『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月8日(木)記


 
第14号


2日目の8――韓国料理が目白押し/白花酒幕の巻

1999年10月4日(月)発行

 

■ 白花酒幕[ペクファ・ジュマク:Pekhwa‐jumak]

 
 本屋さんを出てチョンノ[鍾路:Chongno]を歩きながら、ユンさんに「今日のお昼は何たべましたか?」と訊かれたので、「キムパ食べました」と答えたら笑ってた。
 ま、以前「韓国、何でもQ&A」で紹介していたことがあったからね。

 続けて「今夜何か食べたいものありますか?」と訊かれたので、日本で食べたことのなかった石焼きビビンバを食べたい、とわたしが答えたあたりでユンさんのケータイ(携帯電話)が鳴った。
 出版関係のお仕事をしていらっしゃるから、急な仕事が入ったのかも。

 そしてしばらくの後に電話をきると、やはり何やら困った顔をしている。
 しかし、ユンさんの口から出てきたのは、まったくわたしの予想外の内容だった。
 なんと、「私の友達が会いたいと言っているのですが」というのだ。

 ええっ? ユンさんの友達が? わたしに?

 なんで? とは思ったが、ユンさん以外の韓国人とゆっくり話しができる絶好のチャンス[chance]である。これは逃しちゃならんだろう。

 というわけで、「わたしはいいですよ」とほぼ即座に答えたのだが、なぜかユンさんはちょっと浮かない顔。
 あー。何となく気持ちはわかる。

 だから、「日本語と韓国語を通訳するの、面倒くさいんでしょう」とわたしが訊ねると、案の定ユンさんは「うん、そう」と苦笑いした。うーん、そうだよねえ。
 わたしとそのお友達は楽しいだろうけど、ユンさんは大変になるだろうなあ。

 「私の中学生(だったと思う)の時からの友達で、日本に1度行ったことはあるんですが、日本語は全然わからなくて、英語もだめで・・・」とこれからやって来るお友達のことを、道すがらユンさんが説明してくれる。
 以前はアパレル関連の営業のお仕事をしてらしたんだけど、いまは自分で会社を興(おこ)すために辞めていて、でもいまは韓国も不況だから、しばらく仕事はしないで休養中とのこと。

 ふうん、不況かあ。
 ソウルに来たばっかりの、旅行者のわたしなんかには全然感じ取ることができないけど、そうか、やっぱり不況なのか。

 そしてユンさんはチョンノの通りを向こう(東)側に渡り、居酒屋のような所があるから、そこへ行きましょうとお店を探しはじめる。ここいらへんも、いわゆる繁華街というやつで、カジュアルな(気軽な)店が多く、店の中も通りもたくさんの人たちでにぎわっている。

 しかししばらくしてユンさんは、あれ? という感じで立ち止まってしまった。以前このあたりにあったはずの探していたお店が、なくなってしまったそうなのだ。
 「チェーンの居酒屋なんだけど、最近は店舗が少なくなって来ているんですよ」――だそうな。これも、不況とか、競争が激しいとか関係あるのかな。

 「同じ店がもう一軒、向こうの方にもありますから」とユンさんが連れて来てくれたのは、ソウルに到着した初日にわたしが見た、チョンノ沿いのタワー・レコード[TOWER RECORD]のすぐ近くだった。
 へえ、めずらしい。漢字の看板だ。「白花酒幕」って書いてある。

 「酒幕」か。中国なら「酒家」とか「酒店」だけど、韓国では「幕」になるんだ。
※Attention! この理由は4日目にわかりました。また報告します)

 店は地下にあるので、ケータイがつながらなくなっちゃうから、その前にユンさんのお友達に連絡してから地下に降りる。
 そして店内に入ると・・わあ、本当に居酒屋だ。オレンジ色の温かみのある照明といい、椅子やテーブル、柱に木材をふんだんに使った店内の造りといい、日本の「つぼ八」や「村さ来(むらさき)」みたいだ。

 ただ、日本の居酒屋と違って、店内は静かだった。
 時間がまだ早すぎるのかな? と思ったが、外はまだ明るいけど、時刻はすでに7時半をまわっていたはず。日本の居酒屋だったら、とうの昔に会社帰りのサラリーマンや大学生の飲み会の一群で、となりで話している人の声も聞こえないほど騒がしい時間帯だ。
 わたしたちが座ったテーブルの、仕切りをはさんだ向こうのテーブルに座っている男女ふたりも、わいわいというよりは落ち着いた雰囲気で飲んでいる。
 なんか微妙に、日本の居酒屋とは違うんだな。

 店員さんがメニューを持って来てくれる。が、中は全部韓国語の表記のみだった。まあ、「つぼ八」だって普通の店じゃ英語表記はないわな。
 しかし、すべての料理ではないが、いくつか写真も載っていたので、その気になれば韓国語がわからなくても注文はできそうである。

