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最初に父が殺された −飢餓と虐殺の恐怖を越えて− ルオン・ウン 著 小林千枝子 訳 無名舎(本体1900円) |
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この本の存在を知ったのは新聞の書評でした。著者5歳の頃にカンボジアの内戦が始まってから5年後にアメリカに渡るまでの生活を記録したものだと知り、5歳のエミとだぶらせて、読みたいと思ったのです。 図書館で予約し(したがって上の本の写真もバーコードがついています)借りたのですが、どんな内容か想像はつくので、なかなか読みはじめる勇気がなく、1週間を過ごしてしまいました。広島に往復するチャンスがあったので、新幹線の中に持ち込んで、行き帰りでほとんど読むことができました。 それにしても…。裕福な家庭で優しい父と美しい母、7人きょうだいの下から2番目として何不自由なく育った女の子ルオンが、突然放りこまれた過酷な運命。 プノンペンをはじめて離れた都会っ子は、最初に一家が身を寄せた田舎の叔父の家の不便さに驚きますが、クメール・ルージュが勢力を拡大するにつれ、村をかわり、新人民として厳しい労働を強いられ飢餓と虐殺の恐怖にさらされるとようになると、少女は健気に現実にたちむかい、内戦の時代を生き抜いたのです。その間、最愛の父が連行され、行方知れずのままとなり、姉のひとりと母、妹も命を落とします。 5年後、長兄の夫婦とともに難民としてアメリカに渡り、大学卒業から3年たった97年よりワシントンの地雷廃絶キャンペーンのスポークスパーソンとして働いているそうです。生き延びられたことに値するなにかをしなければならないし、話すことによって自分の中の憎しみが薄らいでいくように思うと、著者はエピローグで語っています。 どんな感想があるかと聞かれると、言葉を失うのですが、この本は単に 虐殺の悲惨さを世に訴えるだけではなく、そこに流れる家族の絆や愛を教えてくれます。頼りの夫を失ったルオンの母は、子供たちを守るために強くなり、クメール・ルージュが一家全員を虐殺するようになってくると、子供たちだけでも助けようと、別々の孤児のキャンプに行くよう命じます。 また、生き残った子供たちは長男を中心に結束し、長男は妻とルオンと共にアメリカに渡ってからも懸命に働き、兄弟のために援助を惜しまなかったそうです。家族の絆というものが脆弱になっている日本に住む私たちには学ぶべきところです。 戦争は常に惨いものですが、それにしてもポル・ポト支配の期間というのは、ヒトラーのユダヤ人虐殺や近年のアフリカの部族紛争にも劣らず異常です。 解説の方が日本は西側諸国で唯一ポル・ポト政権を承認した国だと書かれていたのにさらにショックを覚えました。日本人として恥ずかしい思いであると同時に、ルオンの家族をはじめ、多くのカンボジア人の死に責任を感じます。 しかし、人間というのは生き延びるために、一方で与えられた情況に慣れていく能力も備わっているのだということを感じます。ルオンはとりわけ不屈の精神をもった少女で、わずか5歳ながら、現実の中で自分を鍛えていきました。その強さに心を打たれます。 エミにそういう目にあってほしいとはもちろん決して思いませんが、でも彼女ならどうするのでしょう。また、私だったら…。 著者の覚え書きはこう書いています ―本書は私自身と私の家族の生存をかけた歴史をつづったものだ。体験は私個人のものであるが、何百万のカンボジア人のものと重なるだろう。あなたがこの時代のカンボジアに生まれていたとしたら、これはあなたの歴史になっかもしれない。 |