『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月8日(木)記


 
第15号


2日目の9――白花酒幕で夜は更けて/日韓話題あれこれの巻

1999年10月7日(木)発行

 

■ お友達登場

 
 ビールを飲みつつ、おたがいの大学時代の話などで盛り上がっていると(実はふたりとも歳が近いのだ)、ふっとわたしの視界に男の人がフェード・インしてきた。ユンさんもそれに気付き、立ち上がる。
 あ、この人がユンさんのお友達なんだ。

 やはり立ち上がったわたしににっこりと、目尻にぎゅっとたくさんの笑い皺が寄る、人なつっこい笑顔を向けてくれたこの男性が、ユンさんのお友達なのであった。

 わー、なんか、初対面だけど、もしお互いに言葉が通じるならば、いまわたしがボケたらすぐにツッコミを入れてくれそうな感じ。

 「名前はイ・ヨハンといいます」と、ユンさんが紹介してくれた。
 はっ。そうか。英語も通じないんだよな。
 でも考えてみればわたしも、韓国語で「初めまして」ってなんていうかわからないや。
 ああ、でも、自分の名前くらい、韓国語で言ったほうがいいかな? と思ったわたしの口からとっさに出たのが、「チョヌン ちはる イムニダ」(わたしはちはるです)だった。

 ひー、通じただろうか? と思ってたら、ユンさんに「韓国語、できるじゃないですか」と言われた。
 「ま、いちおう、自己紹介くらいはね」とわたしは見栄をはって答えたが、実は主語・述語のある韓国語は、これしか知らないのだった(^ ^;;)。

 というわけで、以後の会話はほとんど全部、ユンさんの通訳を介することになる。

 3人で席についてから、はて、韓国は同姓の人が多いから、日本と違って名字(姓)だけで名前を呼ばない、というようなことを聞いたことがあるような気がするけど(失礼にあたる、と書いてある本もあったような)、このユンさんのお友達のことは何て呼べばいいんだろう、と思ってユンさんに訊いたら、「『イさん』でいいでしょう」と言われた。
 日本人のわたしに、呼び方を合わせてくれているようだ(まあ、もっともずっと前から、ユンさんはユンさんて呼んでるけど)。

 イさんのグラスも持ってきてもらって、3人であらためて飲みはじめる。
 そういえば、イさんのお名前の「イ」はきっと「李」だろうけど、「ヨハン」の方はどういう意味なんだろう? 音だけ聞くと、まるでドイツ人みたいだけど。

 漢字で書いてもらえばわかるだろう、と思ってメモ帳を出し、「書いて」とお願いしたら、えっ、と驚いた顔をしていたが、ちゃんと書いてくれた。
 しかし、これは日本人のわたしにも、かなり難しい漢字だぞ。もっとも、韓国は香港や台湾なんかと同じで繁体字(日本の漢字よりも画数が多い漢字)を使っているから、日本人には難しく感じられるんだけど。

 ちなみに漢字では、「尭漢」さんと書くそうな。
 むう・・・漢字で書いてもらっても、いまひとつよくわかんないや、と思ってたらユンさんが、「こいつはカトリック[Katholiek]なので、聖書の『ヨハネ』から名前をとっているんですよ」と教えてくれた。
 ああ、なるほど。それで「ヨハン」なのか。

 韓国はクリスチャンが多いので、聖書から名前をつけることもよくあるそうな。女の人なら『ハンナ』という名前などがよくみられるそうである。

 イさんに書いてもらったのだから、と思って、わたしの方も漢字で名前を書いて、「どうだ」と見せたら、ユンさんが「名字が長いと言ってます」と通訳してくれた。
(※わたしの名字は長谷川や小野田のような、漢字3文字の3字姓)

