4日間でエジプトを旅する 【3日目(その1)】


2003年1月1日(水) 

@早い目覚め
 新年1日目は、目覚ましも何もなしで目が覚めた。時計を見ると、まだ5時45分。部屋の皆は、遅くまで起きていたらしく、まだ熟睡している。Tシャツにジャージのズボン、上にトレーナーを着て寝たのだが、朝は結構冷え込み、体が震える。
 暫くして、宿の経営者、エザットさんが巨体を揺らして起きてきた。やはり、昨日は皆、1〜2時頃まで起きていたそうだ。顔を洗ったり、歯を磨いたりして、空白の時をやり過ごし、外へ散歩がてら朝食に出掛ける事にした。
 まずは、昨日チキンを食べた店を覗くが、この時間にチキンはやっていない様だ。朝早いせいか、まだ店はほとんど開いておらず、開いている店はエジプト人達がおかずを買う為に行列をなしており、何だか入りづらい。僕はどこで食べるか考える時、いつもかなり迷ってしまう癖がある。10分程歩き回った後、結局、昨日のチキン屋で朝食にした。
 グラタンの様なものを1つ、後はゆで卵と、肉らしきものを指差して頼んだ。昨夜は紅茶をここで頼んだのに、この時間はやってないと言う。仕方なく、出て来た水を恐る恐る啜った。
 アエーシも一緒に出て来て、早速朝食にするが、グラタンは冷めてパサパサしており、肉だと思って頼んだのは、ナスの酢漬けで、あまり美味しくない。ボリュームはあるが、昨日とは打って変わってイマイチの朝食をそそくさと済ませた、宿へ戻った。

A考古学博物館
 
普段皆が集まっている所で一服していると、昨日夕食をご馳走してくれたカズさんが目を覚ました。僕がこれから考古学博物館へ出掛ける事を話すと、一緒に行ってくれると言う。彼はエジプト4回目で、もちろん考古学博物館には何回か行っているが、する事がないから構わないと言う。非常に嬉しい申し出であった。9時頃に2人で出掛けた。

 元旦と言うのにも関わらず、カイロの街は騒々しかった。恐らく普段とほとんど変わらない風景に違いない。もやが立ちこめており、丁度良い気候となった。
 さすが、世界でも超有名な博物館である。開館して数十分しか経っていないのに、行列が出来ている。僕等は荷物チェックを済ませ、入場料20ポンドを払って中に入った。
 広々としたスペースに、無数の石像が展示されている。ここには何度か来ているカズさんがいろいろと説明してくれる。どの像も、巨大であったり、彫りが緻密であったり、綺麗であったり、とても紀元前に作られたとは思えない。ピラミッドに行って感動しなかったのは、ここに展示されている様な、数々の芸術品を見る事が出来なかったからであろう。もし、これらの素晴らしい芸術品が当時のまま並べられたピラミッドの内部を見たのなら、涙を流して感動したに違いない。
 2階へ上がると、当時の国王達の財宝がガラスケースの中に展示されていた。宝石をはめ込んだ黄金の椅子、今でも十分通用する金のアクセサリー等、本当にすごい。大昔にこれだけの技術があったと言う事に感心する。黄金のツタンカーメンのマスクも、すごいの一言である。もっと時間を掛けて見たいが、ルクソール行きの飛行機が2時に出るのでゆっくりしていられない。
 最後、階段を下りようとすると、ミイラ展示室にぶつかった。ここは別料金で40ポンドもする。十体程度のミイラが狭い部屋に安置されているだけらしいが、カズさんの「一度は見ておくと良いですよ」のセリフで入る事にした。
 ミイラ室は撮影厳禁である。薄暗い部屋の中に行列が出来ていた。ほとんどが日本人である。当時の国王達のミイラは本当に保存状態が良く、生前の顔が良く分かる。カズさんの言う通り見て良かったと思った。
 今まで、台北の故宮博物院、パリのルーブル美術館、イギリスの大英博物館等、世界の有名な博物館を見てきたが(実はほとんど興味がなく、通りすがりで見ているだけ)、1つのテーマに絞られていて、これだけ目を楽しませてくれる博物館は他にはないだろうと思った。
 時計はもう12時前になっており、2人でサンドイッチを買って宿に戻った。荷物をまとめて、宿の人達に別れを告げた。出来たら、戻ってきますと言うセリフを残して。

Bルクソールへ
 重い荷物を抱えて、再び考古学博物館裏のバスターミナルへ向かう。10分程して、356番のバスがやって来たのであわてて乗り込む。空港に近づくに連れ増えて来る路面電車を眺めながら、国内線のある第一ターミナルで降りる。既に出発45分前と言う時間で、慌ててビルへ駆け寄る。
 入り口で係員に航空券を見せると、ルクソール行きは第三ゲートだと言い、遠くの方を指差した。隣りの第二ゲートでも結構離れていて、焦りが倍増する。汗だくで第三ゲートに辿り着き、無事に荷物預けと搭乗手続きを済ませる。
 飛行機は小型のプロペラ機で、1列が、通路を挟んで2席ずつの4席構成となっている。ほぼ満席でエジプト人が大半、日本人は見掛けず、後は欧米人系の旅行者達が座っている。僕の隣りには、顔がビン・ラディンに似たエジプト人が座った。彼はルクソールに住む医者らしく、 今から家に帰る所だと言う。僕がホテルを予約していない事を知ると、「泊まっていきなさい」と言うが、初対面の人間に対してそこまで甘える訳にはいかないので断ると、「じゃあ、弟が車で迎えに来るから一緒に乗って行きなさい」としきりに言う。心配性の僕はちょっと不安になったが、その申し出は受ける事にした。
 
