安らかな眠りを


こんにちは。
長いメイルを送ったばかりですが、追伸です。

巡礼者

気候がよくなって、日が長くなってきたので、趣味と実益(勉強)を兼ねて、ヴェネツィアの教会を、また1つ1つまわりはじめました。まず、ヴェネツィアで最も好きな教会の1つに入って、隅から隅まで、オペラグラス持参でそれこそくまなく見た後、中の椅子に座ってしばらくぼんやりしていました。ふと、これこそ邪道じゃないか、と思い始めたのです。
イタリアでは、世界的に知られる名画でさえ、それが描かれた当時のまま、え、ここに?とびっくりするほど小さい教会に残っていたりします。ガイドを片手に、そんな芸術作品を確認にくる観光客。外国人も、イタリア人も全く同じです。そんな観光客からはちゃっかり入場料を取る教会。教会が、所有する文化遺産を元手に美術館化しているわけです。ただ祈るため、あるいは救いの光を求めて教会へ来るのとは根本的に違うという意味において、美術史の学生、研究者も同じ穴の狢でしょう。
ふと、ローマの、サン・ピエトロ大聖堂を目指す大群集のことが頭によぎりました。ふだん、半分は観光地化、美術館化している、カトリックの総本山サン・ピエトロ大聖堂、が、今この瞬間、祈りの場、巡礼の場としての教会に、その本来の姿に戻っているということなのではないでしょうか。
書物や説教といった「文章」に対し、視覚の優位さ、「絵」によるメッセージの伝達の優位を主張したのは、レオナルド・ダヴィンチでした。やさしい、わかりやすい言葉で話し掛け、それをテレビという「映像」に乗せて直接語りかけたのがこのパーパ・ジョバンニ・パオロ・セコンド(ローマ法王ヨハネ・パウロ2世)だったのだと思います。今ここに集まっている若者たちは、そうして小さい頃から、お茶の間でパーパに親しんできたのです。
弱者をはげまし、過ちについては謝罪し、他宗教との和解を求め、あるいは戦争に対し強くノーと言う。キリストの教えの原点というよりはむしろ、人間としての最低限のモラルをその言葉と行動で示したこと、そこに嘘、偽りがなく、そして決して裏切られることがなかったのです。多くの若者の心をとらえた、それは、ほかに、見習うべき大人が回りに見当たらないということでもあるのではないでしょうか。

史上最大

ローマは、ほんとうに大変なことになっていたのだと思います。パーパが亡くなってからというもの、ほとんどそれしか報道していないテレビも新聞も、行列だけではなく、臨時の駐車場はこことあちら、あるいはプロテツィオーネ・チヴィーレ(protezione civile)が、行列にペットボトルの水を配ったり、臨時の宿泊場所を設置している様子を見せる。それらの報道はむしろ、「私も行かなくちゃ」と思わせる、あおっているようにも見えました。プロテツィオーネ・チヴィーレというのは、市民保護といったような意味で、各市ごとなど構成されるボランティア団体のこと。災害など不測の事態、あるいは大きなイヴェントなどの際に、現場で群集を誘導、あるいは制限して実際に混乱を防ぎ、あるいはけが人、病人などに手を貸す、といった仕事をするのですが、今回の場合、例えばローマのそれだけでは足りず、イタリア各地からプロテツィオーネ・チヴィーレが応援に駆けつけたのだそうです。
「パーパのためにローマへ行くなら、公共交通機関を使うように。長蛇の列を覚悟して、よく準備して。昼間は暑く、夜は寒いです。」4月6日、お昼過ぎに、携帯電話に届いたメッセージです。なんと差出人は、プロテツィオーネ・チヴィーレ。それもなんとなく文面からすると、むしろ「みんな、パーパのためにローマへ集まろう!」と言っているようにも見えるのです。実際私も、友人がローマへ行く誘いのメッセージを送ってきたのかと思ったくらいでした。同日、夜の8時半には「混雑が激しいため、今夜10時に、行列を打ち切ります。」それも何か、どちらかというと「だから急げ!」と言われているようにも。
乱暴に言うと、初詣とワールドカップを、足して2で割るのではなくて、掛け合わせてしまったような感じでしょうか。例えばあの群集の中に、毎週日曜日にミサに行っているというような敬虔な信者というのは、いったいどれだけいるでしょうか。大半は、クリスマスと、復活祭のミサに行っているだけ、ではないかと思います。
が、考えてみたら、それが本来、巡礼というものかもしれません。昔から必ずしも全員が全員、真に純粋な宗教心だけで行っていたわけではなく、何かをきっかけに、巡礼の旅に出る。そこには「旅」という楽しみもあったのではないでしょうか。そして、街道沿いでは宿屋が繁盛し、お茶屋、お土産屋が賑わう。それが、交通やメディアの発達によって、この数日に集中した、そういうことなのでしょう。

そんな史上最大のイヴェントを無事に終えたローマ、お疲れさま。コンクラーヴェ(新法王選出会議)は18日からだし、当分いろいろな行事は続くでしょう。それでも、この日を終えて、ちょっと一息ついて欲しいものです。
ヴェネツィアは、夕方になって、久しぶりに本格的な雨が降り始めました。
Fumie

8 aprile 2005