『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月7日(水)記


 
第6号


1日目の6――そりゃあ早すぎるんでないかい?/ソウルで映画を の巻

1999年9月8日(水)発行

 

■ 映画館


 8時を過ぎてユンさんと伝統茶院を出た。この後、ふたりで映画を見に行く予定があったのだ。
 何を見に行くかというと、「スター・ウォーズ エピソード1」[STAR WARS EPISODE1]。
 そう、この日はまだ7月7日で、日本でのRoad Showは10日からだったから(一部映画館では先行ロードショーが始まっていたが)、ソウルだと日本よりも一足お先に見ることができるのだ。

 え? 字幕はハングル、セリフは英語の映画を、英検(英語検定)4級の人間が見てどうする、何をたわごとをほざいているだって? 
 わはは、わたしが何のためにペプシマン・ボトル・キャップを集めていたと思っているのだ(笑)!
※Attention! 内輪話ですみません。ペプシマン・ボトル・キャップとは、ペプシ・コーラの500mlペットボトルについてくるおまけで、日本では7月に入ってからスター・ウォーズのキャラクターをデザインしたものが配布されました。韓国にもペプシの500mlボトルはありましたが、同様のおまけは付いていなかったです)

 まあ、とにかくそういうわけで、登場人物の名前は頭に入っている。だいたい、英検を受けたのは中学1年の時で、いくらなんでもその頃よりは、ちったあ上達しているはずである。

 そんなに遠くない、とのことなので歩いて行くことにした。ユンさんの後ろをくっついて歩いていただけなので、当時はどこに行ったのかさっぱりわからなかったのだけれど、後でチケットを見たらソウル・グクジャン[ソウル劇場:Seoul‐gukjang]と書いてあった。これは地下鉄1号線のチョンノサンガ[鍾路3街:Chongno‐3ga]駅近くにある映画館である。インサドン[仁寺洞:Insadong]からは1kmもない。

 車道側を食べ物や雑貨の屋台でびっしり埋め尽くされた歩道を歩き、10分ちょっとくらいで映画館到着。おお、「スター・ウォーズ」の文字がハングルで書かれている。それは韓国だから当たり前のことなのだが、外国の映画館に来た、という気分が盛り上がる。

 チケットを売る窓口の上に、上映時間が書かれている。「どの回を見る?」とユンさんに訊(き)かれて、「え?」となったが、このソウル劇場にはいくつかの映画館が入っていて、同じ映画を同時に2本、時間差をもうけて上映しているのだ。
 最近日本でもシネマ・コンプレックス(複合映画館)なるものが出来てきて、やはりそういう上映形式をやっている所があるようだけど、まだまだ少数派で、わたしは千葉の「ららぽーと」(デパート名)でしか見たことがない。

 一番近いのが8時30分からの回だったので、それを見ることにした。大人はW6,000(約645円)。わたしが日本でよく行く映画館は、割引なしで大人が1,800円。絶対日本の物価って間違っていると思う。

 建物の中に入ると、飲食店などもテナントとして入っているようだった。簡単な軽食のスペースなどもある。
 他の映画の宣伝ポスターなども貼られている。ディズニーのアニメの「ターザン」の等身大看板なんかもあった。
 確かこの頃、日本で上映されていたディズニー映画は「プリンス・オブ・エジプト」(Prince of Egypt)だったと思うけど・・・ふーん、世界のディズニーとはいえ、全世界で同時に同じものを上映しているわけじゃないんだな。

 やたらと細い階段をのぼって上の階へ。そこが映画館になっていた。
 ユンさんが壁に貼られた座席表を確認している。何でだろうと思ってたら、なんとこの映画館は全席指定なのだ。へー、めずらしい。

 「指定席なんですか?」とわたしは驚いたが、ユンさんは「うん、そうだよ」と当たり前のようにうなずいていた。ということは、ソウルでは全席指定の映画館って普通なのか。

 わたしの行動範囲内には、全席指定の映画館なんてあったかな? 指定席そのものはあるけど、あれは別料金を払って座るものだし。
 まあ、探せばあると思うけど、わたしの行動範囲内にはない。せいぜいあっても入場人数制限くらいだ。座席までは指定されない。

 指定席なら絶対座れるから、ぎりぎりに入場しても安心だなあ、と思ったのだが、これは逆に考えてみると空いてても自由な席に移れない、ということになる。
 実際館内に入ると、かなり広い、大規模な映画館だったのだが、ソウルで「スター・ウォーズ」の上映が始まったのは5月末。すでに1か月半が過ぎている。だからそれほど館内は混んでいなくて、お客さんの入りは3分の1くらいだったんだけど、映画館側は気をきかせて良い席から指定席を埋めていってくれるから、少ない人数がある一定の範囲に密集して座らなくてはいけない。
 いい制度なんだか悪い制度なんだか、よくわからん。

