
受精卵のES細胞研究等への利用について
【交】ES細胞や特定胚に関する指針が総合科学技術会議や文部科学省で検討されているが、生殖医療の現場から人の胚や卵子等がこれらの研究のために提供されることについて厚労省としてどのように考えているか。
【厚】ヒト胚の研究利用については、現在、総合科学技術会議で議論が進められている状況にあって、ES細胞について指針が出て、特定胚やヒト胚について審議が行われている段階にある。分担関係としましては、ヒト胚の問題においては、基礎的研究段階においては文部科学省が分担し、臨床での応用段階は厚生労働省が担当することになっております。ES細胞研究や特定胚についての研究指針は文部科学省の担当でございますので、必要なことは文部科学省で定めるということであって、私どもとして特別な措置をとる考えはございません。技術的に助言を求められ、医療分野を所管する立場として協力を求められれば対応していく立場だと考えている。
【交】基礎的な研究段階といっても、ES細胞を作るために不妊治療の現場から胚をもってくるわけで、そこには医療の受け手である不妊の人達がいる。胚の提供者や提供を依頼される者の立場を守るために、厚労省としてどのように対処するのか。
【厚】基礎的研究としてES細胞を取り出すためにヒト胚が必要だということですので、その担当は文部科学省で、私共の仕事ではない。
【交】ヒト胚提供に関する協力について、これまでに文部科学省から厚労省に何らかの話は出ているのか。
【厚】出ていない。
【交】現在、全国に凍結受精卵がいくつあるかという実態は把握しているのか。凍結受精卵からES細胞を樹立しようという動きが出てきた新たな段階だからこそ、生殖医療の現場を管轄している厚労省が、患者の人権を守るためにも、どういう形で胚が保存され、提供されるのかも含めて、今すぐに実態を把握すべきだと思うが。
【厚】把握していません。今ある凍結受精卵は、配偶者間の体外受精のために同意を得て凍結しているもので、凍結自体が悪いとはいえない。そのような中で、凍結受精卵の数を全て報告させて把握する必要があるのか、理解出来ない。
【交】今までも、生殖医学や不妊症の研究ということで受精卵が使われてきたが、その利用の実態について調査する予定はないのか。
【厚】受精卵の取り扱いについては、日本産科婦人科学会の自主規制がかなり効いている。特に問題は出てきているとは思わない。
【交】学会の自主規制といっても、学会へ登録・報告するだけで、研究内容について審査もないし、インフォームドコンセントをきちんと得たのかということについても学会で把握していない。現実に、不妊の患者からも、研究に用いるという説明もなしに受精卵が研究に使われているという実態が明るみに出されている。
【厚】ES細胞にかかわる指針ができる前の研究ということであれば、文部科学省に、以前のことは厚労省が担当ということはありえない。
【交】今までの生殖医療に関する研究についても、文部科学省の担当。そこに調べてもらったらということか。
【厚】そうです。
死体胎児の再生医療への利用について
【交】死亡胎児の細胞が培養されるなど再生医学研究のために使われているが、どのように考えているか。
【厚】死亡した胎児の検体を利用する場合に、成人から組織・細胞の一部をもらうという場合と違って、本人から同意を得ることが出来ないということが特殊なところだと思いますので、その点慎重に行わなければならない。産婦人科学会の会告にありますように、限定して行われるべきだと思います。ただ、逆に言えば、死亡した胎児を利用しなければ進まない研究もあるということだと考えております。
(注:ここで言う会告とは、「死亡した胎児・新生児の臓器等を研究に用いることの是非や許容範囲についての見解」のこと。それには、死亡胎児・新生児の臓器等を研究に用いる場合は、それ以外に研究の方法がなく、かつ期待される研究成果が極めて大きいと思われる場合に限る。また、予め研究目的を両親によく説明して許可を得ておく必要があるとしている)
【交】これに関連する通知やガイドラインはあるのか。
【厚】行政的なものはない。先ほどの学会の会告があるのみです。
【交】学会の会告は、一九八七年と随分昔に出されたもので、胎児の細胞の一部をとって培養し、神経細胞などを作って利用するといった再生医療の技術など視野に入れていない。現実に研究はどんどん進んでいる。厚労省としてどのように考えるのか。
