『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月12日(月)記


 
第41号


6日目の5――ふたたび本屋はパラダイス!(3) の巻

2000年2月18日(金)発行

 

■ キョボ・ムンゴ[教保文庫]・2

 
 5時過ぎ。ホテルを出る。

 そういやイ・スンシン[李舜臣]の像の写真を撮ってなかったな、と思い出し、まずはチョンノ[鍾路:Chongno]とセジョンノ[世宗路:Se‐jongno]の交差点へ。
 朝と違って、今度はちゃんと像に太陽の光があたっていた。よしよし。

 しかし、交差点は人通りが多い時間帯でもあった。
 人目に触れぬよう、さっと撮ってさっとカメラを隠し速攻その場を離れる、という実に怪しげな撮影をこなす。

 さて、ここまで来たなら、すぐそこにあるキョボ・ムンゴ[教保文庫]にでも寄ってくか。
 若者たちの往来激しいビル前の階段をのぼり、キョボ・ムンゴがあるビルの中へ。今度は階段を降りてフロアに出ると・・・おお、やっぱり広いなあ。いやあ、壮観。

 韓国ではどんな本が読まれているんだろう? とりあえず手近なコーナーをのぞいてみる。
 本の背表紙のタイトルは、ほとんどハングル表記のみなので、見ただけではわたしにはわからない。1冊ずつ本をひっぱりだして表紙を確認する。

 あれ? これ、赤川次郎じゃん。へー、韓国でも赤川次郎、読まれてるんだ。知らなかった。
 お、これは綾辻行人だよ。ふうん、わたしは読んだことないけど、こっちじゃ人気あるのかな?
 なんだこれ? おお、少年マガジンで連載されている『金田一少年の事件簿』の小説版だ。こんなものまで(失礼)翻訳されているんだ。
※Web版Sorry! 後で聞いたらこれ、第1巻だけユンさんが翻訳していたことが判明。ひええ)

 別の棚から背表紙のデザインに見覚えがある本をひっぱりだしたら、『スレイヤーズ』だった。
 ああ、これ、富士見ファンタジア文庫のデザインだ。
 ほとんどの本が、日本で売られているのとは違うデザインになっているけど、これはそのまま使っているんだな。その他のシリーズのものもけっこうあるぞ。いのまたむつみさんの絵が表紙のもあるけど、うーん、これは何だか知らないや。

 う、『スラム・ダンク』の小説もある。中国じゃアニメがけっこう好評だったみたいだけど、韓国では小説でも読まれているんだ。
 そして同じ並びの書棚には、なんと金庸さんの武侠小説がずらりと。
 ひー、日本で翻訳・発行されている本よりも、ずっと数が多いじゃん。
 岡崎由美先生(金庸さんの本を多く翻訳してらっしゃる)、もっとがんばってくれー。

 本を平積みしているコーナーには、『大望』と漢字でタイトルが書かれた本があった。
 一瞬、『太公望』と読んでしまったので、中国の本か? と思ったのだが、よくよく見たらサブ・タイトルに「徳川家康」とある。

 え? これ、日本の武将ものの本なの?
 うそー、韓国じゃ日本色の濃いものはあまり人気がないって聞いたことがあったのに、徳川家康? めちゃめちゃ日本じゃん。

 ――などと驚いていたのだから無知はおそろしい。
 帰国後に知ったのだが、この山岡荘八さんの『大望』(日本でのタイトルは『徳川家康』)は、三浦綾子さんの『氷点』と並んで、韓国では大ベストセラーを記録したことがあるそうなのだ(『氷点』は1960年代後半、『大望』は1970年代初期)。
 いずれの作品もわたしは読んだことがないので、どんな内容の本かは不明である。
※Web版Attention! 山岡荘八さんの『徳川家康』は、分厚い文庫本で合計26冊にもなるという長編小説です。韓国は一般に文庫本のサイズが大きいので、20冊くらいになっているらしいですが、ダイジェストすることなく、全編翻訳されているそうです。うーん、根性。『氷点』を書いた三浦綾子さんは、わたしが韓国から帰国した3か月後の1999年10月に亡くなられました。自分の身を次々と襲う様々な病気と向き合いながら、人間はいかに生きるべきか? というテーマを追い続けた作家さんだったそうです。合掌)

