『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月7日(水)記


 
第5号


1日目の5――伝統茶院でくつろぎの一服の巻

1999年9月6日(月)発行

 

■ インサドン[仁寺洞:Insadong]


 セブン・イレブンで買ってきたコーヒーとポカリスエットで一息つきつつ、ベッドに寝転びながら日記を少し書いて。

 6時40分。エレベーターの待時間などを考慮して、待ち合わせの時間10分前に部屋を出る。
 さっきはちょっと下の店に買い物に行く程度だったので、部屋の鍵をそのまま外に持ち出しちゃったけど・・・今回はどうしよう。

 YMCAホテルの鍵は、アクリルの四角いスティック(棒)に鍵がついているという、昔なつかしいタイプのものだった。
 少々悩んだ末に、持って出ることにする。普段、カードキーのホテルばかりで、持ち出すのが当たり前なのでそうしたのだが・・・これは後で大失敗な行動だったことに気付く。
 まあ、この時のわたしは、まだそんなことは全然知らなかった。
※Attention! かなり先になりますが、5日目に説明します。みなさんはきちんとフロントに預けましょう)

 エレベーターで1階に降りる。
 どうだろう。もう、ユンさんは来ているだろうか? メールでは眼鏡をかけた背の高い、黒いカバンを持っている人、となっていたが・・・

 若者たちであふれかえる入り口付近を見渡したが、それらしい人は見当らない。
 そしてふっとふりかえったら、そこに眼鏡をかけた背の高い、黒いカバンを持っている男の人が立っていた。お互い、しばらくじっと目を見合わせる。
 ああ、間違いない。この人がユンさんだ。

 わたしの第一声は何だったっけかな? ちょっと覚えていない。
 メールで何度も話をしているのに、「初めまして」って言うのはちょっと変かなあ? と思ったことは覚えている。だから、「こんにちは」とか言ったんじゃなかっただろうか。

 メールでしかやりとりをしたことがなかったけど、ユンさんはわたしが想像していた通り、物静かな印象の、若々しい人だった(実際にお若いです)。やはり、行間から人格ってにじみ出るものなんだなあ。

 特に「だめ」って言われなかったから紹介していいんだと思うんだけど、このユンさんとは、わたしのソウル旅日記などを読んで下さっているみなさんのことだからご存じかもしれないが、「まぐまぐ」から「韓国、何でもQ&A」というメールマガジンを発行していらっしゃるユン・ドクジュウさんのことである。

 ユンさんのメールマガジンを読んで、わたしがメールを送ったのが知り合ったきっかけだった。
 やあ、やあ、やあ、とあいさつを交わし、じゃあ、まあ、とりあえず、インサドンが近いので行ってみましょうか、ということになる。

 インサドン。ああ、確かにホテルから近かったはずだ。
 わたしはまだ土地勘がないので、距離感も方向感覚もいまひとつつかめないが、ユンさんは学生の頃、このあたりによく来ていたそうで、YMCAホテルとセブン・イレブンの間の、ガイドブックの地図には載っていない細い道を慣れた様子で歩きはじめる。

 そしてわたしはさっきから疑問でしょうがなかった、セブン・イレブンで袋をくれなかったことを訊(き)いてみた。
 ああ、うん、とユンさんはうなずきながら、「私のメールマガジンの中でも書きましたがね・・・」と言う。
 え、そうだったっけ?
 はっ。そう言われてみれば載っていたような・・・

 もう一度説明してもらうと、なんと韓国では今年の3月から、環境保護のために10平方メートル以上の店舗では使い捨てのビニール袋をタダでくれなくなったそうなのだ。
 タダでくれないということは、つまり「売って」はくれるということで、袋ならW20(約2円)くらいだそう。

 あー、そうだったんだ。
 旅行に来る前に、ユンさんのメールマガジンはまとめて読み直したのだが、どうやら見落としていたようだ。
 まさか、自分の身にそんな災難(?)がふりかかるとは思ってなかったしなあ。

 納得がいって、ちょっとホッとする。
 実はちょっとだけ、セブン・イレブンのあの店員さんにイジワルされたんじゃないかと疑っていたのだ。
 ごめん。店員さん。
 自分の黒い心を深く反省。m(_ _)m

 しかしそれならそれで、レジにその旨のお知らせを出して置かないと、多くの外国人は戸惑うのではなかろうか?
 あ、でも、もしかしたら英語とかでお知らせ、あったのかな? あったとしても、びっくりして読み下すどころじゃなかったけど。
 とにかく、わたしはソウルに来てまだかなり早い時点でそのことを知ることができてよかった。今後はできるだけ大きなバッグを持って歩こう。
※Attention! 詳しくは「韓国、何でもQ&A」#27のQ1をご参照ください)

