BGM:効果音 幕が開く。風の音。「予言者の歌のイントロが静かに流れる・・・」
ナレーター 足早に登場する男。目深にかぶった帽子の下から、あたりをゆっくりと見渡し
        てみる
フレディ 「あいつ、まだ来てないのか・・・」
ジョン   「遅れてごめん」
ナレーター フレディとは、反対の方向からジョンがやって来た。
フレディ 「ジョン・・・、来てくれたんだね」
ジョン   「ああ。君のたってのお願いじゃ無視するわけにはいかないさ」
フレディ 「無理いってごめん」
ジョン   「そんな・・・。僕こそこんな寒い中待たせてしまってごめん。今まであっちこっち
      僕の姿がないか探し回っていたんだよね。来る途中でちらっと君らしき人影を、
      遠くからだったけれど見かけたんだ。本当に申し訳なかった。家を出るのに時間
      がかかってしまって、こんなに遅くなってしまったんだよ」 
ナレーター その長い髪を一つに縛り帽子に押し込んで被っているジョン。そう言って、右
      手にはめた分厚い手袋をとってフレディの頬にそっと触れた。フレディの頬は冷
      たい風に長時間さらされてすっかり冷え切っている。
フレディ 「うん。本当に来てくれるか不安になってね・・・。でも、ジョン、そんな事気にしな
      いで。それよりも君が約束守って、ここに来てくれたからとても嬉しく思うよ。あり
      がとう」
ジョン   「・・・ああ、でも、フレディ。月の城へ行って将来のこと教えてもらうんだって、本
      気で言っているのかい?そう、満月の夜にだけ突然現れるという予言者が住む
      謎の城へ。密かに当たると、ちまたで噂になっているけれど、そのかわり教えて
      もらったらその人は、大切なことや、大切なものを一つ失うっていう話だよ。・・・
      君は、それを知ってて言っているのかい?」 
フレディ 「ああ、もちろん知っているさ、ジョン。僕たちが成功するのは、確実だし現実に
      そうなりつつある。でも時々不安になるんだ。本当にこのままずっと続けていけ
      るのかって。10年先、20年先も僕は歌っていられるのか。それを教えてもらいた
      いんだ。そして安心したいんだ。でも一人だと不安だし心細いからジョンに頼んで
      きてもらったし、フレディ・マーキュリーがそんなこと気にして月の城にやって来た
      なんてみんなに知られると恥ずかしいから変装してきたんだけれど…」
ナレーター  フレディ、くるっとその場で一回転してみせる。その黒くて美しい、肩まである
      髪はそのまま、そして、その派手な羽がついている帽子もいつも被っているやつ
      で、とても変装しているとは思えない。ただし服装はいつもより幾分地味だった。
ジョン   「似合ってるよ」
ナレーター ジョンの言葉を聞いて、フレディは、にこっと笑った。
フレディ  「そりゃそうさ。このかっこいい僕が変装しているんだからね★」
ジョン   「はは・・・。そうだな・・・」
フレディ  「うふふふっ♪まあ、ほめられて悪い気はしないけれど。サンキュー、ジョン。
       嬉しかったよ。さて、と。それはさておき・・・」
ジョン   「さておき?」
ナレーター フレディは、にやりと笑うと突然、ジョンと腕を組んだ。そしてジョンの腕を握る
       自分の手の上に、もう片方の手を重ねる。
フレディ  「いこう」
ナレーター ぐいぐいとジョンを引っ張って、満月の明るい光にてらされた、丘の上に建つ月
       の城とは正反対の方向へと歩き始めた、フレディ。
ジョン   「えっ。城は、そっちじゃないよ、丘を登っていくんだよ。フレディ、君は一体どこへ
      行く気なんだい?」
フレディ  「んっ?いいところ♪」
ジョン   「えっ、ちょっ、ちょっと待った。えっ?えっ?」
フレディ  「大丈夫。お互い変装しているし、僕たちだってばれないよ。う〜ん、部屋あいてい
      るといいなあ〜・・・」
ジョン   「へ・部屋っ?!部屋って一体・・・。どうしてそんな事突然・・・」
フレディ  「気が変わった。月の城には、また今度、満月の晩に行けばいいさ。今日はね、
      ジョンと別の所へ行きたくなった。・・・そう、君が、僕の体に火をつけたんだよ。僕
      の頬に触ってね」
ナレーター フレディは、立ち止まるとジョンを見た。そして、真顔で、ぴしっと親指と人差し指
      をたてて腕を組んだままジョンを指指す。
ジョン   「いや、そういう気分にさせる為に触った訳じゃ・・・」
フレディ  「火をつけたのは君なんだから責任取ってもらうよ。覚悟してよね、ダーリン♪それ
      に満月付近は、出産が多いって知ってる?それに男は狼になりやすいんだってさ」
ナレーター  にっこり頬笑んで、再び歩き始めたフレディ。そういえば、いつのまにか鼻息が
      荒くなって目が爛々としている。
ジョン   「狼って・・・、わーっ!!」
ナレーター  るんるん気分のフレディ。そんなフレディに引きずられてゆくジョン。こうして二人
      は、待ち合わせ場所である、月の城が建つ丘へと続く人里離れたとある十字路を後
      にし、街へと引き返していった。そう、寒さに凍えなくて良い場所へ。二人きりになれ
      る場所へ。こうして結果的に二人きりとなった、ある満月の晩は更けてゆくのであった。

