『ソウル7日間徒然日記』 1999年7月12日(月)記


 
第42号


6日目の6――最後のディナーはサムゲタン[参鶏湯]の巻

2000年2月23日(水)発行

 

■ サムゲタン[参鶏湯]

 
 キョボ・ムンゴ[教保文庫]からホテルにいったん戻り、ユンさんに旅行のお礼の電話を入れた後、今度は夕食に出かけるしたくをする。
 今日の夕飯は決まっている。サムゲタンだ。

 YMCAホテルのずーっと裏手に、テファグァン[泰和館]・ギルというインサドン[仁寺洞]・ギルと交差する道がある。インサドン周辺をうろうろする時に、何度か通ったことがある道なのだが、この道沿いにイロクジョ[一億兆]という、弥勒菩薩だって余裕でこの世に降臨して来そうな名前の店があったのだ。

 店が入っているビルの壁面には、屋上から「ポッサムキムチ販売中」みたいなことを日本語で書いてある大きなたれ幕が下がっていて、日本人の目にはすごく目立つ。
 最初はお土産屋さんか? と思ったのだが、1階はレストランになっているらしく、「参鶏湯 W7,000」とこれまた漢字で書かれた貼り紙が入り口付近に出ていた。

 ふうん、サムゲタンって、W7,000(約753円)くらいで食べられるものなのか。
 日本で食べようとしたらだいたい3,000円、高いものは天井知らずだっつーのに。

 この店はホテルから近いし、機会があったら食べに来てみようかな、と思っていて、ついに今夜その時がやってきたというわけだ。

 ガイドブックやら何やら、いらないものはすべて部屋に置いて身軽になって外に出る。
 ホテルとセブン・イレブンの間の路地を抜け、いったんインサドンに向かう。さすがに時刻は7時過ぎ。空はまだ明るいが、足元はだいぶ暗い。所どころの店の看板には明かりがともっているが、路地全体を明るくするほどではなかった。

 さて、インサドン・ギルに出てからテファグァン・ギルへ。イロクジョは・・・うん、開いてる、開いてる。
 ポッサム・キムチなんていう、キムチの中でも一番高級といわれているものを売っている店だから、さぞかし大規模な店なのかと思ったら、全然普通の食堂だった。奥には調理場が見えていて、何となく地方の国道沿いにあるドライブ・インを思い出す。

 入り口をはいったすぐのフロアには、パーマ頭にジャケットを着て、バッグ1つを持った年配の女性が、食事もしていないのに、なぜかテーブルの1つに座を占めていた。
 そのちょっと身体を斜めにして、店の主(ぬし)然としてどっかりと椅子に腰かけた様子が、テレビドラマによく出てくる、用もないのに店に来て、店員やお客さんにおせっかいを焼くおばちゃんにそっくりである。

 案の定、奥から出てきたエプロンをした女性がわたしに話かけようとしているにもかかわらず、そのおばちゃんはわたしを見るなり「上に行け!」というようなことを、身ぶりを交えて話しかける。

 どうしたもんだろか? と悩んだが、あまりにもそのきっぱりとした物言いに負けて、わたしは奥にある階段を昇って2階にあがった。しかしそこには、がらーんとした何もない空間が広がっているだけだった。部屋の半分は電気がついておらず、隅には椅子やテーブルが積まれている。
 うーん、どうやらここは、団体さんが来た時用のフロアらしいな。

 ということは、あのおばちゃんはたったひとりで店に来たわたしを、団体客のひとりだと思ってここに来るように指示したのだろうか?
 まあ、韓国じゃひとりで食事するのはめずらしいっていうから、間違われてもしかたないんだけど。

 何はともあれ、こんなところで途方に暮れていてもしかたがない。下に降りる。すると、エプロンをした女性が、心配そうな目をしてわたしを待ち受けていた。
 かのおばちゃんがまたしてもわたしに何か話かけていたが、わたしはそれをわからないふりして(実際にわからなかったが)、エプロンの女性に指1本を示しながら「ひとり(で食事に来た)」と告げると、「あー、ひとりなの」というようにうなずかれた。ああ、やっと話が通じた。ほっとする。

 エプロンの女性に連れられて、奥の客席へ案内される。ここの席にどうぞとすすめられて椅子に座った途端、わたしは視界右斜め前方に例のおばちゃんを捕捉した。
 しまった。この席はあのおばちゃんの守備(?)範囲だったのか。この席に座ったのはまずかったかな?

