○9月8日(土) その@

 5:00、忙しいと言われたが無理して最後のサファリへ。ロストバゲージの彼女が、

昨日渡した慶祐のセーターと恭子のジャンバーを手に持って近づいてきて、

「今日使うんじゃないんですか?」と言うので、「全然ハクナマタタですよ。」と答える。

彼女は、トレーナーをたくし上げて、「早速着させてもらいました。」とTシャツを見せる。

かわいそうに、ずっと着替えができなかったのだろう。今朝もこの4人、少し雨が残って

いるので、天井のフタは閉めたままだ。ジェイムスが、「雨ネー」と言うので、恭子、

キャンディを取り出し、“これもアメだよ”と言って渡すと、“シマウマシママ

(スワヒリ語の「止まれ」で、日本人が「あっ、シマウマ!」と言うとドライバーが

急停止する、と言う話を聞いた。)みたいだ”と言って笑う。袋に「お口に冷たい」と

書いてあったので、“キャンディ、バリディだよ。”と言うと、ビックリしている。

一つ食べて見せて、“確かにバリディだよ。食べてみなよ。”と勧めるが、“後で”と

言って自分は食べない。ウィリアムもそうだったが、家族に持って帰るのだろうか。

シマウマ牧場に佃煮にするほどのシマウマと、初めてキリンが二頭いた。昨日に

続いて今朝も車の前方をハイエナが走っていく。追いつこうとするが、サッと横の

サバンナに入ってしまう。と、そのうちの一頭が2を催し、しゃがんでいるので、

チャンスとばかりジェイムスにバックしてもらう。ハイエナの困った顔。でもまだ暗い

ので、写真は無理だ。今朝は雲が多く、日の出は見られないかと思ったが、運良く

太陽1コ分の幅だけ雲が切れ、ゲートの風車と太陽の風景をカメラに収めることが

できた。ゲートを入り、あまり大きくない象の群れに遭う。リーダーは右の牙が折れ、

耳もボロボロで、ファイティングの激しさを物語っている。背の高いサバンナを、

一時の方角に向けてかなり空腹のメスライオンが二頭、歩いていく。はるか彼方を

横切るトピの群れを狙っているとのこと。反対側には、ウォーターバックの群れ。

加藤さんが、「もののけ姫のヤックルに似ている」という大きな羚羊で、是非

見たかったのだが、私たちは残念ながら一度も近づくことができなかった。

メスのダチョウが一羽、昨日よりきれいな姿で食事中。“ダチョウは草は食べないで、

穂先の部分とフルーツだけ食べる”とジェイムスが説明するので双眼鏡でよく見ると、

本当にパクンパクンと口をあけては草の一番上だけをついばんでいる。キチュワテンボ

を抜け、大平原にシマウマ、トピ、トムソンガゼルなどが集まっている。ハゲコウが

その近くに一羽でポツンと立っているが、人の頭が少しでも動くと自分も向きを変えて、

遠く離れるまで警戒している。オスのインパラの群れ、イボイノシシの夫婦、大きな

バッファローの単独オスを見ながら、ジェイムスが一生懸命やさしい英語を使って、

草食獣の分類について教えてくれた。それによると、バッファローは大きいが、草だけ

を食べるグレイザー、対してキリンは木の葉を食べるブラウザー、象は小枝も含め

両方食べるのでまた違う分類をするのだそうだ。(加藤さんの分類よりさらに1つ

多い!)地面の色の違うところで、ハーテビーストが土を食べている。ちょっと見に

トピと見分けがつきにくいが、逆光でも遠くても、角の向きが違うので(ハーテビースト

はカーブした角、トピは後ろ向きの角)区別できるという。ドライバーは、運転技術と

並んで視力と知識が要求される職業だと思う。そういえば、今日までグランツガゼルを

見ていない。トムソンやインパラと並び、「どこにでもいる」ガゼルのはずなのに。

と思って、本を確認すると、大きさや色がインパラそっくりだ。もしかしたら、今まで

インパラだと思って見ていた中にいたのだろうか。(ドライバーさんは写真に撮れる

程度の距離にいるものは名前を言ってくれるが、遠くにいるもの(特にウシの類)は、

こちらからきかないと教えてくれない。ちなみに、このノートに書きとめてきた動物名は、

すべてドライバーさんに教えてもらったものだ。)インパラとグランツガゼルはどう見分ける