  1時間程で空港に到着し、30分以上経ってようやく荷物が出て来たので、彼の所に行くと、
「ホテルはどこに?駅前か。方角が違うから乗せられない」
 と言う。彼が機内で家の場所を言っていたが、駅とそんなに離れてはいなかった。僕は少し頭に来たので、無言でその場を立ち去った。ルクソールの空港からはタクシーしか足がないので、客引きに値段を聞く。ガイドブックにあった相場と同じ20ポンドだったので、彼に付いて行き、人相のやたらと悪いタクシードライバーの車に乗った。
「アングロホテルまで」
「アングロホテルより良いホテルに連れて行ってやる」
「いや、もう予約しているから」
 本当は予約などしていない。コミッション目当てが見え見えで、どんなホテルに連れて行かれるか分からない。嘘を付くのは気が引けるが仕方がない。アングロホテルは、「ペンション さくら」で会った、兵庫県在住のキヨシさんが、「綺麗なホテルですよ」と勧めてくれたのだ。 そして、
「ただ、そこで斡旋しているツアーは高いから、日本人宿のイッサラームホテルで申し込むと良いですよ。このホテルはちょっと汚いので、泊まりませんでしたが」
 と、非常に有り難い情報を頂いていたのだ。
 タクシーに乗って暫く進むと、さっきの医者が車に荷物を積んでいた。弟の他に子供が2人いた。どうやら、定員オーバーだった様だ。
 途中でスーツを着たエジプト人がタクシーに乗って来た。ドライバーの友達らしい。最初はグルで2人で何かやらかす魂胆かと思ったが、本当に友達らしい。駐車場に近づくと、人相の悪いタクシードライバーが、
「ここに入るのにお金がいったから払ってくれ」
「分かった。いくら?」
「ファイブ」
 と偉そうに言う。物価の安いエジプトで駐車場代が130円もする訳がない。とりあえず、料金所があったので5ポンド渡した。すると、お釣りが帰って来たが、ドライバーはそのまま自分のポケットにしまおうとしたので、奪い取ると、
「フリー・フォー・ユー」
 等と訳の分からない事を言っていた。手元には4ポンドあった。この男は全く信用できない。だから、海外でのタクシーは好きになれないのだ。

 暫くすると街に出て来た。聞いた通り、カイロより遥かに田舎である。途中でスーツを着た男が降り、握手を求めて来た。彼は良い奴だった。そして、ルクソール駅前のアングロホテルに着き、20ポンド払うと、ドライバーが文句を言おうとしたので、睨んでやると、
「ルクソールを楽しんでくれ」
 と言って去って行った。素直にやっていれば、少しはチップをあげるのに・・。
 そのままアングロホテルに入ると、ロビーのソファーで男が4人寛いでいた。
「部屋はありますか?シングルルームはいくらですか?」
 と聞くと、ロビーの奥からホテルの経営者らしき男が出てきて、部屋へ案内してくれた。ホテルの中は清潔だが、薄暗く、ほとんど客がいない感じがした。
 案内された部屋はツインルームで、シャワーとトイレもあり、質素だが清潔ではある。
「シングルルームはないんですか?」
「ない」
「じゃあ、ここはいくらですか?」
 男は暫く考えてから言った。
「100ドル」
 そう言って、薄気味悪く笑った。つまらない冗談だ。更に暫く間をおいて言う。
「50ポンドだ」
  実はここの値段を予めガイドブックで調べておいた。シングルが10〜20ポンド、ツインが20〜30ポンドであった(だが、この部屋で20ポンドだったらかなり安いと思う。本来、エジプシャンプライスはこんなものなのであろう。)ので、ガイドブックに書いてあった通りに言うと、
「今はピークシーズンだから、その値段では提供出来ない。それじゃあ、35ポンドでどうだ?」
「それでも高いな」
「じゃあ、こっちに来い。こっちなら20ポンドだ」
 次に連れて行かれた部屋はベッドが3つ置いているだけで、シャワーとトイレは別であった。清潔だが、「ペンション さくら」の様な落ち着いた感じはない。
「ここが20ポンドなんだね」
「いや、25ポンドだ」
 35ポンドの部屋は値段も雰囲気も悪くはないのだが、この男の、人を値踏みした様な態度がどうしても気に入らない。
「他のホテルも見て来るよ」
 と言って出ていった。二度とここに戻る事はないだろう。
 

【3日目(その2)へ続く】


カイロの朝
考古学博物館内
有名な「カノープスの壷」