 そんなことを考えつつも席を探す。わたしはカ列の48番。
 ひらがななら「あいうえお」(もしくは「いろは」)、アルファベットなら「ABC」だが、ハングルは「カギャゴギョ」[ka‐gya‐go‐gyo]から始まるという。
※Attention! 「k」は語中で「g」になるので、音読すると2文字目から濁ったような音になりますが、実際にハングルで書くと、全部子音は「k」[ka‐kya‐ko‐kyo]でそろっています)

 というわけで、「カ」は一番最初になるから、わたしは一番はしっこの列の前から48番目の席となる。ユンさんはその隣となるが、席がひとつ、先客の女性たちの荷物置場として陣取られている。ユンさん、ていねいにお願いしてどけてもらう。

 で、席に着いたのはいいのだが、映画が始まる前に、わたしたちは左右の席をチェンジした。
 座席は日本と同じでそんなに広いわけではないので、背の高いユンさんには真ん中の席はきつかったのだ。
 向こうのがらがらの席の方に座れれば楽なのにのう、と思いつつも、わたしは郷に入ったら郷に従う主義なので、文句は言わずにスクリーンへ目を向ける。

 まだ上映時間になっていないけど、すでに館内は暗く、非常灯をつけている程度の明るさしかない。しかもその明るさの中で、はやくも予告編の上映が始まっていた。
 なるほど、日本では予告編を客に必ず見せるために、館内を暗くしてからじゃないと予告編を流さないけど、この映画館では見たい人は見ろって感じなんだな。

 何の予告編が流れていたかな? 「MATRIX」の予告編があったんじゃなかろうか。日本ではまだ全然話題になっていないハリウッド映画の予告編もあった。
※Web版Attention! 「MATRIX」はソウルでは5月15日から上映が始まっていたのでこれは間違いです。どうも実際にわたしが見たのは「Wild Wild West」だったようです)

 やがて映画館の中が本格的に暗くなり、映画の上映が始まった。
 ハングルの字幕は、日本と同じ、基本的に右側に縦書きで出る(最近は横書きでも出るか)。見てもわからないので、映像と音声に集中する。

 まあ、映画の内容は割愛させていただく。だが、「スター・ウォーズ」のあの豪壮華麗なセットのほとんどは、登場人物の背の高さまでしかなく(つまり一番背の高い役者に合わせてセットを作ったことになる)、それより上は全部CGだったそうなのだ。うーん、全然本物とCGの境目の区別がつかなかったなー。

 人間以外の登場人物の、めっちゃ訛った英語に辟易したり、ヨーダのカタコトのような、やたらと倒置法(?)を使ったセリフにもまいったけど、まあそこそこ内容は理解できたのではなかろうか?(逆に言うと、わたしの英語力で理解できる程度の内容しかなかった、ということになる!? ←ルーカスはそれでいいんだって)

 一回だけ、ハングルの字幕を見た(読んだではない)。
 若き日のオビ=ワンが「Go!」と叫ぶシーンなのだが、ふっと字幕に目をやったら、ハングルが一文字「カ!」[ka!]と書かれていた。
 「Go!」の音訳か? とも思ったのだけど、だったら「コ!」[ko!]にしたほうが近いよなあ。
 「カ!」はきっと韓国語で「行けっ!」って意味なのだろう、と推測する。

 クイーン・アミダラが、何なんだそりゃ、柄のない唐傘か、みたいな物体を背中につけたどこ風とも知れぬ衣裳で登場したラストシーンが終わって、スクリーンにクレジット(credits)が流れ出すと、もう用はない、とばかりに観客たちが席を立ちはじめた。

 こういうところは日本と同じだな、と眺めていたら、パッと天井の明かりが点灯された。
 え、まだクレジット終わってないのに? そりゃあ、せっかちだなあ。
 いや、どうせ見る人間なんてそんなにいないんだから、合理的なのか?
 関東の人間のわたしはちょっと悩む(関西の人なら納得したかも)。

 ビルの外に出たのは、夜の11時近く。さすがにもう空は真っ暗だった。
 しかし、このあたりは繁華街なので、どの店もまだ煌々と明かりを灯し、街路は明るく照らしだされていた。とてもこんな夜遅く、とは思えないほどの明るさとにぎわいだ。若い人たちも、まだまだ夜はこれから、というように楽しそうにおしゃべりしながら歩いている。

 「韓国版リングも上映されているんですよ」とユンさんがソウル劇場のビルの壁面を指さす。おお、本当だ。ハングルで一文字「Ring」と書かれている。
※Attention! 「リング」とは、鈴木光司先生が角川書店から出したホラー小説です。呪いのビデオと貞子[さだこ]で有名ですね)

