他人の物の賃貸借契約においては、借主が目的物が貸主の所有物であることを
条件にしたり、あるいは所有者の承諾を得ることが頗る見通し困難で契約の履
行が不能になる高度の蓋然性が認められるなどの特段の事情がある場合を除い
ては、貸主は右契約締結の際借主に対し目的物が他人の所有に属することを告
知する義務を負わない。
借主が他人から賃借家屋の明渡しと賃料相当損害金の支払いを請求されたとき
は、以後賃貸借契約上の貸主に対し賃料の支払いを拒絶できるし、敷金を差し
入れているときは明渡し後全額返還請求できる。
第560条〔他人の権利の売買−売主の義務〕
他人の権利を以て売買の目的と為したるときは売主は其権利を取得して之を買
主に移転する義務を負ふ
第559条〔有償契約一般への準用〕
本節の規定は売買以外の有償契約に之を準用す但其契約の性質か之を許ささる
ときは此限に在らす
京都地方裁判所 判決 昭和61年4月18日
まず敷金返還請求の点について検討するに、
原告が昭和56年3月3日契約を締結して被告から本件店舗を賃借しそのころ
被告に敷金200万円を交付したこと、右賃貸借契約が昭和58年3月2日期
間満了によつて終了したことは当事者間に争いがない。
本件店舗の明渡時期についてみるに、原告は、昭和58年2月末日本件店舗で
の大衆食堂の営業をやめ、遅くとも同年10月初めに被告に対し本件店舗を明
け渡したことが認められ、これを覆すに足る的確な証拠はない。
敷金返還債務は、本件店舗明渡債務の履行がその発生要件であり、かつ右明渡
債務の履行に対し後履行の関係にあるから、原告としては本件店舗を明け渡し
た昭和58年10月初めより以後に被告に対し前記200万円の敷金の返還を
請求しうることとなる。
ところで右敷金返還請求権は特段の事情のない限り期限の定めのない債務とし
て履行の請求により遅滞に陥るものと考えられるところ、本訴においては遅く
とも訴状によつて履行の請求をしたことが明らかであるから、その翌日(記録
上昭和58年8月7日であることが明らかである)から遅滞に陥つたものとい
うべきである。
次に不法行為による損害賠償請求の点についてみるに、
まず過失の存否について検討するに、
他人の物の賃貸借契約はそれ自体有効であり、その契約が他人の物を目的とし
ていることに基因して履行不能をきたすときは、債務者に対し担保責任そして
要件を充せば債務不履行責任を課し、債権者の法的保護に遺漏のないよう規定
・解釈されているのであるから、契約締結の際借主において目的物が貸主の所
有物であることを特に条件としたり、或いは所有者の承諾を得ることが頗る見
通し困難で契約の履行が不能になる高度の蓋然性が認められるなどの特段の事
情のある場合を除いては、貸主には契約締結の際借主に対し目的物が他人の所
有に属することを特に告知する義務を負わないものと解する。
そしてこのことは、貸主がその目的物について他と訴訟で係争中である場合に
も妥当すると解する。
本件についてこれをみるに、被告の供述及び弁論の全趣旨によれば、被告はか
ねてより孫基元との間に被告占有の本件店舗の所有権をめぐつて係争中であつ
たが、本件店舗につき被告の所有権(その母との共有権)が認められ孫の所有
権を否定した第一審判決が言渡され、孫の申立により事件が控訴審に係属中で
あつた時期に、本件店舗の賃貸借契約が締結されたことが認められ、右事実に
よれば、本件店舗が孫のものである旨、また孫との間で本件店舗の所有権をめ
ぐつて訴訟で係争中である旨告知する義務を被告に認むべき特段の事情がある
とはいえない。
なお、前掲証拠によれば被告は右契約締結の際原告が資金を投入して本件店舗
で大衆食堂を経営する目的で本件店舗を賃借するものである旨知つていたこと、
及び後日控訴審において第一審判決を覆し孫基元に本件店舗の所有権(前記母
との共有権)を認め被告の所有権を否定する判決がなされたことが認められる
が、右事実によつては未だ告知義務の存否に関する前記判断を左右するに至ら
ない。
そうしてみると、被告が本件店舗を原告に賃貸する旨契約したこと自体に過失
があつてそれがひいては不法行為を構成する旨の原告の主張は採用することが
できない。
そこで抗弁についてみるに、
被告の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和57年12月から本件店舗
明渡直前の昭和58年9月までの間の1か月10万円合計100万円の賃料を
被告に払つていないことが認められるが、原告が右賃料を被告に支払う義務を
負つていたか否かについては後記再抗弁に対する判断の項で検討する。
再抗弁についてみるに、本件店舗が孫の所有であり、被告にはこれを原告に賃
貸する権限がなかつたことは当事者間に争いがなく、本件店舗の所有者の孫は、
昭和57年11月30日ころ、原告に対し、本件店舗が孫の所有であること、
被告には本件店舗を賃貸する権限のなかつたこと、以後6ないし8か月以内に
本件店舗を明け渡すべきこと、原告が本件店舗の賃借を始めた昭和56年3月
3日から明け渡し完了に至るまでの賃料相当損害金の請求をすることの通告書
を発し、これはそのころ原告に到達したこと、そこで原告は、昭和57年12
月15日、権利者を確知できないとして本件店舗の賃料を供託するとともに、
同月17日、被告に対し、内容証明郵便でもつて、孫から右通告書を受け取つ
たことを知らせるとともに、孫の前記原告に対する要求の排除などを求める通
知をしたこと、しかるに被告において孫との間のトラブルを解決するに至らな
かつたため、原告は、昭和58年3月2日、本件店舗での大衆食堂の営業をや
めたのであるが、被告からの敷金返還の目途がつかないので、右敷金返還を請
求しつつ明渡を見合わせていたこと、そして同年6月22日には、被告が原告
に対し敷金200万円の返還義務あることを認め、原告は(本件店舗の明渡を
する趣旨ではないが)被告に本件店舗の鍵を交付したこと、原告は、その後同
年7月4日には、孫から本件店舗に施錠をする旨の通告を受け、同年9月3日
付で、孫から本件店舗の明渡と賃料相当損害金の支払を求める訴を提起され、
結局遅くとも同年10月初めには本件店舗を被告に明け渡したことが認められ、
右認定を左右するに足る証拠はない。
そして右事実によれば、孫から本件店舗の明渡と賃料相当損害金の支払を請求
された昭和57年11月末日ころ以後は、原告において本件店舗を使用収益す
る賃借権を主張することができなくなるおそれが生じたものであるから、原告
は被告に対する賃料の支払を拒絶することができたものである。
よつて被告が、昭和57年12月から昭和58年9月までの10か月分合計1
00万円の未払賃料につき、これを敷金から控除すべきである旨主張するのは、
理由がない。
そうしてみると、原告の本訴請求は、前記敷金200万円とこれに対する訴状
送達の日の翌日(昭和59年8月7日)から支払済みまで年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請
求は理由がないのでこれを棄却する。
敷金返還請求権を目的として質権が設定され、第三債務者がこれを承諾した場合において、第三債務者としては敷金から控除される金額の割合を定めた特約の存在について異議をとどめて承諾をするつもりであったのに、その使者がこれと異なった表示をしたため、錯誤により異議をとどめない承諾がされる結果となったものであり、特約が返還の対象となる敷金の額と密接なかかわりを有する約定であったなど判示の事実関係の下においては、第三債務者の錯誤は、承諾をするに至った「動機における錯誤」ではなく、承諾の「内容自体に関する錯誤」であって、「要素の錯誤」に当たるというべきである。・・・「要素の錯誤」とは、錯誤が意思表示の内容に関し,かつ通常人の判断を規準として,もしその錯誤がな
かったら表意者はその意思表示をしなかったであろうと認められることをいうとされています。原審は、本件は、「動機の錯誤」にすぎないとしました。「動機の錯誤」とは、意思表示をするに至った内心上の原因(動機)に錯誤があることをいいます。この場合には表示上の効果意思に対応する内心的効果意思はあるので,意思の欠缺にはならず,内心の意思の成立過程に瑕疵があるにすぎないので,
無効とならないはずです。しかし,通説・判例は,この場合も動機が表示され,又は相手方がこれを知っているときは,意思表示は無効となるとしています。最高裁は、本件は、動機の錯誤ではないといっています。実務では、最高裁の判断基準を採用するしかないので、本判決を熟読して理解してください。
最高裁判所第3小法廷 判決 平成8年6月18日
原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
上告人は、昭和59年8月21日、ケイビックとの間で、期間を15年間、賃料を月額162万円、敷金を4500万円と定めて、上告人が本件建物をケイビックに賃貸する旨の本件賃貸借契約を締結した。
なお、後に、賃料は月額155万円に、敷金は3000万円に変更された。
本件賃貸借契約については、同日付けの建物賃貸借契約書(以下「旧契約書」という。)が作成された。
さらに、上告人は、同月30日、ケイビックとの間で、賃貸借期間中に賃借人であるケイビックの都合により本件賃貸借契約を解除する場合には、賃貸借開始の日からの期間に応じて、
(1)5年以内の解除の場合は100パーセント、
(2)8年以内の解除の場合は80パーセント、
(3)10年以内の解除の場合は40パーセント、
(4)15年以内の解除の場合は20パーセント
というように、一定の割合による金額を敷金から控除しその残額をケイビックに返還することを約した(以下「本件特約」という。)。
上告人とケイビックは、右同日、改めて本件特約を記載した建物賃貸借契約書以下「新契約書」という。)を同月21日付けで作成した。
ところで、被上告人は、同年9月7日、ケイビックに対して2000万円を貸し付けあわせて、ケイビックとの間で、本件賃貸借契約に基づくケイビックの上告人に対する敷金返還請求権を目的として質権設定契約を締結した。
ケイビックの代表者の夫である藤原は、上告人に対し、さきに被上告人から交付を受けていた質権設定承諾書の用紙を提示し、これに署名押印して質権設定を承諾するよう求めていたが、上告人は、右同日、「昭和59年8月21日附賃貸借契約書の各条項により敷金より控除した残額について質権設定を異議なく承諾いたします」との条項を付加した上、右承諾書に署名押印し、藤原はこれを被上告人に交付した。
ところが、上告人としては、承諾書と共に本件特約の記載されている新契約書が被上告人に交付されると思っていたのに、藤原は、本件特約の記載されていない旧契約書を被上告人に交付した。
本件賃貸借契約で定められた敷金3000万円は、同年12月までに、全額がケイビックから上告人に差し入れられた。
本件賃貸借契約は、昭和61年4月下旬に当事者間の黙示の合意解約によって終了しケイビックは、昭和62年4月末日、上告人に対し本件建物を明け渡した。
