その保育所では、昼食後パジャマに着替えて絵本やパズルなどで静かに遊んだあと、保育士が紙芝居や絵本を読み、トイレに行ってからお昼寝、という生活パターンがあった。
私も紙芝居、絵本読みをよくやった。別にお話ががうまいわけではない。読み手でない保育士はうろうろしたりお喋りする子どもたちを注意して静かにさせなければならないので、力量のない方が読み手になるだけのことである。
その日選んだ紙芝居は「おつきさまのともだち(※)」。ストーリーは、宇宙人ピピちゃんの乗ったUFOがトムじいさんの家の庭に墜落して、UFOを助け出し、そのお礼に孫のジャックたちも月へ遊びに行くというものだった。
話のラストで、月に行ったことは誰にも言ってはならない、とトムじいさんたちとピピが固く約束しておしまい。
そして、締めくくりは語り手の
「・・・みなさんも、このお話のことは誰にも言わないでくださいね。約束ですよ。」
という言葉だった。私がそれを言い終えた時だった。
「うん、約束する。誰にも言わない。」
という想像だにしない返答があったのである。ユウカだった。大真面目な顔をしている。続いて他の子も「ぼくも言わない」「わたしも」と言い出したのである。ユウカはさらに
「ママにも言わない。パパにも。ぜったい誰にも言わない」
と言ったのである。
子どもたちはみな真剣な眼差しで私を見て、「誰にも言わない」と無言で意気込んでいた。私は
「うん、言わないでね」
とお願いして、子どもたちをトイレへ誘導するという現実に戻った。
正直、私は締めの言葉を読みながら(あーあ、昔の作品だなあ。こんなの作り話だってことわかってるのに、言わないでね、なーんてお願いしちゃってさあ)と思っていた。その予想を裏切った子どもたちのあまりの真剣さに、失礼だが笑いそうになってしまった。
何より意外だったのはユウカで、彼女はクラスの女児の中で最年長だったせいか、しっかり者で口も達者だし、油断するとこちらを見下すような態度も取る子だった。真っ先に「こんなのウソのはなしだよね!」と言ってもおかしくないと思っていたから余計驚いたのである。
子どもたちは大人びてすれているようで、素朴な面もあるんだな、と感じた出来事だった。
(※ 「おつきさまのともだち」 磯田和一 作・画 教育画劇 1984)