*第3章 旅が動き出す *


早朝、ぼったくりホテルを抜け出し、
なんとかデリー駅前のメインバザールの辺りにやってきた。
細い路地を野良牛がの〜んびり歩き、車がけたたましいクラクションを響かせ、その隙間を縫うようにバイクやリキシャが走る。野菜売りは道に広げたゴザに土にまみれた野菜を並べ、年季のはいったやかんで作ったチャイを売ってる店先には人が群がり井戸端会議。荷台に山盛りに盛られたライムを絞った生ジュースも美味しそうだ。

そうだそうだ、この感じ!
埃っぽい町の動き出した新しい一日の始まりの活気にワクワクしてくる。
昨晩の悪夢は忘れよう。気を取り直して、さぁ行こう!

このデリーの街はさっさと抜け出して、今日はここから電車で3時間ほどのアグラという町に向かうつもり。あのタージマハールのある町だ。せっかくインドに来たからには、ターバンの形をも思い出させるインドっぽさナンバーワンの建物を是非とも一目見てみたい。

バカでっかいデリー駅は、用事があるんだか無いんだか分からない人達がうようよ溢れてる。外国人専用の予約カウンターが駅の2階にあるらしいので、チケットを取るのはそんなに難しくはないだろう。“でもそこに辿り着ける人は半分くらい”って誰かの旅日記に書いてあったけど、それはいったいどういう事だろう?と思いつつ、広〜い駅構内を歩き回り、2階に上がる階段を探す。
すると、たちまちたくさんの人達がわらわらと寄ってきて、
「今日は2階のカウンターは休みだよ。」とか、
「外国人カウンターは、あっちに移ったよ。」(と、自分達の旅行代理店のオフィスを指す)と言ってくる。
こういう事か・・・。
「自分で確認するからいいよ。」と、無理に進み階段を見つけて上がろうとする。
と、今度はみんなで通せんぼを始めるのだ!
通せんぼって・・・。めっちゃ久し振り。
しかし、そんなじゃれ合ってる暇はございません。

おっちゃん達の通せんぼ包囲網を強行突破し、なんとか2階カウンターに。
やっぱりちゃんとあるんじゃん、やってるじゃん!
でも係の人は無愛想で、時刻表の読み方も分かりにくく一苦労。
やっと申込み用紙に記入しカウンターに出すと、「下の19番窓口に行け。」との事。
あれれ?と取合えず下に降り19番窓口を探すけど、窓口は18番までしか無い。
すると、またあちこちから「19番窓口を探してるんだろ?こっちだ。」との声が。
ついて行くとそこは駅の外にある旅行代理店。
一応、手書きの『No.19』って紙切れが壁に貼ってある。
ここって、正規の売場じゃないんでは?と思いつつも、念の為チケットの事を尋ねる。
と、「一等席しか空いてない。」なんて言いながら、また法外な値段を言ってくる。
あ〜、もう、ここも違う!信用ならない!

もう、段々訳がわかんなくなってきた〜。
昨日の空港バスといい、さっきのチケットカウンターといい、どこまでがホントでオフィシャルで、どこからがウソでボッタクリなのか、その境目さえ分からない。
そうこうしてるうちに、太陽はどんどん真上に昇り、ギラギラと容赦なく照り付けてくる。
気温はなんと40度を越えている!
あ〜、頭がクラクラしてきた・・・。

クラクラしながら途方にくれてると、同じくクラクラと途方にくれてる日本人の男の子を発見。あぁ、日本人だ!昨晩インドに着いたばっかりだけど、日本人に会うのがとっても懐かしい気がする。「チケット買おうとしてるんですよねぇ。買い方分かります?」どちらからとも無く、助けを求めるように声をかけた。

彼は東京からやってきたエダッチ君。GW休みを利用し一週間ほど旅の予定とのこと。
私と同じく、昨日デリーに着いたばかりで、今日のうちにアグラに行こうと思ってるらしい。
一緒に、もう一度チケット購入にトライ!チケットカウンターに再び行くと、また別の日本人の男の子2人組(バン君&ナイケン君)もいた。彼らも、同じく東京から昨日到着したばかりの社会人バックパッカー。そして、やはり昨晩は私と同じような目にあったらしい。(彼らの場合、無理矢理オートリキシャから降りようとしたら殴られたらしい。おぉ怖い。)

私達、会社員バックパッカーのつらいところは、帰る日が決まっていて、しかも非常に短期間だという事。ホントはもっとゆっくり旅がしたいし、それが可能なら、移動のための交通手段の確保だって「いつになってもいいや〜」というノリでのんびり楽しめば良い。
でも現実的には、帰る日も決まっていて時間にゆとりがない…そこが一番つけ込まれてしまう弱みなんだよなぁ。

なんとか今度は4人で力を合わせ、今日の夕方のアグラ行きのチケットを手に入れた。
良かった、ホントに良かった。
ホッとして電車出発の時間まで、まずご飯を食べ、市内観光に。

「あぁ、やっと旅が動き出した…。」相変わらずすごい人込みの道をリュックを背負って歩きながら、誰かがポツリと言う。
ホントだ。デリー駅で電車のチケットさえ買うことが出来ない…と思った時には、全く先が見えなかったもんなぁ。帰りの飛行機はカルカッタ発なので、デリーから抜け出せないままだと、帰国さえままならない。さっきまで不安と焦りでいっぱいだった。
「はぁ〜。ホントだ。やっと旅が動き出したね!」
私も、肩で大きく呼吸をしながら声に出してみる。
すると、今まで縮こまっていた心がパァっと開け、もりもり力が沸いてきた。
「動〜き出した、動〜き出した、わ〜いわ〜い♪」 思わず変な節で歌ってしまう。
好奇心いっぱいのインド人のおっちゃん達の無遠慮な視線をいっせいに浴びる。
でももう慣れた。全然へっちゃら。
一日でかなり免疫がついた自分にちょっと驚く。

さぁ、やっと旅が動き出す!

アグラ行きの電車から。のどかな車窓

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