○9月7日(金)

 4:40 2人とも生活リズムが慣れてきて、モーニングコールの前に気持ちよく目覚める。

慶祐、モーニングコールに玄関まで行って“Jambo!”と元気に挨拶、「今日の人は長いヤリ

を持ってた。」と興奮気味に報告。さらに、「今日は普通のうんちが出た。」と心身ともに

絶好調のようだ。サファリ前のお茶で、昨日ハイラックスを見たあたりに今日はノウサギ、

やっと気付いたことは、ここでは早朝に鳥が鳴いていない。「暗いうちは狙われるからじゃ

ないか?」と慶祐。

     .

 今朝は、ジェイムスの運転で、ゲストは2人きりだ。ムパタ自体に今日は客が少ないようだ。

この車は天井がしっかり閉まっていて、(必要なときにフタをパカッと開けるタイプ)暖かいが、

ジェイムスは“今日は寒い。”を連発する。ジェイムスが、何を見ていないかを訊いてくれ、

ハイエナ、ワニとダメモトでヒョウを挙げる。と、ムパタから数q、バブーン池の手前で早くも

ハイエナを見つけてくれるが、シャイでずっと遠くからでも急いで逃げてしまう。ハイエナは

人を恐れているのだそうだ。オロロロゲート付近で、マサイの女性が頭にタンクを載せ、

運んでいるのに出会った。ゲートの横に蛇口があり、男性が水を汲んでいる。レンジャーの

緑色の家が建ち並ぶ横に風車があって、慶祐は「発電しているんじゃないか」と言っていたが、

ジェイムスによると水を汲み上げているとのこと。ゲートは無人で、ジェイムスが降りて番小屋へ

入っていった。彼らはサファリ中など、少しでも車を停めるときには、必ずエンジンを切っていた。

それで初めて気づいたが、ゲートにはツバメの巣がかたまっていくつもあり、ヒナの声が

やかましいほどだ。ゲートを抜けるとすぐにバッファローの大群が朝もやの中に現れた。

まだ座って休んでいるものが多い。ジェイムスはすぐ近くまで寄ってくれたので、オスとメスの

角の違いがはっきりとわかった。(ナイロビのカレン博物館で、展示されていたバッファローの

角を、オスかメスかと尋ねると、2人のガイドが口を揃えて即座にメスだと言い、理由を訊くと

「角が小さいから。」と言うのだが、私たちにはすごく大きく見えた。しかし、今こうして

目の前で見ると、全然違うのがよくわかった。)仔牛もいて、色は焦げ茶で親より薄いが、

お世辞にも可愛いといえる風体ではない。大きなオスが仲間を蹴散らしたり、メスのにおいを

かいでフレーメンしたり、マウンティングするものもあるが、メスは一様にのんびりしていて、

知らんぷりで歩いていってしまう。道に戻り、すぐ脇にハーテビーストが一頭、よく観察する

ことができた。

ウズラ(ジェイムスの言い方だと、スカーレット・フランコリ)が出てきた。嘴と脚が赤くて、

ウズラらしい(本当の和名は「シャコ」というらしいが。)可愛い姿だ。昨日の雨で、道が

ぐちゃぐちゃになっており、わだちにはまって斜めに進んだり、スタック寸前だ。

毎日のようにいろいろなスタッフに“雨季が始まっているのか?”と訊くと昨日までは全員が

まだだ。来月からだ。”と答えていたが、ジェイムスは“もしかしたらもう始まったのかも

しれない。”と言った。 遠近に象が沢山いる中で再びハイエナに遭遇。ジェイムスはりきって

サバンナの中まで入ってくれるが、ハイエナは追うと一目散に逃げてしまう。道に戻って

ダチョウのオス一羽、メス二羽を見つける。近くまで寄って見えたが、昨日の雨で尾羽が

グレーに染まり、ボロボロだ。ジェイムスは加藤さんの評価どおり勉強熱心で、

What's ボロボロ?”と、この英語不得手をつかまえて、訊く。ちょっと違うかな、と思いながら

他の単語がわからないので“dustyのことだ。”と答えると、妙に納得されてしまった。そのあと、

ジェイムスと私たちは、いろいろなことを日本語とスワヒリ語で何というかを訊きあい、教えあい、

車内は“That's かわいい tembo.”と三カ国語チャンポンのアヤしい、でも楽しい雰囲気と

なった。そのうち若い二頭のオスの象、うち一頭が1and2を始めた。(厳密にいう と2が先

だった。)なにやらアヤしいホースがするするする…!

