第三章 はたらく


某月某日

 例の研究助手の返事がまだ来ないのに、家庭教師バイトを引き受けてしまった。これで仮に採用してくれたとしても岡山を離れられないので採用を蹴らなくてはならなくなってしまった。
 採用してくれないならしてくれないでいいから、とりあえず早く返事が欲しかったのだが、返事を待ち続けてバイトの話を捨てられるほど経済的に余裕がない。

 来た依頼は二件で、中学受験を控えた小六の女の子と、算数の復習がしたい(中学受験はしない)小六の女の子。時給は安いがしかたない。
 
 

某月某日

 また診察の日が巡ってくる。今回も妹と同じ日、しかも同じ時間に予約してあった。

 ステロイドは取りやめになり、ただのNSAIDと胃薬になった。手元に治療薬マニュアルがないので予習復習もできない。

 著変なしということで次回の診察は二ヶ月後になった。

 今回は支払いのときにちょっとしたトラブルがあった。尿検査と診察だけなのに支払金額が七千円余りになったので妙だと思い聞いたところ、事務の人に血液検査のオーダーが出ていたと言われた。
 ちょっと待て、採血の話は聞いてないぞ
 仕方なく採血室に戻り、血を抜いてもらう。今回の採血担当看護婦はうまかった。

 納得がいかないので妹にぐちる。彼女は一言、「助手の先生が言い忘れたんだよ」。
 
 

某月某日

 と思ったら、今度は英語の家庭教師の話が母親の友人から回ってきた。これも引き受けることにする。
 さらに数日後には浪人生に週4日数学を教える依頼が来た。迷った末これも引き受けることにする。
 
 

某月某日

 教員認定試験の願書を取りに県庁に出向いたところ、今まさに教採の願書を受け付けていることを知った。数時間逡巡し、やはりシャレで受けてみることにする。どうせ受験料はタダなのだから受けてみても試験時間分拘束されるだけだ。

 友人からメールが届く。結婚してこぶもいる友人で、共通の友人とともに近くこぶを見せてもらいに行く予定だった。訪問予定日を聞くと岡山市職員の試験日だったので泣く泣く訪問できないことを伝える。
 
 

某月某日

 生理が来る。
 昨夜から身に覚えのある腹痛があったのでそろそろかと思っていたが、やはり来るとほっとする。
 新月の翌日に生理がくるとは、やはりお月さまのリズムに操られているのか?

 なぜだか知らないが、今回はとても重い。OTCのNSAIDを重ねて飲む。
 いつもならPGの生合成が阻害されて胃の調子が悪くなるのだが今回はそうでもない。やはり胃薬が効いているのだろうか。
 
 

某月某日

 生理三日目でまだまだきついのに今日は岡山市職員採用試験だ。

 試験会場で高校時代の同級生と偶然会う。「受けに来てたんだねー、がんばろうねー」と挨拶だけ交わした。

 算数(数学にあらず)の問題で戸惑う。旅人算の応用で、三者が池の周囲を走るときに追い抜かれる時間、出会う時間から池の周長を求めるという問題だ。
 中学受験というものをやっていないから、一発で解法が出てこない。やはり受験勉強はしておくものだと痛感する。

 それでも2×2行列による一次変換の問題は解けたからそれだけで満足だ。
 さっさと切り上げて友人に電話する。

 友人宅で、友人と、そのこぶと、他の友人二人に会う。数年ぶりだが大してかわっていなかった。

 友人(教育系修士卒)は「修士課程単位取得退学」にバカ受けしたらしく、大笑いしてくれた。
「それ、院行った人ならわかるわ!」
「な、な、うけてくれた?!うけてくれた?!」
「あんた、そんな捨て身の冗談言ってどうするん!(笑)」
身をもってギャグにせんでも・・・」

 友人のこぶのほっぺたをつつき、さらにほっぺたをひっぱって遊ぶ。
 このこぶはよく愛想笑いをする子だが、筆者を見るときだけ口元は笑っているが目が笑っていないように見える。

 なんとなくハイテンションのままなので(例えて言うなら前戯だけでセックスしないような感じだ)妹を呼び出してカラオケに行く。
 
 