本件訴訟は、右のとおり、貸金債権を担保するためにケイビックの上告人に対する敷金返還請求権に対して質権の設定を受けた被上告人が、質権に基づく取立権(民法367条)により、上告人に対して右敷金返還請求権のうち自己の債権額に相当する部分の支払を請求し、これに対して、上告人が敷金の控除に関する本件特約の存在等を主張して争うものである。
原審は、前記の事実関係の下において、次のとおり判示して、上告人は本件特約をもって被上告人に対抗し得ないとした上、本件建物の賃料相当損害金のみを敷金から控除し被上告人の請求の一部を認容した。
上告人が質権設定を承諾した際、藤原を介して、承諾書と共に本件特約の記載されていない旧契約書が被上告人に交付されたから、右の承諾は異議をとどめない承諾であったと認められる。
上告人が質権設定を承諾したのは、本件特約を質権者である被上告人に対して主張し得ると思っていたからであり、本件特約をもって被上告人に対抗することができない以上上告人には錯誤があったことになるが、その錯誤は承諾の意思表示をするに至った動機における錯誤であって、承諾の意思表示自体の錯誤ではない。
動機の錯誤は、その動機が表示されて相手方が認識しているときに限って要素の錯誤として法律行為を無効とするが、本件の場合には、右の動機は何ら表示されていないから要素の錯誤があったと認めることはできない。
したがって、上告人は、ケイビックに対して主張し得る本件特約をもって、質権者である被上告人に対抗することはできない。
しかしながら、上告人の質権設定についての承諾に関する錯誤が、動機の錯誤にすぎず、要素の錯誤に当たらないとした原審の右判断は、是認することができない
。
その理由は、次のとおりである。
質権設定についての第三債務者の承諾は、債権者のために債務者の第三債務者に対する債権を目的として質権が設定された事実についての認識を表明する行為であって、いわゆる観念の通知の性質を有するものであり、これについても意思表示の錯誤に関する民法の規定が類推適用されると解される。
原審の確定した事実関係によれば、上告人は、敷金返還請求権に対する質権設定を承諾するに当たり、本件特約について異議をとどめて承諾をするつもりであったが、その承諾書を持参した藤原が本件特約の記載されていない旧契約書を被上告人に交付したため、異議をとどめない承諾がされる結果となったものである。
すなわち、右の承諾については、上告人の認識と被上告人に対する表示との間に質権の目的である敷金返還請求権に本件特約が付されていたか否かの点に関して不一致があったものであり、上告人に錯誤があったものである。
ところで、本件特約は、前記のとおり、賃借人であるケイビックの都合により5年以内に本件賃貸借契約を解除する場合であれば100パーセント、8年以内にこれを解除する場合であれば80パーセントというように、敷金から控除される金額の割合を定めるものであって、返還の対象となる敷金の額と密接なかかわりを有する約定である。
そうすると、右の錯誤は、質権の目的である債権の重要な属性に関する錯誤であるから、承諾をするに至った動機における錯誤ではなく、承諾の内容自体に関する錯誤であるとみるのが相当である。
そして、本件特約の付されていない敷金返還請求権を目的として質権を設定するというのであれば、社会通念に照らして、上告人が質権設定を承諾しなかったことが容易に推察されるから、右の錯誤は民法95条にいう要素の錯誤に当たるものというべきである。
以上と異なる原審の判断には民法95条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、上告人のその余の論旨について判断するまでもなく、原判決中、上告人敗訴の部分は破棄を免れない。
マンションの特定の専有部分からの汚水が流れる排水管の枝管が共用部分
に当たるとされた最高裁の判例です。共用部分については、区分所有者全
員の共有に属することになります。区分所有者は,共用部分についても持
分を有しますが,その持分の処分は専有部分の処分に従い,しかも,特殊
な場合を除いて,その持分は専有部分と分離して処分することができませ
ん。区分所有者は,共有物分割の訴えを提起することもできません。この
ように共用部分の使用・変更・管理については,民法の共有の規定と異な
る内容の規定が置かれていますので注意してください。
建物の区分所有等に関する法律 第4条(共用部分)
1 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全
員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的と
ならないものとする。
2 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分
とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これを
もつて第三者に対抗することができない。
建物の区分所有等に関する法律 第11条(共用部分の共有関係)
1 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分
は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第
27条第1項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と
定めることはできない。
3 民法第177条の規定は、共用部分には適用しない。
最高裁判所第3小法廷 判決 平成12年3月21日
原審が適法に確定した事実の概要は、次のとおりである。
本件建物の707号室の台所、洗面所、風呂、便所から出る汚水について
は、同室の床下にあるいわゆる躯体部分であるコンクリートスラブを貫通
してその階下にある607号室の天井裏に配された枝管を通じて、共用部
分である本管(縦管)に流される構造となっているところ、本件排水管は、
右枝管のうち、右コンクリートスラブと607号室の天井板との間の空間
に配された部分である。
本件排水管には、本管に合流する直前で708号室の便所から出る汚水を
流す枝管が接続されており、707号室及び708号室以外の部屋からの
汚水は流れ込んでいない。
本件排水管は、右コンクリートスラブの下にあるため、707号室及び7
08号室から本件排水管の点検、修理を行うことは不可能であり、607
号室からその天井板の裏に入ってこれを実施するほか方法はない。
右事実関係の下においては、本件排水管は、その構造及び設置場所に照ら
し、建物の区分所有等に関する法律2条4項にいう専有部分に属しない建
物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解する
のが相当である。
これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論
の違法はない。
最初にとりあげた判決は、家屋賃借人の「事実上の養子」として待遇されて
いた者が賃借人の死後も引き続き家屋に居住する場合、賃借人の相続人らに
おいて養子を遺産の事実上の承継者と認め、祖先の祭祀も同人に行わせる等
の事情があるときは、その者は、家屋の居住につき、相続人らの賃借権を援
用して賃貸人に対抗することができるとした最高裁の判決です。
「事実上の養子」ということは、養子縁組の届出も出されておらず、戸籍に
も養子縁組の記載はありません。最高裁の理論構成としては、相続人の相続
した賃借権を援用することを認めたということですが、賃貸人が事実上の養
子が引き続き居住していることを知りながら直ちに異議を述べなかったとい
うことであれば、「黙示の承認」があったという理論構成等も可能であった
ように思います。
次にとりあげた判決は、建物賃借人と同居しているその「内縁の妻」は、夫
が死亡した場合、他に居住している相続人が承継した賃借権を援用して、賃
貸人に対し建物に居住する権利を主張することができるが、賃借人となるわ
けではないから賃料支払いの義務は負わないとした最高裁の判決です。結果
の妥当性を得るためにこのような理論構成になったことは理解できますが、
援用理論自体無理があるように思います。
第601条〔賃貸借の意義〕
賃貸借は当事者の一方か相手方に或物の使用及ひ収益を為さしむることを約
し相手方か之に其賃金を払ふことを約するに因りて其効力を生す
第896条〔相続の一般的効力〕
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承
継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
最高裁判所第3小法廷 判決 昭和37年12月25日
原審が確定したところによれば被上告人は、昭和17年4月以来琴師匠のA
女の内弟子となつて本件家屋に同居してきたが、年を経るに従い子のなかつ
たA女は、被上告人を養子とする心組を固めるにいたり、晩年にはその間柄
は師弟というよりはまつたく事実上の母子の関係に発展し、周囲もこれを認
め、A女死亡の際も、別に相続人はあつたが親類一同諒承のものに、被上告
人を喪主として葬儀を行わせ、A女の遺産はすべてそのまま被上告人の所有
と認め、同人の祖先の祭祀も被上告人が受け継ぎ行うこととなり、A女の芸
名の襲名も許されたというのであり、叙上の事実関係のもとにおいては、被
上告人はA女を中心とする家族共同体の一員として、上告人に対しA女の賃
借権を援用し本件家屋に居住する権利を対抗しえたのであり、この法律関係
は、A女が死亡し同人の相続人等が本件家屋の賃借権を承継した以後におい
ても変りがないというべきであり、結局これと同趣旨に出た原審の判断は正
当として是認できる。
昭和42年2月21日 最高裁第三小法廷 判決
原判決が確定した事実関係のもとにおいては、上告人増井は亡山本安太郎の
内縁の妻であつて同人の相続人ではないから、安太郎の死亡後はその相続人
である上告人山本巌郎ら4名の賃借権を援用して被上告人に対し本件家屋に
居住する権利を主張することができると解すべきである。
しかし、それであるからといつて、上告人増井が前記4名の共同相続人らと
並んで本件家屋の共同賃借人となるわけではない。
したがつて、安太郎の死亡後にあつては同上告人もまた上告人山本ら4名と
ともに本件家屋の賃借人の地位にあるものというべきであるとした所論原判
示には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならない。
原判決にはこのような違法があるが、本件家屋の賃貸借関係について他の共
同賃借人3名の代理権を有していた上告人両名に対して被上告人の先代三尾
常次郎がした該賃貸借契約解除の意思表示が有効であること後記のとおりで
あるから、右の違法は上告人らに対して本件家屋の明渡を命じた原判決にな
んら影響を及ぼすものでないことは明らかである。
また、原審確定の事実によれば、賃貸借の終了後は上告人らはいずれも本件
家屋を法律上の権限なくして占有し賃料相当額の損害を加えつつあるという
のであるから、上告人らに対してその不法占有期間について右損害金の連帯
支払を命じた原判決にも影響がないものというべきである(被上告人の損害
金の請求は、債務不履行に基づくものと不法行為に基づくものとが選択的に