another nose!”という恭子に、“6 legs elephant!”とジェイムスが教えてくれた。

色といい、太さといい、言い得て妙だ。慶祐もぶったまげながら(品が悪いが、この表現が

ぴったりだった。)写真を撮るが、できあがった写真は慶祐の驚きをそのまま表していて、

ピンぼけだったり象の一部しか写っていなかったり、まともなものは一枚もなかった。

やがて二頭は少し離れたところにいた群れに近づいてゆき、鼻を絡ませ、低いグルグル音を

出しながら“Morning Greetings”を一頭一頭としていく。群れにはまだ当歳の、まだ牙もない

赤ちゃんもいる。と、無線で何か話していたジェイムス、仲間がスタックしたので助けに行って

よいか、と訊く。sureで車を転回すると、後方500mほどのところに、ムパタの車が斜めに

なっているのが見える。行ってみると、加藤さんのHPで「運転技術ピカ一」のスタンリーだった。

左前輪がすっぽりと穴にはまっている。「車でなくて、(近くにいる)象にヘルプ頼めば

良かったのに。」と頭を出しているゲストに冗談を飛ばすと、「象語がわからないんで…」と即応。

ジェイムスがロープをつけ、後ろからひっぱって難なく脱出し、車は反対方向へ分かれる。

すぐ大迫力の、巨大な単独オスバッファローに大接近するが、車内なら安全とジェイムス。

ただし、すぐ逃げられるように、エンジンはかけたままだ。沢山の仔を連れたイボイノシシの

ファミリー。少し離れていたためか、逃げずにいてくれたので、じっくり見せてもらった。

一ヶ月の仔を連れたシマウマ。母もまだ若く、色が焦げ茶色のシマだ。ウィリアムが教えて

くれた、シマウマのスワヒリ語、プンダムリヤは「シマロバ」とのことだったが、ジェイムスは

鳴くロバ“crying miria”の方が正解だという。(彼は長上の礼を心得ていて、“ストライプという

意味もあるけれど、鳴き声の方が普通だ。”という言い方をする。)トムソンガゼルのメスだけの

群れが近くにいて、忙しくしっぽを振っているので、勉強家のジェイムスならその理由を

知っているかと問うと、しばらく考えて“単なる習慣(behavior)だと思う。”と言って、

困ったようにうつむいてしまった。 少し離れてトムソンのオス一頭のいるハーレム。

なるほど、オスの角は長くて立派だ。また少しして、一頭の若いヌーと、イボイノシシの

大2、中1、小2のファミリーがいた。彼らのすぐ横にある蟻塚が家らしい。その横の蟻塚で、

何かがサッと動いた。ジェイムスがマングースと言ったとたんに、近くの別の蟻塚をめがけ、

何十頭ものマングースの大群がブッシュを縫うようにザーッと走り抜ける。蟻塚は、土か

フカフカなので、蟻が出ていった後はマングースやハイエナ、イボイノシシなどが好んで

巣に使うそうだ。イボイノシシは顔が大きいので、中でターンできないため、お尻から

入っていくんだ、と楽しそうに話すジェイムス。さらに進んでいくと、空腹でお腹のぺったんこの

メスライオンが二頭、私たちの来た方の動物を狙って歩いていくが、少し遠いとのこと。

成功を祈る。やがて、サバンナをかきわけるように一本のすじが走っており、“何だと思う?

とジェイムスが訊く。全くわからないと答えると、夜、森へ食事に行くカバの道だという。

何本か道はあるが、その日の往復には同じ道を使うのだそうだ。遠くに小さな、屋根と

柱だけの東屋のようなものがあるので、あれは何かと訊くと、“キッチュワテンボ エア 

ストリップ”。近づくと、一頭のシマウマが飛行機を待っていた。 朝のバッファローの群れを

反対側から見、山の稜線にムパタが見えると言われるが、私たちには到底ムリ。そして、

直線距離13qというその道のりを、スワヒリ語の猛特訓を受けながら帰る。 最初は慶祐に

とって重要なビールを訊いたのがきっかけ(ポンベ、ただし今はほとんどビア)で、

「冷たいビール一本」は“ビア・モジャ・バリディ”、

「朝」=“アスブヒ”、「私たち」=“シーシ”、「私」=“ミミ(耳と同じ)”

