第五章 負け続


某月某日

教育法規、教育原理、教育史は辛うじて一通りやったが、教育心理にほとんど手がつかなかった。こんな状態なのに今日は教採だ。

出がけにリクルートスーツのスカートだけがないという異常事態が発生する。焦りまくってそのへんを探すが出てこない。
しかたがないのでテキトーなストレッチ素材のスカートを履いていく。

試験会場に着いて始めて上履きが必要なことを知る。そういえば募集要項だか受験票だかに書いてあったような気がする。周囲を見るとちゃんと上履き持参である。多少気まずい思いをしながらストッキングのまま試験会場に入る。

今日は負け続きだ。

しかしいくら筆記試験だけとはいえ半袖シャツにジーンズというのはちょっとtoo casualじゃなかろーか。一応就職試験なんだし。公務員試験じゃないんだし。試験監督に服装チェックされてたらどうするんだろう。そんなんじゃ上履きに名前書いても意味ないんじゃないだろーか。

試験開始。午前中は「総合教養」。
全く、何も、全然調べていなかったが、やはり教職教養は出題された。
ただし、7問だけ。

午後は専門試験。化学だ。

定期考査じゃないか・・・」
問題を見た瞬間の、素直な感想だ。わら半紙(笑)に問題が印刷されている。

しかし、打たれ弱いのは相変わらずで、緊張のため信じられないミスを立続けに犯す。
今から考えると信じられないが、最初炭酸ナトリウムの組成式をNaCO3としてしまい、計算が合わなくなりNaCO2としてしまう。さぁどこが間違っているか探してみよう(ヤケ)

2NO2 <- -> N2O4の平衡の問題。
NO2が発生するのはconcとdilどっちだっけと過去の記憶を探る。確かdilのほうだ。

Cu + HNO3 -> CuNO3 + H2O + NO2
と取りあえず書き、係数をつけようとしてOが余ることに気付き焦る。
何回計算してもOが余るので(当たり前だ)、空欄で提出するのは情けないという理由により不正解であるのを承知の上で解答欄にこれを書く。

賢明な読者の方々はお気付きだと思うが、Cuは2+だ。

さらに反応式にHNO3と書きながら解答欄には「濃塩酸の取り扱いに注意」と書いてしまう。

さらし粉の文字に固まりかけ、一度すっとばす。再び戻ってきた時にはちゃんとカルシウムの塩素酸塩であるとの情報を引き出してきた。
Ca(ClO)2 -> Ca(OH)2 + Cl2
と取りあえず書くが、これも承知の上で解答欄に誤答を書く。
 
 

某月某日

今日は面接日だ。
昨日ジーンズでいらしていた方々も今日はしっかりリクルートスーツである。ポイントを押さえているってことですね。

集団面接はディスカッション形式だった。テーマは「学校の危機管理」。
最初の数分間で自分の意見をまとめ、その後自由討論という流れだった。

すぐ大阪の小学校の事件のことが頭に浮かんだが、ストレートすぎるのでよくない頭を必死に働かせて別の切り口を探す。

それでは順番に言ってもらいましょうかと試験官が言うが早いか、ざざっと他の受験者が挙手する。
一人、指名されるたびに
「はいっ」
「失礼しますっ」
と体育会系な返事をするのでとてもうざっちい。
小心者の筆者としては割り込むこともできず、他の受験者の意見を拝聴していた。
そして最後に試験官に促され、震える声で意見を提示する。
「私はまず三つの場合にわけて考えたんですね・・・」
弱い、弱すぎるぞ! こんなに打たれ弱くてしゃべる仕事でやっていけるのか!(苦笑)

発言を要約すると、
外部からの侵入者に対する対策を立てておけば校内でのトラブル、天災の場合にも対応できる、
ということらしい。
少なくとも私はそういうことだと思った。

盲点を突かれて焦って強引に持論に持っていきたがっているように見えるのは気のせいか。

よっぽど
「私のしょぼい頭でも三通り思いついたのに、あんたは一つしか考えてなかったでしょーが。そのへんの甘さが危機管理意識の甘さになるんでしょーに」
とか、
「予想外の事態というけど今が正に「予想外の事態」でしょーが(自分の思いつかなかった意見が出てきたんだから)。そのときに「いや、これで大丈夫」というのは単なる逃げじゃないのか?」
とか、言ってやろうかと思ったが黙っていた。

話は安全管理のために校門を閉めてはどうかという方向に流れていった。
一人が校門を閉めようという立場なのに対し、残り5人(筆者を除く全員)が「開かれた学校のためには校門をオープンにして云々」という模範解答を提示している。
キーワードを入れましたってことですかね。
5人がかりで1人を叩きにかかった(ように見えた)ので、茶化すことにした。

