『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月12日(月)記


 
第39号


6日目の3――お昼ご飯は草の香りに包まれて/プルヒャンギの巻

2000年2月9日(水)発行

 

■ プルヒャンギ[P’pul‐hyang‐gi]

 
 インサドン[仁寺洞:Insadong]での買い物を終えて、ホテルで少し休憩して。

 よっしゃ、そろそろお昼食べに出かけるぞ、と部屋を出る。
 手持ちのウォンが少なくなっていたので、念のためにホテルのフロントで5000円分ほど両替しておく。この時のレートは¥100=W920。よって、46,000ウォンがわたしの手元に返ってきた。
 空港では¥100=W935だったから、少し円安になってきているのか。

 お昼はあれこれ悩んだが、プルヒャンギという自然食レストランに行くことに決めた。
 ユンさんも一度行ったことあるそうで、野菜だけを使った料理のお店だから、わたしのような胃弱者にはいいかもよ、というような話をふたりでしたことがあるからだ。

 ちなみにプルヒャンギは、『地球の歩き方』によると、「草の香り」という意味だそうな。なるほど、自然食レストランらしい名前である。
 ソウル市内にいくつか店舗があるようだが、わたしはトンデイック[東大入口:Tongguk Univ]の駅の近くにあるお店に行くことにした(他にアックジョン[狎鴎亭:Apkujong]にもある)。

 いいかげん使い慣れたチョンガッ[鍾閣:Chonggak]駅から地下鉄に乗り、チョンノサンガ[鐘路3街:Chongno‐samga]駅で地下鉄3号線に乗り換えてトンデイック駅到着。
 さあ、ここからが大変だ。例によって例のごとく、細かい地図がないんだから。

 チュンムロ[忠武路:Chungmuro]寄りの出口で降りればいいんだよな、とガイドブックの地図で確認。そちらとおぼしき出口から地上に出ると、すぐ近くに大きな交差点があった。道の向こうには公園があり、白い曇り空にむかって豪快に水を吹き上げている噴水がある。

 わたしが行かなきゃいけないのは、こっちの坂になっている道の方のはず、と自分自身に確認をとりながら歩く。ふと歩道沿い右手を見上げると、「パラダイス」という名前のついたビルがあった。そしてそのビルの向こうの角に、みどり色の地に白い文字が書かれた看板が、唐突に立っている。

 その看板を見た途端、ふと、昨日のチョンジノク[清進屋]のことを思い出した。
 当然、プルヒャンギがカタカナで看板だしているわけ、ないんだよな・・・

 そう思ってその看板のハングルを気合いをこめて読む。すると、プル……ヒャン……ギ……

 Yes! Bingo―――!! \(^o^)/

 この時ほどハングルを読めるようにして来てよかった、と思ったことはない。

 店は、その看板があるビルの角を曲がった道の奥にあった。
 プルヒャンギの店構えは、ごく普通の民家のようで、看板がなかったらとてもじゃないけどレストランなんて誰も思わないだろう。

 店内の方も中に入ると、まず普通の家のようなせまい玄関で靴を脱いであがるようになっていて、通された客席も8畳くらいの広さしかなく、庭に面した居間をそのまま利用しているような感じで、ちっともレストランらしくない。
 どうやらこれは一般家屋を改造した店のようだ。

 席はテーブル席ではなくいわゆる座敷で、4人くらいが座れる座卓と座布団が並んでいる。
 わたし以外の客の姿は、サラリーマンとおぼしき男性の一組だけ。
 空いている席のひとつに腰をおろすと、私服にエプロン姿の女性がさっそくお茶とメニューを持ってきてくれた。

 メニューは定食が5種類。単品は写真入りで載っている。
 定食の種類は以下のとおり。

 Aコース(W25,000:約2,690円)
 Bコース(W18,000:約1,940円)
 Cコース(W13,000:約1,400円)
 山菜ピビンバ定食(W13,000:前出)
 蔓人参定食(W13,000:前出)

 A〜Cコースの値段の違いは、料理の品数の違いらしい。Bコースからチゲが付くことになっている。
 自分の胃の許容量からすると、Cコースが妥当なんだけど、チゲが食べたかったのでBコースを所望。無事注文を終えてほっとする。

 しばらく待つと、先の女性が料理の小皿がいっぱいのったお盆を持ってやってきた。そしてそれをわたしの目の前に、どんどんどんどん並べていく。
 おお、すごい数だぞ。

 しかし、1回だけでは料理を運びきれなかったらしく、結局お盆では合計3回お給仕してもらった。これで終わりか、と思ったら、とどめにぐつぐつと音をたててチゲ鍋がやってきた。
 ううう、わたしひとりのために4回も料理を運んでもらえるなんて。ありがたや(←客商売が長い人)。

 さあ、食うぞ。
 とりあえず心残りをなくすため、すべての皿に箸をつけることにする。

 ご飯は麦ごはんで、これがなかなかうまい。味噌汁はおいしんだけど、やはり味噌が日本と違うような気がする。

 チゲは熱いうちに食べる。豆腐までほんのり赤く染まっている濃オレンジのチゲはもちろん辛い。味覚が刺激されて食がすすむ。

 キムチは全部で6種あった。日本でいうところのムルキムチ(トンチミ)、それにペチュ(白菜)ギムチは、さすがにわたしでも区別できるが、あとの4つはあまり日本で見かけないものが多い。
 見ただけで何だかわかるのは、オクラのキムチ。わたしはオクラは嫌いなので、普段は決して口にしないのだが、食べたら意外にもこれはおいしかった。
 食べたら正体がわかったのは、からし菜のキムチだった。これは「カッキムチ[kaskimch’i]」というらしい。見た目にはひじきのようだったので、食べてみたら全然違うのでびっくりした。