「私たちは今朝サファリに行きました」=“シーシ・トゥエンデ・サファリ・ヤ・アスブヒ”、

「ドライブ」=“クニュア”、「ドライブ中だ」=“トゥナ・クニュア”、

「暑い」=“ジョート”、「今」=“サーサ”、「今は暑い」=“ジョート・サーサ”、

“プリーズ”=“タファダーリ”、“2 tea please”=“チャイ・ンビリ・タファダーリ

…なんだかものすごいしゃべれるようになったと勘違いする2人であった。

ジェイムスは来たときと違い、キチャテンボからの道をかっ飛ばす。途中で今日も

マサイの牛が道を遮っている。ベルをつけているのは、オスとリーダーになるメスで、

群れはこの音を聞いて、移動についていくのだそうだ。さらにバブーンの群れが道を

占領していたが、こちらは車を見て左右に分かれて逃げる。逃げ込んだあたりを

覗きこむと、若いバブーンと目が合い、ギャーと叫んですっとんで逃げていった。

慶祐は体調が良くなってきたらしく、写真も調子よく3本撮りきってしまった。9時になって

やっとムパタ着、慶祐自分から「チップあげようよ。」と言って2j渡す。 日本語の話せる

スタッフが待ちかまえていて、今日は掃除の日なので急いで食べるよう言う。見るとすでに

ほとんどのテーブルが外に出されている。急いで部屋で手を洗い、レストランに戻ると、

にこやかなフランシスが“はやく、はやく”とやっぱりニコニコしながら言う。覚えたての

チャイ・ンビリ・モト、タファダーリ”と言って“すごいすごい、よく覚えましたね。”と大げさに

ほめてもらう。開け放されたレストランに小鳥が入ってきて、窓でバタバタしている蛾を捕らえる。

それを見て慶祐、「すごい。鳥は頭がいい。ちゃんと人間を利用している。」と感心している。  

午前中は部屋でのんびり過ごす。慶祐はベランダでスワヒリ語の勉強にいそしんでいる。

「アラビア語の数字は?」と、恭子が横からちゃちゃを入れると、空中に指で「1、2、3…」と

書いてみせるので、「で、スワヒリ語の3は?」とまた横やりを入れると、慶祐は混乱してきて

ビア、エルフモジャ、モト”(熱いビール千杯)とか言っている。 頭を使ってハラが減ったという

慶祐にひきずられるようにランチへ。今日もコースで、慶祐は“ビア・モジャ・バリディ!”と

自ら注文できるまでに進歩、フランシスに“えらいえらい”とほめられているので、恭子も負けじと

「今日も暑いね。」のつもりで“ジョート・サーサ”と言ったら、大切なお客さまが暑がっている!と

フランシスが3人ものスタッフを呼んで、そこら中の窓を大きく開けてしまったので、せっかく

丁度よかった室内に風が吹いて、肌寒くなってしまった。 最後はまた慶祐が“チャイ・ンビリ・

モト”と言って、おいしいお茶を飲んでいると、来た! ハイラックスが再び顔を出したので、

急いでレストランを飛び出す。カメラを向けながら近づくが、割と平気。少しこちらを見ているが、

またすぐに食事に戻る。今日は二頭いて、一頭がスルスルと木の上に登る。彼らはロック

ハイラックスで、キノボリハイラックスではないのだが、上手に木に登る。慶祐は木の下へ行き、

「オスだ。下から確認した。」と言うほど、近寄ることができる。今回の旅の隠れたテーマは、

「本当のお母さん探し」。言ってみれば、動物に例えたら何か?ということで、出発前は

「間違って、帰りの飛行機で隣にイボイノシシ連れて来ちゃったらどうしよう。」と会う人会う人

話していた2人だったが、イボイノシシは実物があまりにも小さく、慶祐のイメージとはあまり

似ていなかった。

それに比べて、このハイラックスといったら、サイズは小さいが、俵型のモコモコした体型と

いい、警戒しながらも常にモグモグ動いている口の動きといい、全体からかもしだされる雰囲気

が慶祐(そして犬のレディー)とそっくりなのだ。2人とも即座に、これが慶祐の本当のお母さんで

