0. 謎の提起
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ベルト・モリゾの謎 写原祐二@master 2003/11/14(金)14:21
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僕はそれほど美術のことは知らないのですが、僕の過去の捜査手帳に記録した一件のことをお話ししたいと思います。未解決の事件ファイルとでも申しましょうか。
元来日本人の感性としては、髪の毛が太く硬くまっすぐで鴉の濡羽色のような長い黒髪のお人形のイメージを美しいと感じるのが遺伝子としてまだ記憶されているのではないかと思います。南欧のカルメンのように、黒い髪、黒い眉、黒いひとみの女性にハッと惹きつけられてしまうのは日本男子の弱味でもあります。(全員茶髪なのに見飽きてきました。)
僕が美術館でエドゥアール・マネの描く女性に魅せられたのもそこのあたりでしょう。絵画的には真黒だったかどうかわかりませんが、マネが好んで描いた婦人像にそうした黒をベースにした容貌や服装の女性が多いのが特徴で、そのモデルとして弟子のベルト・モリゾが描かれた作品も多かったようです。
才能がありながらも女性であるがゆえにさまざまな制約(伝統・習慣・規則)などによって男性と肩を並べて活躍することの困難については、同時代のカミーユ・クローデルの悲運を見ても考えさせられます。モリゾの場合も師匠のマネが「女性であるのが惜しい」とその腕前を高く評価したそうです。
参考HP:「ベルト・モリゾってどんな人?」(※1)
さて美術史の解説はともかくも、事件とは何だったのかを話さなければいけません。パリでぶらぶらする時間があったときのことです。トロカデロ広場からエッフェル塔を見渡したあと、近くにあるパッシー墓地に行ってみようとふと思いつきました。パリの他の墓地よりはかなり狭いのですが、作曲家のドビュッシーと画家のマネのお墓があるので敬意を表しておきたいという気になったのです。お墓というのは不思議なもので著名人・文化人の墓碑は(まるでそこに吸い寄せられるように)何となく歩いていくとすぐ見つかるのです。ここで驚いたのはマネのお墓にベルト・モリゾが一緒に眠っていることでした。
たしかベルトはマネの実弟のウジェーヌと結婚し子供を産みながら、絵画制作も続け、佳人らしく54歳で早世したはずです。マネにもちゃんと奥さんがいましたし、どうして永遠の眠りの場にこの二人が・・・?と思ったものでした。先般ご紹介したルヴェルの短編の老人の例もありますが、なんか変だ!と思うのが当然なのか、それとも日本でも夫婦別々の墓にしたいという人も多いようですから何とも言えませんが・・・
今でもこの謎は解けていません。伝記を見てもフリン関係のフの字も見当たりませんし、勘ぐり過ぎかもしれません。捜査情報をお持ちのかたはぜひお助けください。(それともベルトの魅力に免じて迷宮入りにしておきましょうか)
折しも(この掲示板には偶然や暗合が多いですね)NTVの記念事業として「パリ マルモッタン美術館展−モネとモリゾ」が2004年1月27日(火)より東京都美術館(上野公園)で開催されるという情報を得ました。マネの絵は来ないようですが、モリゾとモネの素敵な作品がたくさん本邦初公開されるそうです。(※2)
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白いドレスの美人の見つめる先 絵山さん 2003/11/14(金)17:19
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いや、確かにマネとモリゾはそういう関係で、という記憶でしたが、うろ覚えでいい加減なことを言っても・・・と思い、調べてみました。
とても見にくいページなのですが(※3) その中にたしかに私の記憶を裏付ける文章を見つけました。
マネの「バルコニー」の思いつめた白いドレスの美人が印象的ですが
>バルコニーのあるアパルトマンに居る三人。だが………その視線は決して交わることは無い。座って階下の通りを見下ろすのは「運命の女」ベルト・モリゾ(彼女は、マネと不倫の関係を清算後、弟のウジェーヌと結婚。閨秀画家としても秀逸な作品を残した)
ということなのでした。この話の出所は確かめなくてはいけませんが
マネ (1832〜1883)
モリゾ (1841〜1895)
ルヴェル(1876〜1926)
マネに遅れること12年!そして、同じお墓なのですね?
