*第7章 人気者になった午後、

透明人間になった夜 *


タージ・マハールにきている。
歩きにくい足袋をはき、50℃近くの暑さにクラクラしながらも、大迫力の美しい建物 に感動!

思ったより外国人の観光客は少なく、ほとんどが小奇麗で金持ちそうなインド人の ようだ。
私達が交代で記念写真をとっていると、インド人のカップルに声をかけられた。自分 達の持ってるカメラを指差して何か言っている。「建物をバックに2人の写真をとっ てくれ。」と言うことかな?OK、OK、お安いご用。
私がカメラを受け取ろうとすると、「違う違う、君と一緒に撮りたいんだ!」とのこ と。
えっ?!別にいいけど、なんで???
男性の方がにっこりとカメラを構え、美しいサリー姿の女性と2人並ばされる。 「ハイ、こっちむいて。もうちょっと近付いて。はいチーズ!」
その様子を見ていた他のインド人観光客達も、なぜか「私も。」「私も。」と次々と列を なす。「ちょっと肩組んでみて。」など、ポーズも指定されたりして。
なんなんだ?!この人気振り!色が白くて彫りが浅い、インド人と対極のこの顔つき がめずらしいのだろか?
「おいおい、エライ人気者じゃん!」と、旅の道連れエダッチ達にもからかわれる。

やっと写真撮影会が一段落。
その後、うろうろと歩き疲れた私達は、日陰になってる地べたに座りついてしばし休 憩。
するとまた、わらわらと大人数のインド人大家族に私だけ囲まれる。あっという 間に私の腕の中には、たくさんのチビッコ達が抱かれていた。
「ハイ、チーズ!」「こっちのカメラも見て!」
う〜ん、よく分からん、この人気振り。でも、もしかして、今、人生で一番モテモテ の瞬間かも?そう思いながら、狐につままれたような気持ちで、精一杯の笑顔を振り まき続けた。

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

夕方、荷物をまとめ、チケット手配をお願いしていた旅行会社に。
おっちゃんは、ちゃんとチケットを準備して待っていてくれた。
最後のチャイをご馳走になりながら、時間までインドの話をいろいろ聞く。

次の目的地バラナシまでの夜行電車に乗る駅までは、ここから車で1時間。
おっちゃんと、ここアグラの街に別れを告げ、4人で車に乗り込む。

少し行くと、景色はすっかり荒涼とした大草原になった。
大きな夕陽が地平線にゆっくり落ちていく。
仕事を終えた人達だろうか、荷台にてんこもりの男達を乗せたトラックや、4、5人 乗りのバイクが、私達の車をどんどん追い越していく。

日がとっぷりと暮れた頃、突然すごい人込みの町に通りかかる。
裸電球に照らされた屋台は、群がる人達でごったがえしている。
観光地ではない日常のインドのパワフルな生活を垣間見た感じ。
今生きるために、ただ生きている姿。
それは、人間だけでなく、そこら中歩き回り残 飯をあさっている野良犬、野ブタ、ノラ牛、イノシシ、野孔雀(!)などなど、人間 以外の動物達も一緒だ。

数日前インドに到着して以来、ついさっきまで、常にジロジロと好奇心丸出しの突刺 すような視線に囲まれ、絶えず誰かに話しかけられてきた。 だけど、今は、誰にも見えない車カプセルに乗って、すーっと、名も知らない町の風 景を通りすぎている。

この風景は、どのくらい前から続いているんだろう?
そして、この先もずっと続いて いくんだろうか?
自分の中を通り過ぎていくインドの風景や熱を感じながら、時間軸を行ったり来たり している錯覚を感じた。なんだか透明人間になったような気分。
自分の存在が、流れ ていく景色に溶けていく。
人間一人の小ささや、その人生の儚さをぼんやりと思い、心細いような、ちょっと気 楽なような気持ちになる。
それでも与えられた1日1日を生きていく事の逞しさや尊 さをしみじみと思う。
他のみんなも、ただ黙って車窓の風景を眺めている。
さぁ、明日はバラナシ。どんな日が待っているんだろう。
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