 「何を飲みますか?」と訊かれたので、「じゃあ、ビールを」と答えると、ユンさんは店員さんに「メクチュ×××」(×は聞き取れなかった)と注文している。
 む。「メクチュ」=「麦酒」の韓国語読みか? とひらめく。(当たりでした)
 日本は英語の「beer[ビア]」を「ビール」と日本語読みしているけど、韓国では「beer」に関しては外来語をそのまま使ってないのか(言えば通じると思うが)。

 ちなみに中国では、ビールを「[口卑]酒」(ピージォウ)という。
 「ピー」の部分が「beer」の音訳で、それに「酒」をつけているそうな。
 とすると、日本が音訳、韓国が意訳、中国が折衷案、ってところか。
※Attention! [口卑]は「口」へんに「卑」という意味です)

 先にビールが来たので乾杯をする。お通しに、ざくざく切ったキャベツと、それにつける「もろみ味噌」みたいなのが出てきた。
 この時、セブン・イレブンでビールよりも真露の方が安くてショックだったという話をする(第4話参照)と、「そうですよ、真露は安いお酒ですよ」とあっさり言われてしまった。日本じゃ高いのにー。

 「でも、日本でも安売りの店で買えば、同じくらいでしょう」とユンさんが言う。
 日本に留学している時は、東京の江戸川区にある葛西という街に住んでいたので、その駅前(東西線葛西駅)にあるお酒の量販店によく行っていたのだそうな。
 「何ていう名前だったっけな」とお店の名前が思いだせないようなので、「河内屋でしょう」とわたしが言うと、「そう、河内屋、河内屋」と大きくうなずく。

 よく知ってるね、と驚かれたが、わたしは大学を卒業したあと家を出て、初めてひとり暮しの居を構えたのが、葛西のひとつ隣の駅になる西葛西だったのだ。
 なので、葛西の河内屋には、やはりわたしもよく買い物に行った(お酒以外にもいろいろ売っていて便利だった)。ユンさんも、お米は河内屋で買っていたそうな。

 わたしが西葛西に住んでいた、という話をしたので思い出したのか、ユンさんが「私も西葛西のダイエーにはよく買い物に行っていたんですよ」、なんて話をはじめる。
 なんでわざわざ隣の駅まで? と思ったら、葛西には当時、大型のスーパーがなかったので、西葛西まで出かけていたのだそうな。なるほど(それにしてもローカル[local]な話題だ・・・)。

 そんな話をしているうちに、やがて料理がテーブルに運ばれてきた。大きなお皿に盛られた料理と、大きな鉢(どんぶりではなかった)に入った麺である。

 お皿に盛られた料理の方は、茄子みたいな野菜や白身の魚をスライス(薄切り)したものに、淡い黄色の衣がついていた。
 なので、わたしは思わず「てんぷらですか?」と訊いてしまったが、「てんぷら・・・とは違うな」とのこと。食べてみたら、黄色い衣と思っていたのは小麦粉ではなく、卵そのものだった。

 料理の名前は教えてもらったはずなのだけれど、忘れてしまったので日本に帰ってから調べてみた。そしたらすぐに見つかった。どうやら韓国では一般的な料理らしい。

 この料理、というか、料理法の名前は「ジョン」。漢字では「煎」と書く。薄く切った材料に小麦粉や卵をつけ、軽く押しつけるようにして焼くのだそうな。焦げ色をつけず、じっくり火を通しながら焼くのが特徴、と本に書いてあった。

 しかし辞書を引くと、ジョンは「小麦粉の衣をつけた材料をフライにした料理の総称」となっているので、実際にはいろいろなジョンと呼ばれる料理があるのだと思う(えごまの葉[トゥルケニ(プ)]を日本のてんぷらみたく揚げたものは「トゥルケニ(プ)ジョン」、ねぎ[パ]がたくさん入ったお好焼きみたいなのは「パジョン」)。

 わたしが食べたのは、小麦粉をまぶした材料に卵をつけて焼いたタイプで、日本風に言うと「卵のつけ焼き」、西洋風に言うと「ピカタ」に相当する。

 わたしが食べたタイプのジョンの代表的な材料は、白身の魚のたら(鱈)、しいたけ、ズッキーニ[zucchini]の3つ。
 それぞれ韓国語でテグ、ピョゴ、エホバッというので、ジョンにすると、テグジョン、ピョゴジョン、エホバッジョンとなる。
※Attention! エホバッ[ehobak]を辞書で引いたら、「未熟のかぼちゃ」となっていましたが、まあ要するにズッキーニのような、太いキュウリに似た野菜なのでしょう)

 確かにわたしが食べたのも、白身の魚とズッキーニ(茄子かと思ってた)のジョンだったと思う(その他にもいろいろあった)。
 つい韓国というと、辛い料理ばかり思い浮かぶけど、こういう素材の味が強い、薄味の料理もあるのだな。

