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1.春から冬へ。 23:00新宿発、新潟行きの快速列車「ムーンライトえちご」は桜満開の東京を離れ、冬の終わっていないであろう東北方面へと走り始めた。東北ではまだ桜は咲いていないし、せっかくの桜の時期を逃してしまうようで残念ではあったが、この旅行も随分長い間、心待ちにしていたことだし、と自分を納得させながらの出発となった。相変わらずの、鈍行列車好きの僕に付き合ってくれるのは、昨年の青森鈍行列車の旅に続き、会社の同期の藤井氏である。今回の旅の目的地は、秋田・乳頭温泉郷と青森・黄金崎不老ふ死温泉。両方とも、テレビや雑誌で全国温泉ランキングのような企画がある場合に、必ず上位に入る名湯なのである。そもそも乳頭温泉郷には、こんな時期に来る予定ではなかった。ほんとは去年に予約を取ろうとしたのだけど、10月時点で「来年の4月まで空室はありません」と言われ、その時は代わりに山形・銀山温泉へ行ったのだ。しかし、そんなに予約が取れないならと、最速の4月に予約をあらかじめ入れておいたというわけだ。半年前の予約なんて、した事さえ忘れてしまいそうですよね。でも、その日がとうとうやってきた。 2.日本海の風景、四月の東北。 夜行列車は夜中のうちに本州を縦断し、新潟県を走っていた。夜が空けて、線路から見える初春の日本海はどんよりと曇っていたが、むしろそれが日本海らしくて良い。第一、「日本海」という名前が良い。演歌な感じが「日本を旅しているなぁ」と思わせてくれる。新潟辺りを北上している時に、海の向こうに島が見えた。佐渡島かな?なんて、地図でしか見た事ない島を推測してみる感じとか、知らないところを旅している感じが好きなのである。電車はそんな風に心地よく僕らを揺らし、昼過ぎには秋田に到着した。新宿からざっと14時間かかったおかげで、遠いところにやってきた、そんな感じがちゃんとする。そこから、新幹線に乗り換えて田沢湖駅に行き、あとは路線バスに身をゆだねる。東北はまだ雪の中かなと思っていたのだけど、平野部には雪なんかちっとも積もっていなかった。線路沿いに立つ桜の木の枝には、もうすぐ開きそうなつぼみがたくさんついてはいるものの、まだ花は開いていない。4月初旬の東北は、雪も積もっていなければ、桜も咲いていない中途半端な季節のようだ。そんなことを考えながら路線バスに乗っていたのだけど、バスが山奥に進むに連れて雪がどんどん増えて行き、目的地の乳頭温泉郷は立派に冬景色であった。 3.秘湯・乳頭温泉郷 雪で真っ白な山奥の一件宿の入り口には「秘湯・乳頭温泉」と看板が立っていた。自分で「秘湯」っていうのもどうかね、と思いながらもその趣はさすがであった。その昔、戦国大名が湯治に来た際に家来達が泊まったという建物がそのまま残っているという、根拠ある木造の建物群はうわさに違わず良い雰囲気をかもし出していた。案内されて入った建物の中も、古い建築らしく良い感じにゆがんでいる。秘湯の中の秘湯として全国に紹介されつづけた一昨年に比べ、昨年はブームも去った感があったが、相変わらず週末の予約は半年後まで埋まっているとのことだった。本当の秘湯ではなくなってしまったとは言え、いいものはいい。昔ながらの畳敷きの客室で少しくつろいだあとは、ここ鶴の湯ご自慢の混浴露天風呂へ。宿の人は「雪が降っててびっくりしたでしょ。普通、この時期にはもうふらねえんだけども」と言っていた。この時期に雪が降るのは、秋田の山奥と言えどもやっぱり珍しいことらしい。でもおかげで、露天風呂は真っ白な雪景色の山に囲まれていて雰囲気を出していた。そこには都会からやってきたおじさんたちが、白濁の湯で目を瞑り身を沈めている。雪の中の露天風呂。白濁のお湯。歴史のある純田舎和風建築。質素ながら素材の生かされた食事。日本的スローライフを盛りたてる条件がそろいにそろった、静かな静かな宿であった。僕たちは田沢湖駅前の酒屋から買ってきた、米所の東北ならではの「生酒(熱処理されていないお酒!うまい!)」を一升瓶で浴びるように飲んで、風呂に入り、また酒を飲んで、また風呂に入る。 4.混浴露天風呂にて 夜になると、混浴露天風呂には女性の姿も見られ始める。混浴露天風呂というのは、なんだか人間が一段階、動物に戻ったようで良い。お猿さんのようなのである。でもさすがに男女の友人同士というのはあんまり見かけたことがなく、大抵はカップルか夫婦かが、仲良く並んで入っている。今日も何組かのカップルや夫婦が一緒に入っていたのだけど、ふと先に上がった若い女性が、裸でタオルを絞っている後姿が、湯煙の向こうにうっすらと見えた。なんだか風流だなぁと思った。つい最近の温泉ブームが来るまでは、東北の温泉というのは混浴が当たり前だったと聞く。ここ2、3年で、東京などの混浴に慣れない人達が来ることも増え、混浴のみだった温泉宿も女性専用を設けるようになってきたのだとか。ほんとは、混浴が当たり前の方が風流でいいのだけどと思うのは男の勝手だろうか。東北の文化がそうであるならそのままの方が良いのに。ああやって、後姿を隠しもせずにタオルを絞る姿は、なかなか粋だと思うのだけどなぁ。タオルを絞り終えると、その後姿はすぐに脱衣所の方に消えていった。また男だけになった混浴露天風呂で、酒に酔った脳みそを寒空で少しだけ覚まして、部屋に戻った。 |
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