事実は小説より奇なり。このことが当時話題になって、ルヴェルがインスピレーションを得たとも考えられますよね?
でもこれは写原さんが実際にパッシーの墓地でご覧になり、そしてルヴェルを読んだからつながったことなのですよね?そのお墓、是非見てみたいものです。
忘れられたような木陰の一隅、大理石の敷石の上にあるのでしょうか?ウジェーヌとマネ夫人のお墓はその近くにはないのでしょうか?
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証拠が見つからない 写原祐二@master 2003/11/15(土)20:52
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>いや、確かにマネとモリゾはそういう関係で、という記憶
というとやっぱりそういう通説があったのか、知らなかったのは僕だけという恥ずかしい話になりそうです。ホームズに出し抜かれたレストレード警部のようにくやしいので、その晩は図書館に行って調査資料をもう一度当たってみました。
「…いつかの晩にはアトリエのソファの上でけりがつけられていたかもしれなかっただろう。どこからみても相思相愛とわかる恋愛であったが、二人の関係は禁じられた恋愛であり、口には出せず、自分にもひた隠しにしたままで、こんな形で葬りさられる運命の恋愛だったのだ。(…)けれども、変わったことはなに一つおこらないだろう。…」
というふうに『マネの生涯』(アンリ・ペリュショ著)という分厚い本にありました。
もともと気の多いマネは、妻の目からその時々の女性との関係を巧妙に隠し通そうとしたそうですので、なかなか尻尾がつかめないようです。
またパッシー墓地のことは、マネとモリゾの名が墓標に並んで刻まれていたのを見たのですが、この本によれば
>ウジェーヌとマネ夫人のお墓
も一緒だそうで、兄弟夫婦仲良くという説明に落ち着いているようです。
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ドミニック・ボナの「ベルト・モリゾ」にもしかして証拠が・・・ 絵山さん 2003/11/18(火)19:40
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おりしも日曜日(11月16日)の日経新聞のコラム「半歩遅れの読書術」に、管野昭正氏による”印象派の秘法を知る画家「ベルト・モリゾ」”が載っていました。それによると未訳ですが、ドミニック・ボナによるモリゾの評伝があるとのこと(2000年刊)。
ボナの作品は「黒い瞳のエロス」と「ガラ〜炎のエロス」が筑摩書房から出ていますので、もしかしたら今度の展覧会を機に翻訳が出るかもしれませんね?
私見では、きっとその中ではマネとの件には、あたうる限り肉薄しているであろうと確信しています。というのも
「黒い瞳のエロス〜ベル・エポックの三姉妹」は、
(Les Yeux noirs ou "Les vies extraordinaires des sœurs Hérédia")
エレディアの娘の美人三姉妹が、サロンに集まる文学者や音楽家たちと華麗に結びついたり離れたりする様子(週刊誌的ですね?)が、詳細に生き生きと書かれていて、大変興味深く読んだからです。
邦題こそ週刊誌的ですが、時代や人間関係の精緻な考証が無味乾燥なものとならず、しなやかに個々人を描写していく筆致に感嘆させられたものでした。
その彼女の手にかかるモリゾの評伝であれば、期待は大というわけです。
ただし菅野氏の論旨は、モリゾについてはなにかと伝記のほうに傾きがちなものが多いけれど、今こそ画家としての彼女の業績を正当に評価せよということで、その意味では「ベルト・モリゾ」(1926年刊)の中で、ヴァレリーがすでに正鵠を射た評をしているのだとか。
モリゾの公式サイトを見失ってしまいましたが、これらのサイト(※4, ※5) でも、彼女の繊細でやわらかな作風が楽しめます。
以前は印象派のの展覧会に数点程度でも印象が深かったのですから今度の展覧会では40点もまとまって出展されるとのことで、これまた期待が大という次第です。
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度々お邪魔します c さん 2003/11/19(水)10:20
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失礼します。
1/27からの「パリ マルモッタン美術館展−モネとモリゾ」展、行ってみたくなりました。
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「黒衣の女の秘密」の本 写原祐二@master 2003/11/19(水)10:41
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絵山探偵のおかげでこの掲示板も名実ともに「捜査員の手帳」になってきました。調査資料ありがとうございました。Cさんまで引きずり込んでしまいそうですが・・・
ドミニク・ボナという名前は確かに聞いたことがあるなと思ったら、アマゾンで下記の本が出てきました。
Dominique Bona
Berthe Morisot : Le Secret de la femme en noir