 大鉢の麺料理の方は、とうがらしの真っ赤な冷たいスープの中に、白く細い麺と、野沢菜のような葉が大きくて茎の太い、鮮やかな緑色の青菜が入っている。
 正確な料理名は覚えていないが(本にも載っていなかった)、麺はユンさんが「そうめん」と言っていた。
 同じそうめんを使っていても、完成した料理は日本と全然違うわけである。

 味の方は、冷たいスープがさっぱりしていて、後からカーッと辛さがきいてくる。うーん、夏向きの料理(^ ^)。
 色合いもきれいだし、これ、日本で売り出しててもいいんじゃなかろうか。
 ただし、そうめんはだしのきいた「つゆ」につけて食べる、という先入観がわたしなどにはあるので、普通よりも辛く感じた。ゆっくり食べないと汗だくものかも(^ ^;)。

 これらの料理を味わいつつ、ユンさんのお友達が来るまで、わたしたちはおしゃべりを楽しんだのであった。

おわり

 

 

 今回のMEMO  

ジョン[煎]の作り方

 
 本で作り方を見たら、材料も日本で手に入るものばかりだし、作り方そのものも簡単そうだったので、本文で紹介しましたテグジョン、ピョゴジョン、エホバッジョンの作り方を載せてみました。
 普通の卵のつけ焼きとしてではなく、「これは韓国のジョンという料理でね・・・」なーんて説明しながら食卓に出せば、料理のランクがひとつあがりますし、話題もはずむかな、などと思いましたので(^ ^)。
 ぜひ、ご家庭でお試し下さいませ。

 

材料(3〜4人分)
 たら(甘塩)  2切れ
 しいたけ    8枚
 ズッキーニ   1/2本
 卵       3個
 小麦粉     適量
 塩、こしょう  適量
 ごま油     適量

<薬味じょうゆ>
 しょうゆ    大さじ3(45cc)
 酢       大さじ1/2(7.5cc)
 砂糖      少々
 万能ねぎ    少々

 

作り方
1.たらは皮を取り、半分に切ったものをさらに5mmの厚さにする。たらは塩加減を調整する。
2.しいたけは軸を切り落とし、ズッキーニは5〜6mmの厚さの輪切りにする。それぞれに軽く塩、こしょうを振っておく。
3.卵をときほぐし、裏ごしする。
4.フライパンを120度くらいにあたため、ごま油をひく。
5.たらの表面に小麦粉をまぶし、余分な粉をはたいて卵をくぐらせ、フライパンにのせる。こがさないようにじっくりと両面を焼き、盆ざるなどにのせて粗熱をとる。しいたけ、ズッキーニも同じ要領で焼き、器に盛る。
6.薬味じょうゆの材料を混ぜ合わせる。
7.できあがり。薬味じょうゆにつけて、召し上がれ(^ ^)。

 

参考文献:

・『とっておきの韓国・朝鮮料理』
  ジョン・キョンファ=監修、平松洋子=文・構成  マガジンハウス
・『ポータブル韓日辞典』  民衆書林編集局=編  三修社

 

 今回のおこづかい帳  


今回はなし

今回の小計:W0
支払い総計:W62,500(約6,720円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 

 
 白花酒幕リポートでした――ってほどにはリポートしてないですね。 白花酒幕リポートでした――ってほどにはリポートしてないですね。
 でも、「簡単な韓国風のおつまみとか食事が食べられるし、やかましい若者はあまり来ない所でのお勧めです」とユンさんも言ってらしたので、屋台ではなくちゃんとしたお店で、ちょっと飲んだり食事したい、という時にはよいのではないでしょうか?

 それでは、また次号でお会いしましょう。

 


2日目の1――貧乏人は今回の旅行でも歩いてます/
                    歩け、歩け! ソウル!! の巻

2日目の2――見どころ満載/国立中央博物館・前編の巻

2日目の3――キムパで休憩/国立中央博物館・後編の巻

2日目の4――いろいろ気付かぬにぶい自分を反省/クァンファムン前にて、の巻

2日目の5――そこにはいまでも花が手向けられていた/キョンボックンの巻

2日目の6――チャジャンミョンとはなんぞや?/ソウル、そぞろ歩きの巻

2日目の7――本屋はパラダイス! Part2/本屋さんめぐりの巻

2日目の8――韓国料理が目白押し/白花酒幕の巻

2日目の9――白花酒幕で夜は更けて/日韓話題あれこれの巻

2日目の10――オープン・カフェでパッビンスの巻

1日目

3日目

4日目

5日目

6日目

7日目

TOPへ

 


『ソウル7日間徒然日記』

E-mail to : chihalu@geocities.co.jp

Copyright(C) 1999 Office EST3