 それにしても徳川家康ねえ。うーん、わたしはそもそも日本の武将にそれほど興味ないからなあ。中国の武将の方がよっぽど知ってるよ。これで中国人が韓国の武将の本を読んでたら、何が何やらだな。

 その他、表紙が天野喜孝さんの本を発見。どうやら菊地秀行の『吸血鬼(バンパイア)ハンター“D”』だったらしい。韓国は日本と違って本のサイズが大きいので、天野さんの絵がよりいっそう迫力を増していた。
※Attention! 作家さんの名前に敬称がついてたりついてなかったりしますが、意味はありません。気にしないでください。また、韓国にも天野喜孝信徒はかなり多いそうです)

 とまあ、表紙に見覚えがあるので日本の本にばかり目がいってしまったが、もちろん欧米その他の本もあった。ちょうど映画が公開中だったのか、ケビン・コスナーが出ていた『メッセージ・イン・ア・ボトル(Message In A Bottle)』も平積みされていた。

 しかしなあ。これだけ韓国に日本の流行小説が翻訳されてあるのに、どうして日本の一般書店では、あまり韓国の小説の類を見かけないんだろう? わたしが知らな過ぎるだけか?
 なんか、バランスが悪いような気がする。
※Web版Attention! 現在集英社から『太白山脈』という韓国の小説(?)が発行中です。ずいぶん昔に韓国国内で映画化されて、絶大な人気があったそうです)

 文芸は飽きたので、他のコーナーに移る。と、語学コーナーを発見。外国人向けの韓国語テキスト(教本)だ。英語、日本語、中国語(簡体字だった)版がある。
 中国語。そういや、空港では韓国語、英語、中国語の表記が圧倒的だったのに、街中には中国語の表記がほとんどなかった。なんでだろ?

 それはさておきテキスト。値段は日本で売っているものとそれほど変わらない。
 内容を確認して思わず眉をひそめる。むー、ハングルの読みにカタカナがふってあるよ。
 「シンチョン」の恨みがまだ新しかったので(※第17号参照)、思わず床に投げつけたくなる衝動にかられる。もちろんわたしは大人だから、やらなかったけどさ。

 このハングルとカタカナの並記って、絶対日本人のハングルの読み習得の妨げになると思う。だって、ハングルとカタカナが並べて書いてあったら、初心者なら絶対カタカナに目がいっちゃうと思うもん。
 ガイドブックは仕方ないけど(というよりないと困るけど)、テキストではやめてもらえないもんだろうか?
※Attention! 英語版と中国語版は、日本語版のようにハングルに読みがなをふってませんでした。中国語版はもしかしたらピンインを応用しでやってるかな? と思いましたが、わたしの見た本ではいずれもやっていませんでした)

 この韓国語テキストを置いてあるあたりは、どうやら外国人向けコーナーらしく、テキストの他にもガイドブックや写真集、料理の本などが集められていた。
 すっごく安いのは、韓国観光公社でタダでもらえそうなガイドブックの小冊子(実際日本じゃタダだと思う)がW1,000(約108円)、高いものは1冊W30,000(約3,226円)くらいする写真集など、いろいろあった。英語の本が多かったと思う。

 何か食べ物に関する本でも買って帰ろうか、と思ったのだが、わたしがほしいと思うような本はなかった。残念。

 アメリカ人が書いた、『韓国が日本に与えた影響――隠された歴史』(と英語で書かれていた)なんていうタイトルの本もある。
 中を見ると、法隆寺にある玉虫厨子(たまむしのずし)の「捨身飼虎」図(しゃしんしこず)の写真とかが載っていた。
 なるほど、この時代の話って、アメリカ人からみても興味深いんだな。

 でも、「Hidden」(隠された)というほどのことはないと思うんだけど。玉虫厨子が半島からやってきた渡来人の手によるものだって話、日本でもよく聞くし。それでもやっぱりHiddenなのか?