あったことを直感し、慶祐は大きいカメラを取りに部屋へ走った。本当のお母さんは、ロッジの

花壇をとび回り、慶祐はたっぷり写真を撮ることができたが、ハッと我に返り、「ちっ、チュー太郎

ごときに18枚も使っちまった。」とつぶやく。ネズミじゃないってば。(注:分類上は象に近いとも

言われる。別の説もある。)なお、部屋で本を確認したら、和名は「イワダヌキ」だそうで、2人とも

大いに納得。帰国後、「慶祐の本当のお母さんはハイラックスだった。」と人に話しても、皆「?」

という顔をするが、「イワダヌキだった。」と言うと、話だけで皆納得してくれる。さらに蛇足、

慶祐に会ったことのない人も、英語の先生も、“ラクーン”で納得した。もう一つ、イワダヌキに

ついての感想を加えておくと、見た本の中に「なぜこれをタヌキと名付けたのだろう云々」と

記述されているものがあったが、著者はおそらく現物を見たことがないのだろう。私たちも、

自分で撮ってきた写真を見てもタヌキには見えないが、ヤツらの動き、キャラクターはまさしく

タヌキそのものだった。 さて、しつこく追い回していたら、お母さんたちは庭にある岩を組んだ

巣の中に入ってしまった。今日も遠くで雷が鳴り始めた。ついでに書いておくと、恭子の本当の

お母さんは、恭子が思うにはトピ(体に黒い模様があるが、その色がまるでぶつけて痣に

なっているように見えるので、常に体のどこかが黒くなっている恭子は、見るたびいらぬ

同情心が沸いた。)、慶祐が言うにはヌー(一応羚羊なので、遠くから見るとカッコイイが、

近づいてみるとマヌケ)となった。  夕方のサファリに行く準備をしていて、恭子、件の時計が

止まっていることに気づく。重ね重ね悔しいが、マサイの手に渡っていたとしたら今頃ヤリ持って

押しかけているかもしれず(?)、まぁよかったことにしておこう。  夕方は、今朝着いて

初めてのサファリというカップルと一緒に、雨の中をスタートした。何か見えるとはしゃいで

いるのが初々しい。オロロロゲートをくぐり、遠くに4頭のウォーターバックから始まったが、

すでに道が川になっており、動物の姿が見あたらない。わずか数日だが、私たちは目が

馴れてきて、はるか遠くに移動中の象の群れを見つけ、ジェイムスが追いかけてくれた。

かなり震動がきて、ジェイムスが“デコボコ〜、ポレポレ〜”と言いながらハンドルにかじりついて

いる。慶祐は先輩ヅラして、いろいろ説明している。象の群れは、生後1ヶ月程の赤ちゃん数頭

を含むメスの群れ。仔象はまだミルクのみで、数ヶ月しないと柔らかい草も食べられないという。

すぐそこの小さな木に、象を追っていたアマサギが留まっており、すぐ車の前にカメがいた。

カメはカメなりに急いで逃げ、頭だけくぼみに隠れた。もしアマサギで止まらなかったら、彼は

轢かれていたのではないか。やがて、2頭のキリン、反対側にメスのエランドの群れに混ざって

キリンが1頭、固まって食事の最中だった。ジェイムスが、“かれらは仲がよい。”と言う。

それぞれ食べ分けと同時に、多方向からの敵にも対応できるので、一緒にいるのだという。

特に、雨のときは、動物は集まっているのだそうだ。そして突然、エランドはおいしい、と

言い出すので、一瞬何のことかわからなかったが、“ムパタで食べたが、おいしかった。”と

言った。恭子、明日のカニボア・レストランに期待してワクワクする。慶祐には聞こえなかったの

だろうか、無反応。木の上にライラックニシブッポウソウ、加藤さんが和名のつけ方がおかしい

ものの例として出したやつだ。(加藤さんと、和名がメチャクチャな話をしたとき、恭子が出した

のが「ブラウン狐猿」と「黒白コロブス」。加藤さんは、このライラック・ブレステッド・ローラは、

英名を直訳すると「ライラック色の胸をしたブッポウソウ」なのに、ライラックだけ残して種名の

西仏法僧をつけるから、何のことだかわからなくなってしまう、と言った。)