 さて、道はネオンまばゆい路地へと入っていく。めちゃくちゃ下町、超地元Deepって感じだ。間口の狭い小さな居酒屋や食堂が、人ふたりがすれ違うのがようやっと、というような細い道に向かい合ってひしめきあっている。
 いや、すれ違うどころか、人がひとりずつしか通れないような、すっごく狭い所もあって、まるで普通の民家の玄関先を歩いているような気分。
 そこらの軒下にひょいと縁台を出して、じーちゃんふたりがうちわをあおぎながら将棋を指していても、全然違和感がないんじゃないだろうか?(実際、別の日に店先で花札をしている人たちを見かけた)。

 本当にいいのかな、ここ通って、と思ってたら、バルルンと向こうからやってきた、配達途中のHONDAのカブみたいなバイクが、この狭い部分を無理矢理すりぬけて行った。
 うーむ。こんな細い道でも、立派な公道なのだな。

 いくつか角を曲がってその細い路地を抜けると、今度は左右1車線ずつの、人の多いにぎやかな通りに出た。ここがインサドンのメインストリートだそうだ。
 日は落ちたがまだ明るい時間帯のせいもあっただろうが、どことなく古めかしい雰囲気のある通りだった。だが、歩いている人間には若者が多く、たくさんの人でにぎわっている。

 お店は焼き物を売っているところが多くて、薄い翡翠色をした陶器の湯呑みや花瓶などが、店先にずらりと並べられていた。その他にも、明るいマゼンダやイエロー、黄緑色などの色鮮やかな紙で作られた、うちわやレター・セット(letter set)も目に付く。和紙のような風合いを感じたが、ここは韓国なので当然名前は「韓紙」となる。

 「近くに美術館もあるお土産屋さんがあるから行ってみましょうか」とユンさん。へー、そんな店があるんだ。
 考えてみると、わたしは大雑把にインサドンに行こう、とかミョンドン[明洞:Myongdong]に行こう、くらいしか計画をたてていなくて、具体的にどこそこの店に行こうとは考えていなかったのだ(相変わらず行き当たりばったり人間です)。
 そんなお店があるなら行ってみたい。というわけでさっそく連れて行ってもらう。

 お店の名前はトンイン[通仁:Tong‐In]というそうな。1階はお土産やさんになっていて、きれいに陶器の器や工芸品が展示されている。

 あっ! ほしいと思ってた湯呑み発見っ!
 丸まっこい形をした、蓋付き、茶こし付きの湯呑みで、これ、ほしかったんだよー。

 実は、去年の夏と今年の冬と2度中国に行ったくせに、中国では茶こし付きの湯呑みがついに手に入らなかったのだ(横浜の中華街で売っているが、あんな高いもの、絶対わたしは買わん←ケチ)。

 日本にも蓋付きの湯呑みはあるけれど、蓋も陶器でできていて、さらに茶こしまでついているものはなかなか見つからない。
 だからいつも中国で探すのだが、蓋付きはあっても茶こし付きという条件まで満たしているものは、これまた見つけることが難しい。あっても趣味に合わなかったりするし。
※Attention! 韓国の蓋付き茶こし付きは、日本の湯飲みにそのまま蓋と茶こしをつけたような形ですが、中国のものはマグカップ型が主流なので、ちょっと違います)

 しかし、今回ソウルに行くことを決めた後、ガイドブックを見ていたら、韓国にも蓋付き、茶こし付きの湯呑みがお土産紹介のページに載っていたので、絶対買おうと決めていたのだ。

 いったい、いくらくらいする物なんだろう、と値札を見る。
 25,000っ!?

 落ち着け、落ち着け。これはウォンだ。ゼロを一個とって考えろ。
 そうか・・・2,500円くらいか(実際には当時のレートで約2,700円)。
 決して安い物ではないんだな。
※Attention! 他のお店では、セール品がW4,000くらいからありました。ここのお店のものは趣味もよく、他のお店で売っていないようなデザインのものばかりだったので、こういう値段だったのだと思います)

 思わず買いたくなったが、待て、初日にお土産を買ってどうする、と自分を戒める。他の店にもっと良いものがあったら、ここで買ったことを後悔するじゃないか。

 他のものもざっと見てから、ギャラリー(gallery)を見に行くことにする。
 しかし、エレベーターで移動しようとしたら、お店の女性が何やら話しかけてきた。
 何だろう? このエレベーターを使っちゃいけないのかな? と思いながらユンさんと女性のやりとりを眺めていたが、なんともう閉店とのこと。もうそんな時間なんだ(午後7時)。