なされているものと解される。)。
しかしながら、上告人増井は、前記のとおり、安太郎の死亡後本件家屋の賃
借人となつたのではなく、したがつて、昭和33年1月1日から本件賃貸借
の終了した昭和35年8月2日までの間の賃料の支払債務を負わないものと
いうべきであるから、原判決中同上告人に対して右賃料の支払を命じた部分
は失当として破棄を免れず、右部分についての被上告人の本訴請求は破棄す
べきものである。
抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
事実関係は、次のとおりですが、ちょっと複雑です。。
幸子及び惠逸は、本件不動産の共有者(持分各二分の一)である。
幸子及び惠逸と被上告人(抵当権者)は、昭和62年6月1日、本件不動産につき、太陽神戸銀行が幸子に貸し付けた1億1000万円についての保証委託契約に基づく被上告人の幸子に対する事前求償権を被担保債権とする抵当権設定契約を締結し、同日、抵当権設定登記を経由した。
幸子及び惠逸は、平成元年10月31日、各月の賃料の弁済期を前月末日と約して本件不動産を王将フードサービスに賃貸し、その平成6年6月分以降の賃料は月額157万円である。
上告人は、平成5年11月10日、朝日電気工業所に対し6500万円を貸し付けた。
幸子及び惠逸は、同日、朝日電気工業所の上告人に対する右債務を担保するため、王将フードサービスに対する本件不動産についての同年12月分以降の賃料債権を上告人に対して譲渡し、同年11月13日到達の内容証明郵便により王将フードサービスに対して右の債権譲渡がされたことを通知した。
大阪地方裁判所は、平成6年10月17日、抵当権者である被上告人の物上代位権に基づく申立てにより、本件不動産についての賃料債権のうち差押命令送達時に弁済期にある分以降1億1000万円に満つるまでの部分を差し押さえる旨の差押命令を発し、右命令は同月19日に王将フードサービスに送達された。
王将フードサービスは、本件不動産の平成6年11月分から同7年6月分までの賃料を供託したので、大阪地方裁判所は、同年6月26日、右供託金及び供託利息合計1258万1980円から執行手続費用770円を控除した1258万1210円を弁済金として被上告人に交付した。
最高裁判所第3小法廷 判決 平成10年2月10日
民法304条1項ただし書は、先取特権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要すると規定しているところ、同法372条がこの規定を抵当権に準用した趣旨は、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、その債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれるおそれがあるため、差押えを物上代位権行使の要件とすることによって、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば、その効果を抵当権者にも対抗することができることとして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護しようとする点にあると解される。
このような民法の趣旨目的に照らすと、同法304条1項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が他に譲渡され、その譲渡について第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
けだし、
(一)民法304条1項の「払渡又ハ引渡」という用語は当然には債権譲渡を含むものとは解されない上、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、
(二)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後に物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、
(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、
(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができることとなり、この結果を容認することは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。
そして、以上の理由は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものということができる。
本件において、原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
幸子及び惠逸は、本件不動産の共有者(持分各二分の一)である。
幸子及び惠逸と被上告人は、昭和62年6月1日、本件不動産につき、太陽神戸銀行が幸子に貸し付けた1億1000万円についての保証委託契約に基づく被上告人の幸子に対する事前求償権を被担保債権とする抵当権設定契約を締結し、同日、抵当権設定登記を経由した。
幸子及び惠逸は、平成元年10月31日、各月の賃料の弁済期を前月末日と約して本件不動産を王将フードサービスに賃貸し、その平成6年6月分以降の賃料は月額157万円である。
上告人は、平成5年11月10日、朝日電気工業所に対し6500万円を貸し付けた。
幸子及び惠逸は、同日、朝日電気工業所の上告人に対する右債務を担保するため、王将フードサービスに対する本件不動産についての同年12月分以降の賃料債権を上告人に対して譲渡し、同年11月13日到達の内容証明郵便により王将フードサービスに対して右の債権譲渡がされたことを通知した。
大阪地方裁判所は、平成6年10月17日、抵当権者である被上告人の物上代位権に基づく申立てにより、本件不動産についての賃料債権のうち差押命令送達時に弁済期にある分以降1億1000万円に満つるまでの部分を差し押さえる旨の差押命令を発し、右命令は同月19日に王将フードサービスに送達された。
王将フードサービスは、本件不動産の平成6年11月分から同7年6月分までの賃料を供託したので、大阪地方裁判所は、同年6月26日、右供託金及び供託利息合計1258万1980円から執行手続費用770円を控除した1258万1210円を弁済金として被上告人に交付した。
右事実関係によってみれば、上告人は、被上告人の抵当権設定登記後に賃料債権を譲り受けて対抗要件を具備した者であるから、右賃料債権に対する被上告人の物上代位権の行使につきその不許を求める本件第三者異議請求は、うち既に執行の終了した同7年6月分までの賃料債権に係る部分については、利益がないから訴えを却下すべきであり、翌7月分以降の賃料債権に係る部分については、右賃料債権が譲渡され、対抗要件が具備されたからといって、抵当権者である被上告人が自らこれを差し押さえて物上代位権を行使することができなくなるものではないというべきであるから請求を棄却すべきである。
以上と同旨の原判決の結論は正当である。
条件の成就によって利益を受ける当事者が故意に条件を成就させたときは、
民法130条の類推適用により、相手方は条件が成就していないものとみな
すことができるとした最高裁の判例です。民法130条は、条件の成就によ
って不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときに相手方は
その条件が成就したものと見なすことができるわけですから、ちょうど、こ
の判決と裏表の関係にあります。こういう法律の解釈法は面白いと思います。
民法第130条〔条件成就の妨害〕
条件の成就に因りて不利益を受くへき当事者か故意に其条件の成就を妨けた
るときは相手方は其条件を成就したるものと看做すことを得
最高裁判所第3小法廷 判決 平成6年5月31日
本件は、上告人を債権者、被上告人らを債務者とする裁判上の和解調書につ
き、上告人が条件成就による執行文の付与を受けたことに対して、被上告人
らが条件成就を争って執行文の付与された右和解調書の正本に基づく強制執
行の不許を求める執行文付与に対する異議の訴えであるところ、原審は、被
上告人株式会社アートネイチヤー関西(以下「被上告人関西」という。)に
条件成就に該当する行為があったが、本件においては上告人が条件成就を主
張することは信義則に反し許されないと判断して、被上告人らの請求を認容
した。
原審が、その前提として確定した事実関係は、以下のとおりである。
上告人から被上告人らに対する債務名義として第一審判決添付和解条項を内
容とする裁判上の和解調書が存在するが、右条項第1項には、被上告人らが
櫛歯ピンを付着した部分かつらを製造販売しない旨、同第2項には、被上告
人らがこれに違反した場合には連帯して上告人に対し違約金1000万円を
支払う旨の記載がある。
上告人の取引先関係者である永田は、上告人の指示の下に、通常の客を装っ
て被上告人関西の店舗に赴き、まず、櫛歯ピンとは形状の異なるピンを付着
した部分かつらの購入を申し込んで、その購入契約を締結した。
永田は、その後、部分かつら本体の製作作業がかなり進んだ段階で、さらに
上告人の意を受けて、右形状のピンを付着した部分かつらであれば右購入契
約を解約したい、解約できないなら櫛歯ピンのようなストッパーを付けてほ
しい旨の申入れをした。
困惑した被上告人関西の従業員は、永田の強い要求を拒み切れず、契約の変
更を承諾した上、櫛歯ピンを付着した部分かつらを永田に引き渡した。
上告人が永田に右のような行為をさせたことについては、被上告人関西の本
件和解条項違反行為を確認するためのやむを得ないものであったと解すべき
事情は認められない。
上告人は、被上告人関西が永田に右かつらを販売したことは本件和解条項第
1項に違反するから、同第2項の条件が成就したとして、前記の裁判上の和
解調書による被上告人らに対する強制執行のため執行文の付与を申請し、東
京地方裁判所の裁判所書記官から、執行文の付与を受けた。
以上の事実によれば、被上告人関西が永田に櫛歯ピン付き部分かつらを販売
した行為が本件和解条項第1項に違反する行為に当たるものであることは否
定できないけれども、上告人は、単に本件和解条項違反行為の有無を調査な
いし確認する範囲を超えて、永田を介して積極的に被上告人関西を本件和解
条項第1項に違反する行為をするよう誘引したものであって、これは、条件
の成就によって利益を受ける当事者である上告人が故意に条件を成就させた
ものというべきであるから、民法130条の類推適用により、被上告人らは、
本件和解条項第2項の条件が成就していないものとみなすことができると解
するのが相当である。
これと同旨をいう原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に
所論の違法はない。
契約の一方当事者が契約の意義を正確に知らされておらず、その結果、意思表示をしたものであって、正確な意義を知らされれば、意思表示をすることはない場合に、そのことを契約の相手方が十分に知っているというときには、それは、意思表示がその真意に欠けるものであることを相手方が知っていることとなるから、心裡留保の規定である民法93条但し書きにより、当該意思表示は、法律上無効であるといわねばならない。
