〜 保育室から 〜

◆はじめての保育所  (2003/7/14)

初めて保育所に子どもを預けるお母さんを迎えるとき、
保育士として 私はこんなことを考えています。
毎回書いていますがあくまで私個人の考えです。
一般論ではありませんので、あしからず。
 現実的に 保育所に入るまで家庭で子どもの面倒を見るのは母親が多いことから、
ここではお母さんに呼びかける形で話を進めますのでご了承ください。




◆不安、心配、寂しさの行く先

 産休や育休明け、または再就職で初めて保育所にお子さんを預ける。
 今までの生活は親である自分がすべて管理して支配していた。それが自分の目の届かないところで、まったくの他人の手にゆだねなければならない。そんな不安と心配だけでなく、子どもと離れることが寂しくて仕方ないお母さんもいます。
 別れるとき泣かれて自分も泣いてしまった、仕事中も子どものことが気になって仕方ない、保育所に預けてまで働くことに罪悪感を感じる、保育所はきちんと子どものことを見てくれているのだろうか、親の自分が知らないところで子どもはどうしているのか、一日中泣いているのではないか、お友だちと仲良く遊べているだろうか…。
 お母さんの胸の内には様々な思いが去来するのではないでしょうか。

 初めて保育所に子どもを預けるお母さんには、まず信頼してもらえるように努力します。
 そのためには単純なことですが、送り迎えの時直接お母さんと話ができれば話をします。 話ができない場合は、連絡帳に詳しくお子さんの様子を書いて伝えます。 
 直接話す場合は 朝は「体調はどうですか?」と家庭の様子を聞き、お迎えの時は保育所での様子を伝えます。ごはんを食べた、ひとりで遊べた、笑った、など少しでも「できた」ことを話します。泣いていたことも率直に伝えますが、「ずーっと泣き通しでした」は言いません。嘘をつくのではなく、不安を増長させるようなことは控えています。
 何をどこまで伝えるかは、お母さんの性格にもよります。お母さんにとっていいことばかり言うわけではありません。しかし、子どもと離れる不安・心配・寂しさが そのまま保育所不信に変わってしまうと その後 関係を修復するのが困難なので、お母さんの不安を少しずつ減らしていきたいのです。
 送り迎えの時声をかけるようにすると、お母さんの方も話しやすくなると思います。初めて保育所を利用するお母さんの中には 保育所での振る舞い方がわからない・自分から話しかけられないケースも増えていますので、保育士側からコミュニケーションを取るようにします。

 と書くと、なんだかえらく気を遣ってお母さん方を過保護にしているようですが、実はそうでもありません。
 保育士の目から見ると、子育てについて こうしてほしい、ああしてほしい、こうすればよいのに、と思うことが多々あります。それらを最初から言ってしまうと お母さん方が落ち込み自信を無くすため、はじめに信頼関係、お互いに話しやすい関係を築いておき、 そろそろ大丈夫だと思ったら こちらの意見を遠慮なく述べさせていただくのです。声をかけて保育士に慣れてもらうのは、その布石なのです(笑)。

 一方で、保育士歴が長くなればなるほど 初めて子育てするお母さんの気持ちを汲めなくなることがあります。だいたい保育士になるくらいですから、前々から子どものことに興味があって 日常でも子どもに目がいく人間だったでしょう。しかし、現在お母さん方は自分が子どもを産んで初めて赤ちゃんと接した、子どもと接したという方が多くなっています。一昔前なら子育て経験などなくても持ち合わせていたであろう子どもについての知識がないわけです。雑誌などで勉強しているものの実地経験が皆無。すると保育士との意識の差がどうしても大きくなってしまいます。
 つまり 「お母さんの”わからないこと”が保育士にはわからない」のです (時には「わからないならわからないで、子育ての雑誌くらい読むわよね…」と思う親御さんもいますが)。
 そこで 頭を空っぽにして、今まで特に子どもに興味がなく生きてきて 自分の子どもを産んで初めて子どもと接することになったお母さんになったつもりで子どもを見、話を聞き、理解するようにしています。正直、こんなこともわからないのか…と思うこともあります。それでも呆れながら叱らずに かみ砕いて説明するようにします。
 この先長い年月かけて子育てしていくのはお母さんです。私は子どもがいるだけでは親であるとは思いません。親が親であるために、子どもをどう捉え、理解し、育てていくかをサポートしなければならないと思います。保育所は今、親と子を共に育てる場になろうとしています。