のだろうか。今日はこういうことをよく教えてくれるジェイムスだが、この2つの違いを

きき漏らしてしまった。しばらく走って、まだワニを見ていないという私たちのため、

マラ川のヒッポプールへ。残念ながら今日もワニはおらず、カバも皆遠くのプールに

沈んでいる。朝は水温より気温のほうが低く、水温も湖より流れのある川のほうが

温かいのだそうだ。カバと離れたこちらの岸に、うるさく鳴き交わしながらガンが

降りてくる。車を降りて見に行くが、まだかなり遠いうちにすぐ飛び立ってしまった。

考えてみると、サファリカーをバックにした写真をまだ撮っていないので、ジェイムスに

入ってもらって二組で写真を撮り合う。ジェイムスは、ケニア人の習慣からか、それとも

恥ずかしいのか、緊張した表情だ。再度乗り込むとき、車が泥はねでひどく汚れて

いるのに気づき、“あなたが洗うの?ハードワークになっちゃったね”というと、

大丈夫です。ハクナマタタ。”と答えた。彼ら、ドライバーの1日は、どうなっているの

だろう。おそらく徒歩で6:00のサファリまでに出勤し、8:30に帰ってきてから車体内外を

清掃・整備して15:00に午後のサファリ出発、日没後の18:30に帰着してからあの寒い中で

再び掃除と整備をして、また歩いて帰宅するのだろう。現地の人は10kmや20kmは

徒歩圏だとアンジェラが言っていたし、このホテルはマサイの土地の、しかも山の上に

あるので、家には本当に寝に帰るだけなのではないだろうか。昼間も時間がありそうだが、

加藤さんのHPによると、国立公園(NP)やNRのレンジャーは、行政から公園内の保守

管理をする役を命じられてはいるが、車は与えられていないので、NPやNRにあるホテルに

車の要請をするといい、その保守作業は観光客の入らない時間(=暑い日中)に

行なわれるのだが、要請に応じるときにその車のドライバーが、自分がホテルから

責任を持って預かっている車だけを彼らに渡すはずがない。そういえば、レストランの

スタッフだって、早朝、サファリ前のお茶サービスは少数のスタッフだったが、8:00の朝食

(サファリに行かない客はこの時間からだ。)から、片付けて昼食、また片付けて夕食が

終わり、すべての客が出て行く21:00近くまで同じメンバーだった。私たちは利用しな

かったが、バーコーナーを切り回すバーテンダーも丸一日の拘束だ。厳しい労働条件の

ように見えるが、彼の国で常職につけることはものすごい幸運、出世であるということを

聞くと、私たちを心から楽しませてくれた彼らは、大変なエリートなのだろう。その矜持を

もって、勤めているに違いない。

(後日記。彼らは、泊まり込みで働いているそうだ。そして、2ヶ月に一度、まとめて

休暇をとるという契約になっているので、普段は休みもないのだという。)

 .    

 さて、最後のサファリも終わりに近づき、アカシアの木にとまる三羽のハゲワシと

一羽のハゲコウ、その下に大きくなった仔を一頭連れたイボイノシシを見、遠景に

大きなインパラのハーレム(大きな角のオスが一頭と、角のないメスの群れなので、

インパラであることは確かだ。)を見て、ゲートを出た。

時刻はすでに8:20、小川を渡るとマサイが牛に水を飲ませ、その上流では女性が洗濯を

している。ムパタに着いたときはすでに8:40を回っており、大急ぎで荷物をまとめて

顔だけ洗って(これが大失敗。その後モロに日差しを浴びることになってしまった。)

朝食へ。着ていたセーターや、洗顔料、基礎化粧品と日焼け止めを「いらなかったら

捨てて」と言って、ロストバゲージの二人に渡し、いつもの席につくとReservedの札の

下にはすでに次のゲストの名札があって、少し寂しくなった。記念にと思って名札を

ピックアップすると、ウェイターさんが飛んできて“何か不手際がありましたか?”と

慌てて訊くので、“いいお土産だ”と言うとニッコリ下がっていった。そこへ、息せき切ら

せて駆け込んできたハウスキーパーさん、ウェイターさんが引き取って私たちの

テーブルへ来ると、恭子の止まった時計を出した。お礼を言って、ウィルソン空港で

改めてごみ箱に入れた。

     .