ジェイムスは、日本語猛勉強中なのがよくわかる。「日本語は、ライラックニシブッポウソウ。」

と言って、その意味を訊くので、“ニシはwestのこと、ブッポウソウは種類の名”と教えてあげる

と、なぜか妙に納得していた。(それにしても、なぜ西なんだろう。)木に留まっているので、

長いスワローテイルがよく見える。ジェイムスが“飛んでいる方がきれいだ。”と言ったとたんに

隣の木に飛んでくれ、翼のセルリアンブルーに全員魂を抜かれたよう。遠くの方をシマウマが

一列に並んで移動中、と、数百メートル離れた、私たちの車の反対側にメスライオンが一頭

現れ、シマウマは一斉にそちらを向いて警戒し始める。ライオンはハントの気がないのだろう、

歩きやすい車道を、姿を隠すことなく悠々と歩いていく。シマウマの列は、ライオンと同じY座標に

位置するものが、必ず立ち止まって顔を向ける。 雨は上がったが、薄暗い仲、トピとシマウマ、

エランドが微妙に入り組みながら大きな群れとなって草を喰んでいる遠くで「ワンワン!」という

犬のような声がして、ジェイムスが“シマウマ、Crying.”シマウマの声は、(プンダ)「ムリヤ」

ではなかった。(この程度の理解力の客を毎日相手にする運転手さんたちは、本当に大変な

仕事だ。“ムリヤと鳴くのかと思った”という恭子に、ジェイムスは“自分の説明がうまくなかった

と謝ってくれてしまうのだった。)この声を聞くと、本当に「吠えろば」なのがわかる。ジェイムス

は、今日はずっと“ベストドライバー”のスタンリーの後を追っていくパターン。昨日のライオンの

隠れ家へ。慶祐は「あそこだ。」と察して小さくなってしまう。かなりの数のサファリカーが

集まっており、シマウマは昨日のブッシュの入口とは反対側(ブッシュの表側)に引き出され、

一頭のメスが首の方を食べている。慶祐、おもむろにカメラを出して取り始めるので、恭子は

あら、と思うが、できあがった写真にはシマウマは写っておらず、主に食べ終えてのんびりする

オスと集まった車を撮っていたのだった。(車は人物がいるので撮らないでくれ、とジェイムスに

袖を引かれた。)たてがみの濡れそぼったままのオスは、メスの脇に一頭と、別の一頭は

すでに木陰で横向きに寝そべっている。そしてすぐ近くの木のてっぺんにはオオワシ、

はるかな木の上にはハゲワシが一羽ずつスタンバイ、すでに気づいていて、明日には降りて

くるだろうとのことだった。ひとしきり食べたメスは、両方のオスに挨拶し、水たまりで水を飲む。

この一連の動作は、猫とまるっきり同じだ。さらに戻って、こんどは反対側のお尻の方から

食べ始める。犬が牛皮のガムをかじるのと同じ音がする。 帰り道はさらに水量が増し、

道路の脇が農業用水のように勢いよく流れ、あるところで道を横切ってマラ川の方へ下って

いく。ジェイムスがまだ水は少ない方だと言うが、昨日までとはかなり様相が変わっており、

車はスピードが出ないのはもちろん、慎重に進路を定めないと、いや定めていても時折、

前・後進を細かくかけながらでないと抜けられないぬかるんだ大穴に入ってしまうことが

あった。 ジェイムスが“Maybe、雨期に入った。今年は気候がいつもと違う。”と悪戦苦闘する

中、慶祐は「ライオンの食事を見たら腹が減った。」と騒ぐ。昨日食糧庫(お腹の弱い慶祐の

ため、フリーズドライのおかゆやラーメンなどを持ってきていたが、結局ひとつも使わず

持って帰った。)から出してきた梅干しを開けて、次から次へと口へ入れ、「窓から種捨てていい

かな?」とかなり脳天気なことを言う。「そんなもの捨てちゃいけません!」と恭子に叱られる

が、口から出すところを見ていない。どこへやったのだろう? 車のスピードが遅い分、近くの

小さなものがよく見える。まだ嘴の赤くないウズラの若鳥が4羽、車を停めてしっかり見る。

アカシアの上には、ミミヒダハゲワシが3羽留まっている。ジェイムスが、「ハゲワシ?

