13話 インドの夜
それは入居初日だった。
不安な夜を振り払うかのように、それともただ目の前の仕事を一心不乱にやっていただけなのか?
私は、ピンも釘も刺さらない白壁を相手に、洗濯物を干すヒモをどうすべきか格闘していた。
妻は夕食の準備。娘は巨大バケツのなかで水遊び。
それは何の前触れもなく起こった。心の準備もなく。
一瞬で暗闇の中へ放り出されたのだ。
インドではごくごく普通の日常茶飯事であるが、今の日本ではめったにも起こらない停電だった。
声をあげることさえ忘れさせた。

一瞬の沈黙の後、真っ先に現実に戻ってきたのは子供だった。

思い出したかのように泣き出した。

その声で、ようやく我に返った私だが、全く動くことは出来ない。
真っ暗過ぎて、一歩すら踏み出せないのだ。
子供の泣き叫ぶ声だけが無情にも闇夜に鳴り響いた。
ようやく意を決した私は、すね小僧を打ちつけながら、あちこちぶつかりながらも、
泣き声を頼りに浴室まで到達することができた。
そしてびしょ濡れの子供を抱きかかえたまま、妻とは声だけの連絡を取り合い、闇が過ぎるのを待った。
それはそれは長い長い闇だった。
何が当たり前なのだろうか?それって普通のこと?
私の中にあるあらゆる常識は、これを機にいとも簡単に崩れ始めた。

暗闇に目が慣れてきた私は、薄明かりが見える窓辺に足を進めた。

塀を隔てた向こう側に、ろうそくを灯した人々の姿が目にはいる。
廃墟の中で生活している家族だった。そこは窓もなければ、水道もないゴミ溜め同然のような廃墟。
インドでは、ごく普通の風景。停電がどうのこうのいうレベルではない。
彼らにとっては、停電とは何なのかすら分からない出来事なのだ。
30分経っただろうか、灯かりは復活した。
灯かりのありがたさを心底噛み締めた。
その後、疲れ果てた私達は、深い眠りへと落ちていくものと思われた。
ところが今度は、奴らがやって来た。ぎゃ〜〜〜〜〜o(*≧□≦)o"
集団で我々を襲いにやって来たのだ。
歓迎されることはないのに、彼らは日本でもせっせと活動している。
2003/6/6
子供はいいよね〜。こんなバケツがお風呂になるんだから・・・。(笑)