某月某日

 朝目覚めていつも通り体温を測ると37.11度だった。

 一応NSAIDを飲んでいるのに関節が痛い。

 いいこともあった。バイトで見ている浪人生の親御さんから御中元として現金一万円也を頂く。この臨時収入は髪の毛を切るぶんに当てた。
 夜になってまた家庭教師の依頼が来た。例の中学受験の小六の子のお姉さん(高二、文系)が数学を教えてほしいらしい。星占いに「仕事は今ががんばり時」と書いてあったのを信じることにする。
 
 

某月某日

 このところ働きっぱなしだ。小六の女の子(中学受験しないほう)がお役御免になったのと入れ違いに、中三の女の子の期末試験対策限定の依頼を引き受ける。そのせいで先週から休みがない。

 国2は院試の模試がわりのつもりだったが、化学職なのになぜか物理の問題が多くいらいらした。あいかわらず有機ができない。去年に比べればまだ多少はわかったが、本腰入れてやらないと院試も危険だ。
 それでも気柱の共鳴の問題が解けてしまったのには驚いた(正解かどうか自信はないが)。
 高校時代から数学以上に物理は苦手だったのだが、やはり受験勉強していたせいだろうか。しかし、物理のなかでは最も得意だった原子物理の問題で完璧に解法を忘れてしまっていた。脳みその老化を痛感する。

 そんな中、教育大の説明会があるので大阪まで在来線で行って帰ってきた。本当に受けようかどうしようか、帰りの電車の中でしばし悩む。
 
 

某月某日

 浪人生の指導のために数学の入試問題を解く。
 私の課程でいう代幾、基解、確統までだからあまり自分の勉強にはならない。その分速く解けるからいいのだが。

 対数方程式と関数の融合問題なぞを解いているとl-DOPAがざばざば分泌されているような気がしてくる。やっぱり私はおべんきょが、というより受験勉強が好きなのかなと思う。

 閑話休題。
 最近は肘、膝に加えて手首と足首も痛い。ネットをうろうろしながらチャットをしていると指が強ばってキーボードがたたきづらくなってくる。時間にして二時間程度だろうか。
 卒論を書いていた頃はブラウズしながらチャットしてオンライン辞書を引き卒論を書いていても平気だったことを思うと、やはり病人−少なくとも健康体ではない−なのだろうか。
 入試問題を解くため計算式を書き散らしていても、以前より続かなくなった。時々腕を休めないと肘や手首が痛くなってくる。

 この調子だとピペットマンを握り込むのも辛くなっているだろう。
 からだがだるくなってからはろくすっぽ実験していないから、自分がどの程度のことまでできるのか見当がつかない。滴定だとかメスアップだとかピペッターの操作だとか、細かい作業、あるいは握力を使う作業がどこまでできるのか。そしていつまでできるのか。不安と期待がある。

 いっそのこと、すぱっと一気に悪化してくれれば面白いのだが、今のところ変化は自覚できない。
 このところ毎日どこかへ家庭教師バイトに行っているのに発熱しない。午前中だるくてうとうと寝ているくらいだ。この程度のことならつくばでも日常茶飯事だったから大したことではない。
 以前なら朝目覚めてると耐えられないほどの痛みが膝や肘に感じられたものだが、最近はそんなこともない。単純に暖かくなったからなのか、それとも薬が効いてしまっているのか、どっちだろうか。
 
 

某月某日

期末試験対策の依頼が終わったと思ったら、今度は高2の女の子(理系、国立大医学部志望)に夏休みだけ数学と化学を教える依頼が来る。

はじめは断るつもりだったのだが、「化学を教える」というのに惹かれて結局引き受けてしまった。電車を使っていくところなので通勤時間が一時間ほどかかる。夏休み限定でなかったら引き受けないぞ。
 
 

某月某日

さらに依頼が来た。高3の男の子(薬学部志望)に物理と化学と英語を教えるという内容だ。依頼先はバスで一時間くらいかかるところなので、少し迷ったが断ることにした。
 
 

某月某日

久々の休みだが、朝から図書館で有機化学をやる。
あ、私ってこんなことしてたのね、と過去の記憶を手繰り寄せる。
 
 

某月某日

昨日に引き続き、一日図書館で有機化学をやる。
やはりおべんきょしているのは楽しい。

ネットをうろうろしていてとある私学の高等部で化学の専任教諭を募集しているのを見つける。
シャレで受けてみようかな、と思う。



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