【厚】国としては総合科学技術会議の場で検討されると思う。それに、確かに会告は古いが、中身として研究利用を必要最小限にする、研究方法がそれ以外になく大きな成果が見込まれる場合に限るということは、共通する大きな原則だと思う。もっと具体的に定める必要があるかどうかという話になると思うが、基本原則が妥当でなくなったということではない。
【交】いや、ここにきて大きく違ってきている。研究に用いるというだけではなくて、それを培養して商品につなげる、産業化するというところまで話は広がっている。胎児を資源として使っていいのかということだ。
【厚】それが論点であることは否定しないが、無償で提供された献血が最終的には血漿製剤となって販売されるのと同じで、そのような流通の仕組みにならざるを得ない。最初の提供が善意によるもの、あるいは非常に倫理的に慎重に扱うべきものであっても、それを具体的に還元する段階では経済原則に則った形で流通せざるを得ないと思う。私は、その利用は是とせざるを得ないと思う。
【交】あなたの個人的見解は別にして、胎児をそのように利用していいのかということについて、社会的コンセンサスは成立していないし、市民を含めて広い場で話し合う機会も場もない。検討するための情報提供もなされていない。それが問題だと言っている。
【厚】総合科学技術会議にそういった役割を期待しないといけない・・・
【交】何でも他の部署まかせなんですね。
「障害」胎児の遺伝子解析とバンクについて
【交】厚生科学研究の一環として、選択的中絶を行った「障害」胎児の検体を全国規模で収集し、遺伝子解析等の研究に用いるための胎児バンクが作られようとしている。その社会的・倫理的問題をどのように考えているのか。
【厚】この研究事業は十二年度で終わりで、あとは研究者らが続けていくということだ。
障害胎児の利用についても、前の質問への回答と同様、研究上それを利用することが不可欠で、成果が見込まれる場合には使うということだ。その社会的・倫理的問題について厚労省としてどのように考えるかということだが、これも、総合科学技術会議で引き続き議論を深めるべきで、厚労省として独自に検討するということはない。
【交】でも、国レベルでの議論の前にもかかわらず、国の研究費によって、既に障害胎児のバンクが作られシステムとして動こうとしている。そのことが問題だ。
【厚】その点については、先ほどから言ってるように学会が会告を示している。民間(学会)が示したものだが、内容的に肝腎な点は取り込んでいるので、それに基づいて動いていること自体不適当だということはないし、大きな問題はない。
【交】胎児が障害を持っているからという理由で中絶することについて、障害者差別につながるということで多くの障害者団体をはじめ女性団体も問題視している。選択的中絶がこれ以上拡大することに強く反対し、出来る限りなくする方向を目指したいと提起している。そのような中で、障害胎児のバンクを作ってその遺伝子を調べる、国の医療機関が中心になってネットワークを組んでシステムを作る、しかもそれに国が金を出すというのは問題だと思うが。
【厚】正直言って、おっしゃっている意味がよく分からない。障害児が中絶されることについての懸念と障害を持った胎児の遺体を活用するということをストレートに結び付けているところに飛躍がある。選択的中絶についての倫理的問題と障害胎児の組織を使って研究するということについての倫理的問題は別の問題だ。例えば、障害胎児の研究をするために、選択的中絶を強要されたというのなら結び付くが・・・・。
【交】胎児の検体および個人情報の収集に際して、どのようなインフォームドコンセントがなされたのか。
【厚】ご両親に十分な説明をして、自由な判断のもとに選択していただいた。産婦人科学会の会告も含めて各学会の倫理指針、三省庁の共通指針「ヒトゲノム・遺伝子解析に関する倫理指針」に則って、必要あれば遺伝カウンセリングも含めて実施した。実施に際しては、各機関の倫理審査委員会での審査を経て行っている。
【交】胎児の遺伝子検査については、問題が多いということで、遺伝子解析の共通指針には含まれなかったと思うが。
【厚】いや、それを参考にということだ。ガイドラインがないから研究出来ないということではない。研究はもともと自由なもの、学問の自由は当然保障されている。ゲノムの方も、いろいろな研究をやり始めて、様々な問題が出て来た段階でガイドラインを作成したという経過がある。この研究については、学会の会告も含めてきちんと審議して、慎重にやっている。そこは誤解のないようにしていただきたい。