 この韓国版リング、かなり人気だったらしく、確か日本と台湾の映画会社が上映権を買ったはずである。なので、いつか日本でも見ることができるかもしれない(今のところ上映の話は聞かない)。

 チョンノを話しながら歩き、YMCAホテルへ向かう。
 ユンさんはこの後、バスで帰宅。明日も仕事があるだろうに。こんな夜遅くまでつきあってもらって、本当にありがたい。
 明日の夕方、また会う約束をして別れた。今夜はゆっくり休んでくださいね。

 さて、わたしは部屋に戻る前に、ふたたびセブン・イレブンに行ってシャンプーを買わなくてはならない。
 しかし、店が狭くて選ぶどころではなかった。しかも、やたら大きいのと短期旅行用の2種類しかなく、6泊するわたしには適当なサイズがない。

 しかたなく、大は小を兼ねるの法則に従い、大きいほうを選ぶ。リンスとシャンプーが一緒になったものがあればいいなあ、と探したのだが残念ながら見当らなかったので、面倒くさいからシャンプーだけでいいや、と1本のみ購入。W4,900(約527円)。まあ、こんなものか。

 入浴、洗濯、日記書き。
 午前1時過ぎ、ようやく寝る。

 一日目からいろいろしたなあ。
 明日も早く起きなきゃ。

おわり 

 

 今回の韓国語  

入郷循俗
   [ip‐hyang‐sun‐sok:イピャンスンソ(ク)]


 これは、外国に行ったら必ず一度は心の中でつぶやく言葉ではないでしょうか? わたしも今回映画館の中でつぶやいております。

 そうです、これは日本語で言うところの「郷に入っては郷に従え」です。
 日本では四字熟語ではなくなってしまっていますが、同じ意味の中国語は「入郷随俗」となり、やはり四字熟語となります。

 漢字で書くと、中国語と韓国語とは一文字違いなので、「お、似てるじゃん」とつい思っちゃいますけれど、実際に音読すると中国語の方は「ルーシャンスェイスー(ruxiangsuisu)」となるので、全然違いますね。

 こうして三ヶ国語並べてみると、「したがう」って意味に使われている漢字が「循」、「従」、「随」と全部違うのが面白いです(3文字とも「したがう」という意味があります)。
 漢字の成立年代とか、漢字そのものの意味に関係して違うのかな? それとも、これは「日本の漢字」で書くと違うだけなのかな?

 ちなみに辞書で調べたら、「従」は反対しないでついていく、「随」はまかせきりで、導かれるままについていく、という意味でした(「循」は載ってなかった)。
 んー、ニュアンスが微妙すぎて、わたしには違いがわからないです(^ ^;)。

 みなさんも、もし韓国で日本とは違う習慣に出会って戸惑うようなことがあったら、どうぞ「イピャンスンソク」で気楽に切り抜けてください(^ ^)。

 

参考文献:
『国語辞典』  守随憲治、今泉忠義、松村明=編  旺文社

※このコーナーは不定期です。

 

 今回のおこづかい帳  


  お茶代:ごちです。m(_ _)m
  映画代:同上
シャンプー:W5,400

今回の小計:W5,400
支払い総計:W11,400(約1,226円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 


 はい、今回は韓国映画館リポートでした。いかがでしたでしょうか?

 いやー、「所変われば品変わる」って感じですね。実は外国で映画館に行くのは初めての経験だったので、もう行くだけで面白かったです。映画の方も、大迫力の映像がすごかったし、アナキンも可愛いかったですし。
 クイーン・アミダラにだけは、そんなド派手な衣裳を持って亡命かいっ!? とつっこみたくなりましたが(笑)。

 

 でも、クレジットが流れはじめた時点で館内の明かりがついたのにはショックでした。
 というのも、10年くらい前のスピルバーグの作品で、「ヤング・シャーロック」というシャーロック・ホームズの若い頃を題材にした映画がありましたけど、あれってクレジットが終わった後に、わずかではあるけど重要な意味が込められたエピソードのシーンが流れるんです。
 もし、あの映画も韓国で上映されていたとしたら、もしかして韓国人はあの映画の真のラストを知らないんじゃないか、と思わずひとりで心配してしまいました。いらん心配かな?

 それでは、また次号でお会いしましょう。

 


1日目の1――出発っ! はじめてのおつかい、ならぬ
                    はじめての海外ひとり旅の巻

1日目の2――何ごとっ!? 地下鉄車内で大演説! の巻

1日目の3――DDRでブチ切レ?/初めて見たソウルの巻

1日目の4――やっぱ夏はこれでしょう♪/韓国産ビールの巻

1日目の5――伝統茶院でくつろぎの一服の巻

1日目の6――そりゃあ早すぎるんでないかい?/ソウルで映画を の巻

2日目

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