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■ ■ ■ 本の中のあの風景を探して 〜 モロッコ 〜 ■
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一番何度も繰り返して読んでいる本は、サン・テグジュペリの書いた「星の王子さま」かもしれない。20〜30分程で読めてしまうくらいの短い物語なので、ふと読みたい気分になる度に手に取っている。
作家本人の描いた挿絵もなかなか味があり、日本語のもの以外にも、英語版・フランス語版・オールカラー版など何冊か持っている。
この本は、小学生でも簡単に読めるようなシンプルなストーリー。だけど実は、私は子供の頃はちっとも面白いと感じられなくて、何度も読みかけては結局最後まで読みきることはなかった。それがなぜか二十歳を過ぎた頃、何気なく本棚の端からこの本を見付け、久し振りに読んでみようと思った。
初めてきちんと読んだその物語は、キラキラとした透明感と胸をキュッとつねられるような切なさで満たされていて、心がつ〜んとなり泣けてきた。
この物語は、飛行士でもあった作者が親友に向けて送ったものとして、冒頭に献辞が書かれている。その中に次のような文がある。
〜おとなは、だれも、はじめは子どもだった。
しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。〜
そうだ。
子供だった頃の私には、この本の中で王子さまの語る言葉などは、当たり前の事過ぎて、ちっとも面白く感じられなかったのかもしれない。そして、その頃の気持ちを忘れかけた今の私に、この物語は読む度に何かを気付かせてくれる。
この物語の舞台になっているサハラ砂漠を1度見てみたくて、私は思いきってアフリカ大陸の端の国、モロッコへと旅立った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
砂漠までは、案の定遠い道のりだった。
飛行機を3本乗り継いで、深夜モロッコに到着。次の日からパジェロと運転手さんを3日間お願いしてマラケシュの赤い街を出発し、ひたすらアトラス山脈を越える旅。
初めて目にする道中の景色も素晴らしかったんだけど、中略。
荒涼とした大地にそろそろ飽きてきた頃、地平線の向こうに突然現れた砂漠の端っこは、こんもりとオレンジ色に輝いていた。
車で入れるのはここまで。ここからはラクダに乗り換えて砂漠を行く。その日は、砂漠の中のテントで一泊することにしていた。
世界中から集ってきた旅人達30人程でキャラバンを組み、一列に繋がってゆっくりゆっくりラクダは進む。30分も行くと、一面もう見渡す限りの砂漠!いくつにも連なる砂丘の稜線はくっきりと切り立っていて、風が吹くとサラサラとその形を変える。砂が流れ落ち、行き止まると、またピタッと静寂がやってくる。
光を受けて輝いてる側と影になっている側とのコントラストや、静かな砂の動きを見逃したくないという気持ちをこらえて、目を閉じてみる。
ラクダの揺れに身を任す。
視覚を閉ざし、音に意識を集中すると、まるで風が歌っているみたい。
あまりに雑音の多い毎日の暮らしの中では、こんな風の音を聴くことはなかった。
目を閉じたり開いたりして、風景と風の歌とをかわるがわる楽しんでるうちに、宿泊するテント(といっても、砂漠に差し込んだ柱(棒?)に大きな布を覆い被せただけのもの…)に到着。
どんなんでもテントの中ってわくわくする!
その中で、タジン(モロッコの煮込み料理)を美味しく食べたり、現地の男の子にジャンベ(打楽器)の叩き方を教わったり。その後は砂漠でバック転や相撲をして大笑いしながら転がりまわったりしてるうちに、気付けばとっぷりと日が暮れていた。
明るい月のため、星の数はびっくりするほどは多くはなかったけど、それでも空一面の星がリンリンと鳴ってる音が今にも聞こえてきそうなくらい静かで美しい夜。
たった一晩だけの砂漠での夜を存分に楽しみ、テントに戻る。
テントの中にまで砂が吹き込んでくる為、ターバンで顔をぐるぐる巻きにし、その上からサングラスを掛けたままスゴイ格好で浅い眠りについた。
“夢のような現実”と“夢”との境目のハッキリしないまま、砂まみれになりながら少しだけ眠った。
明け方、朝日が昇るのを見るため外に出てみると、ちょうど東の空が白じんできていた。
西の方を振り返ると、2本のゆるやかな曲線からなる砂丘の上に、夜から朝へのバトンタッチをまかされた最後の星が1つだけハッキリと光っている。
「あ、ここだったのかもしれない。」
それは、何度も読んだ「星の王子さま」の最後のページの挿絵の風景そのものだった。
「ほらっ!」っていう誰かの声で指差す方を見ると、地平線の向こうから強力な光の点が生まれ、真っ直ぐにぐんぐん昇っていく。ちょうど私達の真っ正面から顔を出す太陽は、どんどん大きくなりながら、こっちに近付いてくるような気さえした。
しばらく風に吹かれながらその風景に見とれているうちに、すっかり辺りが明るくなり、キャラバンも出発の準備で慌しくなった。
また新しい一日が動き出す。
振り返ると、さっきの星はもう消えていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
旅の間あまりお土産を買えなかった私は、会社の先輩へのお土産代わりに、何冊か持っている「星の王子さま」のうちの一冊をプレゼントした。
最後のページの砂丘の部分に、持ち帰ってきたサハラ砂漠の砂をびっちり貼りつけて。
しばらくして、その先輩のお子さんが、その本を読み夏休みの読書感想文を書いたと聞いて、ちょっと嬉しかった。
物語に出てくる王子さまと同じくらいの年令のその男の子は、いったいどんな事を感じて、どんな感想文を書いたんだろう?
そして彼は大人になった時に、この本の事を覚えていてくれるだろうか?
今夜もあの砂丘の上で、あの星は光ってるのだろうか?
('02/7/29)
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