 そ、そんな、長いって言われてもなあ(^ ^;;)。
 まあ、確かに1字姓の多い韓国人にくらべれば、3文字は長いけど。

 そういやあ別の日にも、ユンさんと名前の話をした。
 その時はわたしが、よく韓国映画のクレジットを見ると、3文字のハングルがずらーっと並んでいるけど、韓国では名前はハングルで3文字とかのきまりがあるんですか? と訊いたのだが(※中世の話だけど、中国では名前の字数に制限があったことがあるんだよう)、そんなことはないそうな(当たり前か・・・)。

 やはりめずらしいけど、韓国にも2字姓の人だっているし、名前の方が1文字の人だっている(よくみたら、1000ウォンや5000ウォン紙幣の人がそうだった)。
 また、昔、長い名前を付けることが流行ったことがあって、名字と名前を合わせると6文字にもなってしまう人もいたとか。
 ふーん。そっか、見かける機会が少ないだけか。

 また、イさんに「めずらしい形のメガネをかけている」と言われる。
 ああ、このセルロイド製フレームはね。いまでは日本でもめずらしいかも。

 わたしは乱視がひどいので、特注のレンズを使っているのだが、そのレンズというのが牛乳ビンの底くらいの厚さがあるのだ。
 「(厚さを)圧縮すれば?」とよく言われるが、残念ながらわたしの特注レンズはかなり特殊で、日本の技術力をもってしても圧縮をかけられないのである。
 で、それだけレンズが分厚いと、細いチタン製フレームなんて使えないし(レンズがフレームからはみだす)、ましてやフレームレス(フレームなし)になんて加工できるはずもないので、しかたなく昔なつかしいべっこう(鼈甲)柄のセルロイド・フレームを使っている。

 韓国では、楕円形のレンズ面積が小さなフレームのメガネをかけている人がとても多いので、わたしはこのメガネをかけているだけで、ソウルでは外国人ってばれやすいんだよなあ(別に隠してないけど)。

 「そういえば、韓国ってメガネが安いんですよね」と言うと、ユンさんが「うん、そうだよ」とうなずきながら、レンズとフレーム込みで3,000円から5,000円くらいで作れる、と教えてくれた(確かそんなくらい)。

 「わたしなんて、レンズだけで3万円もしますよ」と言ったら驚いて、イさんにも通訳してた。やはりイさんも「えー!?」とかなり驚いていた。
 そりゃあそうだよね。韓国の10倍もするし。
 でもこの金額は、日本人も驚くかも(^ ^;)。
(※Attention! うちの近所のメガネ屋では、レンズとフレーム込みで、14,800円くらいから売ってました。安売りの時は、9,800円くらいまで値が下がるようです)

 3人ともメガネをかけているので、しばらくそんな話題で盛り上がる。
 韓国でメガネ作って帰ろうかな、などとわたしも言ったが、乱視の視力検査は表現が微妙なので、韓国語がわからないわたしにはちょっと無理そうなので、今回はあきらめる。日本の眼科でメガネの処方箋をもらってきておけばよかったな、と後で思う(韓国でつかえるかな?)。

 いろいろな話をしているうちに、ふとユンさんに、「日本では無職の人間を何て言うんですか?」と訊ねられた。
 無職? ああ、イさんのことか。
 来月ユンさんは、イさんも含めてお友達同士4人で九州に旅行にいくそうなので、その時に日本でイさんを紹介する時のプロフィールとして使うんだろうか、などと考えつつもわたしは「『プー』ですね」と答えた。

 「プー?」
 「うん、そう、『プー』。無職でぶらぶらしている人間を、昔から『風太郎(ふうたろう)』って言うんだけど、それがなまって『ぷー太郎』になって、今はそれを省略して『プー』。辞書には載ってないかもしれないけど、今時の日本人になら通じますよ」
※Attention! 正社員ではなく、アルバイトで生活している人の場合は、英語の「フリー(free)」を人化して、「フリーター」というようです)

 ユンさんは「ああ、そうなんだ」とうなずくと、イさんにそのことを説明しはじめた。
 イさんはしばらくふんふんとユンさんの言葉をおとなしく聞いていたが、突然、「えっ!?」という顔をすると、あわててばっとわたしの方をふり向き、そして自分を指さしながら「No プー!」(プーじゃないよ!)と叫んだ。
 これにはわたしもユンさんも笑。

