生後1ヶ月

○全ての動物のうちで、人間の新生児は最も無力です。新生児はある意味でおよそ一ヶ月ま
では完全に生まれていないと言ってよいかもしれません。生まれてからの環境に生理的に適
応できるようになるまでには長い時間がかかります。

その為に、新生児の組織においては、まだまだ不安定です。例えば、断続的な覚醒症状や、
驚いた場合の反応を示す事や、不安定な呼吸や、くさめ、息が詰まる事やちょっとした刺激に
よる嘔吐などはその現れです。しかしそのような「不安定さ」は、この時期ではむしろ正常なも
のです。

○新生児はしばしば、起きている状態と眠っている状態の中間、薄明かりの状態にいるので
はないかと思われます。眠りそのものが極めて複雑な型の行動であり、新生児において眠りの
状態と目を開いている状態とがリズム的に形を整えるまでには、かなりの時間を要するように
思われます。

○あらゆる部面において新生児の発達は非常に速やかであるが為に、その生活は一日一日
と変化し、動揺します。そして、新生児の自発的行動や欲求は、決して固定した動きのとれな
い時間割には従っていません。したがって、あまり窮屈な日課に当てはめる事は新生児には
適当でありません。しかし、生後一ヶ月の新生児の示す行動の特質は、決して混沌、あるいは
無形式というものでもないのです。それぞれ発生的秩序の中に固有の位置を持っているので
す。

<運動的特質>
生後一ヶ月の新生児は、目覚めている時は、仰向けに寝て、通常頭をどちらか好きなほうへ
横向けにしています。そしていつでも、頭を向けている方の腕を伸ばしています。反対側の腕
は、手を頭から胸のあたりに置いて曲げています。このような、頭を傾け、片腕を伸ばし、もう
一方の腕を曲げている姿勢を、「緊張性頚部反射的姿勢」と言って、生後およそ、三ヶ月頃ま
では、目を覚ましている間は、大抵この姿勢をとっています。

生後一ヶ月の新生児は、しばしば驚愕反応を示す事があります。この時は、瞬間的に頭をまっ
すぐにして、四肢を全部急に伸ばして広げます。また時々、両腕を風車のようグルグルと回し
て空中をかき回す事があり、この時は両腕が幾分左右相称的な運動をします。しかし、「緊張
性頚部反射的姿勢」の左右非相称の姿勢は、最も基本的な姿勢となっています。

<適応的行動>
生後一ヶ月の新生児の筋肉のうちで、最も巧みに活発に動くのは、口と目の筋肉です。口のあ
たりに軽く触れると、唇をすぼめます。頭を動かして捜し求めるような動きをする事もあります。
これは空腹の時に特に著しく起こります。吸う事、飲下す事は、既に生まれる前から出来るよう
になっています。

生後一ヶ月の新生児は、長い間、眼球を固定し注視している事がよくあります。ぼんやりと、た
だ一人で窓や天井、大人の人の様な大きなものを見つめているのです。
「緊張性頚部反射的姿勢」の姿勢をとっている為に、視界は狭く限られています。目の前に物
をぶら下げても気がつきません。しかし、その物をゆっくり動かして視野の中に入れてあげる
と、目と頭の協応運動でそれを追い、90度以内の角度まで動かします。

この目で見つけるという能力は、確かに手で拾い上げる力よりも進んでいます。目で捉える事
は手よりも早いのです。目は開いている時でも、手はまだ握ったままで開いていない事が多い
のです。物を掴もうとして手を出すことはまだありません。しかし、手の把握行動の定型作用は
既に始まっています。自分の小指などで、子どもの手に触れると、腕の活動が増し、手を握っ
たり開いたりします。

<言語>
生後一ヶ月の新生児は、音に対して敏感です。身体を盛んに動かしている時に、音を鳴らすと
その動きが止まります。もっと後になると、何の音かを聞き分けるようになります。足音に耳を
すまし、やがてそれが足音である事が分かるようになります。
生後一ヶ月の新生児は、泣く事以外は声を出す事はまずありません。泣き声の強さや泣き方
は、泣く原因や周囲の環境によって異なります。発声はまだ貧弱で、表情的ではありません。
しかし、泣く時は少し喉音が出ます。これはナン語の元になるものです。

<個人的・社会的行動>
生後一ヶ月の新生児は、屈みこんで自分の視野の中に入ってくる顔があれば、しばらくそれを
見つめます。この社会的接触によって、新生児の顔の動きがやわらげられ、顔も明るくなりま
す。ともかく、しばらくじっと見つめるという事は、社会的反応のしるしなのです。また、人間の声
には特別な反応をします。抱かれたときや、温かい気持ちのいい服を着せてもらったりすると、
機嫌がよくなります。穏やかな、しっかりとした扱いを受けている時は、漠然とした安定感があ
ります。この、触覚的反応と保護されているという感じは、社会的意味を持つ最初の発生的徴
候と考えられます。

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