再生医療問題

 

受精卵凍結施設への実態調査を行え!

【厚】 前回の交渉で「凍結受精卵の保存や廃棄の実態、あるいは使われなかった受精卵の提供・利用の実態について調査する必要性は感じていない。受精卵の取り扱いについては、日本産科婦人科学会の自主規制が効いている」とお答えしたが、基本的には今回も変わることがないということで、実態調査については現在も検討していない。
【交】実態調査自体の必要性はないという見解か。
【厚】今のところ必要ないと考えている。ご指摘の朝日新聞記事(二〇〇一年一〇月二十四日、一年間に五二〇〇個の凍結受精卵が廃棄あるいは研究用にまわされたが、その際の手続きについて、「文書で同意書を交わす」は73%、「口頭で説明」が18%、「特に決めていない」が5%だったという内容)については、基本的には、同意書をどのように交わすかという形式は個々の病院によって決めていただくということですので、それについては問題はない。
交 約四分の一の施設で、文書で同意を得ていないということが大きな問題だと思うが。
【厚】研究とか廃棄について、インフォームドコンセント(IC)はされている。体外受精・胚移植をする側とされる側の間で、文書のやりとりはされているが、ただ、その同意書の文書の中に、研究利用や廃棄の項目がなく、口頭でされているというだけですから、問題はない。
【交】口頭で同意を得ていると言っても、何によって担保されているのか。
【厚】学会に登録される際にきちんとされていると考えている。
 前提として、学会の会告「体外受精・胚移植に関する見解」(一九八三年)で、「本法実施前に、非実施者に対して本法の内容と予想される成績について十分に説明し、了解を得たうえで承諾書等に記入させ、それを保管する」とあり、また「ヒト胚および卵の凍結保存と移植に関する見解」(一九八八年)では「本法の実施に当たっては、非実施者夫婦に、本法の内容、予想される成績、目的を達した後の残りの胚または卵および許容された保存期間を過ぎたものの取り扱い等について事前に十分説明し、了解を得たうえで承諾書等を作成し、それを当該医療機関に保管する」とあるように、会告の中で、ICを書式で取るということは記載されている。ただ、内容については各医療機関に任されている。実施内容については、登録申請書に記載させたうえで、学会が、専門的見地から内容はチエックし、許可を出すという方式になっていると認識している。
【交】登録申請と言っても、(学会の登録申請書類を示しながら)こんなピラッとした紙ですよね。それには、医療機関の名前、住所、責任者、倫理委員会の有無、実施医師名を記載するところがあって、最後にICの有無という欄があって有り・無しどちらかに〇をつけるという、これだけの簡単な内容ですよね。これのことをおっしゃっている?
【厚】はい、登録するときには書面を残すということです。
朝日の記事ですが、この記事だけでは詳細はわからない。例えば不妊治療一般についても口頭で説明していて書面でとっていないということなら、会告違反で調査する必要があるかなあということもあったんです。当日、朝八時半に朝日新聞に電話して、この調査の詳細を教えてくれと言ったのですが、担当者は上の人と話してくれということで、結局、「紙面にお示ししたとおりです」という返事しか返ってこず、よくわからなかった。
 でも、単純にこの紙面を読むと、不妊治療一般については書面ではちゃんと同意をとっている、研究利用・廃棄の場合には、口頭でとりましたということだと思います。
【交】厚生省がわからないんだったら、私たちもわからないですよね。だから、ちゃんと調査しろと言っている。
【厚】申請登録制の形で、医師によってきちんと行われていると思うけれども、それが行われていないという事実があれば、我々も考えなければならない。センセーショナルなタイトルがついてはいますが、きちんとした行政的な立場でこの記事を読む限り、特に問題なく、学会の会告に従って健全に行われていると認識しているということです。
【交】でも、原則は文書で残すという前提に立った話なんでしょ。それを、何で口頭でもいいという話になるの。
