〜 保育日記 〜

赤ちゃんなんかいらない  (2002/4/13)



  3歳のマナミちゃんは 今のところ弟とふたりきょうだい。この夏には弟か妹が生まれる予定である。

 マナミちゃんは保育所に慣れるのが遅い子だった。生後半年で保育所に来たが、人見知りが強くてなかなかなじめなかった。そして1歳半の時お母さんが病気でしばらく仕事を休んで 半年後再び保育所に来たときには一からやり直しで、 泣いて食事もろくに摂らないくらいだった。

 それから数ヶ月経ってようやく彼女は保育所に慣れ、明るく遊び回るようになった。けれども、母親が第三子を妊娠して、事態は変わった。
 マナミちゃんは朝の別れに号泣し、食事や午睡時に大泣きし、ろくにごはんも睡眠もとらなくなってしまったのである。
 しかも、下にきょうだいができたとき 保育士がつい聞く
 「お母さん、おなかに赤ちゃんいるの?」
 「男の子かな、女の子かな?どっちがいい?」
 という問いに首を振り、涙ぐんだ。もしや・・・と思って
 「赤ちゃん、いらないの?」
 と聞くと こくん、と首を縦に動かしたのだ。
 「赤ちゃん、いらないの」
 マナミちゃんは小声でそうつぶやいた。

 ある日の午睡時、他の子がすべて眠ってしまったので 私はマナミちゃんの横に添い寝して トントン(寝付かせるために背中や下腹部を一定のリズムで叩くこと)してはじ めた。すると彼女はしばらくしてやっとうとうとしはじめた。
 そして眠ったかな、と思い 体を動かそうとした時、エプロンの胸元をぎゅっと握られていることに気が付いた。エプロンが遠ざかろうとすると、その手はエプロンを追い、寝息をたてていたはずのマナミちゃんの目が開いた。
 あわててまたトントンする。安心したようにマナミちゃんは目をつぶる。 そばにいれば目をつぶって・・・多分、とても浅い眠りにつけるのだ。 少しでも眠っていて欲しいと思うと その場を動けなくなってしまった。

 下の子ができて泣いたり、赤ちゃん返りする子は珍しくない。しかし「いらない」と言うのはあまり聞いたことがなかった。
 家では何と言っているのだろう?お母さんはこのことを知っているのだろうか?
 まさかお母さんに「マナミちゃんが赤ちゃんいらないって言ってます」とは言えない。
 どうして泣いてしまうんだろう、なぜ眠れないのだろう。
 疑問もたくさんあるけれど、今知りたいのは「どうしたらいいのだろう」ということだ。どうしたら、少しでも安定して生活できるようになるのだろう。答えが見えなくて、途方に暮れる日々である。

追記(2002/5/29)
 この一ヶ月くらい後、マナミちゃんはふいに
 「ママ、おなかに赤ちゃんいるの」
 と言った。何があったかはわからないが、赤ちゃんの存在を受け止められるようになったらしかった。但し、母親と別れるときの号泣がおさまる気配はない。

そして2004年9月現在
 マナミちゃんは妹のナツミちゃんをとてもかわいがっている。普段お母さんと寝ているナツミちゃんと一緒に寝たい、と言ったり、ナツミちゃんが泣いていると飛んできたり、かいがいしく世話をしている。心の隅に少しだけ、マナミちゃんがいなければもっとお母さんに甘えられるのに…という気持ちがあるようだ。でも、それは弟妹をもつ子どもの、当たり前の感情のような気がする。



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