02年出雲 <第2日目>

Icon  日付
4月29日(月) くもり
ルート
 青垣町(兵庫県)→鳥取砂丘

走行距離
  108.9Km

宿泊
 サイクルターミナル鳥取(宿泊施設)

食事
 【朝食昼食】スーパーの弁当
 【夕食】みそラーメン、ビールなど


 <第2日目> ひきつった笑顔を向けることぐらいしかできなかった。

 朝7時半頃起床して、テントを出た私はいきなりブルーな気分になった。辺り一面夜露でビショビショになっていたのである。テントはビッショリと濡れており、昨夜洗って干しておいたTシャツもじっとりと濡れたまま、売れ残った鯖のようにぐったりと吊り下がっていた。(私は朝露とかは嫌いではない。むしろさわやかな朝を感じることができて好きだ。しかし、ここまで濡れているとどうも困ってしまう。)
濡れたTシャツをバッグにしまうわけにもいかず、しかたなく後ろの荷台にくくりつけて走る事にする。
 さて、走りはじめた私は30分ほどで峠にさしかかる。「遠坂峠」といって地図にも載ってるような本格的な峠だ。

(自転車乗りにとって峠とは特別な意味合いがある。ただ単に山を越えるための道、というのではなく乗り越えるべき相手というのか情熱のぶつけどころというのか、そんなところ。ときに峠を越えることが自転車旅の目的そのものになっている人もいる)

私自身に関していえば、峠が旅の目的そのものになるほどの峠好きというわけではないのだが、やはり峠を前にすると情熱を駆り立てられる。「よっしゃー!いったるでぃ!!」とイキリたってしまうのだ。


 緑色の寝袋の上にくくりつけてあるのがきのうの洗濯物・・・
 そして私はブレーキブラケットを力一杯握りしめながら重いペダルを踏みしめていく。
坂道の途中、工事(?)をしているオッチャンに「ファイトーッ!」と声を掛けられた。「イッパ〜ツ!」と答えたいところだが激坂を登っている私にはそんな余裕など微塵もなく、ひきつった笑顔を向けることぐらいしかできなかった。
つらい坂を登っている時、私はいつも思う。「もうやめよう、こんな峠越えもう一生ゴメンだ。次の休暇は絶対に家でゆっくりする。クーラーの効いた部屋から一歩もでないぞ」と。
しかし、頂上まで登りつめた瞬間、そんな思いはあっという間にどこか地球の裏側あたりまで飛んでいってしまう。つらかったことなんてすっかり忘れてしまって「峠越えって楽しいやん!」などとさわやかに言ってしまったりするのだ。
くもりの合間に時よりスカッとした晴れ間が見えた。
 遠坂峠を越えた後もひたすらダラダラと上り下りの繰り返し。
峠とかなら「越えた!」とかの喜びがあるが、なんとなく登り、なんとなく下り、という感じで今ひとつ達成感がない。しかも山の中なのでラジオもほとんど使えずただのお荷物。

そうこうしているうちに山間部にもようやく区切りが見えはじめ、10時半ごろ和田山町という市街地にたどりついた。
朝飯もまだだったのでちかくのスーパーに行き弁当(遅めの朝飯&早めの昼飯)を買って駐車場のタイヤ止めに腰掛けて食べる。

市街地を通り抜けたあとはまたもや坂、坂、坂・・・ ダラダラと続いていく。すみっこの方とはいえ、やはりここは中国山地。行けども行けども上り下りの繰り返しなのだ。あぁ平坦な道が恋しい・・・

そうこうしているうちに午後3時ごろ、ようやく鳥取との県境付近までたどり着いた。そして県越えの前に立ちはだかる本日最後の難関「蒲生峠」。
峠!そう、愛し(?)の峠である。「もうひとふんばり!」と気合を入れなおして挑むも意外と低くて15分ほどであっさり登りきってしまった。
 峠を越えるとそこは鳥取県。この日の目的地「鳥取砂丘」は目と鼻の先。丸1日漕いで疲れているにも関わらず自然と元気がでてきてどんどんとペースをあげていく。
やがて風が塩の香りを帯びてきて目の前に海が見えてくる。そう、日本海だ。この日はどうも天気がくずれかかっていて、かなり風がきつく海は荒れていた。
大きな波が打ち寄せる海岸ぞいを走り、やがてかの有名な鳥取砂丘にたどり着いた。私は何度か鳥取には来たことがあるのだが、なかなか機会がなくて砂丘はこれがはじめてだった。
聞いたところによるとここには観光用のラクダがいてお金を払えば乗れるそうなのだが、この時はすでに夕方であったため残念ながらもう撤収したあとのようだった。
 湿った風がとても気持ちよかった。


