インシデント事例報告書を提出し、分析結果を明らかにせよ
【厚】十月のインシデント事例収集なんですが、昨年十一月に行いましたヒューマンエラー部会と言うところで報告しておりまして、その報告書はこれです。
【交】「分析から得られたもの」というのは、どういうようなお考えで
【厚】中に集まったデータが細かく載っているのですが、いろんなインシデントの中で、患者さんに薬を予約する時にインシデントが多いとか、薬に関してのインシデントでは注射と内服どちらも量の間違いが多いとか、と出てきてますので、どういった場面でどういう内容のインシデントが多いいう結果分析ができたかと思います。インターネットでも厚生労働省のホームページでごらんいただけます。
報告に看護師以外が少ないことをどうするか?
【厚】報告の中でも「看護婦さんからのものが多い結果であります」と。事故の予防に役立てるという観点からは看護婦さんだけでなくて医師からも報告が上がって、どういうところに問題があるかというのを理解した上で役立ててもらうという仕組みにしないといけないと思いますが、どちらの病院も強制的に集めておられるようなものではありませんので、今後の対処としては、報告の意義であるとか、重要性を研修などを通じてスタッフの全員に理解していただくということが必要でないかなと思っています。
【交】リスクマネジャが、看護部門にはきちんとおかれているのに、他のパラメディカルスタッフとか医師のリスクマネジャというのは名前だけは挙がっていても実体的にはほとんどやってないというふうに理解しているのですが、これも報告が上がってこない要因になっている気がするのです。
【厚】各部門の方というのは、本来の業務と兼任されていたりということがあって、リスクマネジャとしてのことだけというのが難しい場合もあるというふうにも聞いています。病院の中で一人は専従でできる方を置いてもらえれば非常に有効ではないかと思います。ただそこは病院の予算の問題とかいろいろあると思いますので義務づけは今の段階では難しいと思うのですが。
【交】どうして医者から報告が上がらないのだと思います?
【厚】看護婦さんというのは元々事故が起こった時も病院全体ではありませんが看護部門の中では報告するという仕組みを持っておられたところが結構ある。それに対して、医師とかそれ以外の職種ではそういう報告するような仕組みが今までなかったと。そういう元々の背景の違いがあるのかなと。
【交】それはちょっと認識が甘いね。横浜市立大の患者手術取り替え事件というのは一九九九年の一月ですね。それ以降少なくとも各病院ではそういうことが起こらないようにと絶対対応しているはずなんですよ。だから「昔はそうだったから今も」みたいな話はおかしいですよ。各病院がどういう上げ方をさせているか分かってます、具体的に? 定期的にきっちと文書によって報告せよというふうにきちんとやっているところと、何かあったら上席の医長なり院長なりに何か報告をせよという感じで文書に書くような話になってなかったり、そういうのはありませんか?
【厚】例えば、特定機能病院であれば、報告制度をきちんと作るというのは義務化してますので、そういうところではフォーマットを決めてどういう形でというのは決まっていると思いますけど。
【交】それがどうして上がってこないのですか?
【厚】そこは、例えば報告の重要性であるとか意義であるとかをしっかり理解していただかないといけないんじゃないかと。
【交】それに対してどうするわけ、厚生労働省としては?
【厚】例えば特定機能病院であれば年に最低2回院内の研修を義務付けていますので、そういう場、あるいは厚生労働省の方で言いますと、管理者の方に対するシンポみたいなことで、報告することの重要性を説明するということはできると思います。
【交】しかし、日本医大の事例のように本当のことを話すと逆に医師生命を絶たれるかのごとく逆に裁判を起こされたりということが実際あるわけでしょう。だから、医者が自らの職業生命を掛けて本当の話をするというのは普通のレベルよりもかなりハードルが高いわけですよね。それに対する何かを考えないと、上がってこないと思うのですよ。
【厚】こういう報告システムを動かす時には、例えば人事考課にそれを反映しないとか、そういう約束の下でやってもらうというのは重要だと思うのですが。
【交】法律的な保護の規定は何もないじゃないの。
【厚】それは各病院でも温度差はあると思うので。人事考課に反映しないというようなことは、昨年も特定病院の管理者の方に対するワークショップを開きましたので、そういうことはやっております。
アクシデントの収集システムを作る必要があるのでは
【厚】アクシデントということになると刑事とか民事で報告した個人の責任が問われる可能性が現時点ではあって、そこの所をどうするかを考えないでアクシデント収集を強制的にやると、報告することの意義をある程度理解されてきたかなというところでかえって隠蔽に繋がってしまう可能性を一つ危惧しています。
ただアクシデントの情報の中には示唆に富む教訓となるようなことは当然含まれていると思いますので、事故を予防するという意味からはそういう情報もあった方が役立てるということでは意味はあると思います。
ですので、免責というところをどうするかということ、あるいはアクシデント自体を収集することを法律としてできるかどうかという法律的な問題が出てきますので、これはヒューマンエラー部会の親会の医療安全検討会議の中でも議論をしてもらったのですが、結論が出ていません。十四年度も引き続いて事故の報告に関してどうするかということを議論していただこうというふうに考えています。
【交】身分保障という問題以外にどんなことが論点としてあったの?
