挨拶しながら歩く、その後ろに風力発電機。
25島の唐辛子は危険な香り
八丈富士を一気に下る。行きははぁはぁ言いながら(擬人化)登っていた我が軽自動車は、帰りはそれはもう飄々と走り抜けることが出来た。下り終わってふとガソリンの残りを見ると、昨日一日走ってほとんど「F」から動いていなかった針が、視認できるほど「E」方向へ下がっていた。さすがにこの富士登山が効いているようだ。とは言え、まだまだ3/4以上残っている。軽自動車の燃費の良さに万歳。
時刻はまだ10時30分であったが、少し腹に入れておこうという事になった。行く先は、昨日おばちゃんに「また明日も来なさい!」とどどんと誘われた、「八丈島海遊魚まつり」の無料島料理振る舞いスポットである。この午前の部にお邪魔して腹をそれなりにかつただで満たしておき、午後腹が減ったら今度は他の島の名産品を食べよう、という作戦だ。
会場に着くと、土曜日ということもあってか昨日より人が多い。その客層は主に観光客ふう、釣り人風、ダイバー風、ツーリング者ふう、といった感じに分類されるようだ。正に八丈島が狙っている観光客層がわらわらと集まっているのだった。
メニューは、昨日と全く同じであった。他の物出るかなぁ、と期待していてちょっと残念でもあったのだが、美味いので文句は言わない(無料だしね)。
さてさて、ここでは無料料理の他に「あら汁」30円というオプショナル・メニューもあって、これもなかなか美味い。昨日も食べたのだが、友人Kは今日も1つばかり頼んでいた。そしてそのあら汁1ヶをテーブルに持ってきてくれたおばちゃんが、テーブルに置かれていた刺身用薬味の入ったタッパーを見て「これ入れると美味しいんだよ」と、ワサビ、ショウガと共にタッパー内に配置されていた唐辛子の輪切り緑・赤混在セットを指差した。
ではさっそく、といった風情で友人Kが手でその唐辛子をちょこっとつまもうとすると、「ああっ、ダメダメっ」と激しく制止されてしまった。なんでも、手で掴んでその後目をこすったりなどすると大変な事になるらしい。
その後、箸で少しばかりつまんでそのあら汁の中に投入。端からはごくわずかしか入れなかったように見えたのだが、おばちゃんは「あらあら、そんなに入れたら…」とにわかにつぶやいたのだ。
しばらく無言でそのあら汁を食べていた友人Kから、おもむろにお椀を受け取って一口すすってみた。…。…。…!くはっ、めっちゃ辛っ。なんじゃあこりゃあっっ。
すぐさま後方にあった「明日葉茶」をコップに注いで口に流し込んだほどのレベル。そしてついついそこで売っていた唐辛子セットを3つほど買い込んでしまった。土産にぴったりだと思ったのである。島の唐辛子は、なかなか危険な物体なのであった。
26釣り人の堤防
昨日も来た底土湾である。今日は快晴。堤防の先端を見てみると、釣り人がたくさんいた。友人Kの提案で、そこまで歩いていってみる事に。途中、大阪市、と書いてある船が停泊していて作業員が働いていた。大阪から遙々ご苦労様です。
さらに奥に向かって歩いていくと、突然、波がこちらに向かって弾け飛んできた。びっくり。もう少し海沿いを歩いていたらびしょ濡れになるところであった。横断歩道は左右を見てから渡らなくてはいけないが、堤防の奥に進むにも身の回りの確認が必要なのだった。

なかなか迫力のある波飛沫であった。

港にはテトラポッドが並んで置いてあった。

今日は晴天の八丈島底土港。
27八丈島南半分紀行
さてこれからは特にあてもない。と、出発前にホテルのロビーで、他の客がフロントに「良い露天風呂ってどこでしょうかねぇ?」と聞いていて、その答えが「見晴らしの湯」との事であったのを思い出し、とりあえずそこには行ってみることにした。思ったら即実行、早速その「見晴らしの湯」へ向かう事に相成ったのである。
「見晴らしの湯」は8の字の右下にある。底土湾からは、登龍峠を使わないとなると下の○をほとんど一周する形で行かなくてはならない。が、時間はあるのでそれでも全く問題は無いのだ。時間があるゆえに、そのまま最短走路で行かずに、途中で、うねっ、と曲がってみたりした。一応、地図にも載っている「裏見ヶ滝」方面ではある。のだが、いかんせん道自体が地図に載っていない。裏見ヶ滝はスルーしてそのまま突き進むと、あら、ものの見事に迷子になってしまった。地図には大きな道路しか載っていなかったので、イメージとして八丈島はほぼ走破!などと思っていたのだが、いやいや甘かった。真の八丈島とも言うべきか、この裏道細道は至極入り組んでいて複雑なのである。
まぁ適当に走っていれば何とかなるだろう、ということで右に海を見ながら突き進む。木に囲まれた道路から突然ぴかぴかに綺麗な東京都職員寮、などが出てきてまた八丈島の奥深さに意味もなく唸りながら進んでいたら、おお、ようやく地図に載っているホテルへたどり着いた。ただしこのホテルは休業中である。何だかひっそりとしていて夜来たらさぞ怖そうな感じのたたずまいであった。怖い怖い。昼間で良かった。
しばらく地図を見ながら進むと、見晴らしの良い坂に出た。堤防が見えて、その先にはまたもたくさんの釣り人がいた。堤防には釣り人、これが八丈島の一つの真実のようである。車で降りられるところまで降りて、その堤防方面ではないが、大きな石でごろごろと形成されている海岸へ。砂浜、ではなく、石浜、だ。足場の良さそうな石を選んで飛び移って奥まで移動すると、かなりの運動になる。運動不足に身には非常に応える天然アスレチックであった。やや(めちゃくちゃ、ともいう)息を切らしながら、平べったく大きな石に腰を落として海を見てみる。陽光に照らされた水面がしみじみと美しい。波がうち寄せる度に大小の石をさらっていく、ざざざぁ、ごろごろごろごろ、という音のコンビネーションもまた、しみじみと風情があるのだった。

