*第9章 バラナシ散歩 *
気持ちのいいお昼寝から目覚める。
今までの疲れが一気にリセットされ、生まれ変わったようなすがすがしさ。
一緒の宿にチェックインした他の男の子達は、荷物の片付けをしたり順番にシャワー
を浴びたりと、まだのんびりしているようだ。では、一足お先に一人で散歩に出掛け
ようっと!
ガンガーの岸の石段状のガートから奥に入ると、人がすれ違うのがやっとの狭い路地
が川の流れと並行に続いている。路地の両脇には、日用雑貨屋や食堂や闇両替屋や安
宿等がごちゃごちゃと建ち並び、たくさんのカラフルな看板が彩りを添えている。
サリー姿の買物中のおばさん、暇そうに座りついているおじさん、クリケットの練習
中の子供達、小汚い格好の旅人らしき人、いろんな人達が行き来していてワクワクす
る。
そして、最も我が物顔で堂々と歩いているのがたくさんの牛!
ヒンドゥー教では牛は聖なる動物なので、食べられる事も殺される事もなく、そこら
中に野良牛がうろうろしているのだ。狭い路地で大きな牛とすれ違う時はヒヤヒヤも
の!やっと通り過ぎたと思って安心したら、しっぽでピシッとはたかれたりする。角
で突付かれたって子もいた。そのうえ足元にも注意していないと、うっかり牛のフン
を踏んでしまうので危険!
そういう意味でも、か〜なりエキサイティングな路地だ。
このメインの路地からは、もっと細く怪しい感じの道(というか隙間?)がいくつも
枝分かれしている。把握しきれないほどグチャグチャに入り組んでいて、まるで迷路
の様。気の向くまま勘に任せてあちこち歩き回っていると、ふと目の前にガンガーの
景色が開け、不意にスポッとガートに抜けたりする。どこにいるのか分からなくなっ
たら、とにかく河に抜ける道を探しさえすればいいのだ。
いつもどこでも迷子になりまくりの方向オンチの私だけど、ここでは安心してちょっ
と楽しい迷子の世界を満喫できそう。
猥雑で刺激的な町の様子といい、迷子になった時の対処法といい、歩き回れる程度の
町の規模といい、ここバラナシは“お散歩ランキング★★★★★(5つ星)”の町だ
!今日まで急ぎ足でここまで進んできたけど、数日間ここで散歩などしながらのんび
り過ごすことにしよう。
町の空気を感じて相性を確認し、満足して宿に戻る。
エダッチ達はランチを食べに出掛けたみたいで、どうやら入れ違いになってしまった
ようだ。あらら、残念。
じゃあ、また散歩に出掛けよ〜とっ!
マイペースなやつ
カラフルにペイントされた塀
そこら中、神様だらけ
≪後日談≫
実は、この時のランチはたぶん運命の分かれ目だったみたい。
帰国後に聞いた話によると、私以外の男の子達はこの日から一人づつ順番にお腹の調
子が悪くなっていったらしい。帰国時、空港での検査で赤痢が発覚した子や、帰国後
一週間程たって体調を壊し入院した子までいる…。
恐るべしインド。恐るべし私の体力&強運。
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宿を出て、路地に入ってしばらく行くと、インターネットカフェを発見!
ホント最近は大概どこに行ってもネットカフェがある。
便利な世の中になったもんだ。
そう言えば、インドに来て以来ずっとバタバタしていて、実家に到着の報告をするの
を忘れてた。
学生の頃、初めての一人旅で北海道に行こうと決めた時は、「見聞を広めて来なさい
!」と温かく賛成してくれた両親だけど、まさかこんなにいつまでもいろんなところ
で見聞を広め続ける娘になるとは想像も出来なかったことだろう…。
いらない心配をかけないよう、“無事だよ〜”というメールを送っておこう。
パソコンを数台並べただけの小さい建物に入ってみる。
お店のおじさん以外、全然誰もいなくって、パソコンの電源も入ってないぞ?
そう言えば、ここバラナシは、電力量が極端に不足している為、昼間は数時間停電に
なるんだった。
「あの〜、メール送りたいだけど、今、無理ですよね?」
そう言うと、おじさんはニッコリ「OK!OK!」と微笑み、店の奥に設置してある
大きなモーターのようなものをブルルルル〜ンと回
し始めた。自家発電機だ!わざわざスイマセン…。
「まぁ、座って待ってて。」
そう言われ、頼りなさげなイスに腰掛ける。
ドテッ!
壊れてる…。イスから転んだの久し振り。コントみたい。
やっとパソコンに電源が入る。
ジャジャジャ〜ン!と大音響とともに現れた画面
は、サイケデリックなヒンドゥ教の神様の大きな絵!わぉ、びっくりした!