【厚】法律的なところというのは免責をどうするのかということ、もう一つは当事者が何らかの刑事なり民事なりで処罰を受ける可能性があることを報告してもらうことが果たして事故を予防するということに本当に役立つのかどうか。逆に今まで報告してという流れができてきたのを逆向きに進めてしまわないかというところは、慎重に考えないと。というのが一番問題だというふうに考えています。
【交】本当にインシデントをずっと集めていけばアクシデントに必ず繋がるということになるのかというと、これは労災の問題での議論な訳だから、医療ミスという問題と同じ論理で言えるのかというのが非常疑問ですね。アクシデントはアクシデントとして集めて警告として出して行くという形を考えないと。
【厚】さっき言いました検討会議の中でも、委員の中でもまさに今おっしゃったように「アクシデントはアクシデントとして集めないと」とおっしゃった委員もありましたし、そういうことの問題意識というのはありますので、そこで引き続き検討していただくという形にしていく。
【交】医者からのこういう収集の仕方もあり得ると思うが、実際に被害を受けたという被害者の方からも訴えるというシステムもそこでは検討してもらいたいと。
【厚】そこは両面だと思います。
【交】今の考えだったら、医療従事者の側からしか上げられないのですね。被害ということを考えた時には、実際に被害を受けた方がどうやって申し出ることができるかという、ここから糸を手繰っていくやり方だってあり得るわけで、そこを含めてその中で検討してもらいたいと思います。
【厚】はい。
保坂展人議員の質問趣意書の回答はどうやって収集したものか
【厚】平成十一年の一月から平成十二年の九月の間の医療事故について保坂議員から質問書がありまして、都道府県、保健所の設置市、特別区の方から任意で報告があったもののうち、新聞報道されたものを整理して回答しております。
【交】「任意で報告のあったものの内」という言い方は、任意で報告はこれまでずっとあったということですか?
【厚】医療事故については平成十一年の一月の横浜市立大学事件以降いろいろ言われるようになりましたので。それ以前については医療事故について報告というのは特段やってなかったです。平成十一年一月以降は国としてはどういう事故があるというのを知っておく必要があるので、各都道府県、政令市の保健所、特別区に対して、あくまでも任意になりますが情報提供をお願いしている。
【交】わからないのは、医療安全推進会議が今そちらがやっておられるような情報を任意に入手するということではなく、医療安全推進室がとっている。それは行政的にはどんなふうになってますか?
【厚】医療安全推進会議というものは昨年の四月にできたばかりだったので、ウチの方は元々都道府県とのコンタクトがある。その中で、窓口として監視部門が一番コンタクトを取りやすいということで、うちの方が関与している。
医師法二十一条の「異状死体」n届け出ガイドラインを提出せよ
【厚】異状死体の届け出のガイドラインということですが、結論から言いますと、これは「無い」。
考え方から申しますと、医師が死体を検案する際に、当然事件性のあるものも見つける場合もあって、それを捜査の円滑な進行という観点から届け出をお願いしているという話ですので。これが最近特に議論になってきたというのは事故がらみのことがあるということだと思うのですけれど、当然境界事例で「これはどうするのか」という話も出てきて、ここでご指摘のある四病院協ですとか外科学会が見解を出すという流れで、我々としても問題意識は持っていて、最終的にはガイドラインを作るかどうかはまだ結論は出ていないのですが、とりあえず検討していただくということです。
境界事例がどれくらいあるか、どういう事例があるかということもまだなかなか組織的に情報収集できないところもあるのですが、個別に「これは当たるか当たらないか」という照会をいただくこともありますけれど、専門家の方でも判断が難しいところもありますから、そこも含めて今後どうしていこうかということを検討しているところ。
【交】ということは、今の時点では、こういうそれぞれの団体が勝手な解釈をしているように思うけど、これはこれで生きているというか…?
【厚】そこは個別の事例に応じてという判断になると思うのですよ。学会の方でこういうガイドラインを出されていますけど、仮に何か個別の事例があって「ガイドラインには沿っているけれど、法の趣旨からいっておかしいんじゃないか」と思うような事例も出てきますよね、
【交】だから事例が出てきた時どうするの?
【厚】それは当然違法だという判断になるでしょうね。ただそこもぎりぎり事例を詰めていかなと分からない話で、ガイドラインに沿っている1個の事実の一部分を切り取ったような基準で判断できるようなものじゃないと思います。
【交】じゃ、誰が医師法違反だというように告発するわけ?
【厚】だいたいそういう場合は警察なりで捜査に入りますから。
【交】「これは現実的に検察庁が起訴するかどうか」とそちらに照会することもあるでしょう?
【厚】それは照会が来たらします。警察からはかなり照会が来てます。
この問題に限らず一般的に医師法の関係というのは、解釈上不明瞭な部分があって、「それから先はマル、これから先はバツ」と言い切れない面がありますから、そこは個別にどういう行為が違法性があるかどうかというのは、判断せざるを言えない。
【交】やっぱり現在の医療ミスの問題というのは、この部分のこの文章しか「公的なところに届け出る」という規定がないのですよ、法律的に。何を報告すべきで何を報告しなくても良いという区割りがはっきりしなので良いかということを一般的には思うわけですよ。
【厚】元々趣旨が違う規定でして、最近事故の話が出てきたので脚光を浴びだしてきて…。結論の所は未定ですけれど、何か見解を出さないと。
【交】検討の場があるのだね、どこか知らないけれど?
【厚】検討会というのは、まだ内部的な話で。
【交】すいぶん時間が経っているのに、まだそんな程度なの?
【厚】まだ。そこは「急げ」と言われれば我々も努力します。