○9月5日(水)

 5:00、ドアノックのモーニングコール。“Yes,morning!”と大声で返すが、少しするとまた

ノックされる。起きていって、顔を出すまで叩いてくれるようだ。扉を開けると、にっこりした

ガードマンさんが「おはようございます。」ときれいな発音で言う。とても赤道直下とは信じ

られない寒さで、彼もコートの襟を立てている。とりあえず、首は痛くない。慶祐、ピローチップを

どこにどう置くか研究している。外に出ると、満天の星空。オリオン座がひっくり返っているが、

慶祐「立つ位置のせいじゃないか?」と少し離れたところからこっちを向いて天を仰いでいる。

5:45、レストランでモーニングコーヒー&ティーのサービスを受け、今朝は関西の2人組と4人で

サファリ。ウィリアムは、違う車でお出迎え。屋根は開きっ放しなので、本当に寒い。慶祐が

寒いというので、よっぽどだ。「一日の中に四季があるね。」と言いあう。バブーン池まで行く

途中で、シマウマの群れが、道路脇の低木がポツンポツンとあるところで、下生えのような草を

喰んでいる。まるで、高原のホテルの手入れされた庭に放し飼いにされているようなイメージだ。

ここには通るたびにこうしてシマウマがいることが多かったので、「シマウマ公園」と命名。

さらに後日、ものすごい数のシマウマがいたので、「シマウマ牧場」に格上げした。

     .

 今朝は昨日と違った方へ行くようだ。ゲートを通らない。

だんだん夜が明け、空が赤くなってくる。途中、山の端に日が出たところで停めてもらい、慶祐、

念願のアフリカの太陽を撮る。昨日の雨で、道がかなりぬかるんでいる。今朝の口開けは、象の

親子。雨で濡れているのか、今朝の象は色が黒っぽい。仔の写真を撮っていると、母親が間に

割って入り、向こう側で仔がお乳を飲んでいるが見えない。ウィリアムは無口だが、主な動物の

名前は日本語で言う。そして、他のドライバーもだが、象だけ「象さ〜ん」とさん付けで言う。

(イボイノシシも「イボちゃ〜ん」と言っていたが、双方長すぎと短すぎで言いづらいのだろう。)

ついでに、“ソイリ、テンボ。”と言うので、2人は「?」となってしまったが、関西の2人は

Yes,テンボ!”と言っている。その後、しばしばこの“ソイリ”に出くわしたのだが、この2人が

「“ソイリ”って、“スワヒリ”のことですよ。」と教えてくれたので、スワヒリ語で何というかを教えて

くれているのだとわかった。 次なる動物を求めて悪路を進み、途中、小さな川を渡る。足と嘴の

赤い、ジャクションフランコリン(うずら)の群れが地を走る。(後で飛んでいるのにも出会った。)

     .

 何時間も車に乗って走っていると、同じサバンナでも少しずつ様子が違うのに気づく。丈の長い

サバンナ、短いサバンナ、蟻塚の多いところ、全くないところ、蟻塚でもできたてなのか土色の

ところ、緑が覆っているところ、ブッシュのあるところ、アカシアのあるところ…。そして、草食獣の

フンがそこかしこに落ちている。ウィリアムが、“あと、サイを見ればBig5だから、サイの

テリトリーへ行こう。”とサイを探してくれることになった。サイのエリアというところに入って

しばらく行くと、いた!! 近づくとその横の草の陰には、大きなバッファローが伏せている。

皆、大興奮。ウィリアム、すごい!大手柄!さっそく無線で他のサファリカーに教えるウィリアム。

他の車が来る前に、サイの回りをぐるりと角度を変えてロケハン。孤高のサイは、車が集まって

くると、少しずつ歩いていってしまった。(後日ジェイムスに訊いたところによると、マラ川の

こちら側にはサイはこの一頭しかおらず、なかなか会えないという。ますますスゴいぞ、

ウィリアム。さらにウィリアムの名誉回復のために、夕べ部屋に戻ってから加藤さんのHPを

確認したら、彼はマサイマラでドライバーをして22年の大ベテランとのことだったので、

昨日のアセり方は道に迷ったというのではないと思う、と2人に言っておいた。これも、

加藤さんに話すと、「ありえませんね。」と太鼓判を押された。)