これは、たしか新宿のK書店の売場でも見かけたような、いや、こちらが見られたような・・・つまり僕は、どうも正面からじっと黒い瞳に見つめられるのに弱い人間なので、まるで「買ってくれなきゃ許さないわよ」と言わんばかりの本のように思えたのでした。やはり碧眼よりは
> 「黒い瞳のエロス
を感じてしまいます。資料のリンクにあったWeb Museum では
> (1) Having studied for a time under Camille Corot, she later began her long friendship with Edouard Manet, who became her brother-in-law in 1874
> (2) she got acquainted and soon became friends with Manet, who gave her advice and painted her portraits
となっておりまして「秘められた関係」 secret relation のような表現ではないのがちょっと物足りません。これ以上追求するべきかどうかですが、@やっぱりこの本を買うか、A邦訳が出るまで待つか、B詮索はほどほどにして肝心の絵を年明けに見に行くか、で途方に暮れています。ところで
> エレディアの娘の美人三姉妹が、サロンに集まる文学者や音楽家たちと華麗に
そのなかに(しつこいようですが)かのモーリス・ルヴェル青年もいたのではないかと思います。なぜかというと彼の作品を雑誌(新聞?)に掲載してくれたのがこのエレディア氏だったのでと、どこかで読みました。
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エレディアのサロンにモーリス・ルヴェルが 絵山さん 2003/11/19(水)18:26
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エレディアのサロンにモーリス・ルヴェルがいた可能性はおおいにありますね?!
なにしろエレディアには隠然とした力があり、そのサロンは超一流、加えて美人の三姉妹がいたのですからさぞかし魅惑的な場だったことでしょう。
マラルメも欠かさず出席し、アンリ・ド・レニエとピエール・ルイスにいたっては次女と三女の娘婿になったのですよ!
ルイスの「ビリティスの歌」の自由で優雅な官能性とレニエの「ヴェネチア風物詩」の憂愁に惹かれていた私は、この二人がエレディアの次女をはさんでの長年にわたる三角関係だったことを「黒い瞳のエロス」で知り(かなり詳細に書かれています。)以後ますますレニエ(彼がずっと裏切られていて、もともと夢想的な作家が、半ば世捨て人風にヴェネチアにばかり行っているのです。)を贔屓するにいたっています。
そのときは読み飛ばしていた名前も数多くあることでしょうし、本棚をひっくり返して探し出し、もう一度読んでみてご報告いたします。
どんな風に登場しているのかが楽しみですね?
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お墓といえば 松本さん 2003/11/19(水)23:14
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Find A Graveというサイト(※6)
でそのお墓の写真を見ることができます。Manet は Eduard として登録。最初 Edouard で検索したらない!のには困惑しました。
ついでながらシムノンには通常のお墓がない所以も説明があります。
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参拝できました 写原祐二@master 2003/11/20(木)10:08
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松本さん、ビジュアルな情報をありがとうございました。献花もできるWebスタイルはなかなか喜ばしいことですね。マネとモリゾを別々に見てみましたが、墓石が隣合せなのかどうか、僕自身の記憶も薄れています。たしかマネの名前が刻まれている墓標のすぐ下のところにモリゾの名前も刻まれていたように思います。(ここの画像では確認できませんが・・・)
絵山さんにまたお手数をかけるお話をしてしまいましたが、ルヴェルの作品は英米でこそアンソロジーに選ばれましたが、本国では名前がほとんど文壇史にも出てこないという作家ですので(そういう作家たちも少なくないのですが)「もしたまたま見つけたら・・・」程度でよろしいですので・・・
シムノンのお墓のページも拝みました。(画像がないのは仕方がない)献花の代わりに缶ビールも奉げられるらしいのですが、会員登録が必要とのことで断念しました。(この頃はむやみにメールアドレスを登録するとコワイので・・・)
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お墓を廻ってまたメグレへ 絵山さん 2003/11/20(木)16:19
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松本さん、はじめまして。(といってもときどきホームページには無断進入していますが)絵山です。おもしろいサイトのご紹介、ありがとうございます。
写原さんのおっしゃるように画像からは墓碑銘(このことばは、ビリティスで知ったものでした。)の確認はできませんが、いっしょであることはまちがいなさそうですね?