      舞台の下手へと手を引っ張り、引っ張られながら上手目指して歩いてゆく二人。そんな
      二人に幕がおろされる。   『完』


                        



ロジャー  「ちょっと待ったっ!俺たちまだ出番ないのに終わりかよおっ!」   
ブライアン 「それにここで物語終わらせたら『オペラ座』もこれで終わってしまうよ。内容的にも
       ちょっとこれは・・・お子さまには・・・」
ナレーター  幕が下りると同時に舞台裏にいたロジャーとブライアンが抗議してきた。
いちご   「う〜ん。そうですね。失礼しました。では、もう一度最初から始めましょうか。皆さん、
       よろしいですか?」
ロジャー  「おうっ!」
ブライアン 「うーん、その方がいいんじゃないかな・・・」
フレディ  「まあ、色々演じてみたいし・・・」
ジョン    「(無言で頷く)」
いちご   「はい。全員賛成ということで、一からやり直すことに決定です。では、ジョン、向こう
       側に行ってくださいます?」
ジョン    「ああ」
ナレーター  ジョンは、フレディと反対側からやってくるという設定のため、裏を回って下手へと
       移動していった。ジョンが下手へとたどり着くまでの間、他の三人は少しだけ休憩とな
       る。幕が下りて終わったと安堵したのもつかの間、再びしかもすぐに舞台に上がらな
       くてはならなくなったフレディは、緊張で表情をこわばらせながら、胸に手を置き目を
       閉じて深呼吸をし高鳴る鼓動を沈めようと試みる。そんなフレディよりも前に立ち、舞
       台のやり直しが決まってほっと胸をなで下ろした、人形のように可愛い長髪のロジャー
       と、顔に皺一つないやせたブライアン。
ロジャー  「良かった。出番なくてここにいるだけだったら、何のためにここへ来たのか 分から
       なくなっちまう。それだったらスキーとか飲みに行った方が絶対良いよな。俺は、何か
       してないと落ち着かない、じっとしていられない性格なんだよ」
ブライアン 「うん・・・。まあ、出番がなければないで、疲れのたまった体をその分休めら れるか
       らありがたいけれど。せっかくこうしてここにいるんだもの、普段の僕たちとは異なる職
       業・・・、役者という仕事を楽しみたいね」
ロジャー  「そうだな。それにストーリーがこれからどういう風に展開していくか本当興味あるよ。
       なんてこうしてブライアンと話していても実は今、役者なんていう経験あまりないから、
       内心どきどきしてるんだけどな」
ブライアン 「僕も、胃が痛いよ」
ロジャー  「なんだよお〜、ブライアン。だらしないなあ。なんてっ、実は俺も・・・。舞台の上で苦
       しまないようにこの時間を利用して胃薬飲んでおくか?」
ナレーター  などと言葉を交わしながら、ジョンが下手に現れるのを待つ。・・・と、何分か後に舞
       台裏を通って下手についたジョンがひょっこり出てきた。
ロジャー  「おっ。ジョンついたようだなっ。お〜いっジョン!」
ナレーター  ロジャーが、ジョンに気づいて大きく手を振った。ジョンも苦笑しつつ胸の辺りで小さ
       く手を振り返す。
ブライアン 「ろ・ロジャー、幕が下りているとはいえ、観客がいるのにそんな大声だしたら・・・」
フレディ  「ああ、ジョンがついたんだね・・・」
ナレーター  ロジャーの声に、フレディもジョンが下手についたと気づいてゆっくりと目を開けた。
いちご   「そのようですね。皆さん心の準備はよろしいですか?二度目の公演ですがよろしく
       お願いしまーす♪」
ロジャー  「どんとこいっ!」
ブライアン 「スタッフの皆もよろしくお願いしまーす」
スタッフ達 「よろしくお願いしまーす」
フレディ  「はーい・・・」
ナレーター フレディは、返事をするとすぐに・・・一番最初に舞台に登場するのでロジャー達の
       脇を通って、薄暗い中満月の光が辺りを照らしいてるという設定の舞台の、すぐ近く
       まで歩いてゆく。そんな中、いちごは、下手にいてこちらの様子を見守っているジョン
       へと、ぺこっと頭を下げて開演しますよと合図をした。ジョンもその意味を悟り軽く頭を
       下げて了解する。
      
      そして・・・

いちご   「は〜いっ!では、スタート!!」

BGM:効果音 幕が開く。風の音。「予言者の歌のイントロが静かに流れる・・・」
ナレーター 「足早に登場する男。目深にかぶった帽子の下から、あたりをゆっくりと見渡してみる」
フレディ  「あいつ、まだ来てないのか・・・」



                                                 (了)
シアター「オペラ座」
              Presented by 黒蜥蜴