慶祐は、シャッターチャンスは一瞬なことを納得し、また意外とホコリも立たないのでこの頃から

カメラは出しっぱなしで、自分のジャンパーをかぶせておくだけのスタイルを確立していった。

続いて見つけたのは、トムソンガゼルの群れ。イボイノシシにも接近遭遇、そして感動のインパラ

の巨大なハーレム。唯一雄が少しずつ群れを誘導して、離れていってしまった。少し走ると、

若いオスのインパラ(バサラと言うそうだ。bachelorのことか。)が2頭いて、仲間というより

一頭がもう一頭を追い払ってしまったので、もしかしたらさっきのハーレムの次期政権を狙う

オスかもしれない。本当に、羚羊の走る姿は美しい。 次に向かったのはヒッポプール、

ムパタの車が勢揃いした。朝はまだ涼しすぎて、カバはほとんど水の中で動かない。わずかに

2頭が目の前の川をさかのぼって、奥のヒッポプール(川の淀み)を目指していく。ここは、

NRの中で唯一下車が許されているので、全員車を降り、カバを遠景に記念撮影する。突然、

歩いていたカバが争って、「ブヒ〜〜」と鳴く。慶祐、「…ブタに似てる。」とつぶやく。

     .

 大満足で帰途、ジャッカルの仔4頭が道に飛び出してきた。3、4ヶ月の仔犬のようだ。さらに

マサイキリンのバサラ(9〜10歳とのこと)を見るが、すでに大きすぎてカメラに入りきらない。

すでに帰着時刻に近く、きちんと道としてある道をすっとばして帰る。今はもう気づいても誰も声

さえ出さなくなってしまったシマウマの群れの中に、シマとシマの間に茶色い影の入った個体を

発見、「チャップマンではないか…」と胸躍らせる恭子だったが、停まってもらう時間的余裕も

なく、次のチャンスに期待することにした。(しかし、これは後で加藤さんにあっさり否定される。

個体差の範囲とのこと。そもそもマサイマラにはコモンゼブラしかいないそうだ。)慶祐は

「胃がやられて、ごはん食べられない。」とか言いながら、レストランに向かう頃には「あぁ、

腹減った。」と結局しっかり食べる。

     .

 食後は売店に寄り、絵ハガキを買うが、切手が売り切れなので明朝来てくれと言われる。

恭子は絵ハガキを書き、慶祐はアフリカでも洗濯。洗面器が大活躍した。洗濯物の番を

しながら、一時間ほどベランダで本を読んでいた慶祐、陽の当たっていた体の前面だけまっ赤に

なってしまう。やっぱりアフリカの太陽はものすごいのだ。恭子は朝のサファリで体がすっかり

冷え切ってしまい、ベッドにもぐり込んで震えていた。外に出れば暖かいのだが、曲がり角を

3回ほど曲がった恭子は、紫外線がとても怖い。 そのうちお昼時になったので、レストランへ。

本当に食っちゃ寝生活で、どうなることか非常に心配だが、今日もビュフェで、しかもアフリカ料理

なので食べない訳にいかぬ。文字でしか知らないスクマ、ウガリといった代表的な料理が並び、

昨日のコックさんに加えもう一人も“You know?! Try it!!”とニコニコして取り分けてくれる。

スクマは少し苦いが、貴重な緑黄色野菜、おいしくいただいた。慶祐はサラダが辛いと言って、

目を白黒させている。

すでに満腹だが、コックさんにお礼を言わないといけないし、さらにさっき色とりどりのデザートが

あるのも見てしまっていたので、やはり行かねばならぬ。キモチは「もういい」だが、コックさんが

わざわざ切り分けてくれた大きなケーキに向かって手は皿を差し出してしまう2人であった。

隣の、昨日カギを忘れた客が、テーブルにチップを置いて出たが、片づけに来たスタッフは誰も

手を出さない。そこだけ避けてテーブルを拭いていた。あのあとどうなったのだろう。  

     .