 そうだよね、無職じゃないよね。休養しているだけで。

 その他、イさんには「日本ではどんな占いが流行っているのか?」と訊かれた。
 む、占いかあ。わたしは興味がないからなあ。どんなのが流行っているんだろう? 星座占いと血液型占いはよく見かけるけど。

 それにしても、「占い」なんて言葉が男の人の口から出るのもめずらしい。日本じゃ占いに興味のある男の人ってめずらしいよね(職業にしているひとは別にして)。
 やっぱりアパレル関連のお仕事をしていただけあって、そういう女性好みの流行に敏感なのかな?

 そういえば韓国では、今でも結婚前に、新郎側から新婦側へ「サジュ・ダンジャ[四柱単子]」なる、新郎の生年月日を記した書状を送る習慣があるって聞いたことがあるけど、そういう関係で、男の人も占いに興味があるのだろうか、などともちょっと思う。
※Attention! 「四柱単子」の「四柱」は、日本でもよく行なわれる占いの「四柱推命」の「四柱」です。「四柱単子」を送った後、結婚式の日取りとかを占う、と聞いたこともある)

 そんなことを考えていたので、思わず「サジュとか?」と口走ってしまったら、「そう、よく知ってるね」とユンさんに驚かれた。
 すぐに通じるということは、「サジュ・ダンジャ」はいまも現役なんだろうな。

 明日はソウルのどこに行くんだ、なんて話になり、「天気がよければチョンミョ[宗廟:Chongmyo]かなあ」とわたしが答えると、「それならピウォンも行くといいよ」とふたりに言われる。
 「ピウォン」・・・ああ、「秘苑」のことか。何でも、お庭がきれいなそうなのだ。

 また、チョンミョはチャンギョングン[昌慶宮:Changgyonggung]と橋でつながっているから、ついでに一緒に行くといいとのこと。ふむ、このあたりは見所が多そうである。

 ふと、わたしのガイドブックをおもしろそうに見ていたイさんが、何かの写真を指さした。ミョンドン・ソンダン[明洞聖堂:Myongdong‐songdang]だ。そしてわたしに韓国語で、一生懸命何かを説明してくれる。
 するとユンさんが、「こいつはそこで結婚式を挙げたことが自慢なんですよ」と教えてくれた。
 何でも、ミョンドン・ソンダンはけっこう厳しいカトリックの教会で、1年以上も前から予約しなければ結婚式が挙げられないそうなのだ。

 へー、じゃそんなことろで結婚式を挙げられたイさんて、熱心なカトリックなんだー、と思ったが、この陽気でひょうきんな笑顔からは、「敬虔な」という言葉がどうしても想像つかない(ごめん m(_ _)m)。
 わたしのような者にはわからないが、もう、日常レベルで「信仰」というものが根付いているんだなあ。

 その後も(?)話は弾み、そして気がつくと、ユンさんにばかりビールを注がせている。
 これは申し訳ないな、と思ってユンさんの飲みかけのグラスにビールを注ごうとしたら、はっとした様子でユンさんがわたしの行動を制した。

 え、なに? と思ったら、韓国では飲みかけのグラスにお酒をつぎ足しすることは嫌われているのだそうな。
 ああ、言われてみれば、そんな話を聞いたような記憶がそこはかとなくある。

 「でも、まあ、今日は日本式でいきましょうか」とユンさんがわたしに気を使って飲みかけのグラスにビールを注ぐ。その様子を、イさんがめずらしそうに眺めている。
 で、ユンさんがイさんの飲みかけのグラスにビールを注ごうとしたら、イさんは「何するんだっ!」みたいなことを言いながら、ひったくるように自分のグラスをつかんでユンさんから遠ざけていた。
 おお、本当にすっごく嫌なんだな。これは覚えておこう。

 やがてイさんがユンさんに向かって何か言ってる。
 「いい喫茶店があるので、そこに行かないかと言っているのですが」だそうな。
 「どこにあるんですか?」と訊いたら、「ここから車で1時間くらいの所です」との返事。ユンさんも行ったことがあるところらしい。
 YMCAホテルの門限を過ぎてしまいそうだけど(過ぎても裏口から入れる)、まあ、いっか。
 しかし、どのあたりに行くんだろう?

