15話 サマディー
毎日が夢のように過ぎていった。

木々に囲まれた場所に座り、何もせずただただボ〜とする。

川のせせらぎでチャイを飲みながら、
日本の5月のようなさわやかな風がただただ過ぎていく。
暑くもなく、寒くもなく、半袖が心地よく、軽い心と身体がそこにあるだけ。

そんな日々が2週間ほど過ぎたある日。

同じ日にここに辿り着き、友達になった赤木さんにある場所に誘われた。
そこは和尚の遺灰が眠る場所であり、1日2回だけ入室が許可され、
1時間の瞑想タイムが行われている場所。
入室には、2,3ヶ所のチェックポイントを通過し、
ホワイトソックスを身に付けなければならない。
私語は厳禁。私は誘われるがまま、未知の空間へと足を踏み入れた。

磨き上げられた総大理石の空間。

外界の音も遮断され、異様な静寂のためか耳に何らかのプレッシャーを感じてきた。
さらなるチェックポイントを通過し、
私は和尚の慰霊を真正面に、座布団を敷き、静かに座った。
大理石に肌が触れることさえ許されない。
頭上には、水晶で作られた巨大で豪華なシャンデリアがある。
未知の領域であり、温度も18℃に設定されているためか、肌寒く、怖くなってきた。
人と人が目を合わすどころか、誰一人として外界へと意識が向かうものはいない。
意識は自分の内深くへと向かう準備に取りかかる。

そして、参加者の準備が整うと、チベタンベルの音と共に瞑想が始まる。

   チ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ン
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初めての体験だった。
静寂がこんなに怖いなんて・・・・・・。
(ちなみに、この時点で私の瞑想歴は、6〜7年。ちょっとやそっとの体験はあったのだが・・・)
とんでもなく恐ろしい場所へ来てしまった。。。。。
すぐにでも逃げ出したかった。叫びたかった。
この苛立ちをどうすればいいか・・・・・。
押しつぶされそうなほどの沈黙・・・・・。
俺は耐え切れるのか・・・・・?
このまま1時間・・・・・?。気が狂いそうだった。
空気さえ沈黙を守り、整列している感じさえする。
何一つ乱れていない。私の心以外は・・・・・・・。
息が苦しい・・・・。どうやって呼吸すればいいのか・・・・?
誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
それは隣の人ではない。10mほど離れた誰かがやってしまったのだ。

私も飲み込みたい。でも出来ない。

瞬きさえも聞こえてしまいそうな静寂。
足が痺れてきても、動かすことさえできない。
なぜ俺はここに来た?。
そして途方もない1時間はやっと・・・・・・やっと・・・・・・来てくれた。
だが私ははっきりと認識した。
自分の中にある大量のゴミたちを。溜め込んでしまったガラクタたちを。
2ヶ月は最低かかるな。」そう直感した。
大掃除を終えて、またここには来よう。
それまでは立ち入れない。そう自分を戒めた。
圧倒的な脅威にショックを受けながらも、私は底知れぬ深い感動を覚えた。

そして、私にとってここは「究極の瞑想ルーム」となった。

その場所の名を『サマディー』といった。
2003/6/11