11.少額訴訟<2:気がついたら和解の展開>
裁判官「和解に応じるつもりはありますか」
Y「はい」
Yは退室後に撮ったという室内の写真を何枚か提示した。Yが持ってきたのは契約書と写真だけだった。写真を撮ったと脅されていたので、心配だったが、カビは思ったよりたいしたことなかった。
裁判官「これはあなたの部屋の写真に違いありませんか」
私「はい、間違いありません」
裁判官「あなたが、最初、部屋を借りたとき、部屋はどういう状態でしたか」
私「全面リフォームされていました」
裁判官「カビが少々生えたということでしたが、原告は一人で2年足らずしか住んでいない。煙草も吸わず、しかも半地下にもかかわらず、修繕費を全額、借り主に負担させるのは酷なような気もしますが。掃除もしたと言っていますし」
Y「お言葉ですが不動産業界では、修繕費を借り主に負担していただくのが、慣例……、常識となっております」
裁判官「不動産業界ではそうかもしれませんが、裁判所の見解は違います。敷金は全額返還するものです」
民法上では当たり前の見解。早くも裁判官は判決の結果を匂わせていた。と同時に、法廷で独自の「不動産業界の常識」を裁判官にぶつけるYに驚いた。
裁判官は特約の解釈には目もくれず、「修繕義務は貸主にある」という基本だけを述べた。いい裁判官にあたった。
室内の写真を裁判官が見ながら「2年足らずで、カビが生えるということは、建物の構造的にも欠陥があったのではないですか」
裁判官は、原告の私には和解の意思表示を一度も聞かず、「私は席を外しますので、あとは司法委員と話を進めてください」といって職員と退室した。
裁判所は民事の場合、市民同士の円満な解決のため、和解を勧める。また、判決より和解のほうが手続きが簡単で、支払いもスムーズに進むことが多い。
司法委員とは、裁判所から委任された民間人で、和解をまとめるのが仕事だ。Yにも席を外してもらい、まずは司法委員と私が話す。
司法委員「大家さんも若い人(36歳)で、マンション購入して、運用しようとしてね。(修繕義務等を)よく分からないまま、管理会社にすべて任せた人なんですよ。で、いくらぐらいだったら和解に応じます?」
知らなかったら許されるのか? 納得しないまま答えた。
私「でも、退室時に立ち会いがなかったり、十分に協議していないのに勝手に修繕して次の人がもう住んでいるというのにも納得いきません」
司法委員「あくまで全額返還要求で、1銭も妥協しないと?」
私「はい。全額返還を求めます」
司法委員「おそらく判決になれば全額返還の判決がでるでしょう。ただ、相手が払わなかった場合、どうなるか知ってます?」
私「強制執行です」(具体的にどういうことをするのかは知らないけど……)
司法委員「素人がねえ、強制執行するのは大変なことなんだよ。お金も時間かかるし……、相手はプロだよ」
私「それでも構いません」