【厚】文書で残すことの中身なんです。前にも言った二つの会告(「体外受精・胚移植に関する見解」と「ヒト胚および卵の凍結保存と移植に関する見解」)がありまして、我々はこの記事を読んだときに、この会告に抵触するかどうかを検討した。基本的には書面で書かなければいけないと規定しており、内容についてもある程度会告の中で規定しているが、今、新聞記事に書かれている内容については書面で書けとは規定していないので、書面で残す部分について守っている以上、会告違反でないというのが我々行政の立場です。
【交】私たちは、この新聞記事の存在だけでこの質問事項を言っている訳ではない。不妊治療を受け続けてきた患者自身から、医療現場では、非常におざなりなICしか行われていないという実態を聞いている。フィンレージの会で実施されたアンケート調査でも、受精卵の保存に際して保存期間さえ明示されなかったと答えた人が全体の4割弱というように、いろんな面でICがなされていない。学会の会告で定められていても、今の生殖医療の現場では、ICがきちんと行われていないという実態がある。
さらに、今、いわゆる「余剰胚」を研究や産業に用いようという動きになっているわけで、だからこそ、それをどうするかという話ですよね。
研究に用いる場合は、会告には承諾書をとれとは記載されていないということか。
【厚】決まっている部分もあるし、決まっていない部分もある。
研究についても、ES細胞・特定胚については、指針を出してICや承諾について厳しく規定している。胚についても総合的に議論をすべきということで、総合科学技術会議でケンケンガクガクの議論をしている。一方で、生殖補助医療部会では、第三者からの提供による生殖補助医療について、提供についてのICや保存についてガチガチに固めている。我々はこちらの方にパワーを注いでやっている。
今現在、学会の会告で問題があるかというと、今は問題ない。だからといって、何の議論もしていないかというとそうではなくて、まさに、フィンレージの鈴木さんやひまわりの会の岸本さんなど患者さんの立場の方にも入ってもらって、かくあるべしということで議論を進めている。
【交】現在、第三者からの生殖細胞の提供、ES細胞など先端的なところで、それを押し進めるために指針を作っている。でも、一般の不妊治療の場で医療が患者をどのように扱っているか、どのように説明し承諾を得ているかという現状を把握していないで、例えば、ES細胞を作るためには厳格なICをという進め方は、施策の立て方としておかしいと思う。
 それに、新たにICの書式を作るときには、やはり、現実にどのようなICが行われているのか、それがきちんと行われているのかも含めて、ちゃんとした調査をしたうえでしか、次のステップにはいけないのではないか。
【厚】調査するかどうかについては、我々は、今問題が有るところに対して動くというのはやりやすいけれど、問題があるかどうかわからないことについては、・・・。母子保健課はあまた問題をかかえていますので・・・。
【交】問題がないと思っているということか。
【厚】いや、そうではない。この記事では、問題があるかどうか分からないという最終的判断をしたということです。はっきり言ったら、この記事に書かれているようなことは、基本的に問題がないと思っている、会告は守られていいるということです。
【交】市民の目から見れば、受精卵を研究に使うときに文書でもって説明されていないし、同意書もとられていない施設が四分の一もあるということは、大きな問題だと思うが。
【厚】研究の部分だけは口頭でやっている。それ以外の体外受精一般については、説明したうえで書面で承諾をとっているということですから・・・。
【交】内容が違うんじゃないの。あなたがたは、体外受精・凍結・廃棄・研究利用は一連のことだ、だから会告違反ではないと言うけれども、それぞれ独立した別々のことだという認識にたてば、体外受精一般については文書で承諾を得ているけれども、研究利用については承諾をとっていない。我々はそれでいいのかということを言っている。廃棄とか研究に回すことについては、それぞれ別にICを要するわけで、きちんと文書で承諾をとらなければいけないのではないか。
【厚】最初の時点で、廃棄・研究利用についても話をするわけですよね。
