02.十月の花
/Aoyama flower market で購入の
昔風の着物柄みたいな花。
花びらが一枚一枚弾けて開く。
最後には菊の形の和菓子みたいに。
愛おしい。
ねえ、私と一緒に行きませんか。
神社の入口で、赤と白の着物姿の女性が手招きした。
鮮やかな黄緑色のネルのショールで肩を覆って。
女性の表情を見ようとするのに、陽射しで顔が陰になっているのだ。
怖い人だったらどうしよう。
でも、着物も仕立てあがったばかりのように綺麗だし、
下駄の鼻緒にも、糊のきいた足袋にも汚れはない。
その制服は南海江高校かしら?
昔と全然変わらないのね。
懐かしいわ。
女性が白い指でそっと私の制服のリボンに触れた。
沈香の香りがふうっと鼻先をかすめる。
「卒業生の方なんですか?」
私の質問には答えずに、
女性は顔の陰の中でうふふと笑ったように思えた。
赤と白の袂から、すうっと白い手首が伸びてきて、私の手を掬いとる。
ひんやりとして、吸い付くような柔らかい指。
さあ、行きましょう。
ほんの少し怖くなって
あの、
と、とどめようとするのに、
女性のもう片方の手指が伸びてきて、
そうっと私の手をくるむと
何も言えなくなってしまった。
女性は右の手指を私の左の手指に絡めて、神社の石段をからから昇る。
寂れた神社の賽銭箱の前で立ち止まり、
女性は帯と着物の間から
千代紙でくるんだ貝の飾り紐がさがる小銭入れを取り出して
ぱちり、
と、蓋を開いて小銭を二枚取り出した。
一枚は私に。一枚はあなたに。
並んで二人で両手を合わせ、神社に向かって頭を下げる。
……でも私は、何を祈ればいいのだろう?
拠り処のない不安の中で頭を下げ、目を瞑る。
あなたは、何を祈ったかしら?
お祈りを終えると、
たった今祈った先の社の階段に腰掛けて
女性はそう訊いた。
私は首を横に振った。
彼女の表情は、夢の登場人物のようにやっぱり見えない。
私は、あなたに逢えてありがとう、って祈ったわ。
女性が私の頬に頬を押しつけた。
冷たくて、すべすべとした頬を。
海の匂いがした。
百年経って、もしも再び生まれ変われるなら。
今度は、
今度こそは私を人として産み落としてくれますね?
お母さん。
「え?」
赤と白の花模様が視界いっぱいに広がって
思わず手で目をかばうと
ごうっと風が凪ぐ。
目を開けると女性の姿がなく
濡れた足跡が社の木の階段にぺたりぺたり残っている。
足跡を辿って、社の扉を開くと
社の内部には
ご神体の代わりに小さな池があり、
赤と白の金魚が一匹。
腹を見せて浮かんでいた。
一週間前に堕した子どもを思って
一刻ほど泣いた。