堤防あるところに、釣り人あり。

“石浜”の波音も良いものだ。

天然アスレチックを行く。

水面と陽光は反則的最強タッグだ。
28アイスは溶けずとも見晴らしの湯へ行く
石海岸を歩いて跳んで程良く汗をかいた所で、「見晴らしの湯」へゴー、である。途中の小さな商店で友人Kが買ったアイスクリームが、かちんこちんに固まってまさに歯が立たないまま、あっという間に到着。正式名称は「末吉温泉・見晴らしの湯」。海岸近くの小高い丘にその居(ではないか)を構える。1998年にオープンしたとのことで、たたずまいは小綺麗、といった感じであった。入湯料500円を払い、中に入ってみると、更衣室からもその露天風呂の爽快さが想像しうるほどの見晴らしの良さだ。
中はちょうど誰も入っていなかったので、脱衣する事もせずとりあえず靴下だけ脱いで、デジカメを持って露天風呂方面へ小走りに行ってみた。外に出ようとした時に足を滑らせてそのままコケそうになったりもしつつ、一枚撮影。その名の通り「見晴らし」の温泉の雰囲気が伝われば幸いである。
実際に浸かってみると、ほほう。なかなかである。夕焼けの頃に来ればもっと美しかったであろう。ただまぁ、湯の温度があまり高くない、有り体に言えばぬるかったのが難点であった。後から客は続々とやってきた。島内で最も観光客受けしそうな温泉だけにそれにも納得納得、とやや妖しくつぶやきながら更衣室で着替えていると、ひとりのおとっつあんが露天風呂に通ずる通路で見事すっこけ、足を引きずりながら湯船へと向かっていたのだった。

海風が心地よい風呂、ってのもなかなか無いだろう。
29あしたばうどんを食らう
ひとっ風呂浴びて、ハングリー具合も程良く増してきた。ここで向かうは、あらかじめフロントで聞いておいたソバ屋、「一休庵」だ。島のちょうど真ん中、八丈高校のすぐ近くにある。こぢんまりとした店内はなかなか良い雰囲気。多彩なメニューにやや悩みながらも、天ぷらうどんを注文した。ここの、というより島全体でそうなのかもしれないが、とにかく出てきたうどんは八丈島名産の「明日葉」と混ぜ合わせてあって緑色なのだ。味はまぁほのかにくらいは茶の味がしたのかもしれないが、どかんとでかい天ぷらエビに目と舌を奪われてあまり覚えていないのであった。美味しかったけどね。
30南原千畳敷に日は沈み
日が傾いてきて空の赤みが増してきた。そろそろ八丈島ともお別れだ。最後、ホテルに向かう途中にある、まだ行っていない観光名所「南原千畳敷」を訪れてみる事にした。この南原千畳敷、その昔あの八丈富士が噴火活動をしていた頃に海に流れ出た溶岩が固まってできた海岸であるらしい。車を降りて見渡してみると、黒くごつごつした大地が一面に広がっている。千畳敷、ってのは畳千畳分の広さって事なのだろうか。その辺りの詳細は不明だが、まぁとりあえずそこに降りてみる。自分の足で直にその黒い地面を踏んでみると、穴だらけで固くて歩きにくいったりゃありゃしない。昨日降った雨のせいか、もしくは波がここまで打ち寄せる事があるのか、そのたくさんある穴のいくつかに水がたまっていた。
波打ち際、と言っても崖のように切り立っているのでのぞき込むような感じになるのだが、そこまで行ってみた。水は相変わらず透明度が高く綺麗で、それがこの黒溶岩にぶつかっている様が何やら美しかった。向こうには八丈小島も見える。
うまく足場を見つけながらうろちょろしていると日も大分落ちてきた。南原千畳敷の黒、波の青、さらに夕日の赤が混じり合う。もうホテルに戻ってお世話になったレンタカーを返却し、空港へ向かわねばならない時間だ。最後にこの千畳敷の夕日を写真に収めて、そこを後にした。
97枚目の写真。さらば、八丈島。

漆黒溶岩海岸。

空とのコントラストも綺麗だった。

茜差す南原千畳敷の海岸線。

これが八丈島最後の写真である。
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