12.少額訴訟<3:そして、終戦>

その後、司法委員とYとの話し合いが終わった後、再び法廷に入った。

司法委員が「和解は不調に終わりました」と告げると、書記官は「えっ! 裁判官に和解で話がついたと言ってしまいました」と慌てた。裁判官が入ると、司法委員が「私の力が及ばず、申し訳ありません。和解になりませんでした。こちらは、判決で被告が支払われなくても、強制執行まですると、言うものですから……」と、言い訳するように言う。
裁判官、司法委員、書記官。3人とも、なぜか私が和解に応じると決めつけていた。

裁判官は判決に必要だから写真を預かっていいかと管理会社に了解をとった後、「では、16日の1時半に判決を言い渡します。出席なさらなくても結構です。判決文を、郵送しますから」とまで言ったところで、職員が口を挟む。「途中で被告が変更された場合はどうなんでしょう」
その言葉を聞いた裁判官が苦渋の表情を浮かべた。

裁判官「判決の場合、途中で代わった被告に、支払い命令が出るのか、訴訟法上、難しいものがあります。和解なら、関係ないのですが……。被告は和解に応じると言っています。14万円全額では和解になりませんし、敷金14万円のうちあなたが2万円を負担し、12万円返還で和解しませんか」
私「私としても、最初は管理会社を訴えるつもりで、管理会社の謄本も手に入れました。でも、裁判所の受付で敷金は大家のものだからと、大家を訴えるように言われ、手続きをしました。本当だったら、大家さんに来て納得してもらいたかったです。管理会社相手に判決がでても、またこのような被害者……トラブルを繰り返すと思いますし」
裁判官「まあ、裁判所の受付の不手際もありますが、判決を求めるとなると、管理会社を相手にまた一から手続きをやり直さないといけない」
私「最初から管理会社を訴えていれば、違う(判決が出るような)結果になったのですよね?」
裁判官「ええ、そうでしょう」
一瞬、その言葉を聞けただけで、十分かと思った。だが釈然としないものが残る。
私「やっぱり、もう一度、手続をやり直します」
裁判官「依怙地になるような額じゃないでしょう!」
私「2万円は大金です」
裁判官「あなたも、絨毯に家具の痕が残った訳でしょ?」
私「それは自然消耗に入ると思いますが」
裁判官「では、14万円の1割、1万4000円負担でどうですか?」
私「……」
裁判官「あなたも、訴訟費用がかかっているでしょ。また、それを払わないといけないのですよ。時間もかかるし」
沈黙が法廷を支配した。迷った。判決ではなく、和解になると、敷金返還の本質がうやむやにならないか? 自分の主張を折り曲げることになるのではないか? 協力してくれた人の好意を無駄にするのではないか? だが、その重苦しい空気に我慢できなかった。諦めた。
私は言葉を発していた。「わかりました。和解に応じます」

裁判官は言った。「では、和解ということで、被告は原告に30日までに12万6000円払うこと。遅延の場合は、年利5%の金利を払うこと。訴訟費用は各自の負担とすること」
結局、Yは一度も私と目を合わせようとしなかった。

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