序章 入学式
千鳥が淵の桜が眩しい4月、私は日本武道館へと足を運んだ。周りにいる人は皆着慣れないスーツを身に纏い、その真新しいスーツに負けないくらいにこやかな顔をしている。
しかし、私自身は初々しさも新鮮さもほとんど感じずにその場にいた。決して新たな門出を憂いでいるわけでも不安に思っているわけでもない。今では敏感になっている、あまりの人ごみにうんざりする、と言う感覚でもない。ではなぜこれほどまでに薄暗い面持ちであったか?と言うことだが、それは自分を取り巻く「人間環境」が原因である。ご承知の通り私は附属校からの持ち上がりであり、その生徒の多くは皆我が大学へ進学することとなる。そして当然のように、まだ大学での友人ができていないこの入学式の段階では、高校時代の友人と必然的に固まってしまうわけである。私もそのセオリーに見事にはまる行動を取っていたわけで(待ち合わせをしていた気がする・・・。)、この時も高校時代と変わらず○澤君と一緒にいたはずだ。そして結果的に無刺激状態に陥りボーっと突っ立っていたというわけだ。
だからまあ新鮮さを感じなかったとは言っても、嫌気がさしていたわけじゃなく、単に特別な気持ちになっていなかっただけであるということはおわかりいただきたい。○澤君が嫌いというわけでもないよ。うん。
そして式は滞りなく終わり、一路市ヶ谷キャンパスへと赴いた。そしてそこで待っていたのがあの新入生歓迎の時期の異様な熱気である。
正に異様!なんでそんなに行く手を阻むの?なんでそんなに強引に勧誘すんの?なんでそんな人さらいまがいに連れてこうとするの?そんなにオイラが魅力的かい(^v^ )?? といった、様々な疑問と若干の勘違いを皆さんも経験したことだろう。あの時期に勧誘されたことを今になって評価してみると、「あ、誰でもよかったんだ・・・。」とちょっぴり寂しくなったりもするが、とにかくキャンパスに足を踏み入れた途端に気分が高揚した。そのあとクラスに分かれてのオリエンテーションもあったが、個人的にはクラスのメンバーがいまいちノリの違う人たちばかりだったのでサークルの勧誘のあの雰囲気はクラス云々より今でも印象に深く残っている。
そしてオリエンテーションが終わるといよいよ帰るわけだけれども、確か私はさらっと帰ってしまったはずである。なんか入学式はいろいろ人ごみ掻き分けて、押し寄せるサークル勧誘をきっちりとお断りしたと思う。今でこそいろんなサークルの話を聞かなかったのは損だと思うけれど、あの当時はサークルという存在への不信感は相当なものであったのだから仕方ない。
そして翌日、大学生活2日目、この日がおそらく私にとっては運命的な日だったのだろう。
また面倒なオリエンテーションやら何やら(当時は右も左も分からなかったから真剣に聞いていたが)を受け終わり、さあ帰るかということになった。当然2日目も勧誘の人波で溢れていたわけだけれども、いい加減興味の向かないサークルの勧誘にもうんざりしてきた頃で、いかに早くこの人ごみを抜けるかということばかり考えていた。そして帰りは○澤君と帰ることにしていたので彼を待ち、校舎を出た。
しかし、ここでしかしなのである。生来、妙な社交性を有する彼は、あろうことか「おい、少しサークル見てこうよ。」と言いやがった。私は言ったように面倒くささの頂点に達しようかという状態であったわけであるが、彼はそんな私に気を使う様子も無く(っていうかほんとに気を使ってないだけだったと思うが)、どんどんキャンパス内を歩き始めた。そこで腹を立てて帰るのもどうかと思い、しょうがなく私も彼についてまわることにした。
掲示板の前や511の前など結構歩いたが、なんだかんだで足を止めることは無かった。まあ見たいところが別段あったわけではなかったからしょうがないといえばしょうがない。
そして掲示板から図書館の側のゆるい坂を下り学館方面に歩き進む途中、運命の瞬間が訪れた。○澤君が当時3女の○根さんの勧誘に「ほよよ〜」とわけの分からない喜びの声をあげながら引っかかったのである!
続く
<今回の登場人物>
○澤君(登場時18歳)