 閉店では仕方がない。あきらめて外に出る。
 ということは、他の店ももう閉店か? と思ったのだが、そんなことはなく、まだまだ営業している店も多かった。

 


  

■ チョントン・ダウォン[伝統茶院:Chont’ong‐dawon]


 さて、これからどうしよう。
 自分の計画性のなさを、心の中で罵りつつ、現在地をガイドブックで確認する。ユンさんに訊いたら、インサドンの通りをアングク[安国:Anguk]の交差点まで歩いて来ていたようだ。

 ユンさんがふと、「伝統茶院に行きたいの?」とガイドブックを見ながら言う。え? と思ってガイドブックを見たら、地図に丸がついていた。

 そうだ、伝統茶院は行ってみたかったので、地図に丸をつけておいたんだっけ。
 去年の12月くらいに、桃井かおりと小林聡美(ともに日本の女優)がソウルをめぐり歩くというTV番組をやっていて、その中に伝統茶院でお茶を飲む場面があった。
 日本では、紅茶はもちろん中国茶もけっこう市民権を得ていて有名だけど、韓国のお茶、というのはわたしは聞いたことがなかったので、「そういうのがあるんだー」と初めて知って、これまた韓国に行ったら絶対飲もうと決めていたのだ。

 「伝統茶院には美術館も併設されているんですよ」とユンさん。学生時代によく行っていたそうな。でも、「私、方向音痴なんです」と地図をじっくり見ていた。
 どうやらこのあたりはかなり観光地化されていて、ユンさんの学生時代の頃とはだいぶ様子が変わってしまったそうなのだ。

 確かにこの通りは、古いものと新しいものがごっちゃに混ざったような雰囲気だった。京都の清水などの観光地のように、本当に古いものもあれば、古い伝統的な形式を保ちながら、実は中は新しい、というようなところもある。

 何度か道を確認するために立ち止まったけれど、迷うことなく伝統茶院に到着。看板にも漢字で「伝統茶院」と書いてある。
 大きく開かれた門を入ると、そこは広々とした庭だった。木や草花を植えられた中庭に、木でできた素朴なテーブルや椅子、ベンチなどが置かれている。西洋風の白いテーブルと椅子のセットもあった。
 おお、なるほど。オープン・カフェってことか。
 まだまだ本を読むには困らない程度の明るさの夕闇の中、たくさんの人がお茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいる。
 へー、いい感じ。開放的だなあ。

 しかしユンさんが、「私が来ていた頃と全然違う・・・」とつぶやく。昔は美術館の奥にお茶を飲めるスペースがあったそうなのだ。

 だが、いまでは美術館(無料)とお茶を飲める喫茶部分は別棟になってしまっていて、必ずしも展示を眺める必要はない。
 「昔は美術館の中を通らないと、行けなかったんですよ」とのこと。あまりの変わり様に、かなりショックのようだ。
 あいやー。学生時代の思い出を壊してしまっただろうか?

 まあ、何はともあれお茶を飲もうと、古い家屋を改造したらしいお店の中に入る。入り口のある側の壁は、地面から30cmくらいの所から天井までの大きなガラス窓になっていて、中庭を眺めながらお茶を飲める。わたしたちはその窓際の席に座った。

 椅子に座ると、テーブルは膝くらいの高さで、大きな木の切り株をそのままテーブルにしているようだ。上にはガラスの天板がのっているのだが、テーブルと天板の間には、色とりどりの無数の紙片がびっしりとはさまっている。紙にはメッセージのようなものがハングルで書かれていて、この店を訪れたお客さんたちが、記念に残していっているらしい。
 ふうん、読めたらおもしろいだろうになあ。

 「何、飲みます?」とユンさんに訊かれたので、「冷たいものは何がありますか?」とたずねてみると、「じゃあ、スジョングァにしてみましょうか」との答え。
 スジョングァ? あ、そういえばガイドブックに載っていたな。

 漢字では「水正果」と書く。だが、どんなお茶かまでは詳しく書いていない。 やがて店員さんが持ってきてくれたのは、日本の湯呑みよりもふたまわりは大きな器(うつわ)に注がれた茶色のお茶だった。底の方にプラムのような実が沈んでいて、表面には松の実が浮いている。

 どんな味がするんだろう? まず飲んでみる。
 独特なspicyな味。
 ああ、懐かしい。これ、ニッキだ。

 「日本にもこういう飲み物ありますか?」とユンさん。わたしの知る限りでは、こういった冷たい飲み物はないけど食べ物はありますよ、と答えると、日本にもあるんだ、とうなずいていた。そして、この中に入っているのは英語でなんて言ったっけな・・・と考え込む。
 そういえば、うちではニッキって呼んでいたけど、これ何だっけ?