保証人が保証の意思表示をするに当たっては、保証の対象である債権が主たる債務者によって確実に弁済されるものと信じてしたものであり、この点について錯誤及び詐欺があったものと認められる。そして、債権者が根保証の法形式を利用し、かつ、既存債務の内容を説明しなかったのは、保証人がこのような錯誤によってでも保証してくれることを、容認し、むしろ、歓迎していたものと評価されてもやむを得ないものである。
そうであるとすると、仮に、債権者の主張するように、債権者の別個の貸付けの事実がなく、その前の旧債務が残存していたとしても、保証人の本件保証の意思表示には、詐欺または錯誤があり、取り消しうるものであるか、無効であると認めるのが相当である。
保証人は、詐欺による取消しの意思表示をし、錯誤無効の主張をしているのであるから、債権者の請求は、認容することができない。
東京高等裁判所 判決 平成13年2月20日
本件は、被控訴人が、乙に対し金銭を貸し付け、控訴人はこれを600万円の限度で根保証したと主張して、根保証契約に基づき、控訴人に対し、貸金残元金400万円とその遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、被控訴人の請求を認容したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。
(1)被控訴人は、事業者向けの融資業務を営んでいる法人である。
(2)被控訴人は、平成9年5月24日、乙に対して、金200万円を貸し付け、控訴人は、200万円の連帯保証をした。
(3)乙は、平成9年7月1日上記200万円を返済した。
(4)被控訴人は、平成9年7月9日、乙に対して、金200万円を貸し付けた。
(5)被控訴人は、平成9年7月14日、乙に対して、金200万円を貸し付けた。この200万円については、丙の連帯保証があった。
(6)被控訴人は、平成9年7月29日、乙に対して、金200万円を貸し付けた。
一審における被控訴人の請求
被控訴人は、一審では、当初上記の平成9年7月9日の200万円、7月14
日の200万円及び7月29日の200万円の合計600万円の貸金債権が残
存していると主張して、600万円の請求をした。
その後一審途中で、丙が7月14日の200万円を弁済したとの控訴人の主張
が出ると、これに対抗して、被控訴人は、丙の弁済は、7月9日の200万円
の弁済であったと主張し、上記の平成9年7月14日の200万円及び7月2
9日の200万円、合計400万円の貸金債権が残存しているとして、これに
ついて、請求していた。
当審における釈明とその結果
当裁判所は、第1回口頭弁論で口頭弁論調書記載の釈明を行った。
この釈明に応え、被控訴人は、乙に対するすべての融資の内容を明らかにする
帳簿を法廷に提出した。その被控訴人提出の帳簿には、次の記載がある。
(1)平成10年8月26日、上記の平成9年7月9日の200万円、7月1
4日の200万円及び7月29日の200万円のすべてが、一旦返済された。
そして、同日、別個の600万円の新たな貸付けが行われた。
この別個の貸付については、新たな契約番号が付けられた。
(2)その別個の新たな貸付けについて、丙は、平成11年5月20日200
万円を返済した。
当審における被控訴人の請求
以上の結果、当審で被控訴人が請求するのは、帳簿上平成10年8月26日に
されたものとされている別個の貸付金の残金400万円の請求であると解され
る。
主な争点
(1)平成9年7月29日、控訴人は、被控訴人に対して、根保証の文言のあ
る承諾書及び確認書を差し入れている。
これらの書面の契約は、文言どおりの600万円の根保証契約であるか、当時
存在した債務の個別保証の契約であるか。
(2)控訴人の平成9年7月29日の保証の意思表示は、主債務者である乙の
既存債務の内容やその資力に関する錯誤があって、無効であるか。
この点に関する詐欺があって、取り消しうるものであるか。
控訴人は、仮定的に詐欺による取り消しの意思表示をし、錯誤無効の主張をし
ている。
当裁判所の判断
当裁判所は、被控訴人の請求は理由がないものと判断する。
その理由は次のとおりである。
事実の経過
(1)控訴人は、T株式会社に勤務する会社員である。乙は、Tから注文を受
けて、内装工事業をしていた。
控訴人は、自己の勤務する会社の取引先として、乙を知っていたのみである。
控訴人は、乙の事業内容、特にその資金繰りなどを知りうる立場にはなく、ま
た、乙の同居の親族などとは異なり、乙の事業によって、直接間接に利益を得
る立場にもなかった。
(2)乙は、平成9年5月28日の200万円の借り入れについて、控訴人に
連帯保証を依頼した。
その際、乙は、控訴人に対して、この200万円は、乙がTから支払を受ける
内装工事代金474万円余りで被控訴人に返済するので、控訴人に迷惑をかけ
ることはないと説明した。
(3)ところが、乙は、平成9年6月に上記の工事代金としてTから受け取っ
た手形2通を、控訴人に秘して、平成9年6月30日に被控訴人に手形割引に
出した。
(4)そして、平成9年7月29日に、乙が200万円の貸し付けを受けるに
当たっては、乙は、控訴人に対して、既存の債務は5月28日の200万円、
7月14日の丙の保証のある200万円であり、丙保証分は、丙が支払の責任
がある、残る400万円は、上記の工事代金で返済可能なので、控訴人に迷惑
をかけることはないと説明して、控訴人を安心させた。
(5)実際には、当時の乙の被控訴人に対する既存の借入金債務は、7月9日
の200万円、7月14日の200万円であった。
しかし、被控訴人の貸付担当者は、このことを控訴人に説明しなかった。
説明していれば、控訴人は、乙の説明に不審を抱き、保証を承諾しなかった可
能性があった。
ところが、控訴人担当者は、一審で行われた証人尋問において、裁判官の問い
に対して、本件のような根保証の文言のある承諾書や確認書を差し入れさせる
ときは、一般的に既存債務の内容を説明しない取扱いであると証言している。
(6)また、前記の工事代金として振り出された手形は、被控訴人が割り引い
ているのであり、また、上記承諾書には、割引金の買い戻し債務についても、
保証人が責任を負う旨記載されていた。
この手形割引の内容を、被控訴人が、将来責任を負う可能性のある控訴人に説
明しておれば、控訴人は、乙の控訴人に対する説明に虚偽があることが分かり、
保証を承諾しない可能性があった。
しかし、被控訴人は、手形割引の内容を保証人となろうとする者に説明しない
方針であり、現に説明しなかった。
(7)被控訴人は、帳簿の記載に反して、平成10年8月26日の3口の既存
の貸付金の弁済はなく、新規の600万円の貸付けもなかったと主張している。
しかし、帳簿の記載がなんらの会計上の証拠書類なしにされることは、通常は
ないことである。
また、被控訴人は、新規の600万円の貸付けがあることを前提にして、丙か
ら200万円の弁済を受けており、そのことを丙に交付した領収書に記載して
いる。
これらのことを考慮すると、旧債務の弁済と新規の貸し付けの事実がなかった
とする、控訴人の主張は認められず、帳簿の記載どおりの弁済及び新規の貸し
付けがあったものと認めるのが相当である。
(8)ところで、控訴人は、上記の承諾書を保証人から取得する際には、保証
人の署名のある手形を差し入れさせる取扱いにしている。
(9)被控訴人は、本件で控訴人から差し入れさせた金額600万円の手形の
債権を被保全債権として、平成10年9月6日、控訴人の給料債権の仮差押え
決定を得た。
この当時利息制限法によって計算した残額は、被控訴人の計算によっても50
0万円余りであり、手形金額600万円の債権があるとしてした仮差押えの申
立ては、債権を過大に主張するものであった。
(10)このように被控訴人が手形で申し立てる仮差押えや手形訴訟は、債権
額を過大に主張するものがあるため、裁判官がその審理において、被控訴人に
対して、貸付けの内容に関する帳簿の提出を求めることがあるが、被控訴人は、
このような訴訟指揮に従わなかったことがある。
(11)本件訴訟は、平成11年6月29日に提起された。
その時の被控訴人の最初の請求額は、600万円であった。
しかし、すでに認定したとおり、このときには、丙の200万円の弁済があっ
た後であり、また、被控訴人自身の利息制限法によって計算した残額も、ほぼ
400万円にとどまるものであった。
このように本件訴訟そのものも、最初の請求は、過大なものであった。
(12)控訴人は、被控訴人が要求する承諾書や確認書さらには手形が、この
ような過大な請求に利用されるとの説明を受けたことはない。
控訴人は、そのように書類が利用されることは知らずに、署名捺印したもので、
そのように利用されるのであれば、署名捺印する意思はなかった。
(13)被控訴人は、上記(12)の事実を知って、書類に控訴人の署名捺印
を求めたものである。
根保証契約の成否について
本件の根保証の文言のある承諾書及び確認書には、保証人欄に控訴人の署名押
印がある。
保証人欄の控訴人の署名押印が控訴人自身によって記載、押捺されたことは、
控訴人も認めるところである。
そうすると、通常は、この記載どおりの根保証契約が成立したというべきであ
ろう。
しかし、次の各点に照らすと、右の書証をもって、根保証契約の成立を認める
ことはできない。
(1)被控訴人の貸付け業務の場合、根保証の法形式は、保証の対象である個
別の債権の内容を、保証人に不明確なものとする道具として使われている疑い
が濃厚である。
個別の保証であれば、保証の対象を明らかにしなければ、保証契約は成立しな
い。
保証の対象を明らかにすれば、それに伴い、主債務者の信用状態も表面に現れ
てくるのが通常である。
本件でも、被控訴人が乙の既存の債務の内容を、控訴人に説明すれば、乙が被
控訴人に負う債務の総額(600万円と割り引かれている手形の金額の合計額)
と、乙が弁済のため調達可能な資金の額(当面は割り引かれている手形の金額
と同額)に差があること、そしてその差額は600万円という多額にのぼるこ
と、したがって、乙の支払能力が十分ではなく、控訴人が保証をすれは、保証
人の責任を追及される可能性があることが、露わになっていたものと認められ
る。
控訴人のように、主債務者の事業内容を知りうる立場になく、主債務者の事業
によって直接間接に利益を得る立場にもない者の場合は、保証をするかどうか
の判断に当たって、保証の対象である債権が弁済される可能性があるかが、ほ
ぼ唯一の判断基準であるといってよいと考えられる。
そのような判断をする場合には、保証の対象がどの債権であるかが、まずもっ
て最も重要な事実である。
その重要事実が、根保証という法形式が採用されると共に、被控訴人のように、
既存債務の内容を説明しないという取扱いによって、曖昧にされれば、保証人
は、容易に、騙され、保証の対象である債権は確実に弁済されるとの錯誤に陥
るであろう。