 残りの2種類は食べても原材料不明。ごぼうのような繊維質のものと、日本の古漬けによく似た味のものがあった。
※Web版Attention! ごぼうのような繊維質のものの正体は、蔓人参[つるにんじん]でした。蔓人参のキムチはトドキムチ[todok‐kimch’i]といいます。でも、どうもわたしが食べたのは蔓人参のキムチではなく、蔓人参をコチュジャンで味付けしたムチム[和え物]の方だったようです)

 ナムルはちょっと大きめのお皿に、10種類くらいが盛り合わせになっていた。焼き肉屋で肉はおかわりしないけど、ナムルはおかわりするというナムル大好きのわたしには涙もののありがたさである。
 日本じゃホウレンソウともやしとぜんまいのナムルくらいしかわたしは見ないけど、本場ではこんなにたくさんの種類があるんだな。

 一見正体不明の、四角く切られた茶色いゼラチン質の、ぷるぷるした食べ物がある。む、これは日本の精進料理にも出てくるどんぐり豆腐では?
 食べたらやっぱりそんな感じの味がした。韓国では「ムッ[muk]」というそうな。

 一口サイズに切られたニラの味の濃いチヂミは、白いプレーンなチヂミと、生地に唐辛子を混ぜてある赤いチヂミの2種類。彩りもきれいなていねいな仕事だ。
 たれはポン酢とコチュジャンがついている。両方うまい。

 肉団子の甘酢あんがけ、のような皿もある。
 ん? おかしいな。ここは野菜onlyの店のはず、と思いながら食べたら、これは豆腐をすったものに枝豆をいれて丸めたもの、みたいな感じの触感だった。しかも辛い。何だこりゃ? 甘酢あんかと思っていたのに違うのか。
 予想していたのと違う味だったので驚いたが、これもなかなか美味。わたし好みの味だった。

 ここまででたれを含めて総勢15皿。
 さすがにもう料理は来ないだろう、と思っていたのだが、食事の途中でお茶が出てきた。木製の茶卓の上に置かれた内側の白い小さな湯呑みに、ピンク色の透き通ったお茶が入っている。
 おう、もしかしてこれはファチェ茶ではないか? 本で見たことがあるぞ。
※Web版Attention! 実際には「ファチェ茶」ではなく、単に「ファチェ」と言います)

 食事の最後に飲んでみると、冷たさと一緒にすうっと爽やかな甘酸っぱさが口の中にひろがった。
 あー、これがファチェ茶なんだー。
 コーヒーやらビールやらスジョングァやら、韓国に来てからいろいろ飲んだけど、その中ではこのファチェ茶が一番うまい飲み物だな。

 コンビニとかでファチェ茶の素(もと)が売っていたら買って帰ろう、と心に誓う。

 15(正味13)皿全部を食べきれるはずもなく、7皿のみ完食であきらめる。
 腹ごなしのためしばらく休憩。
 ふと後ろをふりかえったら、この部屋で食事をしているのはわたしだけになっていた。先ほどお給仕してくれた女性は、わたしからちょっと離れたところに庭に向かってあぐらをかいて座りながら新聞を読んでいた。うーん、やっぱりレストランに来たと言うよりは、近所の知り合いの家にお昼を食べに来たような感じだ。

 奥の部屋では、ちゃぶ台をはさんで座った年輩の女性ふたりが、まるで自分の家のような気軽さでくつろぎながら、熱心に何かおしゃべりしている。

 そのふたりの前には、大きなガラスの湯呑みに入ったファチェ茶が。
 いいなー、あんな大きなサイズでも飲めるんだ。

 このふたりは食事をしていなかったようなので、このお店は飲み物だけのお客さんもOKらしい。

 繁華街からかなりはなれた、道の奥にあるお店なので、静かにゆっくり食事や会話を楽しむにはいいお店だな、とファチェ茶を飲みながらしみじみ思った。

おわり 

    

 今回のおこづかい帳  

 
   地下鉄:W   500
プルヒャンギ:W13,000(?)

今回の小計:W 13,500
支払い総計:W281,500(約30,269円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 

 
 はい、プルヒャンギ・リポートでした。
 今回の旅行で自分でお金を支払ったなかでは、これが一番高い食事でしたね。十分値段に見合う食事内容でした。

 ちなみに、なんでおこづかい帳の値段のところに(?)が書いてあるかというと、BコースはW18,000のはずなのに、実際にはW13,000しか請求されなかったんです。注文票には「B」と書いてあったはずなので、間違っているはずがないんですけどねえ。ランチ・タイムは特別価格だったのかな?

 ま、なんにせよ、わたしのような旅先なんぞで焼き肉を食べたら胃がもたれて具合が悪くなってしまう人間には、ありがたいお店でした。

 それでは、また次号でお会いしましょう。

  


  

6日目の1――無計画・チョンノそぞろ歩きの巻

6日目の2――お土産探しにインサドンへの巻

6日目の3――お昼ご飯は草の香りに包まれて/プルヒャンギの巻

6日目の4――これは干菓子ではなかった/茶食(タシッ)の巻

6日目の5――ふたたび本屋はパラダイス!(3) の巻

6日目の6――最後のディナーはサムゲタン[参鶏湯]の巻

6日目の7――「五」は何の「五」? の巻

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