ハゲタカ?」どっちが正しいのか、ワシとタカはどう違うのか、と訊くので、同じ質問を先日

加藤さんにしたばかりの恭子、トクトクとたれる。そして、逆に“イーグルとファルコンは

どう違うのか?”と訊いてみたが、少し考えて、やはり大きさが違う、と答えた。(このことを夜、

加藤さんにまたトクトクと報告すると、加藤さん「・・・それでいいと思いますよ。」と言って

くださるが、あとでよくよく考えてみると、タカは英語でホークなのであった。つくづく旅の恥は

かき捨てだ。) 車は遠景にシマウマの列、象の列、バファロー等を見ながら、激しくドリフトを

繰り返しつつもとの道を戻る。マサイの建物で、“SIDAI HOTEL”と書かれているのを

ジェイムスが指さし、「シダイはマサイ語で、ダイジョーブ。大丈夫ホテル。」と言って笑う。

何が大丈夫なのか?と訊くと、“Everything is all right.”と言って、やはり笑う。客が

来るのだろうか。マサイ本来の姿はやはり遊牧、コブ牛の他にヤギと羊も連れているが、

最初恭子は全部ヤギだと思っていた。しかし。“しっぽが違う。”と指摘されて、あっと

思い出した。日本ではなかなかお目にかかれない(見えない)が、羊は尾に脂肪をためる

のでコロンとしたバッグをお尻にぶら下げているように見えるのだ。またまた「似て非なるもの」

を発見だ。見慣れた道まで来ると、ジェイムスが“ジャンボブアナの歌を知っているか?”と

訊く。“コーラスだけならできるよ。ハクナマタタ〜”と言うと、急に歌い出し、こちらからの

呼びかけを待っているそぶりなので、“教えて。みんなで歌おうよ。”と言うと喜んで歌詞の

意味を解説しながら教えてくれ、全員で合唱して帰る。ちょうどワンコーラス終わったところで

ホテルのゲートに着いた。今日一緒になった二人は、ロストバゲージで、着るものがあまりない

というので、残していく予定の衣類を使ってもらうようにして、いらなくなったら加藤さんに渡して

くれるように話す。(私たちは、パンフレットにドライバーチップが含まれていると記載されて

いたので、流行遅れでもう着ない衣類を持ってゆき、最後にお礼代わりに渡すつもりで来て

いた。そのことを加藤さんに訊くと、「スタッフの家族もいるので喜ばれますよ。」と言われた

ので、昨日までに全部洗濯を済ませてあった。さらに良かったことに、見栄坊の恭子は、

スッピンでヨレヨレの姿で写真に写りたくない、とTシャツだけは激安ショップで一応新品を

購入していたのだ。)部屋に戻り、恭子は早速パッキングを始めるが、慶祐は残りのウィスキー

をかなりのピッチでやっているらしく、大きな声で発音&音程のあやしいジャンボブアナを

熱唱していて、パッキングは全く手伝わない。機内持込のものと、成田までスルーで預けるもの

に分けるのだが、持込のものが意外に多く、恭子イライラしてくる。慶祐はいぜん熱唱、

やかましいので先に食事に行く。できあがってゴキゲンな慶祐、“ビア・ンビリ…いいの、

今日は最後だから1本ずつ、バリディ!”と叫び、(自分では小さい声と思いながら)だいぶ

編(変)曲されてきたジャンボブアナを歌い続ける。フランシスが近寄ってきて、ニコニコ

しながら一緒に(ただし耳元で小さな声で)歌ってくれ、またほめてくれる。調子に乗ってさらに

歌う慶祐。今日のメインの量は半端でなく、初めてかなり残してしまった。テーブルに

加藤さんが来て、楽しい思い出の話をする。ウィリアムは家族が入院したので、急遽、休暇を

取っているとのこと。事情を話すと、用意していたチップを加藤さんが預かって渡してくださる

ことになった。慶祐は酔っぱらっているので、「車で困ったことは何でも言ってください。

何でも送ってあげます。」云々、大ぶろしき。加藤さんも立ち上がる機会をつかめず困っている

ので、適当に料理に水を向け、ホッとする間もなくまた“ジャンボ〜、ジャンボブアーナ、

あれ?”とポケットの歌詞カードを出す。恥ずかしいので、そそくさと部屋へ。アフリカに現れた

大トラは、出すものをたっぷりと出して、すぐぐっすり眠った。 恭子は再びパッキングを始めるが、

バッグも引き出しも、数が多くて何が何やらわからない。忘れ物がなければいいが…。

時計を見て、あまり遅くなっても、と衣類一式を持って8号室へ。洗い髪にビッグサイズの

トレーナー一枚という彼女が「すみません」と出てくる。夜髪を洗って、ドライヤーもなくては

寒いだろうが、残念ながら私たちもドライヤーは持っていない。おやすみを言って、入口に

横たわる巨大なナメクジをまたいで自室に戻る。トイレに可愛らしいヤモリが出たのでカメラを

持ち出すが、タンクの裏に隠れてしまった。持久戦を覚悟するが、すぐに電気が止まって

しまったので、手探りでベッドに入る。