現に、本件では、そのような事態が生じているものと認められる。
根保証の法形式が採用され、既存債務の内容が知らされない扱いに、このよう
な危険があることを予め告知されれば、保証人は、根保証を望まないことは明
らかである。
それにもかかわらず、被控訴人が根保証を求める背景には、債権の回収不能の
リスクを保証人に付け替える上での便宜の問題が存在しているものと考えられ
る。
すなわち、既存の融資金について主債務者の弁済資力が不足しているというこ
とは、債権者である被控訴人にとって、債権の回収が危ぶまれるリスクがある
ことを意味する。
それが錯誤によってであれ、保証人によって保証されれば、債権者である控訴
人は、その負担していた回収不能のリスクを、保証人に付け替えることができ
る。
このようなリスクの付け替えをするのに、保証人に対してリスクの存在が秘匿
されていれば、保証の可能性が高まり被控訴人にとって好都合であることは否
定できない。
被控訴人が当事者となる訴訟では、保証人の保証意思の決定過程に錯誤や詐欺
があるかどうか争われる事件が、極めて多いことは、当裁判所に顕著であり、
広く知られているところでもある。
それにもかかわらず、被控訴人が根保証という法形式を譲らず、しかも、本件
のように既存債務の内容を知らせない取扱いをしている。
以上検討した事実関係を総合して判断すると、被控訴人は、単に債権者として
個別に保証をとる手間を省きたいということにとどまらず、それ以上に、保証
人の保証の対象が不明確となり、本件のように、錯誤に陥って保証する者が現
れることを、容認し、むしろこれを歓迎しているものと評価されてもやむを得
ないものと認められる。
平成11年12月17日の法律第155号による貸金業の規制等に関する法律
の一部改正などによって、根保証の法形式の利用による保証対象の不明確化の
弊害を防止する措置が執られた。
しかし、そのような法改正の前でも、根保証の法形式をこのように保証対象を
不明確化するために利用すること自体が許されていたわけではない。
そのような利用が不当なものであり放置できないことから、国会は、法律を改
正したものと認められる。
被控訴人による根保証の法形式の利用は、公の秩序である法の弱点を逆手にと
って、自己の不法な利益を図ろうとするものであり、実質上公序良俗に反する
ものと認めるのが相当である。
(2)さらに、被控訴人の貸付け業務の場合、根保証の法形式の利用は、保証
の対象の不明確化を通じて、保証の対象である債権のその後の変化、特に弁済
その他による消滅や、利息制限法の適用による債権額の減少を、保証人に隠蔽
する道具として、使われているともいえる。
そのことは、手形を利用した権利主張の場合に、明らかであるが、手形を利用
しない本訴であっても、このような状況が見られる。
本件の場合も、一審段階では、被控訴人自身の認識する債権額を超えて、本訴
が提起されているのである。
このような手形訴訟や根保証という法形式の利用も、いわば公の秩序である法
律の弱点を逆手に取って、自己の不法な利益を図ろうとするものであり、実質
上公序良俗に反するものというべきであって、これを許容すべきものではない。
(3)そして、すでに認定したように、根保証の文言のある承諾書や確認書さ
らにはこれらと同時に徴収される手形が、このような利用のされ方をされてい
ることについて、契約の当事者である控訴人は、説明を受けたことはなく、知
らされてもいない。
知らされていれば、控訴人が承諾書や手形に署名押印することはなかったもの
と認められる。
そして、契約の相手方である被控訴人は、その事実を十分に認識していたので
ある。
契約の一方当事者が契約の意義を正確に知らされておらず、その結果、意思表
示をしたものであって、正確な意義を知らされれば、意思表示をすることはな
い場合に、そのことを契約の相手方が十分に知っているというときには、それ
は、意思表示がその真意に欠けるものであることを相手方が知っていることと
なるから、心裡留保の規定である民法93条但し書きにより、当該意思表示は、
法律上無効であるといわねばならない。
(4)そして、このような場合には、当事者の内心の意思を相手方が知ってい
るのであり、その内心の意思は、相手方にとって、そのまま認識可能ないわば
表に現れた意思であるともいえるから、当事者間に表示どおりの契約の意思が
ないことが明確になっているものとして、契約成立の要件である意思表示の合
致はなく、表示どおりの契約が成立していないと認めることもできる。
以上検討したように、本件の承諾書・確認書は、その内容どおりの根保証の契
約としては、意思表示の合致がなく、契約は不成立であると認められる。
もしこのような場合も契約が成立しているというのであれば、その契約は文言
どおりの根保証としては、民法93条但し書きの適用により無効であるといわ
ねばならない。
また、本件の場合の根保証の法形式の利用は、公序良俗に反するものであり、
民法90条の適用により、その契約は、根保証としては無効であるということ
ができる。
そして、被控訴人が乙の債務を個別的に保証する意思があったことは、当事者
間に争いがないから、本件は、個別保証の合意があったものと認めるのが相当
である。
個別保証の対象とその後の変遷
控訴人の個別保証の対象となった債権は、前記のとおり、平成9年5月及び7
月の総計3口の債権であった。
しかし、それらの債権が、すべて弁済により消滅したことは、前記認定のとお
りである。
そして、被控訴人が平成10年8月26日にそれらとは別個に貸し付けた60
0万円は、控訴人の個別保証の対象ではない。
したがって、この600万円の一部が残存していても、これについて、控訴人
の保証の責任はないものである。
以上のとおりであるから、被控訴人の本訴請求は、理由のないものであるとい
わねばならない。
錯誤及び詐欺の成否
なお、すでに認定したとおり、控訴人が本件の保証の意思表示をするに当たっ
ては、保証の対象である債権が乙によって確実に弁済されるものと信じてした
ものであり、この点について錯誤及び詐欺があったものと認められる。
そして、前記認定のとおり、控訴人が根保証の法形式を利用し、かつ、既存債
務の内容を説明しなかったのは、保証人がこのような錯誤によってでも保証し
てくれることを、容認し、むしろ、歓迎していたものと評価されてもやむを得
ないものである。
そうであるとすると、仮に、被控訴人の主張するように、平成10年8月26
日の被控訴人の別個の貸付けの事実がなく、その前の旧債務が残存していたと
しても、控訴人の本件保証の意思表示には、詐欺または錯誤があり、取り消し
うるものであるか、無効であると認めるのが相当である。
そして、控訴人は、予備的に、詐欺による取消しの意思表示をし、錯誤無効の
主張をしているのであるから、被控訴人の請求は、この理由によっても認容す
ることができない。
結論
したがって、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であって、これを取り消
し、被控訴人の請求を棄却すべきである。
日栄が手形貸付の方法によって継続的に貸付を行った場合について、右貸付は一連のものであって、借主が利息、調査料、取立料等の名目で支払った金員のうち利息制限法超過部分は順次残存元本に充当される。また、借主が信用保証委託契約に基づいて日本信用保証に支払った保証料及び事務手数料について利息制限法3条の規定により利息とみなすのが相当である。日栄と日本信用保証は、形式的には別会社であるが、実質上は同一会社である。
東京高等裁判所 判決 平成12年3月29日
事案の要旨
本件は、控訴人が訴外会社との間の手形貸付取引契約に基づき同社に対して手形貸付の方法によって貸し付けた830万円の残金217万2259円とこれに対する遅延損害金の支払を連帯保証人である被控訴人に対して求めるものである。
控訴人=日栄は、当審において貸金業の規制等に関する法律43条によるいわゆるみなし弁済の主張は撤回したので、本件の争点は次のとおりである。
訴外会社の支払額のうち利息制限法所定の利息を超える部分の扱い
過払金の充当ないし相殺の方法
(被控訴人の主張)
控訴人の訴外会社に対する貸付は、原判決別紙計算書1ないし3の三つのグループに分けて継続して行われたものであり、借り換えないし借り増しと解すべきであるし、そうでないとしても、過払金が生じた時点においてそのグループ内の次の順位の債務に充当すべき合意があるから、原判決別紙計算書1ないし3に記載のとおり充当されることになる。
なお、控訴人の訴外会社に対する貸付を一つの継続したものとすると、別紙利息制限法計算書のとおり充当されることになる。
仮に、右の充当の主張が認められないとしても、平成11年12月6日の口頭弁論期日でした相殺の意思表示により、相殺適状を生じた時に遡って相殺の効力を生じ、かつ、債務者は弁済期前にも期限の利益を放棄して弁済できるから、その結果は右の充当の場合と同じである。
(控訴人の主張)
控訴人の訴外会社に対する32件の貸付は、それぞれ別個独立の手形貸付で、手形の決済により弁済を受けるものであるから、それぞれの貸付について過払があった場合には不当利得返還請求権が発生すると考えるべきである。
そして、この不当利得返還請求権をどう行使するかは権利者の意思に任されているのであって、その意思を無視して当然に他の別口の債務に充当されるものではない。
また、弁済期が到来していない債務については、弁済期までの利息を支払うことなく元本への充当を認めるべきではない。
なお、本訴において被控訴人が相殺をするというのであれば、過払金の合計と未返済の本件貸金債権とを対当額で相殺すべきである。
被控訴人が主張するように、既に弁済によって消滅している債権を受働債権とすることはできない。
利息天引きの場合の計算方法
(被控訴人の主張)
利息を天引きして貸金の交付を受けた訴外会社が支払期日に支払うべき金額は、受領額と利息制限法所定の利率で計算した利息の元利合計額である。
(控訴人の主張)
利息を天引きして貸金の交付を受けた訴外会社が支払期日に支払うべき金額は、実際に交付を受けた額とこれに対する利息制限法所定の利率で計算した利息の合計額であり、それが元本になる。
原判決別紙計算書は、このような天引計算をせず実際の受取額を基準に充当をしている。
日本信用保証に対して支払われた保証料及び事務手数料は利息制限法3条によって利息とみなされるか。
(被控訴人の主張)
保証料及び事務手数料は控訴人が受け取って日本信用保証に渡すとしても、控訴人がこれらを受け取る以上利息制限法3条にいう「債権者が受ける元本以外の金銭」に当たることは明らかである。
しかも、日本信用保証には経済的な独立性はなく、控訴人の企業内の一組織としての実態を有しているに過ぎない上、「保証料」、「事務手数料」と「利息」、「調査料」、「取立料」の受け入れは一体として行われ、日本信用保証による代位弁済も控訴人の都合に合わせて恣意的に行われているのであるから、「保証料」、「事務手数料」は単なる名目に過ぎず、実質は控訴人が受け取る利息に他ならない。
(控訴人の主張)
信用保証は、貸倒れのリスクの大きい債務者の信用を補完するものであり、信用保証料は信用保証委託契約に基づき支払われる信用保証の対価であって、信用保証業務遂行のために用いられるものである。