 キチュワテンボへは、パトリックの車で、加藤さんと一緒になったのでいろいろな話を

する。チョウセンアサガオは、道路など土を掘り起こしたときに真っ先に生える一年草

なので、新しい道路に沿って、まるで植えたように一列に並んでいるのだという。だから、

サバンナでもこれがあるところは、一年以内に何らかの理由で土が掘り起こされたことが

わかるのだそうだ。道端のところどころにフウセントウワタがあるので、「あれも自生

ですか?」ときくと、なんと、加藤さん「どれですか?え、あれ、日本語あるんですか!?」と

言う。「『風船唐綿』といって、お茶花に使うんですよ。」と言うと、ノートを出して書きとめ、

お返しにとても特徴的な花が咲いて、トゲトゲの風船もある日パンと割れて綿のような種が

飛ぶこと、根に薬効があることなど、ナチュラリストとしてのレクチャーをたっぷりして

くださった。キチュワテンボに降り立ったとき見つけた、茎の途中に実がなっているような

ものは、虫こぶだとも教えてくれ、「次回は是非ネイチャーウォークに行きましょう。」と

誘ってくださった。突然、後部席のアジア人中年夫婦が“オロロロマサイビレッジの

写真を撮りたいので停めてくれ”と言い、加藤さんに“パーミッションが要るからダメだ”と

今さら言われている。

     .

 キチュワテンボに到着、近くのサバンナの中を歩いてみた。(ついでに、みんなが

先に到着した小型飛行機に気をとられている隙に、2度目で最後のブッシュトイレ!)

車のわだちでなければ歩けないほど、草丈は深い。小さなバッタが跳ね、蝶が舞い、

小さくて様々な色や形の花々が咲いている。いろいろな草食獣のフンもそこここに。

ところどころに見える石は石英で、白色から褐色と様々な色あいがある。他のホテルの

スタッフがWelcomeを表すため積み上げたという石が、あちこちに小さな塊になっている。

背の低いアカシアが何種もある。アカシア=キリンの食べ物というイメージだったので、

びっくり。地面を這うように、高さ数センチ位のものから、とげでズボンをひっぱって存在を

アピールするものまで、すべてあのアカシアと相似形の葉っぱととげを持っている。でも、

そのとげが柔らかいものや赤いものなど,きちんと自己主張しているから本当に

おもしろい。マメ科の植物は乾燥に強いとのことで、特有の蝶の形の花がいろいろ

咲いている。赤い花、白い花、紫のふちどりのある花、黄、紫、さらに一つの花序の

上と下で色がグラデーションになっているものなど、色鮮やかだ。連日サファリドライブの

間に「落ちていた」ティッシュペーパーフラワーがこんなに可憐だったとは。

マサイマラ初日に見つけた黄色いナスは、まん丸でかわいらしいが、食べられない

とのこと。わだちでもかなり草は生えていて歩きづらいが、恭子が夢中になって

歩き回っていると加藤さんと車の話で盛り上がっていた慶祐が「ドクハキコブラが

いるから、危ないって。」と呼びにきた。これだけ大勢でしゃべっていれば、動物はみんな

逃げてるよ、自分の足でサバンナに立てるチャンスなんてめったに無いのに…

(それに、見られるものならドクハキコブラとやらも見てみたい。)と思うが、スッピンで

帽子は成田行のトランクにしまってしまった恭子は、すごすごとサファリカーに退散

する。そして、車の窓から、さっきのマサイ村が山の中腹にうまい具合に見えることに

気づき、こっそり写真を撮る。いくらなんでもここまでなら走ってきても間に合うまい。

     .

 エア・ケニア機は、定刻より20分ポレポレで到着、「忘れ物のないように」という

加藤さんに、「あったらまた取りに来ます。」と別れた。「絶対なくさないように」と厳重に

言われていたパッセンジャーチケットを握りしめて搭乗口へ行き、スチュワーデスさんが

名簿にチェックしているので名前を言うと、“乗れ”と言われておしまい。今回は、

本当に、飛行機の券ではいろいろ戸惑う旅であった。(後でまた変な券が出てくる。)

荷物の積み降ろしはホテルのドライバーさんたちも手伝っているが、一度積んだ

帰る客のトランクをまた車の方に持っていってしまったり、私達客は気が抜けない。

そのうち、到着の客とその荷物、ホテルの注文した荷などが全て揃うと、ムパタの車

3台は、誰も私たちに手を振ることもなく去っていってしまった。(少しさびしい二人。)

飛行機は、もう一機からの客の乗せ換えなどもあって、30分後の11:50、

ポレポレで出発した。マラ川、トムソンガゼルの一群、一列になったシマウマが見え、

最後は遠くに何か茶色い羚羊の群れに見送られる。上空から見るNRは、大きな道

以外にもかなりの轍が、緑色の体を走るベージュの毛細血管のように見え、

自分は散々楽しんでおきながら、心苦しく感じるのだった。