*第5章 チャイで乾杯 *
インドで一番行ってみたい街。
それは、ガンジス河が流れるヒンドゥー教の聖地バラナシだ。
とにかくそこまでガンガン進んで、バラナシでちょっとノンビリしよう。
という訳で、バラナシまでの交通手段の確保がまず今日最初の大仕事。
他のみんなも、バラナシ経由でそれぞれの目的地に進むつもりとの事。
チケット手配の為、さっそく4人で駅に向かう。
こじんまりとしたアグラ駅構内のインフォメーションカウンターはすぐに見付かっ
た。
カウンター内には数人のおっちゃん達がいて、のんびりとおしゃべりをしていた。
チケットの事を尋ねると「OK!OK!着いてきて。」と、歩き出す。なぜか駅を出てずん
ずん歩き、気付くとおっちゃんの経営する小さな旅行会社に着いた。
「あれ?ここおっちゃんのオフィス?おっちゃん、さっき駅のカウンターにいたよ
ねぇ。駅の人じゃないの?」
「駅の人とは友達だから、No Problemさ!」
???う〜ん。私達はNo Problemじゃないんだけどな…。
まったくインドに来てからず〜っと、私が日本で常識と思っていた事がことごとく覆
されていく。なんだかもう面倒くさいし、流れに身を任すのもいいかもな。だんだん
そう思い始めてきた。
ちんぷんかんぷんのまま、一応おっちゃんのオフィスで各自それぞれ希望のチケット
の空席の有無を確認してもらい、値段を聞いてみる。
あらかじめ調べておいた値段とあまり変わらないし、手数料を考えると正当な価格か
な。取り合えずバラナシまでの今晩の寝台電車のチケットを申し込む。チケットの手
配の大変さにこりごりしているエダッチ・バンくん・ナイケンくんの3人は、バラナ
シ以降、帰国までのルートの全チケットをここで申し込んだ。
すぐチケットがもらえるのかと思ったら、前金としてそれぞれ1,000ルピー(約
3,000円)支払わなきゃならないらしい。チケットは、その後おっちゃんが駅に
買いに行くから、夕方またここに取りに来いとの事。
しかも、バラナシまでの寝台電車は、ここアグラの駅からではなく、車で1時間程か
かる別の駅から乗らなければならないそうだ。
さて、ここでまた少し不安になる。
今1,000ルピーも支払って、夕方このオフィスに戻ってきた時に、ちゃんとチ
ケットは準備されてるんだろうか?
誰も居ないなんてことはないんだろうか?
ここから駅までの車の手配もお願いしたんだけど、そのドライバーさんは真っ直ぐと
駅に連れていってくれるんだろうか?
無事駅に着いたとして、手にしたチケットは果たして本物なんだろうか?
疑いだしたらキリがない。
「どうする?」他の3人も少し躊躇してるよう。
でも今回は一人ではないし、このおっちゃんに賭けてみよう。
やっと商談成立で、みんな少しホッとする。
「チャイでもどうだ?」おっちゃんがすぐ前の道端のチャイ(インド式ミルクティー:
どこの街角でも売られている最も一般的な飲み物)屋のおじいさんに人数分のチャイ
をオーダーし、私達みんなに振舞ってくれた。
熱くて甘くてとっても美味しい!
心のトゲトゲもまろやかに流してくれる様な優しい味だ。
「美味し〜!ありがとう!おっちゃん達は一日どのくらいチャイを飲むの?」
私達と一緒にチャイをすすってる旅行会社のおっちゃんに尋ねてみる。
「数え切れないほど飲むよ。特に俺はね。君らみたいな旅行者にご馳走する度に、睡
眠薬など入ってなくて安全だという事を証明する為に一緒に飲むからね。」
そっか…。騙され続けで疲れ気味の私達だったけど、旅行者相手に商売をしている方
にもそれなりの苦労や努力があるんだなぁと知る。
信用するのも疑うのも、信用されるのも疑われるのも、騙すのも騙されるのも、
結局自分の責任で自分が決める事。
そう思うと小さな度胸がわき、大きな覚悟ができた。
「チャイは気にいったか?もう1杯どうだ?」
遠慮無く2杯目のチャイをいただき、チケットが無事手配できた事のお礼と、私達の
これから旅の安全を願って、みんなであらためて乾杯する。
photo by エダッチ
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