 しかしいまさら席を変えるのも面倒くさかったので、そのまま座りながらサムゲタンを注文する。その後は、今までのどの食堂とも同じく、すぐにキムチやカクテキ、水がやってくる。
 しかし今回は、なぜか塩が入った小皿と、空の小皿もやってきた。
 この塩は何に使うんだろう? 疑問に思いつつキムチを食す。

 店の中には、他に3組ほど客がいた(おばちゃん除く)。日本人のカップルと、韓国人の男性4人組、それに韓国人のカップル。
 日本人のカップルは、何やらあれこれ日本語でエプロンの女性に質問していたが、エプロンの女性は日本語がほとんどわからない様子だった。
 そっか、日本語の貼り紙やたれ幕が出ていたけど、通じるというわけではないんだな。

 待つことしばし。やがて温かい料理のお決まりどおりに、じゅうじゅうと音をたてながらサムゲタンがやってきた。

 さてサムゲタン。実は今回初めて実物を見た。びっくりした。
 くどいようだが、どうしてもわたしはタン[湯]=スープという先入観があるので、サムゲタンはわたしの想像の中では、にわとりでだしをとったスープ、という意味になっていた。

 ところがどっこいサムゲタン、石でできた丼の中に、どーんとにわとりが一羽、透明なスープにひたって仰向けに入っているではないかっ!?
 ひー、これが本物の(?)サムゲタンなのか。

 にわとりと言ってもひな鶏なので、それほど大きくはないが、これ一羽全部食えというのか? と胃弱&小食のわたしはちょっと口元がひきつったが、まあ人生何事もイチからこつこつやろう、と思い直し、食べ始める。

 にわとりは、姿かたちそのまま入っているので(頭はない)、それをチョッカラッ[箸]やスッカラッ[スプーン]で解体しつつ食す。思わず、ああ、これがあばらで、これが手羽先か、なんて確認してしまう。そして解体後の骨は空の小皿へ。

 しかし、にわとりの中はそのままではなく、いろいろ詰め物がされているのだった。わたしが確認した限りでは、もち米、なつめ、高麗人参、栗。
 栗も入っているのか・・・何か意外な感じ。しかし食べてみれば、栗ご飯と同じでぽくぽくしておいしかった。

 そうして食べていると、突き刺さるような視線が右斜め前方から飛んできた。うう、見なくてもわかるぜ。絶対あのおばちゃんだ。

 予想は的中で、おばちゃんはエプロンの女性を呼びつけると、わたしの方をちらちらと向きながら何事か言っている。エプロンの女性はうん、うんとうなずいた後、その指令を伝えるべくわたしの席へ。

 エプロンの女性もわたしも、当然お互いの言っていることはわからないのだが、どうもわたしのサムゲタンの食べ方が違う、と女性が言いたいらしいことはわかった。そして塩の小皿を指さす。
 「塩をサムゲタンの中に入れるのか?」とわたしが身ぶりすると、ちがうちがう、と女性は手をふり、「チョッカラッを貸して」というしぐさをする。そしてチョッカラッを持つと、女性はにわとりの肉の部分をチョッカラッでほぐして小皿に取り、塩をつけてから食べて、と手順を示した。
 ああ、なるほど。そのためにこの塩はあったのか。

 自分の技術指導がうまく伝わって、おばちゃんもほっとしたようである。わたしも心の中で感謝する。
※Question? しかしほんとにそういうものなんでしょうか? 実際には塩を中に入れる人もいるようです)
※Web版Attention! その後、いろいろな方から教えていただきましたが、塩は中に入れてもOKだそうです。特に食べ方にマナーがあるものではないので、自分がおいしければ、それでいいのですね)

 にわとりを解体しつつ食べたので、食べ終わるまでにけっこう時間がかかってしまったが、美味だったので文句なし。淡泊で、実にわたし好みな味だった。

 もう一回くらい食べる機会があればよかったな。この味を知ったのが、最後の夜だったことが非常に残念である。


    

 

■ 種(たね)?