「保育園や幼稚園って門を閉めますよね・・・」

これは、本当に、揚げ足取りにしかならなかった。
こんなことならさっき煽っておくんだったと臍を噛んだ。

来年は絶対に煽る、と心に誓い、校門を出た。

帰りかけて、固まった。
校門付近に車が止まっていたのだが、学生風の男の子が車にかけよってきて、ママがドアを開けていた。

・・・ちょっと待て。
他にも数台車が止まっていたので、何食わぬ顔をして引き返して運転席をチェックする。

学生風の男の子が一人。
ママと思わしき中年女性が他に二人。

もういい(笑) 採用してやると言われても絶対に蹴る(笑) あんなやつらと同僚にはなりたくない!(笑)
友人がメールに書いてよこした「一緒に仕事をしたいと思える人」という意味がやっとわかった。
世の中には絶対に一緒に仕事をしたくない人というのがいるのだ(笑)

帰途で暑さに耐えられなくなったのでファミレスに寄ってお茶する。
ドリンクバーでのどを潤しつつ、昨日の筆記の問題を思い出してメモを取る。

と、隣の席に就職活動中といった風情の男子学生二人が来た。耳をそばだてて会話を聞いているとどうも同じく教採帰りらしい。
思いきって声をかける。

少し会話を交わして、わかったこと。
集団面接はdiscussionとして成立していなくてもよかっということか?
ということは、あそこで煽り倒しても構わなかったのか?
今になって死ぬほど後悔する。煽りたくても自分を押さえてしまう乙女座A型の性格が憎い(苦笑)
 

某月某日

昨夜3時半まで起きていたのに、バイトの都合で10時には起きなくてはならない。目覚ましをセットして寝る。

次に目が覚めたとき、枕許の時計が5時20分を指していた。

とっさに状況が飲み込めなかったが、冷静に時刻を確認した次の瞬間跳ね起きる。
しまった、寝過ごした!
今からだと最後のバイト先に行く電車にも乗り過ごすことになる。とりあえずバイト先に電話してドタキャンさせてもらおう。既に寝過ごしてしまったほうにはお詫びの電話を入れよう。目覚ましを仕掛けておいたはずなのに無意識に止めてしまったのか?12時間以上寝てたことになるが、その間バイト先からは一度も電話がなかったんだろうか。ひょっとして電話があったのに気付かずに寝てたんだろうか。多分それはないと思うけど、結果的にブッチしてしまったんだからえらいことになるぞ。make-upはどうしよう。ただでさえ日程に余裕がないのにますますつまってしまう。二件目と三件目はなんとかなりそうだが一件目は多分make-upするのも大変だぞ。下手すると来週になる。とりあえずは三件目に電話だ。

とにかく顔を洗って歯を磨こうと思い階下に降りる(つまりはこの時点で非常に動転していた)。
階下で母に会う。
「どうしたの、早く起きて来て」
「今日バイトなのに寝過ごした(汗)」
「え、まだ5時よ」
「・・・・・・・・・・・今って朝の5時?」

出来の悪い冗談のようだが、私は本気で午前5時と午後5時を勘違いしていたらしい。
 
 

某月某日

私学に書類を送ったのも束の間、今度は教育大の院試の書類だ。
研究計画のようなものを書かなくてはならないが、7行なので何とかなるかもしれない。

バイトにいく途中で願書に貼る写真を出しに行く。

何を書こうかぼんやり考えながらネットで教育大のHPをチェックする。
天使が降りてきているのはわかるがどうも乗らない。
 
 

某月某日

書かなければと思いつつ、結局書けないまま寝てしまう。どうしよう、と考えつつも、本当に私はここを受けるんだろうかと他人事のように思っている。

時刻は午後二時を回った。
「とりあえず願書は出しちゃいなさい。受けても受けなくてもいいんだから。出しておけば試験の日に行かないっていうこともできるけど、出さなかったら受けられないのよ」と以前頂いたあたたかい忠告を思い出し、とりあえず何か書いて出すことにする。

まだ天使は私のところに降りてきている。ぶっつけで文章を考え、とりあえず書く。

一応自分のやりたいことみたいなものは見えているが(だからこそ行き直すのだけれど)うまく表現できない。やっとハマった表現になるが、簡潔すぎて書いたときに納まりが悪い。

昔から作文は簡潔すぎて納まりが悪いか長過ぎてあとから読み返すと鬱になるかで苦手だ。

結局一時間ほどで作文を終えた。為替を買うのと写真を受けとるのとで家を出る。
中央局で為替を何時まで取り扱っているか知らないが、多分五時まではやっているだろうと希望的観測に基づきまず中央局へ向かう。
窓口で確認すると六時までOKということだった。さっさと為替だけ買い、写真屋に向かう。
写真を受け取り、中央局にとって返し、記入用の机の上で提出書類の最終確認をして窓口で書留速達にして出す。
当然願書のコピーを取る余裕などない。



→ 第六章へ

→ 目次に戻る