 ユンさんが会計のために席を立っている間に、イさんに地図を見せて、「オディ?」(どこ?)と訊ねたら、「このへん」とソウル市全体を描いた地図から30cmくらい離れた虚空を指さされた。
 ひー、そんなに遠いんだ。

 なにはともあれこうして唐突に、夜のソウル・ドライブが決定したのであった。

おわり

 

 

 今回の韓国語  

 
自己紹介

1.チョヌン 〜〜 イムニダ [わたしは 〜〜です]
2.チョヌン 〜〜 (イ)ラゴ ハムニダ [わたしは 〜といいます]
                     [わたしは 〜と申します]

※(イ)は、その前にくる名詞がパッチムで終わる時に必要。

 
 本文中で、わたしは「わたしはちはるです」と自己紹介しましたが、ホントは「わたしはちはるといいます」って言いたかったんです。でも、その時は上記の1.の言い方しか知らなかったので、言うことができませんでした。
 正確には2.の「チョヌン ちはる ラゴ ハムニダ」と言った方がよかったのでしょうね。まあ、通じたからとりあえずいいか。

 「初めまして」は、

3.チョウム ペッケッスムニダ。

と言うそうです。

 長くて覚えるのが面倒くさいな(←こういう姿勢がいけない)。
 基本的には、「アンニョンハセヨ?」でOKだと思うのですけど。

 ちなみに中国語で「初めまして」は、「初次見面」(チューツージェンミェン)といいますが、これはかなりかたい言い方らしいです。初対面でも「ニーハオ」でいいんだよー、と聞いたことがあります(ビジネス上は知らん)。
 まあ、それでも「ニーハオ」自体が外国人向けの、けっこうかたい挨拶らしいんですけどね。

 中国と違って韓国では、日本人は自分の名前の漢字を現地語読みしなくていいから簡単なので(日本は相互主義なので、相手国の呼び方にあわせているはず)、「わたしは 〜〜 といいます」くらい、覚えておいてもいいかな? と思ったのでした。

 さあ、それでは練習。

チョウム ペッケッスムニダ。
チョヌン ちはる ラゴ ハムニダ。

(名前は自分のに入れ替えること)

 

 今回のおこづかい帳  


白花酒幕:ごちです m(_ _)m

今回の小計:W0
支払い総計:W62,500(約6,720円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 

 
 日韓交流リポートでした、ってそんなおおげさなもんじゃないって。
 とにかく本当にいろいろなことを話しました。とてもすべては再現できませんので、とりあえず思い出したことだけをだーっと書き連ねてみましたが、どんなもんでしょ? 何かの役に立ちますかね。

 ま、日本人と韓国人の間で、いったいどんなことを話すんだ? と思われた方もいらっしゃるかもしれませんので、参考までに(^ ^)。

 それではまた、次号でお会いしましょう。

 


2日目の1――貧乏人は今回の旅行でも歩いてます/
                    歩け、歩け! ソウル!! の巻

2日目の2――見どころ満載/国立中央博物館・前編の巻

2日目の3――キムパで休憩/国立中央博物館・後編の巻

2日目の4――いろいろ気付かぬにぶい自分を反省/クァンファムン前にて、の巻

2日目の5――そこにはいまでも花が手向けられていた/キョンボックンの巻

2日目の6――チャジャンミョンとはなんぞや?/ソウル、そぞろ歩きの巻

2日目の7――本屋はパラダイス! Part2/本屋さんめぐりの巻

2日目の8――韓国料理が目白押し/白花酒幕の巻

2日目の9――白花酒幕で夜は更けて/日韓話題あれこれの巻

2日目の10――オープン・カフェでパッビンスの巻

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