 ここは砂丘海岸。風が強く、波は荒れていた。
 せっかく砂丘にきたのだからゆっくり見て回りたかったのだが、なにぶん今夜の宿も決まっていない根無し草。そろそろ日もだいぶ傾いており、日没はもうすぐなので早く場所を見つけて野営の準備をしなければならない。砂丘観光もそこそこに切り上げてとりあえず近くのキャンプ場をあたってみた。
幸い砂丘のとなりに市が運営している無料のキャンプ場があり、そこにテントを張ることにした。
強い風の中テントを張るのは結構大変で私の一人用の小さなテントは強風に煽られて何度もふっとびそうになった。


せっかくテントを張ったのにすぐ移動した。
 テントを張り終えたあとはいつものごとく薪集めにかかる。
と、そのころである。遠くの方からゴロゴロと遠雷が聞こえてきた。空を見るといつの間にかどんよりと雲が低くたれこめており、今にも雨が降ってきそうな気配である。
「やばいなぁ・・」雨の中のキャンプというのはとにかく憂鬱だ。テントの下は浸水してビチャビチャになり、しかも夜だと気温がグッと下がってしまう。

とにかく雨が降っては大変なのでどこか屋根のあるところにテントを移すことにした。
「そういえば、このキャンプ場のすぐ横になんか公共施設みたいなのがあったけな」
とりあえずそこに行ってみることにした。
 そこの施設に行ってみてビックリ、それまで全く気付かなかったのだがその施設は「サイクリングターミナル」というサイクリストのための施設で、宿泊もできるとのこと。
 しかも結構安くて、素泊まりで一泊2,500円。これは泊まるしかないだろう、ということで即決。とにかくこれで雨がしのげると思うとホッとしてしまいその反動で疲れがどっとでてきた。
食事は近くにあるラーメン屋「ラーメン大王」というところでみそラーメン+ライスを食べた。
帰り道で500mLの缶ビール2本とおつまみを少々買って帰り、風呂の後にグビッと飲んで深い深い眠りについた。




「酒屋のおっちゃん」
 晩飯のラーメン屋からの帰り道、酒屋にビールを買いに行った。
その酒屋は酒の他に野菜なども売っているような店で、小さな店にところ狭しと並べられていた。私のキャンプでの食事は最近かなりワンパターン化してきていたので、ここらでいっちょ新しい食材でも探すことにした。
キャベツ、ピーマン、たまねぎ・・・  火を通さずに簡単に調理できて, しかもおいしいものはないだろうか。と、そのときカゴの中に無造作に並べられている長いもを発見!
しかし実は私、長いもはどうやって食べるものか知らなかった。山いもならば家でもよく食べるのだが、同じように生で食べれるのだろうか・・・。
恥をしのんで店のオッチャンに訊いてみることにした。(聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥・・・)

「あのぅ、長いもってどうやって食べるんですか?」
「そのまま切ってしょう油をつけて食べたり、すりおろしても食べれるよ。食べてみる?」
「え・・・!?」
「ちょっとお母さん!小皿にしょう油持ってきて!」 とまどう私を尻目に売り物の長いもを包丁で切り始めた。
「ほれ、食べてみんさい」 と箸を渡された。食べてみると、これが実にうまい。
「いやー、んまいっすねぇ。」
「これはねぇ、かつおぶしなんかをかけるとおいしいんだよ」 店のかつおぶしの袋を開けてかけてくれる。
「あとね、鳥取には『豆腐ちくわ』ていうのがあるんだよ」 とまた奥から変わったちくわを持ってきた。(もちろん売り物)
これは戦時中食料が不足した時に魚のすり身の代わりに豆腐でちくわを作っていたらしく、その手法が今も残っているとのことだが、なかなかおいしかった。
この後もキュウリやら細ネギやら次々に出てきて店のカウンターはちょっとした小料理屋のようになったのだった。

都会のスーパーでは見られないあたたかい風景である。
1日目へ1日目へ3日目へ3日目へ