こんなトコにまで神様が…。
こんな壁紙でした。
なんとかメールを打ち終わり、いざ送信ボタンをクリック!
と、その瞬間…キュゥ〜ン、と電源が落ちる。
まだ送信してないのに、また停電。く〜、ショック。
振り返っておじさんを見ると、苦笑いしてる。
でもでも、なんだか面白い!たたみ掛けるような、この展開。
メール一つ送るだけでも、ツッコミどころ満載だ。
「自家発電かよっ!」、
「イス壊れてるのかよっ!」、
「壁紙まで神様かよっ!」、
「よりによって送信前に停電かよっ!」
…と、“さまぁ〜ず三村風”に一人ツッコミ
を入れてみる。
期待しなくても、大きな事から小さな事まで次々と予想外の出来事が起こるこの国で
は、この一人ツッコミ作戦は、物事を100倍楽しむ良い方法かも。
そう気付いてからは、その日の気分で“関西風”“三村風”“村上ジョージ風(←あ
まり使えない…)”など使い分ける余裕もでてきたインドの旅中盤あたり。
お世話になったネットカフェのおじちゃん。
その後毎日、通りかかるたびに声をかけてくれた。
店内で涼ませてくれたり、チャイをくれたり。
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狭く猥雑なバラナシの路地を、大人や大きな牛の合間を縫ってトコトコスタスタと歩
いてた小さな兄弟。
しっかりつないだ手と、きれいに刈り込まれた襟足のぼんのくぼがかわいくて、思わ
ず後を付けていく。
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泊まっている宿の手前の川辺にあるカフェ。
(と言っても、冷蔵庫の中からミネラルウォーターやジュースを出して、ストロー差
して飲むだけだけど。)
入り口に吊るされた風鈴の涼やかな音が、心持ち暑さを少し癒してくれる。
雨期には河から水が溢れ出し、数ヶ月もの間、1階は水に浸かるらしい。
毎年、雨が降り出したら荷物を全部2階に運び、雨期が終って水が引いたら、壁のペ
ンキを塗りなおすそうだ!
日本では考えられない厳しい自然環境の中でも、人はちゃんと順応して暮らしている
んだなぁ。
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ガンガー沿いのガート。ペイントされている所がカフェ。
何度かこの前を通るうちに、カフェの兄ちゃんとすっかり顔なじみに。
「ヘイ、ユミコ!元気か?冷たいものでも飲んでけ。」
普段はガートでおしゃべりしている店番の兄ちゃんに、通りかかる度に声をかけられ
る。
そして、インドの事など話しながら、日に何度ものんびり一服タイム。
何日か同じ町にいると、こんなふうに顔なじみができるのが楽しい。
カフェの兄ちゃん曰く、昨今のインドとパキスタンの緊迫した状況のおかげで、ここ
バラナシもすっかり観光客が減ってしまい、売上も上がったりなのだそうだ。
「ところで、日本の政治的あるいは経済的な問題は何だ。」と突然質問される。
う〜む、そんなディフィカルトなクエスチョン、日本語でも的確に答える自信ありま
せん。まして英語でなんて、ちょっと無理…。アイムソーリー。
この兄ちゃんに限った事ではないんだけど、よく旅先で何でもかんでも、「くれく
れ」と言われて困る事がある。今回も、ボールペンやらタオルやら(やっぱり日本製
は高品質らしい)目に付くものいちいち「これ、くれないか。」だの「俺のと交換し
ないか。」だのせがまれる。どうやらダメモトで言ってる口癖のようなもののよう
だ。
時計までも欲しがるので、「ダメ!これ友達からもらったんだから。」と断る。
と、急に真面目顔になり、「すまん。それは大事なものだ。大切にしろ。友達は人生
の宝だからな。」と、きっぱりと強い口調で言ったのに驚いた。
インドの人と接していると、このように「人との繋がりを大切にしてるよなぁ…。」と
感じることが多い。
もう一つドキリとした言葉。
私の10日間程の旅程や、普段の仕事や生活ぶりを聞いた後、日本人の慌しいペースに
兄ちゃんは呆れ顔。
「世の中には、お金はあるけど時間がない人がいる。一方、お金は無いけど、自由な
時間をたくさん持っている人もいる。俺は後者だか、俺はそんな自分の人生が大好き
さ。」とのこと。
* * * * * * * * * * * * *
私が去年のこのインドの旅を終えて以降、1回雨期を迎えたバラナシのこのカフェ
は、1度水浸しになった後、今は何色のペンキで塗り替えられているんだろう?
カフェの兄ちゃんは今日もまた、旅人相手にあれこれ「くれくれ」言いながら、おしゃ
べりを楽しんでるんだろうな。
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