ところで、利息制限法3条で利息とみなされるものは債権者が受け取った利息以外の名目の金銭であり、債権者以外の者に支払われる金銭までもが含まれるものではないところ、保証料及び事務手数料を受け取った日本信用保証は控訴人とは別個の法人である。
また、利息制限法3条で利息とみなされるのは利息の実質を有し、利息制限法を潜脱する手段とされているものであるが、本件の保証料及び事務手数料はこの要件を満たさない。
したがって、本件の保証料及び事務手数料は利息制限法3条所定のみなし利息には当たらない。
当裁判所の判断
控訴人は、中小企業に対して物的担保は取らず、保証人を付けることによって事業資金の貸付を行っている。
控訴人の顧客の大部分は、銀行などの金融機関からは融資を受けられなくなった者である。
控訴人では新規に借入の申し込みがあった場合には、借入申込書に記入してもらい、これを本社審査部に送付し、本社審査部では申込者の負債を調査し、人的担保の有無、不動産の有無などを総合的に考慮し、稟議を経て貸出額を決定し、融資を実行する。
融資を実行する際には顧客から約束手形の振出、交付を受け、この約束手形を決済することによって貸金の返済を受けるのであり、手形の書替が行われることはない。
控訴人が顧客に実際に交付する金員は、顧客から交付を受けた約束手形の額面金額から利息、調査料、取立料、保証料、事務手数料を控除した金額であり、これが顧客に手渡され又は顧客の口座に振り込まれる。
約束手形の満期が近づいてくると、控訴人の従業員が顧客に対し継続して融資を受けることを希望するか否かを問い合わせ、顧客が継続して融資を受けることを希望した場合には、従前の約束手形の満期日を振出日とする約束手形を新たに振り出してもらい、利息等を控除した金員を交付する。
継続して融資する際にも、控訴人において審査を行い、稟議を経るが、新規の貸付の場合に比べて審査は簡略化されている。
本件基本契約の内容は、
(1)元本極度額は1000万円とする、
(2)契約期間は5年とするが、契約期間満了時に控訴人、訴外会社、連帯保証人から特段の申し出がないときには同一の条件で更に5年間継続されるものとする、
(3)返済は手形面記載の満期日に手形面記載の支払場所で手形決済の方法により元金(手形金額)を一括返済する、
(4)手形貸付を受ける場合の利率は、その都度控訴人との合意によって決定し、控訴人からこれを記載した計算書の交付を受けるものとする、というものである。
また、訴外会社は、控訴人との金銭消費貸借に基づく原因証券として、約束手形に必要記載事項を洩れなく記載のうえ、借入希望日の5日前までに郵送するものとされ、控訴人は訴外会社が郵送した約束手形に基づいて訴外会社の借入希望日に貸付を実行し、訴外会社の指定した口座へ銀行振込をすることとされている。
被控訴人は訴外会社の控訴人に対する債務について保証債務極度額を1000万円として5年間連帯保証した。
控訴人は、本件基本契約に基づき、平成6年9月5日以降、訴外会社から原判決別紙計算書1ないし3の「借入額面額」欄記載の金額を額面額とし、「支払期日」欄記載の日を満期とする約束手形の振出、交付を受けて、同計算書の「借入日」欄又は「支払日」欄記載の日に[借入額面額」欄記載の金額から「利息」欄、「調査料」欄、「取立料」欄、「保証料」欄及び「事務手数料」欄に記載の金額を差し引いて「交付金額(保証料)」欄記載の金員を訴外会社に交付した。
訴外会社は、前記の支払を拒絶された約束手形以外の各約束手形については、各満期日までに、各約束手形の額面額と控訴人からの受領額との差額、すなわち、利息、調査料、取立料、保証料及び事務手数料として差し引かれた額の金員を訴外会社の当座預金口座に入金していた。
控訴人から訴外会社の口座に実際に振込が行われているのであるが、貸付金額を増加させる場合を除いては、一つの例外(従前の手形の決済日の2日前に貸付が実行された。)を除いて控訴人から疎外会社に貸付金が振り訴まれた日に天引分名目で疎外会社が入金した金員を加えて従前の手形が決済されているから、貸付日当日(一例だけは2日後)にはその貸付金に天引分名目の額を加えたものが控訴人に還流している。
してみると、形式的には一度控訴人から訴訴会社に資金が流れるが、実質的には訴外会社が天引分名目で入金した金員だけが控訴人に支払われているとみることができる。
そして、控訴人自身従前の約束手形の決済のために使われることを予定して貸し付けていること、控訴人に借入を申し込む者は、一般的には銀行などの金融機関から借入することができるだけの信用を有しない者であるから、短期間のうちに自己資金や他からの借入金で従前振り出した手形を決済することにより控訴に対する債務を返済することかできる状況は生じないと思われること、貸付の継続が控訴人の利益にもなることを考えると、控訴人は、一定の金額内で一定期間(本件基本契約では最長5年間。更新されれば更に5年間)訴外会社との取引を継続することを予定し、しかもその間天引分名目で高利の金員を控訴人が受領することができるように考案された一つの仕組みであるということができる。
右に述べたところによると、控訴人と訴外会社との取引は、一連のものであり、従前の約束手形の決済のために必要とされる以上の金員が貸し付けられた場合には借り増しがあったと解し、また、従前の約束手形の決済のために必要な貸付金が2口に分けられた場合は、借り増しなどに伴い訴外会社が支払うべき天引分名目の金銭の額の算出方法や利息支払日などを、変更したに過ぎないと解するのが相当である。
控訴人が主張するように、控訴人からの貸付金が訴外会社の口座に振り込まれた後は、それをどのように使用するかは訴外会社の自由であり、従前の約束手形の決済資金として使用しなければならないわけではないが、実際にはその資金を従前の約束手形の決済のために使わなければ、その約束手形は不渡りになるのであるから、訴外会社は倒産を覚悟しない限りそのような事態は生じさせないし、仮に、そのような事態になれば資金の流れが止まって精算、回収が始まるだけのことである。
また、控訴人は、従前の約束手形と新たに振出、交付を受けた約束手形の両方が不渡りになる(控訴人はダブル不渡りと呼んでいる。)ことがあると主張し、確かに、ダブル不渡りが発生していることが認められるが、これも資金の流れが止まった後の精算の問題に過ぎないということができる。
控訴人の主張するような事情は、右のような解釈を採ることの妨げとなるものではない。
以上述べたところによると、訴外会社が控訴人に支払った天引分名目の金員
(後記のとおり、保証料及び事務手数料も含む。)は、利息の先払(なお、支払時に未払利息があるときは、まずそれに充当される。)と解するのが相当であるから、利息制限法所定の利率によって計算された金額は残存元本に対する利息に充当し、支払額から右金額を差し引いた残額は残存元本に充当すべきものである。
利息制限法2条は、天引きした利息の額が受領額を元本として同法1条所定の利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分は元本の支払に充てたものとみなす旨規定しているが、受領額が元本となるとまでは規定していない。
したがって、訴外会社が弁済期に返済すべき元本額は、受領額を元本として計算した利息制限法所定の利息額と天引額を比較して天引額が制限利息額を超えるときは、この超過額を名目元本額の弁済に充当した残額である。
なお、訴外会社が控訴人に支払った天引分名目の金員は利息の先払と解するから、天引計算が問題になるのは、平成6年9月5日の最初の貸付及び借り増し(ただし、従前の約束手形の決済と関係付けられたために、額面額から名目上の天引額を差し引いた金額が実際には訴外会社に支払われていない場合を除く。)のときだけである。
被控訴人は、貸金業の規制等に関する法律が実際に利用可能な貸付けの金額を計算根拠とすることを要求しており、実質利率の掲示を求め、領収証の交付を義務付ける等天引計算の存在を前提としない内容のものであるから、利息制限法2条の天引計算は死文化したと主張するが、貸金業の規制等に関する法律が実際に利用可能な貸付けの金額を計算根拠として要求しているからといって、利息制限法でもこれと同じ解釈を採らなければならないものではないから、被控訴人の右主張は失当である。
日本信用保証は控訴人の融資に対する信用保証をその業務内容として平成3年5月27日に設立された控訴人の100パーセント子会社であり、控訴人とは別個に税務申告、決算処理を行っている。
本店は京都市におかれ、全国にある支店のうち7支店は控訴人とは別店舗で営業、回収業務を行っているが、支店の中には控訴人のフロアを貸借して回収活動をしているところもある。
また、控訴人と日本信用保証が共通の電話を利用しているところもある。
平成9年3月31日現在の日本信用保証の取締役3名のうち2名は控訴人の代表取締役であり、他の1名も控訴人の取締役であった。
日本信用保証は契約書の締結業務、保証料の徴収業務を控訴人に委託し、委託料として1件について1000円を控訴人に支払っている。
一方、控訴人は日本信用保証に対し、徴収した保証料を毎月15日〆の20日払い、月末〆の翌5日払いの2回にまとめて支払っている。
なお、日本信用保証の第8期(平成10年4月1日から平成11年3月31日まで)の受入保証料は360億円強であり、これに対して代位弁済額は平成10年度では523億円強、求償権行使による回収率は50パーセント前後である。
控訴人の保証債務履行請求は、控訴人が期限の利益喪失を認知し、その債権を管理債権として処理した月から2か月経過の末日の被保証債権に関する残高明細書を添付して日本信用保証に行うこととされているが、平成7,8年当時は日本信用保証の収入、控訴人の回収の状況によって代位弁済の時期が決められ一定していなかった。
日本信用保証が代位弁済して求償債権を請求する訴訟の提起件数は平成11年6月18日までの1年間で48件であるが、代位弁済した件数の1割足らずである。
なお、控訴人と日本信用保証とが混在一体となって債権回収に当たっていることもある。
控訴人の貸付はすべて日本信用保証が顧客の委託を受けて保証を行っているが、保証料率は控訴人と日本信用保証の協議で決められ、日本信用保証には独自の審査部門はなく、控訴人が貸付を決定した場合には日本信用保証は必ず保証することになっている。
また、日本信用保証が保証を行うのも控訴人の貸付に限られている。
なお、日本信用保証の設立によって同社の保証付きとされたことに伴い、控訴人が徴収する利息、調査料が引き下げられた。
右認定の事実によれば、日本信用保証は控訴人とは別の法人ではあるが、控訴人の決定した貸付先については自動的に保証をし、保証料率も独自に決めることができず、控訴人と協議をしなければならないなど、その業務自体を控訴人とは独立に行っているとは言い難いうえ、日本信用保証の保証先も控訴人の貸付先に限定されており、その実態は控訴人の回収を行う一部門に過ぎない。