 かなり長い時間をここで過ごし、こんどはフロア最奥の外国書籍のコーナーへ。化学や物理、工学などの専門書が、各国語の原書で置かれている。うーん、めまい。退却。

 しかしこのコーナーのさらに奥には、日本の原書の書籍がわんさか並べられていた。おお、なんか、韓国にいる日本人のオアシスになりそうな場所だな。

 ここで本を買ってもしかたないから、値段は確認しなかったけど、日本じゃそうそう値引かない(っていうか、値引いているのを見たことがない)新刊の文庫本が20%OFFだった。うらやましい話だ。

 小説が多かったが、それよりも多かったのが女性向けのパッチワークやら手芸やらの本。床に座り込んで読みながら、さらにメモをとっている人がかなりの数いた。日本じゃ絶対見ない光景だ。
 もちろん座り込んで読んでいいものではないらしく、店員さんに注意されてたけど。

 雑誌コーナーもある。驚くことに『TVぴあ』があった。
 『TVぴあ』? 韓国で役に立つのか、これ?
 ああ、まあ、NHKBSとかはOKか。それにしても、ねえ。
※Web版Attention! NHKBSのテレビ番組表は、韓国の新聞にもちゃんと韓国語訳されて載っているそうです)

 日本書籍のコーナーを離れ、韓国の絵本コーナーも攻めてみる。
 民話の本などほしかったのだけど、サイズは小さいけど予想以上に分厚かったのでパス。これ以上重い荷物は増やせん。
 幼児向けの本のコーナーだったはずなのだが、ほのぼのした本よりも、幼児教育用の本が多かったような気がする。日本同様、このくらいの年令から、受験戦争が始まっているということなのだろうか?

 その他、フロアをうろうろしていたら、「話題の新書」みたいなところに、乙武洋匡さんの『五体不満足』があった。
 この本はわたしも読んだよ(立ち読みだけど)。なかなか面白かった。

 あれこれ見ていたら、あっという間に1時間半ほど経過。
 結局本は1冊も買わなかったけれど、韓国語がわからなくても、意外と本屋で楽しく時間を過ごせることを発見したのが、一番の収穫だった。

おわり  

    

 今回のおこづかい帳  

 
今回はなし

今回の小計:W0
支払い総計:W287,000(約30,860円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 

 
 キョボ・ムンゴ[教保文庫]リポート2でした。いかがでしたでしょうか?

 キョボ・ムンゴに行くまでは、ほんと、韓国であんなにたくさんの日本の書籍が翻訳されて売られているとは知りませんでした。
 日本でも韓国の本を翻訳して売ってますけど、あんなに大量の流行小説が売られている本屋は見たことがありません。新宿の紀伊国屋にだってないよね?

 以前、ユンさんとも「何で日本には韓国の本があまりないんだろう?」という話をしたことがあります。聞くところによると、「韓国語を日本語で翻訳する者がいない」&「韓国語が分かる人も少ないから情報不足だ」というようなことが日本の出版界でも言われているそうです。

 「日本の作品が韓国人に受ける理由は、やはり感情が似っているからだから、その逆に韓国の作品が日本人に受けてもおかしくないのにね」とはユンさんの弁です。
 ほんと、韓国の流行小説が日本語に翻訳されて売られていないのは、本好きのわたしには残念でなりません。

 ほら、そこで韓国語の勉強をしているあなた。知らんぷりしてないでがんばってくださいよう(と、自分の中国語のレベルを棚に上げる 笑)。

 それでは、また次号でお会いしましょう。

   


  

6日目の1――無計画・チョンノそぞろ歩きの巻

6日目の2――お土産探しにインサドンへの巻

6日目の3――お昼ご飯は草の香りに包まれて/プルヒャンギの巻

6日目の4――これは干菓子ではなかった/茶食(タシッ)の巻

6日目の5――ふたたび本屋はパラダイス!(3) の巻

6日目の6――最後のディナーはサムゲタン[参鶏湯]の巻

6日目の7――「五」は何の「五」? の巻

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