【交】いや、その場になったときに、一つ一つ承諾をとるということをしないとおかしなことが起こってくるんじゃないですか。
 もしかして、あなたたちの言っているのは、廃棄とか研究利用については、会告の中に「承諾書に記入して保管する」という文言がないから、だから、問題ないということなんですか、えーっ、それだけのことを言ってるの。やっとわかったわ。(注:今回の交渉の中で、なぜか、厚労省側は、一九八五年の会告「ヒト精子・卵子・受精卵を取り扱う研究に関する見解」については一言も触れなかった。それゆえ、両者の話がすれ違い、交渉はより迷走したともいえる。この会告には、「精子・卵子および受精卵は、提供者の承諾を得たうえ、また、提供者のプライバシーを守って研究に使用することができる」とあって、承諾書云々の文字はない。つまり、厚労省側は、胚を研究に用いる場合には文書で承諾を得るようにという明示がないことから、この会告を「官僚的に」解釈して、「会告違反ではない」と強く主張した。)
【厚】それもありますし、ES細胞・特定胚・第三者提供の生殖補助医療など、社会的・倫理的に問題があるものについては、「特出し」してガチガチに固めてきている。その固める以外のところは、会告でカバーされているが、その部分もきちんとやるべきだという皆さんの意見だと思うが、それは絶対的な意見というよりも、いろいろな意見のうちのひとつだと思うし、社会全体で合意形成していくんだろうな、というスタンスです。
【交】いや、それはおかしいよ。社会的合意形成というのは、むしろ、受精卵の廃棄・研究利用ということになった場合に、きちんとひとつひとつていねいに、文書でもって了解を得てやっていくなかで形成されていくのが、本来の合意形成の方向だと思う。大枠で固めて、くくったところで合意をとっておけばいいというのは、傲慢ですよ。
【厚】ヒト胚全体についても内閣府で議論を進めていますし。だいたい、内閣府で方針が決まるんですよね。
【交】その決める際に実態が分かっていないと、現実と遊離したところで話が進んでしまう危険性がある。厚労省では、実態を把握してないんですよね。
【厚】問題ないと認識しているということです。
【交】何も調査しないで、なぜ、問題ないと言えるんですか。調査せずに次に進もうとしているから問題だと言っているんです。
【厚】我々は内閣府の方向を踏まえながら進めていく立場にありますので、我々にばかり調査せよと言われても・・・(内閣府の)彼らこそが調査しなければいけないのではと思っている。
【交】それは、逆ではないか。現在、ヒト胚は生殖医療にしか使われていない訳ですよね。生殖医療というのは、当然、厚労省が把握しておくべき部分のはずですよね。
【厚】我々が絶対やるべきだというより、内閣府と、お互いどちらがどうするかという話だ。我々は生殖補助医療について、内閣府は研究を含むヒト胚利用について検討している。
【交】だから、その生殖医療の場で、患者の立場に立ったICが行われ承諾を得ているのかというのは、厚労省でないと把握できないことでしょ。
【厚】いずれにしても、全くやらないとも言いませんし。第三者からの生殖補助医療については、ICについてもきちんとやっていますし、技術的にはアレンジできますので、検討しているか、していないかと言われたら、アプローチは違うけれども、やっていると認識していただきたいということです。
【交】納得できないけれど・・・最後に、従来から、不妊治療についての研究に精子・卵子・胚を使ってきたことについて確認したいんですが。この前の交渉では、「研究段階については、すべて厚労省の管轄ではない」とおっしゃったが、そういうことはないですよね。
【厚】臨床応用ということになれば厚労省の管轄。人間に応用しないそれ以前の領域、例えば、卵子にどういう遺伝子があるかといったゲノム系の基礎研究やクローン、特定胚、動物に関するものについては文部科学省の管轄。人にもどして子どもを産むとか、医薬品に関することなどは我々の管轄です。
【交】学会が従来から登録制をとっているいわゆる「生殖医学発展のための基礎的研究ならびに不妊症の診断治療の進歩に貢献する目的の研究」は、ES研究などとは別で、厚労省の管轄ですよね。
【厚】はい、そうですね。
【交】わかりました。