歴史をひも解く

 全国悪天候で、ヴェネツィアも雪

こんにちは。

雪が降っています。
今朝、夜が明けてからちらちらと降り始めた雪は、あっという間にぼたぼたのぼた雪になり、ひとしきり激しく降ってあっという間にあたりを真っ白にしたかと思うと、お昼ごろには止んで、またあっという間に溶けてなくなっていました。
そう思っていたら、夕暮れとともに、また雪。今度はしんしんと降っていて、明日の朝までには結構積もっているかもしれません。

マホメット2世

正直のところ、昔、学校で世界史をやったときには、そんな名前が出てきたかどうかも覚えていません。が、ヴェネツィアで歴史、美術史をかじってみると、絶対に欠かすことのできない重要人物なのです。476年に崩壊する西ローマ帝国に対し、1000年近くも長く「ローマ」の名を保ち続ける東ローマ帝国。オスマン・トルコに敗れ、帝国に終止符を打つのが、1453年。その時の敵将、オスマン・トルコの長がモハメット2世。地中海の制海権を争っていたヴェネツィアにとっては当時、最大の宿敵でした。ところが、東ローマの首都、コスタンティノポリ(現イスタンブール)の陥落は、イタリア半島諸国、特にヴェネツィアには皮肉な結果をもたらすことになります。コスタンティノポリをはじめとする東ローマ各都市から、当時の文化人たちがオスマン・トルコの支配を逃れ、イタリアにやってきたからです。時はルネッサンス文化花開くイタリア。そうしたギリシャ・ビザンツの継承者たちは、イタリア諸国の宮廷、貴族、あるいは裕福な商人たちに喜んで迎え入れられたのでした。
さて、「マホメット2世」。先日、フェニーチェ劇場でロッシーニによるこの作品が上演されました。
ヴェネツィア植民地の旧ギリシャ都市。マホメット2世に城下まで攻められ、陥落直前、死を覚悟する総督は娘アンナに、自らの従者コルボとの結婚を言い渡します。同様するアンナ。実は、以前コリントで出会ったウンベルトなる男性に恋をしていたのでした。
捕らわれの身となり、敵将の前に引き立てられる、父とコルボ。慈悲を請いにかけつけるアンナ。そこで見たのは、敵将として現れた、かのウンベルトでした。思いもよらぬ再会。甘い思い出が、一瞬にして悲恋に変わる。おかしかったのは、ここで観客が一斉にぐぐっと身を乗り出したこと。
あらすじを、どのくらいの人が知っていたのか、まして作品をよく知っていたという人は少なかっただろうと思います。確かに、かなり長めの序曲、1幕前半の戦闘場面やらなにやら、暗い場面が相当長く続いたところへ、ようやくというのか、突然のメロドラマの予感に、観客が色めきたったのも無理はないかもしれません。
かつての恋人は言います。立場が違っても愛している、私の妃になってほしい、と。悲嘆にくれるアンナ。恋焦がれた人、待ち望んだ人、がしかし決して許すことのできない、父の敵。まさに役柄とはいえ、くすんだグレーの衣装に身を包んだ、やせて猫背の父親、もともとはカストラートの役だったのでしょう、アルトの扮したコルボは、丸顔でドラエモンみたいな体形(失礼!)、その二人がぴったりくっついている様は、そのおかしみがかえって哀れな悲しみを誘います。
一方、全体に白、ベージュの衣装が、これもグレーが基調の、瓦解したギリシャ教会風の建物を背景にした中、押さえたオレンジ色の豪華な衣装に身を包んだマホメットは、背もすらりと一段と高く、ひときわ美しい。非情で冷徹だという敵将、が、アンナにかける声は、あくまでも甘くやさしい。
実のところ、私もそうだったのだが、あらすじを把握していないほとんどの観客は、この二人が悲恋の果てにハッピー・エンドを迎えると思っていたのではないでしょうか。ところが、そうはならなかったところが、この作品の意外な結末でした。
敵の目を欺き、一旦は逃げおおせた父とコルボが、再び旗を掲げ、町を取り戻す。包囲を解いて、逃げ出すマホメット軍。そして、アンナとコルボは結婚式を挙げる・・・。
やはりヴェネツィアの宿敵に、たとえ恋愛でも勝たせるわけにはいかないのでしょう。といって、いくら作り話といっても、これだけの有名人を勝手に亡き者にするわけにもいきません。飛ぶ鳥を落とす勢いの、何もかも圧倒している敵将が、ヴェネツィアを前に、恋にも、戦にも破れていく。ヴェネツィア万歳、と歌い上げて終わるこの作品は、ヴェネツィアならではの上演だったのかもしれません。
さらに、後でよくよくプログラムを見ていたら、マホメット役テノールはヴェネツィア出身。そういえば、殺されるわけでもなく、逃走といっても舞台の上で戦闘に負けるわけでもありません。ああ、きっと、家族だの友人だのがたくさん、見守っているんだろうな、と思ったらとてもほほえましい気分になりました。

では、また。
Fumie

22 febbraio 2005