 すっかり体も温まり、何より食べ過ぎを自覚した2人は、水着に着替えてプールに行ってみた。

ジャグジーが常に40℃前後に保たれていたので、何となくそれを期待して足を入れると、

驚くほど冷たい水! 道理で誰もいない訳だ。それでも気合一発、水の中に入ってしまいさえ

すれば慣れるので大丈夫、ひょうたん型のプールを1、2周する。通りかかるスタッフが、皆

Jambo!(ハワイのaloha!に相当)”と声をかけてくれるが、≪物好きだな≫という表情である。

運動不足ですぐ息が上がってしまうが、水から出ると寒いのと、日光が怖いので、体を水中に

入れたままボーッとする。まるっきり、今朝のカバである。絵ハガキを持った人がプールサイドに

腰を落ち着けたので、泳ぎも体型も人様に見せられない2人は退散する。

ジャグジーで温まり、シャワーを浴びるが、恭子は乾燥と日光で髪と唇が悲惨な状態になって

いる。慶祐は、午前中の日焼けが、胸やお腹のタルミの陰になっていた部分は白いままなので、

みっともないダンダラ模様になってしまっている。すでに日本復帰は困難になっていた2人で

あった。

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  夕方のサファリは、ウィリアムの昨日の車が復活していて、(慶祐、その速さにビックリ

する。)昨日のメンバー全6人に、「何かあるといけないので」と笑いながら加藤さんが加わる。

出発前に、NRの入場料のレシートを日数分束ねたものを受け取る。常時携帯とのことなので、

慶祐のベストのポケットへ。NR内のメインストリートには、昨日の雨でぬかるんでいた所に土が

入れられていた。

誰がこの保守作業をしているのだろう。 午後は、象のファミリーでスタート。遠くの木の上に

エボシクマタカがいる、と加藤さんがウィリアムに声をかけて停めてくれる。よく見えないが、

確かに頭の上にとんがりがあるのはわかる。続いて、オスのインパラの群れ。最多の4頭の

仔を連れたイボイノシシ。と、ウィリアムの帽子にツェツェバエが留まっているのを加藤さんが

発見、客のみが大騒ぎする。人間が刺されると眠り病の元になり、動物が刺されると、

方向感覚がわからなくなり、ウロウロと歩き疲れてやはり死に至るそうだ。色白の妹の方が、

テレビでヌーの川渡りの中で、川渡りに大変なエネルギーを使うので、中には同じ所をグルグル

歩き回ってやがて死んでしまうものがいると紹介していた、という話をすると、加藤さんが即座に

「それは間違ってますね。ツェツェバエにやられているんですよ。川渡りで疲れたら、歩かない。」

と、テレビの誘導演出(ヤラセ)が明らかにされてしまった。 大草原に象の大群がいくつかの

グループになっている。ずいぶん離れて見えるが、この程度の散り方は全部でひとつの群れとの

こと。 一面の草原に、イボイノシシ、トピ、トムソンガゼルがいる。開けたサバンナなので、

肉食獣が来たらすぐわかるのだろう。皆で群れている、という感じ。しばらくして、ダチョウメスの

一団にあったが、オスとbPメスは発見できず。あちこち探索中の加藤さんには気の毒だが、

今まで見て疑問に思ったことをいろいろ尋ねて教えてもらった。 サバンナの木で、背の高い

アカシアと別に、低いブッシュを形成している木は、ガーデニアというそうだ。あの香り高い

ガーデニアと同じものだろうか。キチュワ・テンボとは頭・象という意味で、たぶん昔象の墓

だったのだろうとか、象の歯は一生に3回生えてくるが、すり減る(一日300sも食べる)ので、

抜けることはなく、3本目が無くなったときが命の終わりで、動物園のは柔らかい食事なので

長生きするとか、サバンナにもいろいろな相があることは、動物の棲み分け(草が低い所は

走りやすいのでチーター、高い所は大きな体が隠れるのでライオン、といった肉食獣側の理由、

草食獣はブラウザーとグレイザーといった食性の違いなど)にも関係が深く、ゴルフ場のラフの

ような状態の所はマサイの野焼きの火や、時に落雷による野火で新芽になっていること、古い

蟻塚は土がよいので、ブッシュになりやすいといった、私たちにとってはかなり学術的なことまで

教えていただいた。恭子は、子どもの頃から不思議に思っていたことを訊いてみた。それは、

一生添い遂げる一夫一婦制をとる動物は、その片方が失われてしまったとき、残された方は

どうなるのか、ということ。加藤さんは、「種類によって違いますネー。イボイノシシなんかは

すぐに若くて元気なのを見つけてるみたいだし、ジャッカルはとてもナイーブなので、相手が

死んでしまったことがストレスになって、そのストレスに耐えきれなくて、たいていすぐ死んで

しまいますよ。」と言った。すごい夫婦愛!(人間の感覚とは違うのだろうけど。)私たちは

どーでしょうか? 調子に乗って恭子、ナイロビの猫の死体の件を持ち出すと、「ナイロビにも

ジェネットはいますよ。おそらくそうでしょう。」と受け合ってくださった!