そして、一般に貸付を行う際に信用保証会社の保証を付ける目的は、本来ならば債務者の信用を補完し、危険の分散を図ることにあるが、右認定のとおり日本信用保証は控訴人の100パーセント子会社であるから、日本信用保証の回収不能による損失も唯一の株主である控訴人が最終的に被るにもかかわらず日本信用保証を設立し、保証料及び事務手数料を徴収することとした背景には、このような形態にすれば、天引額のうち保証料及び事務手数料は利息制限法3条の適用を免れるという思惑があったことも否定できない。
利息制限法3条で利息とみなされるのは債権者の受ける元本以外の金銭であり、本件の保証料及び事務手数料は控訴人が受けるものではないが、右に述べた事情に鑑みると、債権者たる控訴人か受けるのと同視して利息制限法3条の規定により利息とみなすのが相当である。
付言するに、日本信用保証以外の信用保証会社が徴収する保証料がその実質からみてみなし利息に当たる場合がありうるが、利息制限法所定の利率を超える金員を天引きしていないため問題が生じていないとも考えられる。
共有者の1人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合
には、他の共有者は、特段の事情がない限り、変更により生じた結果を除去
して共有物を原状に復させることを求めることができる。
民法 第251条〔共有物の変更〕
各共有者は他の共有者の同意あるに非されは共有物に変更を加ふることを得
ず
民法 第249条〔共有者の使用権〕
各共有者は共有物の全部に付き其持分に応したる使用を為すことを得
最高裁判所第3小法廷 判決 平成10年3月24日
原審の確定したところによれば、
(一) 亡芳太郎は、第一審判決添付物件目録記載の各不動産を所有してい
た、
(ニ) 芳太郎は、平成2年10月27日に死亡し、同人の妻やす並びに上
告人及び被上告人を含む4人の子がこれを相続したが、芳太郎の遺産につい
ての分割協議は未了である、
(三)同物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、芳太郎の死
後畑として利用されていたが、被上告人が、本件土地上に家屋を建築する目
的で、平成5年4月ころから同年7月ころまでの間、本件土地に土砂を搬入
して地ならしをする宅地造成工事を行った結果、その地平面が北側公道の路
面より25センチメートル低い状態にあったものが右路面より高い状態とな
り、非農地化した、というのである。
上告人の本件請求は、本件土地の共有持分権に基づく妨害排除として、本件
土地につき、北側に隣接する公道の路面より25センチメートル低い地平面
となるよう本件土地上の土砂を撤去する方法により、原状回復する工事をす
ることを求めるものであるところ、原審は、被上告人は、本件土地につき相
続による共有持分(8分の1)を有しており、共有者として本件土地を使用
する権原があるから、上告人が被上告人に対して共有持分権に基づく妨害排
除請求権を行使し得るいわれはないとして、上告人の本件請求を棄却すべき
ものと判断した。
しかしながら、原審の右判断は、直ちにはこれを是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物を物理的に損傷しあ
るいはこれを改変するなど共有物に変更を加える行為をしている場合には、
他の共有者は、各自の共有持分権に基づいて、行為の全部の禁止を求めるこ
とができるだけでなく、共有を原状に復することが不能であるなどの特段の
事情がある場合を除き、行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復
させることを求めることもできると解するのが相当である。
けだし、共有者は、自己の共有持分権に基づいて、共有物全部につきその持
分に応じた使用収益をすることができるのであって(民法249条)、自己
の共有持分権に対する侵害がある場合には、それが他の共有者によると第三
者によるとを問わず、単独で共有物全部についての妨害排除請求をすること
ができ、既存の侵害状態を排除するために必要かつ相当な作為又は不作為を
相手方に求めることができると解されるところ、共有物に変更を加える行為
は、共有物の性状を物理的に変更することにより、他の共有者の共有持分権
を侵害するものにほかならず、他の共有者の同意を得ない限りこれをするこ
とが許されない(民法251条)からである。
もっとも、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除
によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比等に照らし、あ
るいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共
有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来におけ
る分割、帰属、利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が共
有持分権に基づく妨害排除請求をすることが権利の濫用に当たるなど、その
請求が許されない場合もあることはいうまでもない。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件土地は、遺産分割
前の遺産共有の状態にあり、畑として利用されていたが、被上告人は、本件
土地に土砂を搬入して地ならしをする宅地造成工事を行って、これを非農地
化したというのであるから、被上告人の右行為は、共有物たる本件土地に変
更を加えるものであって、他の共有者の同意を得ない限り、これをすること
ができないというべきところ、本件において、被上告人が右工事を行うにつ
き他の共有者の同意を得たことの主張立証はない。
そうすると、上告人は、本件土地の共有持分権に基づき、被上告人に対し、
工事の差止めを求めることができるほか、工事の終了後であっても、本件土
地に搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときには、上告
人の本件請求が権利濫用に当たるなどの特段の事情がない限り、原則として、本件土地に搬入された土砂の撤去を求めることができるというべきである。
そうすると、被上告人が本件土地につき共有持分権に基づく使用権原を有し
ているとの一事をもって、上告人からの共有持分権に基づく本件請求を棄却
すべきものとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、こ
の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨はその趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、上告人の本件請求
を棄却した部分は破棄を免れず、本件においては、前記説示に照らして本件
請求の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるため、右破棄部分につき
これを原審に差し戻すのが相当である。
以上のとおりであるから、原判決中、上告人の本件請求を棄却すべきものと
した部分を破棄して、右部分につき本件を原審に差し戻すこととするが、上
告人のその余の上告は理由がないから、これを棄却することとし、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡をゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれをゴルフ場経営会社に通知し、又はゴルフ場経営会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りる。
・・・これまでの実務の取扱を変える判決であり、影響が大きいと思われますが、あまりマスコミ等には取り上げられませんでした。・・・知らないのは、私だけか?
民法 第467条〔指名債権譲渡の対抗要件〕
1 指名債権の譲渡は譲渡人か之を債務者に通知し又は債務者か之を承諾するに非されは之を以て債務者其他の第三者に対抗することを得す
2 前項の通知又は承諾は確定日附ある証書を以てするに非されは之を以て債務者以外の第三者に対抗することを得す
最高裁判所第2小法廷 判決 平成8年7月12日
(1) 小山は、いわゆる預託金会員制ゴルフクラブである沼津ゴルフクラブの自己名義の個人正会員権を有していたところ、平成4年3月16日、これをゴルフ会員権売買業者である株式会社マス・ヨシモトに売り渡し、裏面の裏書欄に署名押印した預託金預り証のほか、いずれも署名押印した名義書換請求書(新名義人欄は空欄)、会員権譲渡通知書(譲受人欄は空欄)、白紙委任状、印鑑登録証明書等の書類を交付した。
(2) 同会社は、同日、同じくゴルフ会員権売買業者である株式会社ワイ・エム・ユーに対し、本件会員権を売り渡し、前記各書類を交付した。
(3) ワイ・エム・ユーは、同日、上告会社に対し、本件会員権を代金2130万円で売り渡したが、上告会社から本件会員権についての名義書換手続の請求の代行を委託されたため、前記各書類を上告会社に交付せず、引き続き預かり保管していた。
(4) ワイ・エム・ユーは、前記の小山の署名押印のある名義書換請求書を用いて、本件会員権につき上告会社への名義書換えの手続を請求する小山、上告会社連名の名義書換請求書を作成し、同年5月19日、これを本件ゴルフクラブを経営する沼津観光開発株式会社に提出した。
(5) ワイ・エム・ユーは、同月22日、ゴルフ会員権担保融資等を業とする被上告会社から2300万円を借り受け、右借入金債務を担保するため、被上告会社に対して本件会員権を譲渡担保として譲渡し、前記各書類(ただし、名義書換請求書は新たに偽造したもの)を交付した。
(6) 沼津観光開発は、同年6月16日ころ、上告会社に対し、入会承諾書(確定日付は付されていない。)により本件ゴルフクラブヘの入会の承認を通知するとともに、名義書換料103万円の支払を請求し、上告会社は、同月22日、右名義書換料を支払った。
(7) 被上告会社は、前記の小山の署名押印のある会員権譲渡通知書の譲受人欄に被上告会社の住所、名称を記載して、同月25日に内容証明郵便で発送し、右内容証明郵便は同月26日に沼津観光開発に到達した。
原審の確定したところによれば、本件会員権は預託金会員制ゴルフクラブの会員権であり、その法律関係は会員と本件ゴルフクラブを経営する沼津観光開発との債権的契約関係であるが、会員権の譲渡については、譲渡を受けた者は、沼津観光開発の承認を得た上会員権について名義書換えの手続をしなければならないものとされている。
この趣旨は、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくない者の入会を認めないことにより、ゴルフクラブの品位を保つことを目的とするものというべきであるから、沼津観光開発との関係では、会員権の譲渡を受けた者は、その承認を得て名義書換えがされるまでは会員権に基づく権利を行使することができないが、譲渡の当事者間においては、名義書換えがされたときに本件ゴルフクラブの会員たる地位を取得するものとして、会員権は、有効に移転するものというべきである。