 
 夕食の帰り道、インサドン・ギルからサミルノ[三一路:Samilno]とチョンノ[鍾路:Chongno]の交差点を経由してホテル方面へ戻る。

 この交差点はソウル滞在中よく使ったのだが、その角にはいつも夜になると食べ物の屋台が出ていた。

 いつもはたいして気にせずに通り過ぎていたのだが、ふと、屋台からただよってくるいい匂いにひかれてそちらを見た。
 すると、日本でもよく見る甘栗をつくる機械みたいなズンドウ(鍋の一種)の中で、大きなスイカの種のような物が湯気をたてている。

 そういやこのスイカの種みたいなの、ソウル中のあちこちでよく見るなあ。あれはいったい何なんだろう?
 スイカの種にしては粒がかなり大きくて、柿の種(せんべいじゃないよ)くらいの大きさがある。そして屋台からは、甘いような香ばしいような、独特の匂いが湯気と熱気におされてこちらにやってくる。

 そうしてそれをよく見ると、つやつやとした光沢を放つ茶色の種(?)の表面には、蛇腹(じゃばら)のような細い溝がいく筋も刻まれていた。それを見た瞬間に気付いた。

 ああ、あれ、蚕(かいこ)だ。
 そうかあ、韓国でも蚕、食べるんだ。

 中国でも食べるんだよね、蚕。以前わたしは中国国内を移動する時、中国東方航空の機内で、飲み物のおつまみとして蚕を出されたことがある。
 幸運なことに、中身の見えないアルミの袋に入っていたので、機内でひーっと叫ぶことはなかったけれど。

 ちなみにわたしは虫が大っ嫌いなので、そのおつまみは袋の中身も見ずに捨てた(すみません、食べ物を粗末にして)。その旅行の時のわたしの連れ(銀)は、中身を見てから捨てたそうな。
 食べる人には申し訳ないけれど(本当にごめん)、ダメなものはダメなのである。

 韓国のこの蚕のさなぎをゆでたものは、「ポンデギ」というと本に書いてあった。

 シルク(絹)をつくる国って、どこでも蚕を食べるのかな? ということは、昔は日本でも食べたんだろうか?(いなごは聞きますが)
※Web版Attention! 長野の田舎の方では、今でもゆでた蚕のさなぎを食べるそうです)

 こんなところに韓国と中国の共通点があるとは思わなかったので、「ほっほー、意外、意外」と心の中でつぶやいたのであった。

おわり  

  

 今回のおこづかい帳  

 
サムゲタン:W7,000

今回の小計:W7,000
支払い総計:W294,000(約31,613円)+34,591円

(※レートは1999年7月当時、¥100=W930で計算しています)

 

 編集後記 

 
 サムゲタン・リポートでした。いかがでしたでしょうか?
 味よりもおばちゃんリポートの方に力が入ってますけどね(笑)。

 サムゲタンは名前はよく聞きますけれど、見たのも食べたのも初めてでした。にわとり(ひな鶏)が1羽まるまる入っているとは思いませんでしたよ。
 考えてみれば、かなり豪快な料理ですよね。

 ポンデギは、匂いがすごくいいんです(ちょっと青臭い感じもするが)。だから味もけっこういけるんでしょうね(実際おいしいそうです)。
 「私は食べ物に先入観はないぜっ!」という方はぜひトライしてみて下さい。ほんと、ソウル中のどこにでもポンデギの屋台はありました。

 それでは、また次号でお会いしましょう。

  


  

6日目の1――無計画・チョンノそぞろ歩きの巻

6日目の2――お土産探しにインサドンへの巻

6日目の3――お昼ご飯は草の香りに包まれて/プルヒャンギの巻

6日目の4――これは干菓子ではなかった/茶食(タシッ)の巻

6日目の5――ふたたび本屋はパラダイス!(3) の巻

6日目の6――最後のディナーはサムゲタン[参鶏湯]の巻

6日目の7――「五」は何の「五」? の巻

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