 ぐおーっと味を頼りに記憶を検索して、たどりついた答えは「シナモン」。ああ、そうだ、シナモンだー、とふたりで納得しあった。

 スジョングァを飲みつつ、メールマガジンや本の話などをする(考えてみると、お互いMM編集者なのだ)。
 7時半をまわっているはずだが、外はまだかなり明るい。ソウルと東京は飛行機で1時間半以上飛ぶくらい距離が離れているのに、時差はないんだから当然か。
 「日本とは30分くらい日没の時刻に差があるみたいですよ」とユンさんが教えてくれる。
 ああ、そうだろうなあ。こんなに明るいんじゃ。

 韓国ではサマー・タイム(summer time)を導入しようとかいう話はないんですか? と訊いたら、ソウル・オリンピックのあった1988年頃に実施したことがあるとのこと。
 でも評判が悪かったので、すぐ廃止になってしまったそうな。
 ふうん、そんなものか。日本でもよくサマー・タイム導入の話が出るけど、いざ実施したらそうなるかもなあ。

 それでも8時くらいにはだいぶ暗くなってきた。

 だが、落ち着いた雰囲気を保つためか、できるだけ照明を抑えた店は、中も外もあいかわらず多くの人でにぎわっている。客の回転はゆっくりとしていて、みんな1杯のお茶で、かなり長い時間ねばるようだ。
 エアコンはなく、扇風機がまわっていたが、暑いということもない。

 一度腰を落ち着けたら、なかなか立ち上がる気になれなくなるほど、わたしには居心地の良い店だった。

おわり 

 

 今回の韓国MEMO  

スジョングァ[水正果:sujonggwa]


   *「水」は普通に水
   *「正果」はくだものなどを砂糖やはちみつで煮詰めた食べ物のこと

 

 帰国後、手持ちの韓国語の辞書を引いてみたら、「スジョングァ」はちゃんと載っていました。

 いわく、「煎じた生姜汁に砂糖かはちみつを入れ、干し柿・松子・肉桂を漬けた飲み物」とのこと。

 肉桂(にっけい)はシナモンのことです。ニッキとも言います。松子(しょうし)は「まつぼっくり」の意味もありますが、この場合は「松の実」の意味でいいみたいです。

 こうして原材料を見ると、なるほど、茶碗の底に沈んでいたのは干し柿だったんですね。確かにかなり甘味が強かったですが、シナモンの味によくあっていました。
 韓国のお茶にはもちろん温かいものもありますが、このスジョングァに関しては、冷たくして飲むものだそうです。

 英語だと、「SWEET CINNAMON PUNCH」と表記するようです(特に英語表記にきまりはないそうです)。
 「punch(パンチ)」っていうのが、何とも夏らしく涼しげでいい感じですね。
 暑い季節に韓国に行く予定のある方は、どうぞ一度お試しあれ(^ ^)。

 

参考文献:
『ポータブル韓日辞典』  民衆書林編集局=編  三修社

※お茶はまた別の機会に特集(?)します。
※このコーナーは不定期です。

 

 今回のおこづかい帳  


今回はなし

今回の小計:W0
支払い総計:W6,000(約645円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 


 はい、インサドンリポートでした。いかがでしたでしょうか?

 インサドンは気に入って、この後何度も行きました。店先を眺めながら、ぶらぶら歩いているだけでおもしろいところです。
 トンインのギャラリーなども見てきましたので、また後程詳しく報告いたします。

 それでは、また次号でお会いしましょう。

 

★Special Thanks!★

 今回テキストを引用させていただいたユン・ドクジュウさんの「韓国、何でもQ&A」は、「まぐまぐ」から発行されています。(マガジンIDは「0000006657」です)

 


1日目の1――出発っ! はじめてのおつかい、ならぬ
                    はじめての海外ひとり旅の巻

1日目の2――何ごとっ!? 地下鉄車内で大演説! の巻

1日目の3――DDRでブチ切レ?/初めて見たソウルの巻

1日目の4――やっぱ夏はこれでしょう♪/韓国産ビールの巻

1日目の5――伝統茶院でくつろぎの一服の巻

1日目の6――そりゃあ早すぎるんでないかい?/ソウルで映画を の巻

2日目

3日目

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