亡くなってしまった僕の親友は、その当時レンタルビデオ屋に勤めていて、福岡から上京する僕に何か映画をひとつプレゼントしたいと言った。彼と僕は一緒に音楽をやっていたので音楽関連のビデオが良いと思い、当時評判の高かった「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」という映画をお願いした。キューバの忘れ去られた老音楽家達がアメリカ人ギタリストの呼びかけにより、ブエナビスタ・ソシアルクラブというバンドを結成し、ひとつのCDを作り上げ、最後はNYのカーネギーホールでライブをするまでのドキュメント映画だ。彼は約束通りVHSテープにそれをダビングし、丁寧な文字で題名が書いてあるラベルを貼って僕にもたせてくれた(それは僕の東京生活で最初に見た映画となり、また彼からもらった最後のプレゼントとなった)。映画のなかでキューバ音楽の重鎮、コンパイ=セグンドはシガーをくわえながらこう言った。「人生は花と女とロマンスだ」。カーネギーホールでのライブ前に、NYを観光していたイブライム=フェイレールは、初めて訪れた街の摩天楼に目を白黒させながら「明日から英語の勉強をはじめることにするよ」と真剣な顔で嬉しそうに言った。どちらも当時90才近い老音楽家達の言葉だ。僕も彼も、そんなセリフを口にする爺さん達や彼等の音楽自体をとてもかっこいいと思った。彼等の住む国の首都ハバナには、彼等ならずとも街中にが音楽で溢れているという。ラム酒とシガーとムシカの国。酒とタバコと音楽の国、悪いはずがなかろう。長い間、最も訪れたい国として海外旅行候補地ナンバーワンに君臨し続けながらも、その遠さとコストの高さから実現できずにいたが、ようやくその時を迎えることができた。書くべきか迷ったのだが、真実は結局のところひとつなので書こうと思う。ハバナとは僕にとって、僕といなくなってしまった親友との未だ見ぬ、しかし思い出の街なのだ。 |
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