そして、この場合において、右譲渡を沼津観光開発以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれを沼津観光開発に通知し、又は沼津観光開発が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りるものと解するのが相当である。
もっとも、従来、会員権の譲渡に際して確定日付のある証書による通知承諾の手続が必ずしも履行されていなかったという実情を勘案すれば、現在までに会員権を譲り受け、既に名義書換えを完了してゴルフクラブにおいて会員として処遇されている者については、その後に当該会員権を二重に譲り受けた者や差押債権者等が、当該会員が右のような対抗要件具備の手続を経ていないことを理由としてその権利取得を否定することが、信義則上許されない場合があり得るというべきである。
そうすると、被上告会社が前記会員権譲渡通知書を内容証明郵便により発送したことは小山に代わってこれを行ったものと解することができるから、内容証明郵便が沼津観光開発に到達したことにより、被上告会社は、本件会員権の取得について第三者に対する対抗要件を備えたものというべきである。
そして、他方、沼津観光開発の上告会社に対する入会承諾書には確定日付が付されていないところ、原審の前記認定事実によれば、被上告会社については、上告会社が確定日付のある証言による通知承諾の手続を経ていないことを主張することが信義則上許されないというべき事情は認められない。
したがって、被上告会社は、本件会員権の取得をもって、上告会社に対抗することができるものというべきである。
右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。
新車の売買契約につき、代金支払のないことを理由に売主がこれを解除し、
買主に対して損害賠償請求を求めた事案につき、納車されたグロリアに瑕
疵があり、弁済の提供があるとはいえないとして、損害賠償請求が棄却さ
れた事例です。本件契約において、買主の債務との関係で先履行義務とな
る売主の弁済の提供がないので、売主は買主の債務不履行責任を問うこと
ができず買主の債務不履行を原因とする売主の契約解除の意思表示は解除
の要件を欠き無効であるということです。種類物の特定はなされています
が、瑕疵があるので、弁済の提供がないというのです。瑕疵担保の問題で
はありません。このあたりは、民法の試験で最もよく問われるところです。
民法第401条〔種類債権〕
1 債権の目的物を指示するに種類のみを以てしたる場合に於て法律行為
の性質又は当事者の意思に依りて其品質を定むること能はさるときは債務
者は中等の品質を有する物を給付することを要す
2 前項の場合に於て債務者か物の給付を為すに必要なる行為を完了し又
は債権者の同意を得て其給付すへき物を指定したるときは爾後其物を以て
債権の目的物とす
民法第493条〔提供方法・現実の提供と口頭の提供〕
弁済の提供は債務の本旨に従ひて現実に之を為すことを要す但債権者か予
め其受領を拒み又は債務の履行に付き債権者の行為を要するときは弁済の
準備を為したることを通知して其受領を催告するを以て足る
大阪地方裁判所 判決 平成元年9月28日
本件契約がニッサングロリア新車の種類物売買であることは当事者間に争
いがなく、本件契約において、売主である原告の債務(日産グロリア新車
1台を被告に提供する)と、買主である被告の債務(代金支払い)とは、
原告の債務が先履行の関係にあることが認められるから、原告が被告の債
務不履行責任を問うためには、先に自らの債務を履行することを要するも
のと認められる。
本件契約がニッサングロリア新車1台の種類物売買であることから、原告
が自らの債務を履行するためには、ニッサングロリア新車の中から特定の
1台を被告に現実に提供しなければならない。
そこで、原告が昭和62年12月21日に本件自動車を被告に納車のため
持参した時点で本件契約の目的物が本件自動車に特定されていたか否かに
ついて判断する。
原告は、まず、被告からの委託に基づき昭和62年12月11日に本件自
動車の新車登録手続きが完了し、車検証が交付されたことにより、本件契
約の目的物は本件自動車に特定された旨主張するが、一般に、新車を購入
する買主が売主に新車登録手続等を委託するのは、契約後の手続きが円滑
に運ぶように販売手続きの一つに組み入れている売主の勧めに応じ、煩雑
な手続きを売主に任せるためであり、種類物である新車の特定権を売主に
付与する意思をも買主が有しているとは考え難く、本件においても、被告
が新車登録手続等を原告に委託するに際し、そのような意思を有していた
と認めるに足る証拠はない。
また、右登録手続きの完了は、新車の売主が物の給付をなすに必要な行為
ではあるが、未だ給付そのものは完了しておらず、それをもって民法40
1条2項の「給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ」たときに該当するとい
うことはできない。
よって、原告の右主張は採用できず、従って、原告が昭和62年12月2
1日に納車のため本件自動車を被告に持参するより前に、本件契約の目的
物が本件自動車に特定されていたと認めることはできない。
次に、原告は、原告の担当者が昭和62年12月21日に本件自動車を被
告に納車のため持参したことにより、本件契約の目的物は本件自動車に特
定された旨主張するので、この点について判断する。
種類物の特定につき、当事者間の格別の定めが認められないときは、目的
物は「債務者カ物ノ給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ」たときに特定す
る(民法401条2項)。
そして、持参債務の場合、債務者が物の給付をなすに必要なる行為を完了
するためには、種類物の中から取り分けた給付の目的物を債権者の住所に
持参して、それを債務者が受領しうべき状態においた時、その物について
特定を生ずると解せられる。
本件において、原告の担当者が昭和62年12月21日に本件自動車を被
告に納車のため持参したことは、債務者が物の給付をなすに必要な行為を
完了したことに該当すると考えられるので、この時点で本件自動車に特定
されたものと認める(被告らは、債務の本旨に従った履行でなければ、本
件契約の目的物は特定されない旨主張するが、履行が債務の本旨に従った
ものか否かは、その履行が弁済の提供に該当するか否かを判断する際の検
討事項であり、民法401条2項により債務者が種類物を特定するための
要件ではないと解する。)。
以上により、本件契約の目的物は、原告の担当者が昭和62年12月21
日に本件自動車を被告に納車のため持参したことにより特定されたものと
認める。
そこで、次に、原告の担当者が昭和62年12月21日に本件自動車を被
告に納車のため持参したことが、原告の債務についての弁済の提供(民法
493条)に該当するか否かについて判断する。
本件契約は種類物売買であるところ、種類物売買において、給付した物に
瑕疵があれば、その給付は債務の本旨に従った履行でなく不完全履行とな
り、売主は、瑕疵のない同種の物が他に存在する限り、債務の本旨に従っ
た履行として、瑕疵のない物を給付すべき義務を免れる理由がなく、買主
は瑕疵のない物の給付を請求しうると解せられる。
けだし、種類物売買は、いわゆる特定物売買が目的物の個性を重視して代
替性を認めていないのと異なり、同一種類の物が他に存する限り、一旦特
定された物が給付された後もその物に瑕疵があれば、他の瑕疵のない物を
給付することが可能であり、かつ、そうすることに何ら不都合もないから
である。
それ故、本件契約において、昭和62年12月21日時点での提供で目的
物が本件自動車に特定されてはいるが、右提供が債務の本旨に従った履行
の提供と認められない時は、右履行は不完全履行となり、原告は、更に、
債務の本旨に従った履行をしない限り、先履行義務を果たしたことにはな
らないと解される(種類物の特定によりそれが不代替物である特定物にな
るものではないと解される。)
原告が被告に提供した本件自動車には、本件瑕疵が存在したことが認めら
れるところ(フロントガラス右側(運転席から見て)と車体との間のプラ
スチック枠部分に、その幅一杯に深さ約1ミリのひび割れの存在について
は当事者間に争いがなく、運転席(右)側の扉下の金具の擦り疵の点は疵
の本数を除き当事者間に争いがなく、本数については、数10本であった
と認められ、右認定を履すに足る証拠はない。)、このような瑕疵のある
自動車の提供が、債務の本旨に従った弁済の提供に該当するかについて判
断する。
商品売買において、瑕疵ある商品を提供した場合、それが債務の本旨に従
った提供になるか否かは、商品の性質、売買の目的及び瑕疵の程度等を考
慮し、信義則によって判断するものであるところ、本件のような新車の売
買の場合は、買主が数多い車種の中から、車の性能の外、外観や内装の見
栄え等をも重視した上、特定の車種を慎重に選択し、多額の代金を支払う
ことで契約するものであることから、瑕疵のない新車の提供のみが債務の
本旨に従った弁済の提供に当たるというべきである。
新車の売主は、瑕疵のない新車を前提にして価格を付けており(瑕疵があ
れば、当初からキズものとして値下げして売り、また、提供時に瑕疵が判
れば値引きするのが通常である。)、買主も瑕疵のない新車が納車される
ことを当然のこととして、多額の代金を支払う契約をしているのであり、
瑕疵が軽微で性能等に関係がないとか、容易に修理可能であるとして、瑕
疵のある車の受領を買主に強いるのは、買主の契約の目的を踏みにじるも
のであり、信義則に反するものである。
以上により、昭和62年12月21日の本件自動車の提供が、被告に対す
る本件契約の弁済の提供であるとの原告の主張は採用できない。
次に、原告は、原告の担当者が昭和62年12月22日、本件瑕疵を修理
した本件自動車を被告に持参して、被告に対し本件契約の弁済の提供をし
た旨主張するが、本件瑕疵が軽微なもので、僅かな費用(修理費用は50
00円未満と認められる。)で修理が可能であり、かつ、それを修理した
としても、修理した本件自動車は、たとえそれが他のニッサングロリア新
車と性能・外観・内装等につき同種のものとなったとしても、当初瑕疵の
存した新車は、他に当初から瑕疵のない同種の新車が存する限り、瑕疵の
ない新車が納車されることを目的とした新車売買においては、もはや当該
契約の目的物とはなり得ないというべきである。
よって、原告の右主張も採用できない。
以上により、本件契約において、被告らの債務との関係で先履行義務とな
る原告の弁済の提供の主張は理由がないから、原告は被告の債務不履行責
任を問うことができず被告の債務不履行による本件契約解除の意思表示は
解除の要件を欠き無効である。
以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告
の請求は理由がないから棄却する。
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