     .

 そうこうするうち、また遠くの方から雨雲が拡がってきて、カーテン状に雨の降っているところが

煙って見え、少し離れたところには、竜巻が起こっている。またか…の予感をふり払いながら

進むと、蟻塚にチーターの親子が休んでいるのをウィリアムが発見。

二頭の仔の大きさから、昨日の親子と思われる。加藤さんが、「車から頭を出したら、絶対声を

立てないでください。」と注意するので、全員緊張しながら頭を出し、ストンと腰を下ろしてから

小さい声で「カワイイ〜〜!!」とささやく。でも、ウィリアムの無線の声は、かなりでかい。

(さすがに、加藤さんが無線のボリュームを絞ってしまった。)蟻塚のてっぺんには、トピの

置き土産があるが、親子は意に介さず。母は最初こちらを見るが、すぐそっぽを向き、

耳だけこちらに向けて牽制している。大きく見えるが、仔は1歳ちょっととのことで、ポワポワ

したたてがみがあるので、区別がつく。2歳で仔別れだが、今はまだ自力で狩りはできないと

いう。他の車が来たので、場所を譲って行くと、ハゲワシがいて、(正確には「ハゲタカ」という

のはいないそうだ。)道のすぐ脇に大型草食獣の白骨があるが、新しくはなさそうなので、

彼のディナーではなさそうだ。 しばらく行くと、オスのライオンが二頭、のんびり留守番と

いった風情でアカシアの下に寝そべっているが、強風で自慢のライオンヘアが逆立たん

ばかりで、しきりに毛づくろいをする。大きな前足をペロペロなめ、顔を洗っているのは、

雨の前触れか。 暗くなってきたので、帰り道、森から山の方に向けて移動する象の

大きな群れに遇う。昨日、ウィリアムの英語が聞き取れなかったシロエリコウを確認し、

山の端にかかる虹で今日のサファリは終了。車から降りるとき、他の二組がチップを渡して

いる。ANAのパンフレットには、チップ込みと書かれていたし、部屋に戻ってナイロビで

もらった説明書を見ると、やはりすべて入っているとのこと。予定通り、最終日にまとめて

2人分、1,000KSHS渡そう、ということで2人で納得する。(が、これが思い通りにいかなく

なるのであった。) 昨日、今日とわずか二日間、3回のサファリですでに沢山の動物を

見せてもらうことができたのは、ひとえにウィリアムのおかげだ。しかし、マサイマラは他の

国立公園と違って、車が道以外のところでも入っていけると聞いており、事実その通りだったの

だが、丈の長い草をかき分けるように車の走った跡が残っているのを見ると、次からそこには

同じ状態の草は生えないだろうし、将来的にマズいのではないか、と素人ながら考えた。

もちろん、道路をはずれてサバンナに踏み入れるとき、ドライバーはなるべく前に車の走った

跡をみつけてたどるのだが、そうするとそこはさらに踏み固められてしまう訳だし、だからと

いってまっさらなところに踏み込むのは、もっとためらわれる。加藤さんに、「こんなに自在に

走らせてしまって、例えばガゼルの仔を脅かしたりしちゃわないですか?」と訊いたが、

「鳥の巣ぐらいは踏んでるかもしれないですね。」との答えだった。ますます自責の念に

かられたが、後日加藤さんのHPにアクセスして古いページを見ると、加藤さんも最初は

自然の破壊につながってマズいのではないかと思っていたが、ここで暮らすうち、そうでは

ないということがわかった、ということをその理由もつけて述べていた。とりあえず、

私たちは素人なので、心配しながら、旅は続く。

     .

  夕食に行こうと部屋を出ると、ライオン予報大当たりで雨が降っていた。レストランのテーブル

ごとに炭火が置かれている。今日はバーベキューかと思ったら、暖をとるためだった。それほど、

気温は低い。慶祐は、ムリしてまたワインをとるが、今日は慶祐がワインでダウン、部屋に着く

なり沈没した。