◆お母さん方へのお願い

 初めて保育所にお子さんを預けるお母さん方にお願いしたいことがいくつかあります。

・保育所に協力してください
衣類や持ち物に記名する、書類や集金の提出期限を守る、お迎えの時間を守る、休みの連絡をする … 入所時にいろいろな規則を聞かされると思いますが、それらを守ってください。こんな細かく決めなくてもいいのに、と思う事項もあるでしょう。
 連絡帳ひとつにしても、毎日書くのは面倒だ と思われるかもしれません。しかし、家庭の様子やその日の体調は 保育所で生活する上で重要な情報なのです。家庭の情報無しに子どもたちを理解することはできません。
 保育所は親が働いている間 子どもを預かってくれるだけの所と考えている方もいるでしょうが、子どもたちが起きている時間の多くを過ごす保育所は家庭と協力して子どもを育てていく場所なのです。
 家庭との致命的な違いは子どもの数に対して保育者が少ないことです。そこで、子どもたちと関わり 理解し 親しむ時間を増やすために必要なのは、子どもと関わる以外の保育士の作業が最短の時間で済むことだと思います。これは大人の間の約束事がきちんと決まっており且つ守られていてこそできることです。
 記名がなければ「これ誰の洋服?」「誰のタオル?」、連絡帳の記入方法が各自まちまちでは「この子は今朝何時に起きたのか?」さえもぱっと見て把握できず、持ち物を忘れた連絡をしなければ「エプロンないの?忘れた?」「え?貸さなきゃいけないね」と確認が増え、無駄な動きがでてきます。こうした例を読むと、くだらない・些細なことだと思われるでしょう。それでも、こうしたちっぽけなことの積み重ねがロスタイムを増やします。保育士だけの行動は決まり切ったもので、慣れるほど時間がかからなくなるべきだと思います。
 職場で複数の人が参照するファイルが、いつも違うキャビネットにしまってあったら?毎回ファイルを探すところから始めるなんてばかばかしいですよね。それと同じ事なのです。保育所の場合は職場内の約束事にお母さんも協力してもらうわけです。
 大人の動きに無駄があるとき、しわ寄せが行くのは子どもたちになってしまいます。子どもに「早く●●して」と言わなければならなくなります。効率よい行動をするべきなのは大人だと思います。

・別れるときは潔く、泣かれても戻らないでください
 お母さんと別れるとき、大抵の子どもは泣きます。しかし一度「行って来ます。バイバイ」と手を振って歩き出したら、泣かれても戻らないでください。
 お母さんが泣き声で戻ってこなくても 別れたあと子どもはしばらく泣き続けますが、それは「別れるのがいやだ」という表現にとどまると思います。
 しかし泣き声でお母さんが戻ってくると 子どもは「泣けばお母さんは戻ってきてくれる」と考えてしまいます。「泣いてお母さんが戻ってきた(顔を見せた)=泣いて効果があった」と思うと、子どもはいつまでも泣きます。この程度の泣きでだめならもっと大きな声で、もっと長く…。そんな風に泣きがひどくなります。どうしてさっきと同じように泣いているのにだめなんだろう、となかなかあきらめがつかなくなってしまいます。
 大げさなようですが、子どもに無力感を味わわせないためにも 別れは潔く済ませてください。あくしゅでバイバイ、や ぎゅっ(と抱きしめる)という別れの儀式を決めるというのもひとつの手です。

・次に顔を見せるのはお迎えの時にしてください
 これは事業所内保育所特有の問題かもしれませんが、敷地内に保育所があるため 休憩時間に子どもの様子を見に来ることができます。我が子の顔を見に行ける距離なら見に行きたいのが 親心かも知れません。親はそれで安心するでしょうが、満足するのは親だけです。
 子どもは朝の辛い別れをなんとか乗り越えて、少しずつ保育所に慣れようとしています。そこへお母さんの顔が見えたら?お母さんが抱っこしてくれたら?子どもはそのままお母さんと一緒にいたい、いられると思うでしょう。それなのにお母さんが再び去ってしまったら…子どもの絶望感はどれだけのものでしょう。一度ならまだしも二度となると、このままここに置き去りなのかと思うかもしれません。
 次に会うのはお迎えの時、お母さんは次に会ったら必ず一緒に帰ってくれる。この単純な法則がわかるまで、ただでさえ時間がかかります。次に会っても帰れないかもしれない、という子どもの不安をかきたてる行動はしないでください。子どものために。
 どうしても子どものことが気になるなら、電話して様子を聞くのがよいと思います。



◆最後に

 お母さんは子どもと離れることも不安でしょうが、仕事に復帰する自分自身の不安も大きいと思います。お子さんと別れたら、自分の仕事に集中して職業人としての勘を早く取り戻してください。仕事が乗ってくればお母さん自身の気分が変わるかもしれません。

 それから、できれば保育所に預けられる子どもを可哀想だとは思わないでください。子どもたちはお母さんの気持ちに敏感に反応します。可哀想だと思われれば可哀想な子どもの顔になります。明るく元気に「お母さんは仕事頑張ってくるよ、あなたも保育所で元気に楽しく過ごしてね」と手を振ってほしいと思います。



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