ついでにレニエも尋ねてみましたが、残念ながら画像はありませんでしたし、
ルイスにいたっては(ルヴェルも)名前の掲載がありませんでしたが。
そしてモリゾから始まったお話は、メグレに戻ってきてなんだかいい感じですね。
シムノンは最後に住んでいたローザンヌの小さな家の庭に、娘と共にいるのですね。(ローザンヌは長かったですが、シムノンは、住むところをしょっちゅう変えているのに驚かされます。パリに住んでいたのはほんの数年ですよね?であればこそのパリへの憧憬が、どんどん磨かれていったのでしょう。)
写原さん、エレディア家のルヴェル青年、少し時間をくださいませ。
今朝一時間ほど捜索の手を伸ばしたのですが、発見できませんでした。
でもこういうことは私の趣味ですから、どうぞお気になさらずに。
本とCDの検索権棚卸しはいつものことで、子供たちはそれを見かけると
「あっ、また母さんが遊んでる」とはやすほどのものですので。
おかげさまで、娘から捜索願が出ていた本が発見できたり、このサイトで話題になっている「怪奇ロマン」系のものが出てきたり・・・
つんどくの本たちが「読んでね」と主張してきたりで、なかなか楽しい朝のひと時でした。
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文化的作業 写原祐二@master 2003/11/21(金)12:19
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書棚の整理や並べ替えは意外に思い立ってやらないとできないものですね。僕はそういうときには、固くなった畑の土地を鋤やくわで耕すことをいつも連想します。本の間に空気を入れてあげるとなぜか頭が新鮮になる感じがしますし、語源的にも「文化は耕せ?」Culture is to ...
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Autel さん 2003/12/8(月)09:39
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ごぶさたの挨拶はアレのほうで済ましたことにして。
ルヴェルの「Le Coupable」もおかげさまで読ませてもらい、モリゾ、マネのお墓の話も興味深く拝見しています。前に検索をかけたところ、マラルメのところにシュオッブが出入りしいたという文に出くわしたのですが、マラルメ→シュオッブ、ルヴェルという線はないのでしょうか。マラルメはジュリーの後見人になったくらいですし、ベルトの葬儀にもかかわっていたようなのでかなりのことを知っていたはずです。
実は、ボナの Le Secret de la femme en noir も本屋で手にとったのですが、なんとなく、先回りして写原さんの楽しみをとるようで、ぱらぱらめくったままおいてしまいました。この中に鍵がいろいろと隠されているのは確かなようです。
(これ以降は別テーマのため割愛)
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ネタばらし歓迎です 写原祐二@master 2003/12/9(火)11:44
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Autelさん、コメントありがとうございます。
パラパラと見ていただいて、このへんじゃないか、という単語、日本語でいうなら「過去の精算」「ジレンマ」「禁じられた」「関係」「愛欲」などなどの単語がたくさん出てくるページ又は章を教えていただければ・・・いやいや、ここまではお願いすべきではないのでしょう。(本屋に行って下さいとは決して言いませんから・・・)誰か、たまたま見た人いませんか?
閑話休題、僕にとっては魅力的な、一連の「モリゾの肖像画」は深い愛情なしには絶対描けない絵ではなかったか、と直感したことが根底にありますので、「捜査に直感は無用」と主張するタイプの警部は、僕は嫌いです。(幸いにもメグレはそうじゃない。)
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